子宮頸がんワクチンの問題について補足
私は子宮頸がんワクチンの問題について発言してきました(
再論 窒息するHPVワクチンとピルなど)。
子宮頸がんワクチンの問題について、2つ残念に思うことがあります。
1つは、賛成・推進派が科学的態度を貫徹できなかったことです。
2つは、賛成・推進派が接種者を守る姿勢を貫徹できなかったことです。
この2つはおそらく無関係ではなく、つながりがあると思います。
前者について、少し補足しておきます。
ワクチン接種を受けた女性に重篤な副反応の事例が生じていました。
特に注目すべきは慢性疼痛(chronic pain)の症例でした。
子宮頸がんワクチンの副反応については世界各国の膨大なデータがあります。
しかし、その中に慢性疼痛の症例はありませんでした。
(WHOの2013.6.13付け文書GACVS Safety update on HPVV Vaccinesは同様の兆候は他地域にないと指摘しています)
経験知に反する事象に遭遇した場合、
経験知に修正が必要かどうか検討するのが科学的態度です。
経験知に反する事象に目をつぶるのは科学的態度ではありません。
ところが、反対派のトンデモ批判を展開していた賛成・推進派が、
科学的態度を貫徹できませんでした。
だから、私は苦言(
窒息するHPVワクチンとピル)を書きました。
日本でおきていた経験知に反するかもしれない事象について、
最も敏感に反応すべきは本来ワクチン賛成・推進派でした。
賛成・推進派に副反応から接種者を守るという姿勢があれば、
慢性疼痛の症例に注目すべきだったのにそれができませんでした。
それどころか、ただただワクチンの有効性・安全性の啓発にだけ力を入れたのです。
5月の時点で、日本の子宮頸がんワクチンは挫折すると確信しましたが、
5月の苦言を書いた1ヶ月後には挫折を迎えました。
子宮頸がんワクチンの教訓
2013年6月、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の勧奨が中止されることになりました。
一連の経過から正しい教訓を引き出さなければ、同様のことが繰り返されることになるでしょう。
今回の顛末の背景には子宮頸がんワクチンに限らない構造的問題があると、
私は考えています。
およそ何事にも、賛成する者がおり反対する者がいます。
賛否両派が現れることは、自然なことです。
子宮頸がんワクチンについても、推進派と反対派が現れました。
ただ、日本は社会主義国だという特殊な事情があります。
そうです、日本は社会主義国なのです。
社会主義国である日本では、
賛成・推進派は強力な官業共同体を作ります。
その結果、【官業共同体】対【反対グループ】という対立構造となります。
この構図は子宮頸がんワクチンだけでなく、日本でよく見られる構図です。
この構図における両者の言説は、往々にして官業共同体の側に理があります。
反対グループは情報量で圧倒的に劣勢だからです。
トンデモ言説が含まれることも珍しくありません。
子宮頸がんワクチン反対派の言説も、例に違わずトンデモ言説を含むものでした。
反対グループが生まれるのは、
その背後に広範な一般人の不安や懐疑が存在するからです。
(反対派の言説が、不安や懐疑を生み出す側面もありますが)
不安や懐疑を背景とするために、
その言説が合理性を欠くことはある意味で仕方のないことです。
このような状況を賛成・推進派から見ると、
「お馬鹿な素人がトンデモ説を振りまき、それに影響される一般人がいる」
と見えます。
そこで賛成・推進派は2つの対応を取ります。
1つは、反対派のトンデモ叩きです。
2つは、一般人に向けて安全性と有用性を啓発することです。
【官業共同体】対【反対グループ】のゲームは、
【官業共同体】の勝利で終わるはずでした。
ところが、【官業共同体】側に落とし穴が待っていました。
【官業共同体】側は、ひたすら安全性の啓発に力を入れましたので、
現実に接種者に起きているかもしれない問題を直視できませんでした。
当事者の現実の安全性を直視しない安全論が支持を失うのは、
当然のことでした。
ピルを窒息させる官業共同体の安全論
子宮頸がんワクチンについての顛末は、ドラスティックな展開をたどりました。
ピルについても子宮頸がんワクチンと同じ構図があるのですが、
やや異なる点があります。
現在、ピルについては目に見える形の反対グループは、存在しないと言ってもよいほどです。
そこで、反対グループの代わりに「偏見」を持つ一般人が、ターゲットとされています。
もうひとつの相違点は、目に見える反対グループとの緊張関係がないため、
官業共同体の側に非科学的・非合理的言説が混入しています。
この2点の相違点はありますが、基本的には子宮頸がんワクチン賛成・推進と同じ官業共同体ができています。
当サイトの立ち位置は、「当事者・当事者サポート」になります。
官業共同体と当事者では、当然のことながら利害の相違が存在します。
当ブログでは、「
ルナベル・ヤーズの錬金術」の記事を書き、
ピルの価格が高すぎることを批判しました。
これは立場が違うのだから主張が異なってくる一例です。
しかし、安全性の問題については立場の相違は関係ないはずだし、
一致できるはずです。
ところが、そうはなっていない不幸があります。
副作用のない薬など、存在しません。
上記のツイートで取り上げたサイトや書籍は極端かもしれませんが、
官業共同体の賛成・推進派が副作用について積極的に語りたがらない傾向のあることは否めないでしょう。
ピルの副作用でもっとも注意しなくてはならないのは、血栓です。
頻度は低くてもピルユーザーには血栓症が発症するリスクがあります。
欧米ではピルユーザーに血栓症が現れても、
重篤な事態を避けるために厳重な注意が呼びかけられています。
たとえ、血栓ができても早期に対応すれば、重篤な事態を避けることが可能だからです。
「ピルとのつきあい方」は、血栓について説明し注意を呼びかけてきました。
こんな血栓症の兆候に注意
「ピルは副作用は全くありません」は論外で、
血栓症の初期症状に対する注意を呼びかけるのはピルに関するサイトの最低限の要件でしょう。
ところが、日本ではそうなっていません。
副作用からピルユーザーを守る姿勢が感じられません。
ちなみに、
という問題もあります。
たしかに、血栓症の諸症状は同時に現れることが多いので、医学的な説明としては間違いではないでしょう。
しかし、欧米のピルユーザーは、1つでも気になる症状が現れたら対応するように求められています。
手遅れになるより、過敏対応の方がよいと思うのですが。
あるテレビ番組でも、ピルの副作用について語られていました。
http://archive.is/RHuvm
吐き気が黄体ホルモンのためとかのトンデモ学説まで飛び出しています。
副作用「偏見」を打ち消そうと必死なのですが、
おそらくピル離れを進めるだけでしょう。
もし仮に「ピルは副作用は全くありません」が科学的事実であったとしてもです、
一般の女性にとって副作用があるかないかが問題ではないのです。
副作用からピルユーザーを守る姿勢が感じられるか、感じられないかが問題なのです。
「ピルとのつきあい方」は副作用についての知見をありのままに伝えようとしています。
その「ピルとのつきあい方」を信頼できないサイトと批判するのは自由ですが、
そのことがピルそのものをアビューズしているように思えます。
副作用からユーザーを守るという姿勢の感じられない人々のピル推奨が、
受け入れられるとは思えません。
子宮頸がんワクチン挫折の教訓を学ぶべきではないでしょうか。