2013年7月17日水曜日

ピルの代謝を早める薬(ピルの効果を低下させる相互作用)

ピルは肝臓の酵素で代謝されます。
以下の薬品は酵素を誘導し、その結果としてピルの代謝が早まります。
その仕組みをアルコールで説明してみましょう。
お酒に強い人と弱い人の違いは、アルコールを分解する酵素の強弱です。
お酒に強い人は摂取したアルコールを次から次に分解(代謝)していきます。
血中のアルコール濃度は上がらないので、水を飲むようにお酒が飲めます。
一方、お酒の弱い人はアルコールを分解する力が弱いので、
血中のアルコール濃度が下がりません。
もし、アルコールを分解する酵素を強める薬があれば、
お酒を飲んでも飲んでも酔わないでしょう。
お酒は酔わない方がいいかもしれませんが、
ピルの成分が早く消えてしまってはピルの効果がなくなります。
下の表の酵素誘導薬はピルの分解(代謝)を早めてしまうので、
ピルの効き目が低下するのです。

酵素誘導薬
分類 薬品等 備考
抗てんかん薬 カルバマゼピン
エスリカルバゼピン
オクスカルバゼピン
フェノバルビタール
フェニトイン
プリミドン
ルフィナマイド
影響あり
トピラマート 影響は弱い
ラモトリギン 評価は未定
抗生物質 リファンピシン
リファンピン
結核やハンセン病の治療
抗レトロ
ウイルス剤
プロテアーゼ阻害剤 リトナビル 抗HIV薬
リトナビル&アタザナビル
リトナビル&チプラナビル
リトナビル&サクイナビル
リトナビル&
他のプロテアーゼ阻害剤
非核酸系
逆転写酵素阻害剤
エファビレンツ
ネビラピン
ハーブ セイヨウオトギリソウセント・ジョーンズ・ワート
肺高血圧治療薬 ボセンタン
(トラクリア)
.
向精神薬 モダフィニル
(モディオダール)
.
制吐薬
NK-1受容体遮断薬
アプレピタント
(イメンドカプセル)
.
FSRH.,Drug Interaction with Hormonal Contraception,2012年版.参照

酵素誘導薬以外

分類 薬品等 備考
黄体ホルモン受容体調節剤 ウリプリスタール酢酸エステル 日本未承認
筋弛緩回復剤 スガマデクス
(ブリディオン)
包接体形成。
1回ボラース=1錠飲み忘れ相当
FSRH.,Drug Interaction with Hormonal Contraception,2012年版.参照

上の表を見ればわかるように、風邪を引いて病院で処方されるような薬は含まれていません。
持病の治療薬と言ってもよいでしょう。

一つだけ気をつけたいのは、セント・ジョーンズ・ワートです。
セント・ジョーンズ・ワートはポピュラーなハーブなので、
口にする機会が多いかもしれません。
ただ、セント・ジョーンズ・ワートがピルの効果を低下させる作用はそれほど強くありません。
気をつけるに越したことはありませんが、
たまたまセントジョーンズワート入りのキャンディを口にしたくらいでは、
あわてる必要はないでしょう。
どうしても心配ならば、服用定時と定時の間にもう1錠追加服用します。
あるいは、7日の休薬期間を4日に短縮します。
コンドームを併用すればもっと確実です。

2013年7月8日月曜日

ピルと抗生物質(非酵素誘導抗生物質)

※この記事は、酵素誘導抗生物質であるリファンピシン(リファンピン)を除く抗生物質・抗菌剤について書いています。

ピルユーザーは蚊帳の外

ピルユーザーに渡されることになっている「服用者向け情報提供資料」という冊子があります。
この「服用者向け情報提供資料」には、飲み合わせ(薬品相互作用)については、
以下のような簡単な記述があるだけです。
「・セイヨウオトギリソウを含有する食品はこの薬に影響しますので、控えて下さい。
・他の医師を受診する場合や、薬局などで他の薬を購入する場合は、必ずこの薬を飲んでいることを医師または薬剤師に告げて下さい。」
「服用者向け情報提供資料」は必ず渡されているわけでもないし、
渡されても読まれているわけではありません。
読んだとしても、飲み合わせに注意する薬があると認識されるかは、
微妙な気がします。
もっとも、相互作用をチェックするのは専門家の役割なので、
ピルユーザーは専門家に任せればよいとの考える事もできます。


添付文書の相互作用記述


相互作用については、医師・薬剤師の役割が重要になります。
医師・薬剤師はというと、添付文書の記述に従うことになるでしょう。
そこで、ピルの添付文書を見てみましょう。
添付文書には、テトラサイクリン系抗生物質・ペニシリン系抗生物質について、
「本剤の効果の減弱化及び不正性器出血の発現率が増大するおそれがある。」「これらの薬剤は腸内細菌叢を変化させ、本剤の腸管循環による再吸収を抑制すると考えられる。」との記述が見られます。
ピルの添付文書は、腸内細菌叢に影響を及ぼす抗生物質としてテトラサイクリン系抗生物質・ペニシリン系抗生物質をあげていますが、
この系統の抗生物質に限定されるのでしょうか。
この点については、疑問が残ります。
「日経DI」(2007年11月「やってみよう!一歩進んだ抗菌剤の服薬指導」)では、テトラサイクリン系抗生物質・ペニシリン系抗生物質に限定せずに、抗菌剤全般と読み替えています。


抗生物質(非酵素誘導抗生物質)とピルの相互作用は否定される方向なのだが・・・


2010年、WHOはMedical Eligibility Criteria for Contraceptive Use(3rd edn)を公表しました。イギリスではそれを受けて翌年、Drug Interactions with Hormonal Contraceptionがまとめられました。新しいガイドラインについての当時の記事です。
このガイドラインでは、酵素誘導抗生物質以外の抗生物質では、抗生物質がピルの避妊効果を低下させるエビデンスはないとし、他の避妊法の併用などは不必要としました。
つまり、テトラサイクリン系抗生物質やペニシリン系抗生物質も含めて、
非酵素誘導抗生物質はすべて避妊効果に影響しないとされたのです。
日本の現在のガイドラインがもし改訂されるなら、
WHOやイギリスのそれを踏襲することになるでしょう。
しかし、このガイドラインは医療関係者に評判がよくありませんでした。
上記の記事には、医療関係者のコメントが寄せられています。
中には新ガイドラインをボイコットすると宣言するコメントもあります。

抗生物質相互作用の難しさ


酵素誘導薬品の相互作用は、わかりやすさがあります。
酵素誘導薬品を服用すると、
ほぼ例外なく体内の代謝酵素が増加しますから、
多かれ少なかれ服用者は誰でも影響を受けます。
ところが、非酵素誘導抗生物質の場合は、
誰にでも影響が出るわけではありません。
非酵素誘導抗生物質の相互作用は、
非酵素誘導抗生物質によって腸内細菌叢が影響を受けるという
一種の「副作用」によるものです。
非酵素誘導抗生物質で腸内細菌叢が影響を受けると、
しばしば下痢の症状が現れます。
しかし、非酵素誘導抗生物質を服用しても、
下痢の副作用が出る方はまれです。
非酵素誘導抗生物質の「副作用」の出方には、
個人差があります。
さらに、同一人であっても腸内細菌の耐性菌ができると、
「副作用」が出なくなったりします。

ピルユーザーを守る非酵素誘導抗生物質の対処法


非酵素誘導抗生物質の相互作用は否定される方向です。
日本で非酵素誘導抗生物質の相互作用を否定するガイドラインが作られても、
非酵素誘導抗生物質の相互作用に警戒するように「ピルとのつきあい方」は勧め続けます。
たとえ、数百人に一人、数千人に一人の確率であっても、
非酵素誘導抗生物質の「副作用」が出るユーザーがいるかもしれない、
と考えるからです。
それに、そうすることでピルユーザーにとって大きなデメリットはないのですから。
ピルユーザーは、非酵素誘導抗生物質を服用する際には、
「副作用」が出ると想定して警戒すればよいのです。
数日間様子を見て下痢も不正出血もなければ、
腸内細菌はダメージを受けなかったと判断して警戒解除すればよいだけです。

「ピルとのつきあい方」は頑迷なサイトです。

2013年7月7日日曜日

副作用からユーザーを守るという姿勢

子宮頸がんワクチンの問題について補足


私は子宮頸がんワクチンの問題について発言してきました(再論 窒息するHPVワクチンとピルなど)。
子宮頸がんワクチンの問題について、2つ残念に思うことがあります。
1つは、賛成・推進派が科学的態度を貫徹できなかったことです。
2つは、賛成・推進派が接種者を守る姿勢を貫徹できなかったことです。
この2つはおそらく無関係ではなく、つながりがあると思います。
前者について、少し補足しておきます。
ワクチン接種を受けた女性に重篤な副反応の事例が生じていました。
特に注目すべきは慢性疼痛(chronic pain)の症例でした。
子宮頸がんワクチンの副反応については世界各国の膨大なデータがあります。
しかし、その中に慢性疼痛の症例はありませんでした。
(WHOの2013.6.13付け文書GACVS Safety update on HPVV Vaccinesは同様の兆候は他地域にないと指摘しています)
経験知に反する事象に遭遇した場合、
経験知に修正が必要かどうか検討するのが科学的態度です。
経験知に反する事象に目をつぶるのは科学的態度ではありません。
ところが、反対派のトンデモ批判を展開していた賛成・推進派が、
科学的態度を貫徹できませんでした。
だから、私は苦言(窒息するHPVワクチンとピル)を書きました。
日本でおきていた経験知に反するかもしれない事象について、
最も敏感に反応すべきは本来ワクチン賛成・推進派でした。
賛成・推進派に副反応から接種者を守るという姿勢があれば、
慢性疼痛の症例に注目すべきだったのにそれができませんでした。
それどころか、ただただワクチンの有効性・安全性の啓発にだけ力を入れたのです。
5月の時点で、日本の子宮頸がんワクチンは挫折すると確信しましたが、
5月の苦言を書いた1ヶ月後には挫折を迎えました。


子宮頸がんワクチンの教訓


 2013年6月、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の勧奨が中止されることになりました。
一連の経過から正しい教訓を引き出さなければ、同様のことが繰り返されることになるでしょう。
今回の顛末の背景には子宮頸がんワクチンに限らない構造的問題があると、
私は考えています。
およそ何事にも、賛成する者がおり反対する者がいます。
賛否両派が現れることは、自然なことです。
子宮頸がんワクチンについても、推進派と反対派が現れました。
ただ、日本は社会主義国だという特殊な事情があります。
そうです、日本は社会主義国なのです。
社会主義国である日本では、
賛成・推進派は強力な官業共同体を作ります。
その結果、【官業共同体】対【反対グループ】という対立構造となります。



この構図は子宮頸がんワクチンだけでなく、日本でよく見られる構図です。
この構図における両者の言説は、往々にして官業共同体の側に理があります。
反対グループは情報量で圧倒的に劣勢だからです。
トンデモ言説が含まれることも珍しくありません。
子宮頸がんワクチン反対派の言説も、例に違わずトンデモ言説を含むものでした。
反対グループが生まれるのは、
その背後に広範な一般人の不安や懐疑が存在するからです。
(反対派の言説が、不安や懐疑を生み出す側面もありますが)
不安や懐疑を背景とするために、
その言説が合理性を欠くことはある意味で仕方のないことです。
このような状況を賛成・推進派から見ると、
「お馬鹿な素人がトンデモ説を振りまき、それに影響される一般人がいる」
と見えます。
そこで賛成・推進派は2つの対応を取ります。
1つは、反対派のトンデモ叩きです。
2つは、一般人に向けて安全性と有用性を啓発することです。
【官業共同体】対【反対グループ】のゲームは、
【官業共同体】の勝利で終わるはずでした。
ところが、【官業共同体】側に落とし穴が待っていました。
【官業共同体】側は、ひたすら安全性の啓発に力を入れましたので、
現実に接種者に起きているかもしれない問題を直視できませんでした。
当事者の現実の安全性を直視しない安全論が支持を失うのは、
当然のことでした。


ピルを窒息させる官業共同体の安全論


子宮頸がんワクチンについての顛末は、ドラスティックな展開をたどりました。
ピルについても子宮頸がんワクチンと同じ構図があるのですが、
やや異なる点があります。
現在、ピルについては目に見える形の反対グループは、存在しないと言ってもよいほどです。
そこで、反対グループの代わりに「偏見」を持つ一般人が、ターゲットとされています。
もうひとつの相違点は、目に見える反対グループとの緊張関係がないため、
官業共同体の側に非科学的・非合理的言説が混入しています。
この2点の相違点はありますが、基本的には子宮頸がんワクチン賛成・推進と同じ官業共同体ができています。



当サイトの立ち位置は、「当事者・当事者サポート」になります。
官業共同体と当事者では、当然のことながら利害の相違が存在します。
当ブログでは、「ルナベル・ヤーズの錬金術」の記事を書き、
ピルの価格が高すぎることを批判しました。
これは立場が違うのだから主張が異なってくる一例です。
しかし、安全性の問題については立場の相違は関係ないはずだし、
一致できるはずです。
ところが、そうはなっていない不幸があります。


副作用のない薬など、存在しません。
上記のツイートで取り上げたサイトや書籍は極端かもしれませんが、
官業共同体の賛成・推進派が副作用について積極的に語りたがらない傾向のあることは否めないでしょう。
ピルの副作用でもっとも注意しなくてはならないのは、血栓です。
頻度は低くてもピルユーザーには血栓症が発症するリスクがあります。
欧米ではピルユーザーに血栓症が現れても、
重篤な事態を避けるために厳重な注意が呼びかけられています。
たとえ、血栓ができても早期に対応すれば、重篤な事態を避けることが可能だからです。
「ピルとのつきあい方」は、血栓について説明し注意を呼びかけてきました。
 こんな血栓症の兆候に注意
「ピルは副作用は全くありません」は論外で、
血栓症の初期症状に対する注意を呼びかけるのはピルに関するサイトの最低限の要件でしょう。
ところが、日本ではそうなっていません。
副作用からピルユーザーを守る姿勢が感じられません。
ちなみに、

という問題もあります。
たしかに、血栓症の諸症状は同時に現れることが多いので、医学的な説明としては間違いではないでしょう。
しかし、欧米のピルユーザーは、1つでも気になる症状が現れたら対応するように求められています。
手遅れになるより、過敏対応の方がよいと思うのですが。

あるテレビ番組でも、ピルの副作用について語られていました。
http://archive.is/RHuvm
吐き気が黄体ホルモンのためとかのトンデモ学説まで飛び出しています。
副作用「偏見」を打ち消そうと必死なのですが、
おそらくピル離れを進めるだけでしょう。
もし仮に「ピルは副作用は全くありません」が科学的事実であったとしてもです、
一般の女性にとって副作用があるかないかが問題ではないのです。
副作用からピルユーザーを守る姿勢が感じられるか、感じられないかが問題なのです。
「ピルとのつきあい方」は副作用についての知見をありのままに伝えようとしています。
その「ピルとのつきあい方」を信頼できないサイトと批判するのは自由ですが、
そのことがピルそのものをアビューズしているように思えます。
副作用からユーザーを守るという姿勢の感じられない人々のピル推奨が、
受け入れられるとは思えません。
子宮頸がんワクチン挫折の教訓を学ぶべきではないでしょうか。