緊急避妊薬でなぜ妊娠率を下げることができるのでしょう。
この問題については、30年の間、種々の議論が繰り返されてきましたが、未だに定説と言えるものはありません。
2001年に日本家族計画協会は「あなたに知っていて欲しい緊急避妊のこと」で、
以下のように説明しました。どうして、緊急避妊ができるのですか? あなたの月経周期のどの時期に、緊急避妊ピルが服用されたかによって作用の仕方が異なりますが、例えば排卵を抑制する、受精を妨げる、子宮への受精卵の着床を阻止するなどが考えられます。妊娠の成立とは、受精卵が子宮内膜に着床することを言うのですから、いったん着床してしまったら、すなわち妊娠が成立した場合には、緊急避妊ピルが有効でないことはいうまでもありません。 |
この2001年の記述は、北村邦夫氏の論文、さらにはノルレボの添付文書に踏襲されます。
ノルレボの添付文書には以下のように説明されています。本剤の子宮内膜に及ぼす作用,脱落膜腫形成に及ぼす作用,受精卵着床に及ぼす作用,子宮頸機能に及ぼす作用及び排卵・受精に及ぼす作用に関する各種非臨床試験を行った結果,本剤は主として排卵抑制作用により避妊効果を示すことが示唆され,その他に受精阻害作用及び受精卵着床阻害作用も関与する可能性が考えられた.6)7) 6)Van der Vies, J. et al.: Arzneimittelforschung, 33 : 231, 1983 7)Oettel,M.et al. : Contraception, 21 : 537, 1980 |
古い参考文献が上げられていますが、
「主として」とある部分はやや最近の研究動向を反映しています。当サイトが「いざというときの緊急避妊法」を書いた1999年時点でも諸説が入り乱れていましたし、
今でも諸説が入り乱れています。
たとえば、家族計画協会がこだわる受精卵着床阻害作用だけとっても諸説あります。
1980年代までは受精卵着床阻害作用は有力でした。
Yuzpe AA, Thurlow HJ, Ramzy I, Leyshon JI. Post coital contraception—a pilot study. J Reprod Med. 1974; 13:53-8. Ling WY, Robichaud A, Zayid I, Wrixon W, MacLeod SC. Mode of action of dl-norgestrel and ethinylestradiol combination in postcoital contraception. Fertil Steril. 1979;32:297-302. Ling WY, Wrixon W, Zayid I, Acorn T, Popat R, Wilson E. Mode of action of dl-norgestrel and ethinylestradiol combination in postcoital contraception. II. Effect of postovulatory administration on ovarian function and endometrium. Fertil Steril. 1983;39:292-7. Kubba AA, White JO, Guillebaud J, Elder MG. The biochemistry of human endometrium after two regimens of postcoital contraception: a dl-norgestrel/ethinylestradiol combination or danazol. Fertil Steril. 1986:45:512-6. |
ところが、1990年代には疑問視する論文が提出されていました。
Taskin O, Brown RW, Young DC, Poindexter AN, Wiehle RD. High doses of oral contraceptives do not alter endometrial α1 and ανβ3integrins in the late implantation window. Fertil Steril. 1994;61:850-5. Swahn ML, Westlund P, Johannisson E, Bygdeman M. Effect of post-coital contraceptive methods on the endometrium and the menstrual cycle. Acta Obstet Gynecol Scand. 1996;75:738-44. Raymond EG, Lovely LP, Chen-Mok M, Seppälä M, Kurman RJ, Lessey BA. Effect of the Yuzpe regimen of emergency contraception on markers of endometrial receptivity. Hum Reprod. 2000;15:2351-5. |
旧版には作用機序についてなにも書きませんでした。
ところが、家族計画協会は当時ほぼ否定されていた受精卵着床阻害作用などを持ち出してきます。
現在では過去の遺物となったような理論が、ノルレボ添付文書には堂々と書かれています。
ただ、緊急避妊薬の作用機序は諸説入り乱れた状態が続いていますので、
どのような見解であっても見解として尊重されてよいのかなとも思います。
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私が心配なことは一つだけです。
日本で緊急避妊は科学の問題ではなく政治の問題となっています。
そのため、科学的知見の内の「適正使用」に都合のよい部分だけが
意図的に抜き出されていることを指摘しました。
もう一つのノルレボ物語(1)-(12)参照
その最たる例が服用時間が早いほうが効果が高いことを秘密にしていることです。
都合の悪い事実は隠されてしまうのです。
そして親衛隊がそれを絶対視するよう強制しています。
いわば、科学の教義化が生じています。
2001年以来、家族計画協会→ノルレボ添付文書に踏襲されている作用機序は、
1980年代の古い学説ですがそれが教義化されているように思えます。
さらに、家族計画協会の女性向けサイトの説明変更を見ると、
不安が膨らみます。
下の画像の上が2008年11月頃の記述内容です。
「排卵を抑制・遅延させる」が上げられています。
下は現在の記述です。
「子宮内膜の状態を変え、精子を着床しないようにするもの」と書かれ、
以前の「排卵を抑制・遅延させる」が消え落ちています。
わざわざ、排卵抑制作用が削除されています。
緊急避妊に早くアクセスした方が効果的との認識が広がるのを防ぐために削除したのでしょうか。
それとも、ただ「精子の着床」とか珍説を思いついただけなのでしょうか。
ほぼ否定されている1980年代の学説でも代理人の言うことであれば正しいと信じ、
「異端者」攻撃の材料に使ってきた親衛隊グループがあります。
政治に迎合し、教義化を図り、親衛隊の暴虐がまかり通る日本のピルの、
日本の緊急避妊の現状を悲しく思います。
「今まで嘘言ってごめんね~ってあやまらないのか」など、
意味不明な言辞を弄しながら、
当サイトに対して長年にわたり中傷キャンペーン続け、
wikipediaを書き換えなど姑息な行為を繰り返してきた親衛隊がまず行うべき事は、
家族計画協会サイトの「精子の着床」など噴飯言説の訂正を進言することでしょう。
「今まで嘘言ってごめんね~ってあやまらないのか」は自らと家族計画協会に対して言うべき言葉だろうと思います。
参照 James Trussell, Elizabeth G. Raymond, Emergency Contraception: A Last Chance to Prevent Unintended Pregnancy 2013年2月版。なお、毎年更新されたものがアップされている。大幅変更のない部分は変更されないので、文中の「最近」が最近でないことも多い。
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