公益社団法人日本産科婦人科学会は、平成25年12月27日「低用量ピルの副作用について心配しておられる女性へ」と題する見解を発表しました(以下、「見解」とする)。
「見解」は、「事態の緊急性に鑑み」発表するとされていますが、
従来のライフデザインドラッグ路線の踏襲を表明するものに過ぎません。
ライフデザインドラッグ路線により多数の血栓症発症者が出ていることに対する危機感の欠如に失望しました。
欧米では、1970年代と1990年代の2度の「ピル恐慌」を経験しています。
その際、各国の産婦人科学会は現にピルを服用している女性に焦点を絞った呼びかけを行うとともに、ピルの安全性については慎重な対応を取りました。
前者に関しては、慌ててピルの服用を中止して望まない妊娠をすることのないよう強調しました。
各国の産婦人科学会が最も強調した点が、「見解」には完全に欠落しています。
後者に関しては、現に生じている副作用に対して真摯な対応が取られました。
1970年代には、ピルの副作用が周知されていなかったことを率直に謝罪し、改善に努めていきました。
「見解」はピルの安全性を繰り返すばかりで、
問題意識が完全に欠如しています。
欧米では産婦人科学会の一貫して女性を守るとの姿勢が、「ピル恐慌」の克服に繋がりました。
残念ながら、ピルの有益性を強調するばかりの「見解」にはその姿勢を見いだせません。
「見解」の6項目に対する所感を記しておきます。
「1.低用量ピルは避妊のみならず月経調整、月経痛や月経過多の改善、月経前症候群の症状改善などの目的で多数の女性に使用されており、その有益性は大きいです。一方、有害事象として頻度は低いですが静脈血栓症などもあります。」
ピルにはメリットがあります。そのメリットの度合いは、個々の女性で異なります。
またピルにはデメリットがあります。そのデメリットの度合いは、個々の女性で異なります。
メリットとデメリットは個々の女性で異なり、一般論で処することができません。
ライフデザインドラッグ路線下の日本ではこのことが顧慮されなかったために、年齢の高い女性にピルが処方され、ピル史上最悪の副作用被害が生じています。
年齢の高い女性に関して静脈血栓症の頻度が低いなどとは言えません。
「見解」は、現に生じている静脈血栓症の頻発を放置すると宣言しているようなものです。
「2.海外の疫学調査によると、低用量ピルを服用していない女性の静脈血栓症発症のリスクは年間10,000人あたり1-5人であるのに対し、低用量ピル服用女性では3-9人と報告されています。一方、妊娠中および分娩後12週間の静脈血栓症の発症頻度は、それぞれ年間10,000 人あたり5-20 人および40-65人と報告されており、妊娠中や分娩後に比較すると低用量ピルの頻度はかなり低いことがわかっています。」
日本と海外ではピルの使われ方が異なっています。
海外ではピルは避妊薬であり、ピル使用のピークは20歳代前半です。
そのデータを日本の現状に当てはめることはできません。
「3.カナダ産婦人科学会によると、静脈血栓症発症により、致死的な結果となるのは100人あたり1人で、低用量ピル使用中の死亡率は10万人あたり1人以下と報告されています。」
静脈血栓症発症は早期発見と早期治療で重篤化を防ぐことができます。
欧米では、血栓症の初期症状を徹底的に伝えることにより、肺血栓閉塞症の発生を防いでいます。
日本ではこれまで、ピルユーザーに血栓症の初期症状が十分伝えられてきませんでした。
当ブログのアンケートは、その実態を示しています。
理想的な対応が取られた場合の死亡率を示すことにどのような意味があるのか、理解できません。
なお、日本循環器学会等の「肺血栓閉塞症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)」によると、肺血栓閉塞症について未治療での死亡率は30%であるが、十分な治療で2-8%に低下すると記されています(p.7)。
「4.低用量ピルの1周期(4週間)あるいはそれ以上の休薬期間をおき、再度内服を開始すると、使用開始後数ヶ月間の静脈血栓症の高い発症リスクを再びもたらすので、中断しないほうがよいといわれています。」
ピルの服用を中止し自然の月経を待って再開した場合の副作用リスクについて指摘されています。
通常、このような不自然な服用がなされることはありません。
しかし、このような不自然で、血栓症リスクを高める服用法をガイドラインに記し、それに基づく添付文書を放置してきたのは、
ほかならぬ日本産科婦人科学会です。
2日の飲み忘れがあれば服用を中止し月経を待って再開するような服用法は、飲み忘れによる妊娠リスクを下げる効果が皆無であるだけでなく、血栓症リスクも高めます。
そのような服用法を15年間放置してきたことの責任はどうなるのでしょうか。(参照 産婦人科医の犯罪的怠慢)
「5.喫煙、高年齢、肥満は低用量ピルによる静脈血栓症の発症リスクが高いといわれており、注意が必要です。」
血栓症の最大のリスク要因は加齢です。
特に、35歳を過ぎると血栓症リスクは加速度的に上昇します。
ライフデザインドラッグ路線下の日本ではこのことが無視されて、高齢の女性にピルが処方されてきました。
日本のピルユーザーの過半は30歳以上です。
高齢の女性に対するピル処方を奨励するものが、ライフデザインドラッグ路線でした。
女性に対する文書である「見解」で、「注意が必要です」など書くのではなく、それは産婦人科医に対して書くべき事でしょう。
「6.欧米では、静脈血栓症の発症は以下の症状(ACHES)と関連することが報告されていますので、低用量ピル内服中に症状を認める場合には医療機関を受診して下さい。
A:abdominal pain (激しい腹痛)
C:chest pain(激しい胸痛、息苦しい、押しつぶされるような痛み)
H:headache(激しい頭痛)
E:eye / speech problems(見えにくい所がある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、けいれん、意識障害)
S:severe leg pain(ふくらはぎの痛み・むくみ、握ると痛い、赤くなっている)」
当然の内容です。
当然のことが何故これまで行われてこなかったのか、
副作用に対する警戒の弱さとライフデザインドラッグ路線は関係なかったか、
真摯に反省してほしいことです。
最後に、書いておきます。
「見解」は、ピルユーザーの血栓症副作用を想定内の発症と捉えているようです。
しかし、現実には想定をはるかに超える規模で、血栓症副作用が発生していると考えられます。
「見解」はライフデザインドラッグ路線の踏襲を宣言するものであり、
この「見解」は血栓症副作用頻発の現状を継続させるだけの意味しか持ちません。
「見解」は、「低用量ピルおよびその類似薬剤の有益性は大きく、女性のQOL向上に極めて効果的であります」と述べます。
それは、血栓症の発症率が想定内に収まる場合に言えることであって、
想定をはるかに超える血栓症が発現しているならばそのように言うことはできません。
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