2013年4月5日金曜日

脱ピルと卒ピル

下の図は当ブログで何度も使っている図です。
フランスの避妊法選択が年齢別に示されています。
 「ピルのみ」と「ピル+コンドーム」の合計がピルユーザーです。



18-19歳のピルユーザーは78.2%(55.2+23.0)で、この年齢層でピークとなります。
20歳を過ぎるとピルユーザー率は減少していくのですが、
ピルから移行する避妊法は、主として「他のホルモン避妊法」と「IUD」です。
「他のホルモン避妊法」は、パッチ・膣リング・インプラントなど非経口避妊薬です。
特に30歳を過ぎると「IUD」への移行が目立ちます。
大雑把に見ると出産前年齢のピル、出産後年齢のIUD、
という選択がなされているのがわかるでしょう。

ピルできっちり避妊しピルを卒業するの卒ピルです。

ピルユーザー80%の秘密

上の統計ではピーク時年齢層でのピルユーザー率は78.2%にも達しています。
このような高いピルユーザー率は、フランスなど西ヨーロッパにだけ見られる特色です。
アメリカではこのような高いピルユーザー率になりません。
なぜ、ヨーロッパではこのような高いピルユーザー率になるのでしょう。
その理由は3つあります。

①値段

フランスのピルの値段は、2ユーロ程度。1シート300円しない値段です。
フランス在住日本人女性のブログには驚きが以下のように綴られています。



「それがフランスでは! 保険が効くとは聞いていたが、こんなに安いとは…。日本と同じタイプを処方してもらって、薬局に行くと、3ヶ月分が1セットになった箱があり、それがなんと5.09ユーロ。で、保険適用後の値段が1.78ユーロ! 1ヶ月分で91円、100円もしないのだ! これにミューチュアルと呼ばれる、任意加入タイプの保険に入っておくと、保険でカバーされない部分を払ってくれるのでタダになるんだとか。
そしてこれまた驚いたのが、フランスでは高校生はピルがタダ。STDはどうしてるのか別として、望まない妊娠を極力減らし、女性の選択した時期に、職も失わず、経済的な不安もなく、妊娠・出産してほしいという政府の狙いでしょう。これは大当たりだと思う。なぜってフランスの出生率はヨーロッパの中でもトップレベルなのだから。」
http://asparagus99.blog94.fc2.com/blog-entry-34.html

フランスのピルの値段は異常なのでしょうか。
違います。
日本で中用量ピルのプラノバール・ソフィアAの薬価(1錠)は、
それぞれ13.9円・8.2円です。
1シート21錠の価格はフランスと変わりません。
これがピルの適正価格なのです。
フランスでは低用量ピルも適正価格なのに対して、
日本では低用量ピルの価格が異常価格になっているだけの事です。

②脱ピルの少なさ

上の表をもう一度見てみましょう。
18-19歳のピルユーザー率は78.2%です。
この年齢層がピークなのですが、
20-24歳でも75.2%でほとんど変わっていません。
20-24歳の年齢層ではピルユーザーの一部が「他のホルモン避妊法」に移行しています(5.1%)。
この二つの年齢層を通じてみると、
18歳から24歳まで80%弱のユーザー率がキープされているのがわかります。
いったんピルユーザーになるとほとんどピルユーザーを止める女性はいなくて、
少数のピルユーザーを止めた女性は「他のホルモン避妊法」に移行するのです。
継続率が高くなければ80%弱のユーザー率をキープすることはできません。
アメリカのピルユーザー率がヨーロッパと較べて低いのは、
継続率が低いためです。
高い継続率は安い価格と関係しますが、
それだけでは高い継続率は実現できません。
もう一つの理由が関係しています。

③自立的ピルユーザー

頭痛で鎮痛剤を飲む事はそれほど難しくありません。
頭痛薬に限らず治療薬には明確な動機付けがあります。
症状が服用を促すのです。
ピルは、たとえ治療目的で服用するにしても、
症状が服用を促しません。
それでも毎日規則正しく服用し続ける薬です。
ピルを服用した事のある人でないと、
毎日飲み続ける事の困難さは理解しにくいかもしれません。
さらに、服用初期には少なくない人が不正出血などのトラブルを経験します。
それもピルの服用をくじけさせることがあります。
アメリカでもヨーロッパでもピルを一度は試してみる女性は9割程度いるでしょう。
ヨーロッパでは脱落者が少ないのに、
アメリカでは脱落者が非常に多くいます。
ピルユーザーがピルの服用から脱落することを脱ピルと言います。
脱ピルの多寡がピル普及率の差になっていると言ってもよいでしょう。
では、アメリカのユーザーとヨーロッパのユーザーの違いは何でしょうか。
アメリカのピルユーザーはピルの服用をハウツー的に理解する傾向があります。
ヨーロッパのユーザーピルの服用を原理的に理解する傾向があります。
ピルを原理的に理解するヨーロッパのユーザーは、
問題が起きてもくじけずに継続的ユーザーになるのではないかと感じます。
逆にハウツーマニュアルでピルを服用しているアメリカのユーザーは、
少しトラブルがあるとピルの服用を止めてしまうのかもしれません。

日本の状況

下は、日本のピル普及率を示した図です。



2008年調査では3.0%に達していますが一時的な増加にとどまり、
基本的には2%弱の水準で変化していない事がわかります。
この10年間、新たにピルユーザーになる女性の数とピルユーザーを止める女性の数は、
毎年同じであった事を示しています。
このデータはとても恐ろしい事実を暗示しています。
10年の間に新たにピルユーザーになった女性の数と、
この間にピルユーザーを止めた女性の数が同じです。
毎年30万人が新たにピルユーザーとなっても、
毎年30万人が脱ピルしている事になります。
これを10年間繰り返すと300万人の元ピルユーザーを生み出す事になります。
ピルを止めた元ピルユーザーの中には、
出産のために卒ピルした女性も含まれています。
しかし、恐らくそれはピル普及率停滞の理由ではありません。
アメリカのピル普及率がヨーロッパと較べて低くなる条件があります。
その条件を更にひどくしたのが日本の条件です。
現在のピルの利用環境が続く限り、
日本のピル普及率は低迷を続けるでしょう。


0 件のコメント: