2013年2月10日日曜日

政治的医療情報のツケ

根深い医療情報不信

子宮頸がんワクチンについての「発言小町」の投稿から、
一連の子宮頸がんについてのエントリーを始めました。
http://finedayspill.blogspot.jp/2013/02/blog-post.html
子宮頸がんワクチンについては世界各国で似たような議論があります。
しかし、「発言小町」の投稿には、明らかに他国には見られない特徴があります。
それは根深い医療情報不信です。
医療情報は真実を語っていないのではないか、
都合の悪い情報が隠されているのではないか、
都合のよう情報だけ伝えられているのではないか、
という不信感が子宮頸がんワクチンへの懐疑論に繋がっています。
ここには陰謀史観だといって片付けられない問題があります。
子宮頸がん偏見問題では患者さんのブログを取り上げました。
その中でも、偏見が医療者によって語られることについて不満が表明されていました。
昨日のブログでは、和田秀樹医師のブログを取り上げました。
これも子宮頸がん偏見を助長する内容です。
日本の医療者の質が低いわけでは決してないのですが、
日本の医療者にはある習性が染みついているように見えます。
それを端的に示すのが和田氏の言葉、
「なんで、こんな妄想的な話をしたかというと、
子供の教育には、子供の性教育には使えると思ったからだ」

のように思えます。
「妄想的な話」の蔓延について考えてみることにします。

やっと事実が伝えられるようになった

現在、子宮頸がん偏見を明確に否定する言説が伝えられるようになっています。
たとえば、「子宮頸がん予防情報サイト もっと守ろう.jp」には、
以下のような記述があります。
性交渉が頻繁な方が、子宮頸がんになりやすいの?子宮頸がんの原因となるHPVは、性交渉の経験のある人なら誰でも一生に一度は感染する可能性のあるごくありふれたウイルスです。HPVの感染自身は決して特別なものではありません。
また、HPVに感染してもその殆どが自然になおり、ごく一部の持続的に感染が続く女性が子宮頸がんを発症すると言われています。またHPV感染だけでは、すぐがんにならないことも知られています。
しかし、子宮頸がんは性交渉によるHPV感染が原因で起こるということから、「性交渉が頻繁な人がなりやすい」という誤った認識がされることがあります。
コンドームでの感染予防はあまり期待できません。


また、「しきゅうのお知らせ 子宮頸がん基礎知識」にも、
以下のような記述があります。
HPVは、すべての女性の約80%が一生に一度は感染していると報告があるほどとてもありふれたウイルス。そのため、性行動のあるすべての女性が子宮頸がんになる可能性を持っています。
HPVの子宮頸部への感染は、外陰部における粘膜と粘膜の接触により起こります。コンドームでは外陰部全てを守ることはできないため、HPVは女性の腟や外陰部などから子宮頸部へ感染します。したがって、コンドームではHPVの子宮頸部への感染を完全に予防することはできません。


上記のどちらも子宮頸がんワクチンの啓発サイトです。
2つの子宮頸がんワクチン啓発サイトが、
子宮頸がん偏見を否定する同様な記述を掲げています。
これは、おそらく偶然ではありません。


なぜ偏見は垂れ流しにされたのか?


和田秀樹医師は、「なんで、こんな妄想的な話をしたかというと、
子供の教育には、子供の性教育には使えると思ったからだ」

と正直に書いています。
これこそ、偏見が垂れ流しにされた理由です。
ピルの普及を推進するという看板で、
コンドームの普及推進活動をしているグループがあります。
そのグループは「コンドームの普及」という目的のために、
奇妙な言説を総動員します。

「知識を深め、正しく利用してほしい
下品な言い方ですが「ナマで中出し」ということは
極端ではありますが妊娠もするしガンになる率を高めるリスクを負う
ということをご存知でしょうか。
「ピルでガンになる(なりませんが)」という心配をする人はいても、
無防備なセックスが、性病だけでなく子宮頸ガンになるリスクを高める」
という事実は意外に知らない人が多いです。」
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=21535801&comm_id=29074&page=1&from=first_page


コンドームのHPV感染防止効果は限定的ですがないわけではありません。
HPV感染防止効果があれば子宮頸がん予防効果もあるだろう、
との推測も間違いとは言えません。
この点について、『低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン(改訂版)』は、
ピルユーザーで子宮頸がんが増加するとした研究について、
「バリア避妊法・・・のバイアスを考慮しても、結果は変わらなかった」
と指摘しています。
つまり、ピルユーザーにコンドームを使用しない人の多いことの影響ではなかった、
と述べているのです。
彼らはこのような自らの目的に不都合な知見は無視して、
コンドームを使用しないと子宮頸がんリスクが高まると断言しています。

さらにこのグループと関係の深い医師は、
「私も、自分がHPVに感染するまで「お互い検査をして何も検出されなければ、
特定の相手とならコンドームは必須ではないのでは?」と考えていました。
でも、結婚を考えていた相手との間でHPV感染が分かり
(結婚しようと思ってコンドームを使わなくなったとたんの感染でしたね~)、
「妊娠を目指すまでは絶対にコンドームは外すべきではない!」と自信を持って言えるようになりました。」


とのコメントを寄せています。
同医師が「コンドームを使わなくなったとたんの感染」と考えるのは、
コンドームの完全な感染防止効果を前提としているように思えます。
「妊娠を目指すまでは絶対にコンドームは外すべきではない!」は、
ご立派なご信条としか言いようがありません。
このグループの考えと和田秀樹医師のそれはとてもよく似ています。
「コンドームを使用させる」という目的のために、
コンドームをつけないと子宮頸がんになるぞと脅しているのです。
和田医師の場合は、「不特定多数とセックス」は子宮頸がんになるぞとも脅しています。



目的が正当であれば

科学的根拠の希薄な言説を弄する人達は、
全く恥じることがありません。
批判されることもほとんどありません。
彼らは言います、
コンドームはつけた方がいいだろ?、
不特定多数とセックスはしない方がいいだろ?、
当たり前じゃない?、と。
目的が正当であれば少々の誤ったあるいは不確実な説明も許される、
という文化が日本にはあります。
「嘘も方便」なのです。
「嘘も方便」は封建君主の好んだ思想です。
封建君主的バタ-ナリズムの継承者は医療関係者なのかもしれません。
ただ、この文化は一般国民にも広く継承されています。
同じ意見の人の間に心理的連帯感が生まれることがあります。
これはどこの国でも同じです。
ところが、日本では心理的連帯感を共有する「仲間」の中では、
相互批判が行われなくなります。
ムラが作られるのです。
私自身は、日本の国土で原発を続けていくことは、
メリットよりもデメリットの方が大きいと考えています。
いわば、脱原発派です。
3.11以後ネット空間上に脱原発派が生じましたが、
それが巨大な脱原発派ムラになっていることに失望しました。
「嘘も方便」の文化は私たちの身近に存在するのではないでしょうか。
そしてそのツケを払うのは一般国民です。
「正しい目的」のための手段として流布される偏見的医療情報は医療情報不信を生み、
医療情報不信から生み出される情報が健康利益を損ないます。

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