2013年2月7日木曜日

子宮頸がんに対する偏見をなくそうよ


上は過日のツイートです。
子宮頸がんを性感染症の一種と考えると、
どうしても偏見が生まれ患者さんを二重に苦しめることになります。

「子宮頸がん 偏見 ブログ」で検索してみて下さい。

子宮頸がん患者さんへの偏見が、患者さんを二重に苦しめています。

ピルと子宮頸がんに対する偏見は、
日本と一部アジアの国に独特です。
私は以前、
「広がる偏見『ピルはビッチな薬、ヤリマンの薬』についてのツイート」をまとめました。
ピルと子宮頸がんに対する偏見は、根っこは一つであると考えます。
偏見が広がるには必ず原因があり、
しかも目につきにくい形で広がります。
それは自然になくなるものではありません。
偏見をなくすには毅然として偏見に立ち向かう力が必要です。

子宮頸がんに対する偏見について考えてみることにします。
ニキビはアクネ菌によって引き起こされます。
しかし、「アクネ菌が付着するとニキビができる」は正しくありません。
アクネ菌は子どももお年寄りも男も女も皆持っている菌です。
身体にアクネ菌が付着しても必ずニキビになるわけではありません。
体調がアクネ菌の増殖に好条件になるとニキビができます。
理屈の上ではアクネ菌の付着を避ければニキビにはなりませんが、
アクネ菌はそこら中にいる菌なので付着を防ぐことは不可能です。
ニキビとアクネ菌の関係は、子宮頸がんとHPVの関係と似ています。
子宮頸がんの多くはHPVウイルスによって引き起こされます。
このウイルスも常在菌と言えるほどポピュラーです。
男性も女性もほとんどの人が感染しますが、
自然に消滅しています。
身体の抵抗力が低くなるなど何かの条件があると、
消滅せずに子宮頸がんを引き起こします。
アクネ菌とHPVに違いがあるとすれば、
HPVは性交渉により膣内に運ばれる点です。
性交渉がなければHPVが膣内に運ばれるチャンスはほとんどないでしょうが、
性交渉がある限りHPVが膣内に運ばれるチャンスは皆同じです。

上に書いたことを疫学データで確認してみましょう。
こちらにピルユーザーと非ピルユーザーの子宮頸がんリスクを較べたデータがあります。
非ピルユーザーには、独身で性経験のない女性も
ずっとコンドームで避妊し続けた女性も含まれているでしょう。
一方、ピルユーザーのほとんどはコンドームの併用はしていなかったと考えられます。
この両者の死亡率や罹患率に有意差はありませんでした。
これは何を意味しているのでしょう?
もし感染率が低く罹病率(癌化率)が高いのなら、
生活条件が罹患率に反映するはずです。
しかし、実際は感染率が非常に高く罹病率(癌化率)が非常に低いから、
生活条件が罹患率に反映しないのです。
子宮頸がんに罹患するのは10万人中15人程度です。
ほんの15人です。
これは生活条件を反映したものではなく、
個別の身体条件により罹患が生じることを示しています。
ほとんどの女性は妊娠出産を経験します。
妊娠するためには性交渉は不可避なのであり、
HPV感染のリスクを避けることはできないのです。
なお、ピルの服用期間によるリスク変動についてはこちらで解説しています。

上ではピルユーザーの疫学研究データを見てみました。
しかし、このようなデータを引っ張り出さなくても、
少なくとも女性の過半はHPV感染を経験することが知られており、
感染率が非常に高いことは周知の事実です。
つまり、特定の生活条件を持つ人だけがHPVに感染するのではありません。
子宮頸がんを性感染症の一種とする考えが偏見のもとになっており、
この考えが広まれば偏見も同時に広まることになるでしょう。

子宮頸がんを性感染症と見なすことに反対な理由が3つあります。
1つは、上に書いたように偏見が患者さんを苦しめることになるからです。
それが偏見である理由も書きました。
2つは、ワクチン拒否の隠れた理由になっていることです。
HPVワクチンを受けない理由は色々あります。
しかし、個々の理由はそれほど合理的な理由ではありません。
合理的な理由でないのになぜワクチンを受けない決断をするのでしょう。
それはピルに対する偏見と同じで、
性的乱れがなければワクチンは必要ないとの考えが根底にあるように思われます。
子宮頸がんを性感染症と見なせば、
ワクチン摂取率が下がるおそれがあります。
3つは、効果の不確かな予防法が取られてしまう可能性があるからです。
性感染症はコンドームである程度予防できます。
しかし、子宮頸がんをコンドームで確実に予防することはできません。
ピルユーザーと非ピルユーザーで子宮頸がんの罹患率・死亡率に有意差はないと
上に書きました。
試験期間を限って比較試験をするとコンドームは感染に対して有効であることがありますが、
子どもを作るのにはコンドームは着けませんから、
決定的に大きな差にはならないのです。
それに感染と罹患は別問題です。
コンドームの使用がHPV感染にそれほど有効でないことは、
コンドームが普及している日本の罹患率が特別に低くないことでも裏付けられます。
今でも子宮頸がんはコンドームで防げると思っている人がいるのに、
性感染症認定してしまうとますますコンドーム過信が広がるでしょう。
コンドーム過信はワクチンと検診の普及に対して妨げとなるのではないかと恐れます。

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