多くの国では市販薬ですし、アメリカ産婦人科学会でも市販薬化を検討しているほどです。
このように書くと、
「死者が11人も出ているのに安全な薬などである筈がない」
とお叱りを受けるでしょう。
それもその通りです。
ピルは本来は安全な薬です。
しかし、日本のピルは危険な薬です。
なぜ日本のピルは危険な薬なのか、書いてみたいと思います。
死者は11人より多い可能性がある
朝日新聞はピルユーザーに血栓症の副作用で11人の死者が出ていると報じました。
この11人という数字は、医薬品医療機器総合機構の副作用情報を基にしています。
医薬品医療機器総合機構には、全ての症例が報告されるわけではありません。
3つの篩(ふるい)をくぐり抜けた症例だけがデータとなっています。
第1の篩は患者です。
ユーザーが副作用を疑い受診しなければ、
副作用は表沙汰になりません。
ピルの副作用に血栓症があることを知らないピルユーザーが日本にはたくさんいます。
また、ピルを服用していることを秘密にしているユーザーも少なくありません。
もし、ピルユーザーのあなたが肺閉塞で突然死んだとして、
あなたの遺族にピルの副作用を疑う人がいますか?
ピルの副作用が見逃されているケースがあるはずです。
第2の篩は病院です。
病院がピルの副作用と認識したとして、
それをメーカーなり機構に知らせるかどうかです。
日本では知らせる義務はありませんので、
病院から機構に報告されない可能性があります。(注)
第3の篩はメーカーです。
副作用情報が最も多く伝えられるのはメーカーです。
医薬品医療機器総合機構の副作用データのほとんどはメーカー経由です。
メーカーは知った副作用情報を機構に報告する義務がありません。(注)
オーソMとルナベルは同じ成分です。
ルナベルの血栓症が疑われる事例の報告件数は90件です。
ルナベルのシェアは約7%、オーソMは約3%です。
計算上オーソMの報告件数は38件程度になるはずですが、
実際は6件に過ぎません(オーソM血栓関係副作用データ)。
3つの篩をくぐり抜けた症例だけが機構に登録されていると見るべきで、
実際の副作用件数はもっと多いと見なければなりません。
(注)薬事法第77条は、製薬企業・医療関係者等に副作用を知った場合、直接厚生労働大臣に報告することを求めています。直接PMDAに報告することもできますが、厚労大臣に対する報告義務が一義的です。厚労省とPMDAはデータベースを共有することになっています。
ルナベルでも死者が出ている
ヤーズの発売元であるバイエル薬品は2名の死者が出ていることを公表し、
全てのヤーズユーザーに血栓症の初期症状を周知する措置を取りました。
他社も当然同様の措置を取るべきでした。
しかし、残念なことに他社は追随しませんでした。
ヤーズは血栓症を引き起こしやすいことが知られており、
そのためヤーズの副作用はヤーズ固有の問題と捉えられることもありました。
しかし、バイエル薬品の発表は単にヤーズ固有の問題でなく、
構造的な問題があることを示唆していました。
バイエル薬品の発表で私が注目したのは、
「推定142,636婦人年に使用され、血栓閉塞症発現例が87例」
でした。
欧米の妊産婦並みの発症率で、あり得ないほど高い発症率です。
しかも、上に述べたような事情でバイエル薬品は全ての副作用事例を把握しているわけではありません。
ヤーズが血栓症を引き起こしやすいピルであることを勘案しても、
これほど高い数値になるのには他に大きな要因があると考えざるを得ません。
そこで、ルナベルの副作用報告も調べてみることにしました。
医薬品医療機器総合機構の副作用報告から、
ルナベルの血栓症及び血栓が関与している可能性がある事例をピックアップしてみました。
ピックアップしたのは90事例です。
90事例を以下の4つのカテゴリーに分類しました(クリックするとPDFファイルが開きます)。
ルナベル血栓症関係データ
ルナベル脳梗塞関係データ
ルナベル心筋梗塞関係データ
ルナベルその他血栓症関係データ
年度ごとの報告件数は下図のようになっています。
1件目は、以下の通りです。
007死亡
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もう一人の死亡例は、月経困難症の40歳代の女性です。
死亡
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中年女性への集中処方が副作用の多発を招いている
中でも、中年女性へ処方は高い血栓症発症率の大きな要因です。
ルナベルの副作用に即して、実態を見てみることにしましょう。
下の図は、ルナベルの副作用発生を年齢別に示したものです。
ルナベルの副作用に即して、実態を見てみることにしましょう。
下の図は、ルナベルの副作用発生を年齢別に示したものです。
日本の高い血栓症発症率は、30歳代40歳代の血栓症発症によってもたらされています。
この点をもう少し詳しく見てみましょう。
下の図、左の円グラフはピルユーザーの年齢分布を示しています。
わかりにくいかもしれませんが、
内側の円は全ピルユーザー、外側の円がルナベルユーザーです。
ルナベルユーザーと他のピルユーザーの年齢層に大きな違いは見られません。
海外でピルは主として出産年齢前の避妊法であり、
ユーザーのピークは20歳前半です(参照 脱ピルと卒ピル)。
ところが日本では30歳以上が過半数を占めています。
日本と海外ではピルユーザーの年齢層が大きく異なっています。
治療目的利用が強力に推奨されました。
ピルユーザーの過半が30歳以上という異常な状態は政策誘導の結果です。
上の図右側は、血栓関係副作用事例について年齢別の比率を調べたものです。
30歳代40歳代50歳代で大半を占めています。
視力低下など血栓を疑いうる事例も含めてカウントしたので、
10歳代20歳代も一定割合を占めていますが、
それを除外し純然たる血栓関係症例に限定すれば30歳代以上の割合はもっと高くなります。
以上をまとめると、30歳代以上のユーザーが多数を占めるのが日本の特徴で、
その30歳代以上の年齢層に血栓症の副作用が頻発しているので、
ピルユーザーの血栓症発症率が異常に高くなっているのです。
血栓症は服用開始3か月以内のユーザーに多発
ルナベルの服用開始から血栓症発症までの期間を調べたのが下の図です。
1か月以内が一番多く、1か月から3か月以内に集中しています。
この傾向は欧米のデータと概ね一致しています。
ピルによる副作用死亡が報じられてから後、
不安に思うピルユーザーがたくさんいます。
もし、ピル歴が長いのなら、リスクはぐっと低いですし、
若いならさらにリスクは低いと考えてかまいません。
むやみに不安がる必要はありません。
欧米でピルの副作用による血栓症が服用初期に現れやすいのは、
血栓症素因との関係で理解されています。
血栓症リスクは誰でも同じではなく、遺伝的素因を持つ女性で高くなります。
遺伝的素因を持つ女性がピルの服用を開始すると、
開始後の早い時期に血栓症が発現するので服用初期の発現が多くなります。
日本では欧米人のような遺伝的素因の保有者がほぼいないので、
日本のピルユーザーでは血栓症発症は少ないと考えられてきました。
血栓症の発症が中年以後の女性に集中しているので、
この理解は恐らく間違っていません。
ただ、何らかの素因が関係していることを示唆するような服用初期集中が見られます。
疑わしいものがあるとすれば、抗リン脂質抗体です(参照 緊急提言/ピルユーザーは抗リン脂質抗体検査を受けよう)。
日本のピルユーザーの際だった特徴は、長期服用ユーザーの少なさです。
日本でピルの普及率が低迷しているのは、理由があります。
毎年多くの女性がピルを選択するのに、同じ数の女性がピルの服用を中止しています。
ピルにかかる費用負担が重いし、サプリのような奨め方がなされているからです。
このことが意味するのは、日本では血栓症リスクの高い服用初期の数ヶ月だけ服用する女性が多くいると言うことです。
歪んだピル政策が日本のピルの血栓症発症率を異常な高さにしているのです。
日本のピルの灯を消さないために
日本でピルユーザーの血栓症被害が続出しているのは、
治療目的と称して年齢の高い女性にピルを処方してきたからです。
ある月経困難症の50歳代の女性は、ルナベル服用開始14日目に血栓症を発症しています。
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彼女の残された月経回数は何回あったでしょうか。
そのためにピルの選択がよい選択だったでしょうか。
日本のピルユーザーの血栓症発症率が欧米の妊婦より高くなっている原因ははっきりしているのですが、
治療薬化路線にとって年齢無差別の処方が原因と認めることは不都合なのです。
そこで、安易な服用がよくないとか、個人輸入するユーザーがいるからだとか、検査を徹底すべきだとか、
ユーザーに責任を押しつける見当違いな言説が流されています。
高年齢のピル服用の危険性をカムフラージュするために喫煙リスクが強調されています。
ピルユーザーの血栓症の多くを占める静脈血栓だけに限れば、
喫煙は血栓症発現率に関係しません(動脈血栓は増加します)。
出産前の避妊法として最も適したピルを40歳代の50歳代の女性に平気で処方することこそ、
安易だし問題なのです。
それをどうにかしない限り、ピルは副作用の怖い薬であり続けるわけで、
日本からピルは消えていくことになるでしょう。
たしかに、欧米にも30歳代、40歳代、50歳代のピルユーザーがいます。
しかし、それは日本とはわけが違います。
わけが違うという1つ目の事情は、ミニピルの存在です。
欧米の30歳代以後のピルユーザーには、かなりの数のミニピルユーザーが含まれます。
ミニピルは血栓症リスクの上昇に関与しません。
日本のノアルテン錠は海外ではミニピルとして利用されているのですが、
なぜか日本ではリスクの高いルナベル・ヤーズが奨められます。
(ルナベル・ヤーズはピルが避妊薬として普及するのを阻止する政策にそって現れたものです)
日本でほとんど使われていないミニピルが欧米では年齢の高い女性に選択されています。
二つ目は、30歳を超えるピルのイニシャルユーザー(ピル初体験)など、
欧米にはまず存在しないと言うことです。
ピルは若い世代の避妊法です。
若い時代にピルを使用し再びピルユーザーとなったか、
あるいは若い時から継続してピルユーザーである女性です。
いわば、ピルのリスクの低いことが証明されている女性が30歳代以後のピルユーザーです。
このような事情を考慮せずに、30歳代以後の女性にピルをむやみに処方するなど、
狂気の沙汰に近いと思います。
若い世代がピルを避妊に使える環境を作っていくことこそ、重要なのです。
①性感染症が広がると言ってピルの認可を渋り、
②健康な人が飲む薬だからと言って超厳重な処方時検査を課し、
③ピルは避妊薬というよりライフデザインドラッグだと宣伝する。
これは同じ人達の取ってきた言動です。
そこに一貫するのはピルの避妊薬としての普及を阻止する政策です。
その歪んだ政策が、ピルの副作用被害を大量に生み出しています。
ピルは本来、とても安全な薬です。
日本の歪んだ政策がピルを危険な薬にしてしまったのです。
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(アンケート)ピルユーザーに血栓症の初期症状情報は知らせされているか?
血栓症初期症状を説明している医師は21%