2014年11月13日木曜日

「実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談」は実話?それとも創作?

ウェブマガジンMenjoyには、以下の記事があります。

実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談【前編】 (保存ページ)

実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談【後編】 (保存ページ)


リアルな表現で書かれていますので、
緊急避妊を経験したことのない人はこの記事を通して緊急避妊のイメージを持つことも多いようです。
この記事は経験談として書かれています。
しかし、はたしてノンフィクションであるのか、疑問に思う事があります。
疑問点を書いてみることにします。

実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談【前編】 、について

>病院でアフターピルを処方されるのにあたり、まずはひと通りの問診や内診を受けました。
緊急避妊薬の投与には、特別の事情がなければ内診はしません。

>男性医師から「どんな方法で避妊をしたのですか?」と聞かれたので「ウレタン製のコンドームを使って脱落してしまいました」と答えると「……あまり大きな声じゃ言えないんだけどね、今月あなたで2例目なんだよね」と。
医師がいうには、製品自体には問題はないのだけど、ウレタン製コンドームのゴワつき感から根元までさげずに使う人が多く、結果脱落してしまうことになるとのこと。
コンドームは、正しく使ってこそ効果を発揮すると改めて実感させられました。
避妊の方法を聞かれて、「ウレタン製コンドーム」と答える人がいるでしょうか?
まずいません。ふつうは「コンドームが・・・」と答えるでしょう。
その病院に緊急避妊を求める患者が月に100人いたとして、
ウレタン製コンドームの事故で来院する人がどれほどいるか、
しかも「ウレタン製コンドーム」とご丁寧に答える女性が月に2人もいるでしょうか?

>アフターピルを処方してもらい、ご好意でその場で飲ませて頂きました。
2011年のノルレボ認可後は、そのような対応を取る病院もあります。
しかし、ヤッペ法は2回服用なので、院内薬局で処方するにしても、
2回分を袋に入れて渡すのが普通でした。
1回目分をその場で服用させ2回目分を後で渡す対応は、
まずありえません。

>さらに、1回目の服用後、12時間後に飲むことになるのですが、それが午前1時になってしまうことが判明。
2回目の服用が午前1時なら1回目の服用が午後1時だったことになります。
記事では前日予約したことになっています。
午前の診療終了間際の時間帯に予約を入れることは不自然です。

>なんとか吐かずに帰宅し、その日は何もできずに過ごしました。
>身体はとてもだるかったのですが、眠ってはダメだと自分に言い聞かせながら夜を過ごしていました。
軽い散歩をしたり、ヘッドホンで音楽聞いたりして眠気をごまかし、何とか2回目の服用を終えて眠りにつきました。
データがあるわけではありませんが、激しい吐き気の副作用が出る場合、
眠気の副作用が同時に出ることは稀です。
散歩できるほどであれば、副作用としては軽かったようにも見えます。
記憶力がよほどよいにしても、8年前の行動を「ヘッドホンで」まで詳細に覚えているものでしょうか。

>大量に出血、そして妊娠を回避
>その3日後、消退出血と呼ばれるものを確認することができました。
>この出血が1週間程続いて不安になってしまいました。
服用3日後の出血は最も早いケースですがあり得ます。
ただ、このような早い時期の出血はほぼ排卵前の服用で生じ、
粘度の低い鮮血となります。
粘度が低いので大量出血と感じることもありますが、
短期間で出血は収まるのが普通です。
大量出血が1週間続けば不安になるかもしれませんが、
そのような出血パターンはまずないでしょう。

>あと、強いめまいを感じて、外出できないくらいに。これが結構辛かった。
一時的にめまいを感じることがあるにしても、
強いめまいが持続することはまずありません。


ヤッペ法後の副作用の出方は人によりさまざまです。
この体験談はヤッペ法で生じうる副作用を全て経験したことになっていますが、
さまざまな人の副作用を寄せ集めたように感じられます。
この記事はノルレボ発売直後の時期に書かれています。
ノルレボは副作用の少ないことがウリです。
ノルレボの副作用の少なさをアピールするために、
ヤッペ法の副作用をことさら誇大に書いているように感じられます。

実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談【後編】 、について

>その欠点を改良したのが今年7月より発売された『ノルレボ錠』です。これは、性行為があったときから72時間以内に1回服用するもので、ヤツペ法に比べて飲み忘れのリスクが低く、吐き気もほとんどありません。
前編にはヤッペ法とノルレボの比較が書かれていて、
2度目の服用はノルレボだったと誤解してしまいそうですが、
ノルレボ発売前の2008年のことですから2度目もやはりヤッペ法です。

>当時、さまざまな事情があり、不本意な妊娠はどうしても避けたかったのです。
その時々でさまざまな事情があるこことはあります。
どうしても妊娠を避けたい事情があったのかもしれません。
しかし、娘の「『ママ、赤ちゃんできたの? 嬉しい!』と喜びの言葉を。この一言で、私は産むことを決意」しています。
上の子と下の子の年齢差も4歳近くです。
1度目の緊急避妊でひどい副作用が出た女性が、
敢えて2度目の緊急避妊を受けようと思うほど切実な理由があったのでしょうか。

>そして、このクリニックでもその場で飲ませていただけるということで、看護師に処置室に案内してもらったのですが、
2011年のノルレボ導入以前、中用量ピルをその場で服用させる病院は極めて稀でした。
2つの病院ともそのような対応を取ったことは偶然すぎます。

>深夜、当時2才9ヶ月の娘が夜泣きしながらおっぱいを求めてきたので、眠い目をこすりながら授乳をさせていました。この時、授乳回数は日に4回程度。
2才9ヶ月まで授乳することが絶対ないとは言えませんが、
極めて稀なケースです。
授乳回数4回だと生理はまず始まっていたはずです。

>「あなた授乳中ですよね、だったら生理も排卵もないんじゃないんですか?」と衝撃的な一言が。
ヤッペ法に用いられる中用量ピルは、授乳中の女性に対して相対禁忌です。
医師がチェックを忘れることがないとは言えませんが、
妊娠中・授乳中のチェックをしないことは考えにくいことです。
なお、ノルレボは授乳中でも服用できますので、
授乳のチェックは必ずしも必要でありません。
また、産後2年9か月の女性が授乳中であっても、
生理が回復してないだろうと思う看護師はまずいません。
看護師の発言も不自然です。

>しかし、身体になんの変化も現れることがなかったのです。
あの辛かった吐き気、めまい、大量の出血がなく約2週間が経ちました。
ヤッペ法の副作用は約半数の女性では全く感じません。
1度目と2度目で副作用の出方が異なることもあります。
しかし、1度目で過敏症並みの副作用が出たにもかかわらず、
2度目は皆無と言うことはほぼあり得ません。

>状況を察した娘が「ママ、赤ちゃんできたの? 嬉しい!」と喜びの言葉を。この一言で、私は産むことを決意しました。
 2才9ヶ月の子どもに「赤ちゃんできたかもしれない」と言う女性は珍しいでしょうが、
そう告げても2才9ヶ月の子どもでは事態を理解するのは無理です。
「嬉しい!」などと反応することはありえないでしょう。

ライターの意図

記事は「体験談」として書かれています。
しかし、実体験にしては不自然な点が多すぎます。
いや、ほとんどすべて不自然と言えるほど不自然です。
一度でも緊急避妊をした経験があれば、
これほど不自然な「体験談」にならないのではないでしょうか。
仮に一部は事実で尾ひれ背びれを付け加えているものだとしても、
全体を「体験談」としてみることはできないものになっています。
それはある意味当然です。
ライターの書く物は個人のブログとは異なります。
単に個人的な体験を書くのではなく、情報提供を目的としています。
情報提供のために、「体験談」の体裁が取られることもあるのでしょう。
そのようなものとして、「実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談」は書かれています。
それでは、この記事はどのような情報提供を意図しているのでしょう?
記事のタイトルにあるように、緊急避妊のリスキーさを伝えることがこの記事から読み取れる情報提供の意図です。

①副作用が強い

前編では副作用の「体験」が書かれています。
それは明らかにヤッペ法についてのものですが、
読者はヤッペ法とノルレボを区別して読むことはむつかしいでしょう。
緊急避妊は副作用が強いとの情報を提供するものになっています。

②避妊失敗は自己責任

避妊失敗は不可抗力的に生じるものです。
前編では、「ウレタン製コンドーム」がことさらに取り上げられ、「コンドームは正しく使ってこそ効果を発揮すると改めて実感させられました」と述べられます。
後編では、「夫はどうしても来年中に2番目が欲しいという、その1点で暴走してしまった」という話になっています。
どんなに気をつけても、コンドームの失敗は一定比率で生じます。
しかし、この記事では「もう二度と、こんな薬に頼らないようきちんと避妊しようと思った」と述べられます。
緊急避妊は「きちんと避妊」しないからだとの「啓発」がなされています。

③ノルレボのメリット

2度の緊急避妊は時期的に見てどちらもヤッペ法ですが、
記事ではノルレボのメリットについて詳しく説明されています。
2度目の緊急避妊で全く副作用がなかったり、産後2年9ヶ月後の授乳中だったりの設定は、ノルレボのメリットを念頭に置いた記述でしょう。

④緊急避妊は不完全

この記事の最も伝えたかった情報は後編最後の部分でしょう。
私は、産める環境にあったからこそ、アフターピルの失敗から出産を選択したのですが、そうでない人にとっては、アフターピルの失敗による妊娠は、本当に悲劇でしかありません。
アフターピルがあるから大丈夫、なんてことはないのです。
そもそも、アフターピルは気軽に飲めるものではありません。費用の面もそうですが、身体の負担が大きいものです。
男性が、面倒だからという理由で避妊せずに「アフターピルがあるからいいじゃん」というような、軽い気持ちでいられたら女性はたまったものじゃありません。
どうか、カップルの方はパートナーと避妊について話し合って、シングルの方は自分の身体を守るにはどうすればいいか、考えてみて欲しいと切に願っています。

ここに書かれている内容はその通りです。
普段からの避妊が重要なことは言うまでもありません。
しかし、いくら普段からの避妊に気をつけても、
緊急避妊が必要になることがあります。
この記事では、不可抗力的に緊急避妊が必要になる事態のあることには全く触れられていません。
緊急避妊が必要になるのは心掛けが悪いからと言わんばかりです。
このような考えに立てば、緊急避妊アクセスの高いバリアは正当化されます。
ノルレボ「乱用防止」キャンペーンに迎合した内容となっています。
この記事がどのような世論形成を狙ったものかは、以下のツイートからうかがわれるでしょう。



心掛けのよくない女には罰が必要。50年間日本の社会は変わっていません。


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上記記事の公表後、作者の宇野未悠さんと会話がありました。
宇野未悠さんの私に宛てたツイートを収録します。






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会話前の99.9%の確信が、最初のツイートで120%の確信になりました。

2014年10月22日水曜日

【ドラッグストアで買える緊急避妊薬】キャンペーンにご賛同いただいた皆様





緊急避妊の市販薬化の記事は、専用ブログに移転しました。
新ブログトップ すぐに必要な時がある。緊急避妊薬ノルレボを市販薬に!
この記事の移転先 ご賛同いただいた皆様













【私たちにノルレボを! ドラッグストアで買える緊急避妊薬を実現させよう】キャンペーンを行っています。
趣旨については、こちらをご覧下さい。
ご賛同戴ける方を募集しています。(たくさんのRTやFAVありがとうございます。ただRTやFAVは賛同の意思表示として取り扱っていません。賛同の意思表示は「賛成」などと書いて返信願います。)
こちらをクリックして返信することもできます。
メールでもご賛同の意思表示ができます。

キャンペーンメインページはこちら

これまでにご賛同の声を寄せられた皆様です(敬称略)。

mayu飛鳥Aさんyamazaki yukisakura t.◆FP2Je3V6kg isoyo sugisaki

キャンペーンメインページはこちら

2014年10月20日月曜日

ピルとその周辺: 私たちにノルレボを! ドラッグストアで買える緊急避妊薬を実現させよう

ピルとその周辺: 私たちにノルレボを! ドラッグストアで買える緊急避妊薬を実現させよう: 避妊は女性の最も基本的な権利の一つです 予期しない妊娠は、女性の人生に大きな影響を及ぼすことがあります。 学業や仕事の中断を余儀なくされる女性がいます。 中絶により心身にダメージを受ける女性がいます。 産む性である女性だけが不利益を被る社会は不公正です。 誰で...

2014年10月18日土曜日

私たちにノルレボを! ドラッグストアで買える緊急避妊薬を実現させよう




緊急避妊の市販薬化の記事は、専用ブログに移転しました。
新ブログトップ すぐに必要な時がある。緊急避妊薬ノルレボを市販薬に!
この記事の移転先 キャンペーンの趣旨






避妊は女性の最も基本的な権利の一つです


予期しない妊娠は、女性の人生に大きな影響を及ぼすことがあります。
学業や仕事の中断を余儀なくされる女性がいます。
中絶により心身にダメージを受ける女性がいます。
産む性である女性だけが不利益を被る社会は不公正です。
誰でもいつでも避妊にアクセスできることは、
女性の権利(リプロダクティブ ライツ)です。

予期しない妊娠を1/4に減らせます


緊急避妊薬はコンドームの破損など避妊失敗の72時間以内に服用する薬です。
緊急避妊薬の服用で妊娠確率は2%まで低下します。
緊急避妊薬は産婦人科などの病院で処方されます。
緊急避妊薬は服用時間が避妊失敗から早ければ早いほど避妊効果が高く、
120時間後には効果がなくなります。

避妊失敗は誰もが経験します


コンドームの避妊では一定確率で破損などの事故が生じます。
ピルによる避妊では飲み忘れることがあります。
レイプ被害に遭わないとは言えません。
誰もが机の上にお茶をこぼした経験があるのと同じです。
日本で1年間に緊急避妊を必要とするケースは、
少なくとも400万件起きています。


緊急避妊薬の服用は時間が決め手!


緊急避妊薬の服用は時間が決め手です。
3連休前の金曜日にも避妊失敗は起こります。
お盆や正月などの長期休暇にも避妊失敗は起こります。
病院が開くまで待てません。
だから、ほとんどの国で緊急避妊薬は、ドラッグストアで買える薬です。



ノルレボ砂漠をなくす


産婦人科病院は都市に集中しています。
ノルレボを処方してもらうのに1日がかりになるところもあります。
島嶼部では、ノルレボを処方する病院さえありません。
ドラッグストアで買える薬なら、事前購入しておくこともできます。

貧乏女性は諦めろ?


ノルレボの価格は、ほとんどの先進国で1500円程度です。
学生や生徒、低所得の女性には無償で提供される国も少なくありません。
開発途上国では数百円です。
日本の価格は約1万5千円程度です。
1万5千円を持ち合わせていない女性は、躊躇するでしょう。
金銭的負担で緊急避妊を躊躇する女性がいる日本は、
リプロダクティブライツのない国です。
市販薬化して他国並みの価格にすべきです。



高価格政策が女性の健康を害している


多くの病院では高価格のノルレボに手が出ない女性のために、
ノルレボの代替として中用量ピルを処方しています。
中用量ピルを通常の4倍量服用すれば、
当然に強い副作用が現れることがあります。
ノルレボの高価格政策が女性の健康を害しています。

緊急避妊を知らない女性をゼロに


緊急避妊薬を選択するかしないかの選択は自由です。
しかし、緊急避妊薬の存在自体を知らなければ、
選択することもできません。
全ての女性に緊急避妊薬の存在を知らせていく必要があります。
緊急避妊薬が、コンドームや妊娠検査薬と並んで販売されれば、
緊急避妊薬は身近な存在になります。



ノルレボは安全性の高い薬です


ノルレボは黄体ホルモンだけの薬です。
中用量ピルを用いる緊急避妊のような激しい副作用はありません。
血栓症リスクを高めることもありません。
妊娠阻止に失敗して妊娠した場合、胎児に影響はありません。

ノルレボが乱用されることはありません


ノルレボ服用後の妊娠率は2%です。
単純に年率換算すると、26%です。
通常の避妊の代わりに緊急避妊が多用されることはありません。
実際に、ほとんどの国で緊急避妊薬は廉価な市販薬品ですが、
緊急避妊を通常の避妊に使用する女性はいません。


性感染症が蔓延することはありません


コンドームの破損など緊急避妊薬を必要とする事態は、
すでに性感染症感染リスクの生じた状況です。
緊急避妊薬が普及するとそのために、
性感染症の感染が広がるわけではありません。
緊急避妊薬を必要とする事態は性感染症リスクの高い状況と知らせ、
性感染症の検査を奨める方が性感染症の拡大阻止効果は高いと思われます。

日本もドラッグストアで買える国に


避妊へのアクセスはリプロダクティブライツの核心です。
わが国は避妊ピルの認可がなされない特種な国でした。
今また、緊急避妊へのアクセス障壁を高くする政策が取られています。
日本は依然として女性のリプロダクティブライツ状況が最悪の国です。
日本の女性のリプロダクティブライツの前進のために、
ノルレボが他国と同様な価格でドラックストアで買えるように、
いっしょに声を上げていきましょう。      2014.10.18

拡散用ツイートです。RTをよろしくお願いします。
https://twitter.com/ruriko_pillton/status/523453473455890433

呼びかけ人
 ピルとのつきあい方(公式)ruriko pillton

yuko     (@yukonyu)

Cook     (‏@CookDrake)

呼びかけ人になって下さる方を募集しています。上記メールアドレスにお願い致します。

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【私たちにノルレボを! ドラッグストアで買える緊急避妊薬を実現させよう】キャンペーンに賛同して頂けると幸いです。


こちらをクリックして返信することもできます。

2014年9月10日水曜日

町の女性保健室は必要ないですか?

一面の真実


がんナビのサイトに、
子宮頸がん国際会議レポート(3)子宮頸がん検診の受診率を高めるために日本は何をすべきか
という記事があります。
「欧米では健康教育にかかりつけの産婦人科医や母親が重要な役割」、「欧州では性経験の有無に関わらず、産婦人科医に行く習慣がある」、「世界で子宮頸がんを知るキャンペーンが盛り上がる」という内容です。
実態を調査したわけではなく、筋書きは欧州の産婦人科医のインタビューをつなぎ合わせた物となっています。
記事では、「何歳から、産婦人科医の診察を受けているか」の調査結果と、女性の初体験の平均年齢から、
「性体験のないころから、かかりつけの産婦人科医がいて、診察や検査を受けるのが当たり前のように考えられている」との結論が導かれています。
かなり強引というか、非論理的です。
さらに、それを補強する事例として、母親と一緒に14歳で産婦人科を受診した女性キャロル・スカール氏(42歳)の話が出てきます。
日本の産婦人科医の夢物語をなぞったような内容になっています。
おそらく、記者は欧米の産婦人科病院に行った経験が一度もないのでしょう。
ほぼ例外なく予約制で、診療は時間をかけてゆったり行われます。
もし、ほとんどの女性に掛かり付け産婦人科医がいて、特に用事はないのに受診するのだったら、1年が1000日以上あっても間に合いません。
それは日本でも同じです。
日本の産婦人科病院は今でも混雑しています。
ほとんどの女性が産婦人科を掛かり付け病院にするようになったら、すぐにパンクしてしまいます。
まして、14歳の娘と母親が「生理が始まりました」と受診すると、
産婦人科医はどう対応していいのか戸惑うでしょう。
事情は、日本も欧米もほぼ同じです。
記事に書かれていることは、デタラメではありません。
ただ、それは一面の真実であるように思います。
欧米で子宮癌検診の受診率が高い理由を十分に説明していないように思えます。

歴史の分かれ目となった1970年


上の記事にキャロル・スカール氏(42歳)のことが出てきます。
彼女のお母さんは現在60歳代と推測できます。
お母さんがティーンエイジャーだった頃、ピルが認可されます。
そして、10年後の1970年には20歳代になっていたでしょう。
お母さんの世代の女性は、ピル第1世代であるとともに、
女性の健康サービスの第1世代でした。
欧米で中絶が合法化されるのは、1970年代です。
中絶が非合法であった時代、女性にとって避妊は現代人が想像できないほどの重大事でした。
そのような時代にアメリカでは1つの法律が成立します。
PUBLIC LAW 91-572-DEC. 24, 1970(英語)です。
一般に、「避妊サービス及び人口研究法(人口研究と自主的避妊プログラム)」と呼ばれます。
1970年、米国上下院の全員一致で成立した「避妊サービス及び人口研究法(人口研究と自主的避妊プログラム)」は、避妊だけに止まらないで、女性の健康全般に寄与する歴史的な法律となりました。
この法律では、低所得者などへの避妊サービスの提供が規定されました。
タイトル・テン(Title X)と呼ばれます。
タイトル・テンについて、米国厚生省のサイトは以下のように説明しています。


For more than 40 years, Title X family planning clinics have played a critical role in ensuring access to a broad range of family planning and related preventive health services for millions of low-income or uninsured individuals and others.




40年以上にわたって、タイトルテン指定の家族計画クリニックは、低所得あるいは無保険の人々などに対する広汎な家族計画と関連する予防医学サービスへの確実なアクセスにおいて、決定的に重要な役割を果たしてきました。

 

家族計画クリニックは避妊サービスを中心にしながらも、実際は性感染症予防や子宮癌・子宮頸がん・乳癌検診など性に関する広汎なサービスを提供しました。
また、もともとは経済弱者の女性を対象とするものでしたが、女性に限らず、また在学中の生徒・学生に対してもサービスを提供しました。
タイトル・テンの家族計画クリニックは、学校の保健室に対して町の保健室と呼びうる存在でした。
この法律のできた1970年は、第1次ピル恐慌の年でもありました。
リブ運動が盛り上がっていた時代背景もあり、家族計画クリニックでは自分の身体を自分で守る女性を応援する丁寧な対応が取られました。
ここに自分の身体は自分で守るという女性とそれを支援する医療の関係が生まれました。
このような動きはアメリカに限らず、日本を除く先進国に広がりました。
キャロル・スカール氏のお母さんはフランス人と思われますが、
女性の意識変容はアメリカよりも大きなものがありました。
タイトル・テンが作ったものは単なるクリニックではなく、女性の学校だったのです。



日本に町の保健室が出来なかったわけ


町の保健室としての家族計画クリニックのような施設は、またたく間に先進各国に広がります。
日本だけがその埒外にありました。
その理由は明白です。
アメリカの1970年「避妊サービス及び人口研究法」は、突然作られたものではありません。
アメリカでは女性の権利を守る避妊運動が、すでに大きな社会運動になっていました。
この社会運動が女性の熱い支持を得ていたので、
1970年法に反対する議員は1人もなく全員一致で可決されました。
またすでにピルがメインの避妊法となっていました。
ピルは他の避妊法と異なり、きめ細かなサポートを必要とする避妊法です。
ピル初心者の若者にきめ細かなサポートをするには、
従来の産婦人科病院のシステムでは困難があると気づかれていました。
さらに、女性達は避妊の医療化の問題に気付き始めていました。
ピルのボストン茶会事件では、医療の指示に従うだけの避妊が問題とされ、
女性の主体性の回復が課題として示されました。
このような諸背景は先進諸国に共通するものだったので、
町の保健室はまたたく間に広がったのです。
一方、日本は全く事情を異にしていました。
日本では1950年代から国策として家族計画運動が展開され、
社会運動としての避妊運動は消滅していました。
国策家族計画運動を主導した家族計画連盟は、
ピル認可反対の急先鋒でした。
ピルもない民間の社会運動もない日本では、
町の保健室など思いもよらないものだったのです。
1970年当時、日本の避妊法はペッサリーからコンドームに変わっていました。
日本には、女性が性を通して女性の主体性を考える条件がありませんでした。
1970年当時に限れば、自分の身体を守るという意識で、
日本の女性と欧米の女性とでは大きな違いはなかったかもしれません。
しかし、40数年の歳月を経て、その差は決定的に大きな差となりました。
産婦人科の敷居の高さの差、子宮頸がん検診受診率の差は、
40年の積み重ねであるように思います。
キャロル・スカール氏のお母さんは、14歳の娘を産婦人科に連れて行きました。
啓発すれば日本の女性もそのようになるでしょうか?
私は懐疑的です。
40年間、町の保健室が発信してきた文化があります。
その文化は、女性達の語りと経験の交流と専門家のアドバイスが融合した文化です。
その文化は、町の保健室から町全体、国全体に広がり、
女性達の確信を形成しています。
このように考える私は、啓発主義に懐疑的です。

町の保健室は女性の人権センター


性差医学という医学思潮があります。
女性と男性では、病気のリスクが異なったり、薬の効き方が異なったりします。
それを研究するのが性差医学です。
性差医学研究を進めるための、あるいは応用するための病院があります。
女性医学のための病院です。
このような病院は女性の医療の進歩に役立つでしょう。
(以上は、日本の一部の医師が提唱している独自理論の女性医療について述べたものではありません)
Veterans Affairs Medical Center, Women’s Clinic, Philadelphia, Pa. (Array Architects)


一方、避妊クリニックから発展してきた女性のための病院があります。
町の保健室です。
タイトルテンによるクリニックは、単なる避妊クリニックではなく、性感染症、女性腫瘍、性自認などにカバーを広げていきます。
それは偶然のことではありません。
このクリニックの理念が、リプロダクティブヘルスライツだったからです。
避妊はリプロダクティブヘルスライツの核心です。
タイトルテンのクリニックは、避妊を通して社会的弱者のプロダクティブヘルスライツにかかわりました。
避妊、特にピルによる避妊には、学習が必要です。
タイトルテンのクリニックは、女性の意識を変える学校でもありました。








日本循環器学会等は、「循環器領域における性差医療に関するガイドライン」を策定しています。
女性の虚血性心疾患は閉経後に急増し、しばしば非典型的症状を示します。
これは性差医学が明らかにした知見です。
性差医学は女性の疾病診断や治療に役立つでしょう。
しかし、だからといってリプロダクティブヘルスライツの前進に繋がるものではありません。
女性の性差特性を考慮した診療を行う病院が出来たとしても、
リプロダクティブヘルスライツの前進に繋がるものではありません。
性差医学がリプロダクティブヘルスライツの前進に役立つと言い張っているのは、
日本の一部の産婦人科医だけです。
欧米で、そして現在開発途上国で、女性のリプロダクティブヘルスライツの前進は、避妊相談を核とする活動でもたらされてきました。
日本では、「ピルは避妊薬というよりライフデザインドラッグだ」と考える産婦人科医がいます。
そのような産婦人科医が考えたのが、性差医療の推進をうたう「女性の健康の包括的支援法」です。
この法が成立し、「女性医療」の病院ができても、
それは町の保健室ではありません。
町の保健室になる事もありません。
それどころか、町の保健室が作られる願いを妨害するものです。








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      ※(正)課題  (誤)仮題

   ※(正)向上   (誤)工場

「女性の健康の包括的支援法」の対案としての町の女性保健室

 
人権は政府に守ってもらうものではありません。
人権は医師が守ってくれるものでもありません。
人権を守るのは、社会運動です。
人権を守る社会運動を国家は支援する、このような関係にあると私は考えます。
欧米におけるリプロダクティブ・ヘルス・ライツの発展は、
そのような関係で成し遂げられたと考えています。
日本にはそれが欠けていました。
あるにはあるのですが、十分とは言えない状態だと思います。
今すぐ、町の女性保健室はできないかもしれません。
しかし、必ず出来ますし、作らなくてはいけません。
「女性の健康の包括的支援法」ができても、
女性のリプロダクティブ・ヘルス・ライツを守ることは永遠にできません。
今、できないものを「できる、できる」と宣伝しています。
幻想を振りまいているのです。
「女性の健康の包括的支援法」が成立してからも、
幻想が振りまかれ続けるでしょう。
その状態は最悪です。
女性のリプロダクティブ・ヘルス・ライツを守る核が永遠に失われます。
リプロダクティブ・ヘルス・ライツを前進させる町の女性保健室を目指すべきだと思います。





町の女性保健室は必要ないですか?(本記事)
仮題:懐柔されるフェミニスト達。近日公開予定