ラベル 堕胎罪 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 堕胎罪 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2015年9月11日金曜日

生殖にまつわる費用の社会負担を求める論理

日本の人口の長期変化を示したグラフです。

1600年から100年余りの間で、人口は約3倍強に増えています。
新田開発などによる食糧増産が人口増を可能にしました。

もう一つ見逃すことのできない要因は、自作農(本百姓)の創出です。
自作農経営は後継者がいて継続できます。子どもを多めに産み育てようとしたことが、人口増加の要因になったでしょう。

この100年余りの間に画期的な医学の進歩も生殖技術の進歩もありません。3倍強の人口増は、出生数の増加によるものです。食料があれば、ヒトは100年で人口を3倍強にする事ができることを示しています。

1700年過ぎから幕末までの約150年間、一転して人口は静止化します。食糧増産が頭打ちになる、農民の階層分化が始まり自作農が減少していくなどの要因が考えられます。

では、江戸中期から幕末にかけての静止人口は、妊娠数の減少によってもたらされたのでしょうか。いいえ、おそらく妊娠数は基本的に変わらなかったでしょう。妊娠数は変わらないのに、人口は静止化したのです。

この人口の静止化は、間引き・堕胎によってもたらされたと考えられます。18世紀の日本では、人為的な人口調整が広汎に行われるようになったと考えるべきです。

1800年ころになると、堕胎・間引きの禁止政策を導入する藩が出てきます。これは広汎に行われるようになった堕胎・間引きに対応したものであったと考えられます。

明治になると、再び人口増加が始まります。増加率は、100年間で4倍のペースです。3倍強を上回るのは寿命が長くなったことが関係していると考えられます。

人口統計は、明治になると堕胎・間引きが影をひそめたことを示唆しています。広汎な間引き・堕胎が継続していれば、この人口増加ペースにはなりません。

明治新政府は堕胎・間引きの禁令を発しますが、江戸期の諸藩の禁令と異なるものではありません。1880年には刑法に堕胎罪が規定されますが、すでに人口増加は始まっています。法制によって、間引き・堕胎が影をひそめたとは考えられません。

近代国家の成立と共に人口増加が始まる現象は、日本に限ったことではありません。後進国であった日本で見られたのと同じ現象が、開発途上国でも見られました。

近代化が緩やかに進行した先進国では人口増加率は低く、開発途上国では爆発的な人口増加になりました。日本は先進国と開発途上国の中間に位置します。

近代化とともに人口増が生じるのはなぜでしょう。医学や衛生知識の進歩も1つの要因です。しかし、それだけでは爆発的とも言える人口増加を説明できません。

近代化とともに人口増が生じるのは、堕胎間引きが行われなくなるからです。近代以前の人々は共同体規範に従って生活していました。人口増加を拒否する共同体規範が、堕胎・間引きを強いていたのです。

近代国家の成立により、人々は共同体規範を脱し、国家規範に従うようになります。共同体規範の相対的弱化が、堕胎・間引きを消滅させたと考えられます。

もし、堕胎間引きもなく、避妊もないとすると、人口は100年に3~4倍のペースで増加します。帝国主義的な侵略戦争で植民地を獲得しない限り、この人口増加圧力を吸収することはできません。

日本は戦後、世界に先駆けて中絶を合法化し、家族計画運動という世界最初の国策避妊運動を行いました。それは戦争放棄を規定した憲法があったからできた事とも言えます。

以上、日本について述べたことは、時期がずれたりしますが、他の先進諸国にも基本的に当てはまります。社会が必要とする人口調整を女性が、堕胎や避妊として引き受けてきたのです。

そうであるならば、中絶に伴う身命のリスクを女性が負うのは不合理ではないかということになります。女性は安全な中絶を求める権利があります。それが欧米における中絶合法化運動の論理でした。

同様の論理の延長線上に、女性が中絶や避妊の費用を負担するのは不合理ではないかという考えが可能になります。欧米では、中絶や避妊の費用の無料化が急速に進みました。

中絶や避妊は人口増の圧力から社会を守るものであるとすると、出産もまた社会を維持するために必要なことです。そこから、出産や育児の経費が社会で負担すされるようになっています。

さらに言えば、労働における男女格差は女性の生殖と強く関係しています。子どもを産むことが女性の不利益にならない社会の仕組みを作ることは男女平等の実現のために重要であり、課題として取り組まれています。

*********************************
関連ツイート
*********************************






2015年8月28日金曜日

堕胎罪廃止がもたらす日本の女性の不幸

日本のフェミニストだけが堕胎罪廃止を主張


戦前はどこの国にも堕胎罪だけがありました。
いかなる事情があっても堕胎は犯罪だったのです。
日本では1948年に、欧米では1970年前後に、
堕胎罪を阻却する法律が制定されます。
つまり、一定条件に当てはまる中絶について、
堕胎罪の規定を無効化することにしました。
これを中絶の合法化と言います。
中絶の合法化の際、従来の堕胎罪を廃止した国はありません。
従来の堕胎罪はそのままで、堕胎罪の阻却条項を持つ法律をつくりました。
堕胎罪の阻却条項を持つ法律が制定されると、
従来の堕胎罪は非合法堕胎処罰法に性格が変化します。
日本の刑法堕胎罪も非合法堕胎処罰法の性格を持っています。
イギリスには1861年制定のOffences Against the Person Actがあり、その58条・59条が堕胎罪です。
アメリカでは少なくとも38州に堕胎罪があり、
今春、インディアナ州でPurvi Patelという女性が20年の刑を言い渡され話題になりました。
堕胎罪はほとんどの国に残っていますが、
日本以外のどの国にも堕胎罪廃止の運動はありません。※
堕胎罪は実質的に非合法堕胎処罰法なので、
非合法堕胎処罰法を廃止すると中絶を合法化する法律の意味が失われてしまうからです。
中絶の合法化はフェミニスト達が苦労して手にした権利です。
堕胎罪を廃止し非合法堕胎の処罰をなくせば、
合法化以前の闇堕胎の時代に逆戻りします。
そんな馬鹿げた要求をするフェミニストはいないのです。


80年代から日本の堕胎罪廃止運動を主導してきた柳沢由実子氏は、しばしばスウェーデンのThe Abortion Act(1974:595)を引き合いに出してきました。しかし、同法9章は阻却条件に合致しない違法堕胎に対する罰則を明確に規定しています。
スウェーデンで堕胎について規定したスウェーデン刑法23章は、今も有効です。

堕胎罪廃止により闇堕胎に逆戻り


日本のフェミニストの堕胎罪廃止論を受けて、
日弁連は堕胎罪廃止の意見書を提出しました。
参照 日弁連は堕胎罪廃止意見書を撤回すべき
この意見書が実現するとどのようになるのでしょう。
からだと性の法律をつくる女の会は、堕胎罪と母体保護法を廃止して新しい法律をつくることを提唱してきました。
その案が、「避妊および人工妊娠中絶に関する法律(案)」です(以下、法律案とする)。


この法律案は、堕胎罪廃止論の立場を集約的に示していると考えられます。
法律案を基に、堕胎罪廃止がどのような状況を惹起するのか見て見ることにします。

①指定医制の廃止


世界保健機関『安全な中絶』第2版は、以下のように指摘しています。

中絶を法律で制限することによって,中絶の件数が減少するわけでもなく,出生率が著しく上がるわけでもないこと,これとは反対に,安全な中絶サービスへのアクセスを促進する法律や政策は,中絶率や中絶件数を増加させない。

欧米諸国では1970年前後に中絶が合法化されましたが、
中絶合法化後に出生数が大きく落ち込むことはありませんでした。
なぜなら、中絶合法化前に闇中絶が広汎に行われており、
中絶の合法化は闇中絶を合法化するものにほかならなかったからです。
闇中絶の形態はさまざまでした。
最も裕福な階層は、安全な中絶を求めて中絶旅行に出かけました。
非合法な中絶に高額な報酬を支払える人々は、
産婦人科医に密かに依頼しました。
外科医や助産師など医療関係者に依頼できる人々は、
比較的ゆとりのある人でした。
獣医が密かに中絶を引き受けることもありました。
貧しい人々は怪しげな人に依頼するか、
自己堕胎を余儀なくされました。
不衛生な堕胎により多くの女性が身命の被害を受けていたのです。
この問題点をなくすために、誰でも安全な中絶にアクセスできる制度が作られました。
それが中絶の合法化です。
中絶の合法化で中絶を行えるのは、
安全に中絶を行える専門家だけに限定しました。
現行の日本の制度では、母体保護法指定医師だけが中絶を行えるようになっています。
諸外国では、指定医だけでなく資格を持った看護師等にも中絶を行う資格を認めている例があります。
いずれにしても、安全性を担保する制度が取られています。
指定医制度の廃止は、現行制度から明らかな後退です。


指定医制度の廃止は薬剤中絶の導入を視野に入れたものでしょう。
薬剤中絶の成功率が100%ならば指定医制の撤廃も考慮できますが、
薬剤中絶では一定比率で手術を必要とするケースが生じます。
指定医制の廃止では、安全性は担保できません。

②闇堕胎の復活


法律案では、中絶を行える者は医師としています。
しかし、中絶を行えるのは医師としても、罰則のない規定は実効力を持たず、実際は空文化します。
現行法制では、指定医以外の者が中絶を行うと、堕胎罪により罰せられます。
この罰則規定をなくすのが堕胎罪撤廃論です。
法律案では、自己堕胎を行っても罰則はありません。
医師以外の者が中絶を行っても罰則はありません。
耳鼻科医師が中絶を行うのは合法です。
つまり、合法化以前の状態に逆戻りさせるのが、
法律案の特徴です。
現在、堕胎罪により自己堕胎も含めて、指定医以外の中絶を禁止しています。
経口中絶薬の個人輸入が禁止されているのも、
堕胎罪の自己堕胎条項があるからです。
堕胎罪を廃止すると中絶薬の個人輸入を禁止する根拠が失われます。
金銭的にゆとりのある人は、産婦人科で中絶手術を受けるかもしれません。
しかし、10万円の中絶費用がない女性は、
1~2万円の中絶薬を個人輸入して使うでしょう。
安全な中絶を受ける権利は吹き飛んでしまいます。
そして犠牲になるのは貧しい女性です。

③「本人の意志」の尊重とは


法律案は「人工妊娠中絶を希望する者は、本人の意志のみによって人工妊娠中絶を受けることができる」と規定します。
先進国の中絶法制は、女性の希望での中絶を認める方向にあります。
法律案は世界の方向と合致するようにも見えます。
しかし、この法律案と世界の中絶法制の方向は必ずしも一致していません。
そもそも、女性の希望での中絶が認められるようになったのには、
理由があります。
『楢山節考』という小説があります。
息子は自らの意志で、山に老婆を捨てに行ったのでしょうか。
違います。
村の人口を調節する共同体の掟にやむなく従ったのです。
堕胎や間引きも女性の意志ではありませんでした。
共同体や家を維持するためのルールが、
女に堕胎や間引きを迫ったのです。
現在でも好き好んで中絶する女性は1人もいません。
産みたくても産めない状況があるからやむなく中絶するのです。
産む事にパートナーが不同意であるからと、
中絶を選ぶ女性がいます。
仕事や学業を続けられないからと、
中絶を選ぶ女性がいます。
これは女性が中絶を選んでいるのではなく、
選ばせられているのです。
やむなく中絶を選ばせられている女性が、
さらに身命の危険にまでさらされるのは不条理ではないか。
世界のフェミニストたちが中絶合法化のために戦った理由です。※
そこから導かれる中絶の自由とは、
女に対する中絶強制の排除です。
中絶は強制ではなく、あくまで女の意志でなくてはなりません。
そのような意味での「中絶は女性の意志によって行われる」との中絶法制が普及しつつあります。
では、法規に「中絶は女性の意志によって行われる」と記載すればすむのでしょうか。
いいえ、それだけなら、むしろ有害です。
中絶を強制された時代に逆戻りしてしまいます。
第4回世界女性会議(北京会議)行動綱領は、
日本を含む中絶合法化の国に対して以下のように求めています。

望まない妊娠をした女性には,信頼できる情報と思いやりのあるカウンセリングが何時でも利用できるようにすべきである。

たとえばドイツでは妊娠12週まで女性の求めに応じて中絶できることになっていますが、
妊娠中絶に際して事前のカウンセリングを受けることが法で定められています。
中絶はカウンセリング後、4日経過しないと中絶は行えません。
法律案のように女性の意思確認の手続を何ら定めず、「女性の意志」で中絶ができるとするのは女性の権利を守ることにはなりません。


日本のフェミニストは、世界の中で例外的に中絶合法化闘争を経験していません。
その日本は、フェミニストも含め、中絶の責任を女性の責任/男性の責任/男女双方の責任とする言説で覆い尽くされています。
日本は中絶を社会的責任とするフェミニスト不在の国でした。

④胎児条項の導入と同義


健常者も障害者も命の価値に違いはありません。
健常者も障害者も命の価値は同じです。
かつて人種や障害者を差別し排除する優生学という偽科学が流行したことがあります。
日本のフェミニストも優生学に反対してきた歴史があります。
胎児診断技術の発達により、中絶可能な時期に胎児の障害が高い確率で診断できるようになりました。
中絶の阻却事由に胎児の障害を加えること(胎児条項)には、
賛否両論があります。
法律案は胎児条項問題を女性に丸投げする形で解決しようとするものです。
法律案は、中絶は女性の意志のみで行えるとしています。
これは、胎児の障害が見つかった時に女性は中絶することができることを意味しています。
胎児条項の是非の論議は慎重に行われるべきと考えます。
法律案は、そのような問題意識を欠いています。

⑤女性の責任論を増幅


欧米諸国では中絶が合法化され、それに引き続き中絶や避妊の無料化が急速に進みました。
中絶は社会的要請であり、個人的責任にのみ帰することはできないとの認識が広まっていたからです。
一方日本のフェミニズムでは、中絶は殺人であり女性が責任を引き受けるべきとした田中美津が否定されることはありませんでした。
田中への批判はせいぜい女性だけの責任ではなく男性にも責任があるというものでした。
その日本のフェミニズムが提起しているのが、堕胎罪廃止論です。
この状況で法律案が実施された場合、
中絶の責任を女性が一手に引き受けることになるでしょう。
水子供養はさらに繁昌することになるでしょう。
法律案は日本の女性の苦しみを救うものでは決してありません。

⑥中絶や避妊の公的負担を妨害


私は中絶や避妊費用の社会的負担(たとえば保険適用)を一度も口にしたことがありません。
日本の中絶費用や避妊費用が諸外国と比べて異常に高いことを知っていても、口にしたことはないのです。
フェミニストの中には、保険適用を声高に叫ぶものもいます。
私はなぜ保険適用を口にしないのでしょう。
中絶費用や避妊費用の社会的負担には、さまざまな理由付けが行われてきました。
その中で決定的に重要なのは、中絶は女性が望んで行っているのではないという認識です。
この認識が社会的に共有されなければ、社会的負担は実現しません。
驚くことに、日本のフェミニストは中絶や避妊について個人的責任論を受け入れているのです。
個人的責任論を受け入れながら、社会的負担を求めることは整合性を持ちません。
脳天気なフェミニストたちを眺めてはため息をついていました。
日本の中絶や避妊の費用が異常な高さなのは、
懲罰的な意味合いを帯びているからでしょう。
こんな馬鹿げたことがまかり通るのは、
女性の責任を否定する論理が決定的に弱いからです。
個人的責任論を受け入れてしまえば、
懲罰的価格にさえ抗議できないのです。
法律案では、中絶は自己責任となります。
法律案は、中絶を実質上合法化前の時代に引き戻すものです。
中絶や避妊の社会負担はさらに遠のいてしまいます。

⑦経口中絶薬の導入を妨害


経口中絶薬による中絶は、費用負担の軽減化や心理負担の軽減など、
大きなメリットがあります。
日本にも経口中絶薬の導入が必要です。
しかし、この法律案は経口中絶薬の導入の障害となります。
この法律案の特色は、自己堕胎の容認です。
自己堕胎の容認を言い換えれば、
経口中絶薬を個人輸入などで入手して使用することの容認です。
一方で、経口中絶薬による自己堕胎を容認しながら、
他方で経口中絶薬の導入を求めることは矛盾します。
法律案は経口中絶薬の導入を求めるポーズを取りながら、
実際は経口中絶薬の導入を妨害するものです。

⑧カウンセリング導入を妨害

北京会議行動綱領は、中絶合法化国と中絶非合法化国に対して、それぞれ別の要求をしています。
中絶非合法化国に対して非罰化を求めています。
堕胎罪廃止論は、日本が中絶非合法国であるとの妄想的認識の上に成り立っています。
参照 日弁連は堕胎罪廃止意見書を撤回すべき
しかし、実際は日本は中絶合法化国です。
北京会議行動綱領が中絶合法化国に対して、
信頼できる情報と思いやりのあるカウンセリングが何時でも利用できるようにすべきである
としています。
中絶合法化の国では北京会議行動綱領にそってカウンセリングの充実が図られています。
ところが、日本は中絶非合法国との認識に立てば、カウンセリングの充実は要請されていないことになります。
実際、日本では中絶に伴うカウンセリングの問題は、ほとんど等閑視されてきました。
妄想的認識が、日本の中絶環境の改善を妨害しています。

⑨中絶反対派に加担


中絶を個人的悪と捉える宗教的保守勢力があります。
宗教的保守勢力による中絶の権利の縮小の企ては失敗してきました。
しかし、これから先も、母体保護法の改悪提案がなされると予想されます。
これまでと違い、日本は人口減少社会になっています。
現在の人口減少率/数は大きなものではありません。
ところが、十数年後には経済活動にとって無視できない程度の人口減少率になります。
中絶抑制/禁止の圧力はこれまで以上に強まると考えられます。
中絶抑制/禁止論は、「中絶は女の身勝手」論に必ず立脚しています。
世界のフェミニストは、「中絶は女の身勝手」論と戦ってきました。
ところが、法律案はただ単に中絶を自由にせよと要求するものです。
日本のフェミニストの堕胎罪廃止論/法律案は、
「中絶は女の身勝手」論を裏付ける内容になっています。
堕胎罪廃止論/法律案では、中絶抑制/禁止の圧力に対抗できないように思われます。

⑩中絶の権利と避妊の権利は表裏一体


完全な避妊はありません。
どのような避妊法を取ろうと一定比率で意図しない妊娠が生じます。
意図しない妊娠をした人の全てが産める条件を持っているわけではありません。
人間は社会的制約の中で生きているからです。
産む産まないの選択が女性に迫られます。
この2つの選択はどちらも、女性に不利な選択でした。
産まない選択は、女性に身体的・経済的負担を強いるものです。
産む選択は、女性の生き方を制約するものです。
これは女性に強いられている不条理でした。
リベラルフェミニズムはこの不条理を重視しました。
そこで、だれでもアクセスできる効果的避妊を要求しました。
中絶が経済的・精神的負担にならないシステムを求めました。
出産が、女性のキャリアに不利にならない社会を求めました。
中絶や避妊は個人的な責任の問題ではなく、
社会が女性に強いている不平等の問題と考えたからです。
社会的保育の充実もシングルマザーの支援も、
性の問題から発する一連の課題と考えられたのです。
一方日本のフェミニズムでは、
性の問題はある時は女の責任と考えられ、
ある時は男女の責任と考えられました。
あくまで個人的な責任の問題として捉えられたのです。
日本のフェミニストが性の問題で提起したのは、
堕胎罪の廃止だけです。
ほとんど一枚看板といってよいでしょう。
この奇妙な提案がなされるのは、
堕胎罪が女性だけを処罰対象としている不平等な法律、
と捉えられたからです。
男女の個人的責任論の延長線上に出てきたのが、
堕胎罪廃止論です。
社会的責任論ではなく個人的責任論にどっぷりつかった日本のフェミニストは、
ピルの認可に消極的態度を取ったり、
緊急避妊薬の市販薬化に反対したり、
今なお迷走を続けています。

⑪権威主義と馴れ合い


日本のフェミニストが堕胎罪廃止論を唱え始めて30年以上の年月が経過しました。
堕胎罪廃止論は、およそフェミニズム的な主張ではありません。
それは女性の権利に反するものです。
しかし、不思議なことに堕胎罪廃止に疑義を提起するフェミニストは誰一人としていませんでした。
中には、ツイッターで堕胎罪廃止論批判を「何をこじらせたのか」ともの笑いにするフェミニストもいます。
諸外国の中絶法制を論じた学術論文には、堕胎罪と阻却との関係を明確に指摘している論文もあります。
堕胎罪廃止論の間違いに気づいているフェミニストがいるかもしれませんが、
それでも誰も声を上げません。
なぜなのでしょうか。
フェミニズムが合理的思想ではなく、教義になっているからではないでしょうか。
教義の下でなれ合うフェミニストは、決して女性達の信頼を得ることはできません。

---------------------------------------------------------------------------
このエントリーは、以下の3エントリーの一部です。
他のエントリーも合わせてご覧下さい。
    堕胎罪廃止を唱えるフェミニズムの質
   日弁連は堕胎罪廃止意見書を撤回すべき
   堕胎罪廃止がもたらす日本の女性の不幸(このページ)

2015年8月10日月曜日

日弁連は堕胎罪廃止意見書を撤回すべき

日本弁護士連合会(以下、日弁連とする)は2013年6月21日、「刑法と売春防止法等の一部削除等を求める意見書」(以下、意見書とする)を公表するとともに、「内閣府特命担当大臣(男女共同参画)、同年7月4日に法務大臣、厚生労働大臣、警察庁長官宛てに提出しました」。(参照)
堕胎罪廃止は、形式的な男女平等を求める女性運動により30年間提唱されてきたところです。
しかし、堕胎罪廃止論の求める形式的な男女平等が、女性に実質的な不利益をもたらすことは以下で述べるように明らかです。
女性に実質的な不利益をもたらす堕胎罪廃止論に日弁連が与することは、納得できません。
また、意見書の堕胎罪廃止理由には重大な事実誤認が含まれており、合理的な説明になっていません。
日弁連はただちに意見書を撤回すべきと考えます。


1.中絶法制の歴史


①多産多死と無法制の時期
未開社会には中絶法制は存在しません。
病気や食糧不足などによる自然淘汰力の大きな社会では、
人為的な人口調整は必要ありませんでした。
したがって、堕胎を規制する法制度もまた必要ないものでした。

②堕胎・間引きの発生と堕胎罪の時期
衛生知識の普及や食糧事情の改善などにより、
人類は自然淘汰力を克服することになります。
つまり、死亡率とりわけ乳幼児死亡率が低下し、
人口爆発の圧力が生じます。
家や共同体は人口爆発の圧力を受け入れることができなかったので、
堕胎・間引きが発生します。
それに対して道徳的/政治的観点から堕胎・間引きを禁じる動きが生じます。
日本でいえば、1800年頃のことです。
近世の堕胎禁止法は近代に引き継がれます。
明治初年の太政官布達にも堕胎・間引きの禁止が見られます。
1907年の刑法堕胎罪は、近世以来の堕胎禁止法を踏襲したものと見ることができます。
以上の事情は、各国に共通しています。

※参照 避妊技術が生まれる歴史的必然性
※参照 嬰児殺しと間引き
※参照 堕胎罪のルーツ
※参照 福祉政策としての間引き防止政策
※参照 間引きから避妊に至る過渡期の堕胎

③堕胎罪に阻却条項を設ける時期

ロシア革命後のソ連では中絶の自由化が行われましたが、一時的な政策で終わりました。
中絶合法化の流れは、戦後の日本から始まったと言えます。
日本では1948年に優生保護法が制定され、
中絶の合法化が始まります。
欧米諸国では、1970年前後に合法化がなされます。
日本と欧米に共通する中絶合法化の背景は、闇堕胎問題でした。
そもそも、堕胎は人口増加圧力に対する社会的調整でした。
人口増加圧力の解消がなされない以上、
堕胎罪を設けても堕胎を防ぐことはできませんでした。
どの国でも、闇堕胎が広範に行われていました。
戦後日本の社会状況は闇堕胎の需要を急増大させたのであり、
その特殊状況の中で堕胎の合法化が行われました。
欧米における堕胎の合法化過程でも、
闇堕胎の問題点は合法化の大きな論拠となりました。
中絶の合法化は、一定条件の中絶を合法化して、
安全な中絶を受けることができるようにするものでした。
そのために、従来の堕胎罪はそのままに、
堕胎罪を阻却する法律が作られました。

④中絶の無償化の時期

堕胎/中絶の本質は、社会の発展にともなう人口増加圧力の調整です。
個々の中絶は個人的な出来事のようであっても、
巨視的に見れば社会が中絶/堕胎を必要としています。
そうであるならば、女性がリスクと経費を引き受けるのは不合理です。
このような考えから、避妊や中絶費用の社会負担(無償化)が進展していきました。

※参照 堕胎罪廃止を唱えるフェミニズムの質

⑤自己堕胎罪廃止の時期

中絶費用が無償化されると、敢えて自己堕胎する女性はいなくなります。
そこで、自己堕胎罪を廃止する国が出現します。
また、病院での安全な中絶が無料であれば、闇堕胎はなくなりますので、闇堕胎規制の条項が削除されることもあります。
しかし、その場合でも中絶の強要に対する罰則条項は残ります。

2.中絶法制の現状


中絶法制は、長い歴史的スパンで考えると、 上記①から⑤の方向へ進歩していると思えます。
日本は18世紀までが①、19世紀から1948年までが②、1948年から現在までが③の時期に当たります。
世界の国々の法制度の現状については、国連のまとめがあります。
表では、阻却条項の範囲が示されています。
阻却条項の全くない場合が、②の時期に相当します。
②の時期に当たる制度の国はイスラム諸国や開発途上国に見られます。
多くの国は、日本と同様に一定の阻却条項を持つ③の制度となっています。
7番目の阻却条項「On request」は、「本人の意思」を阻却条件とするものです。
「本人の意思」が阻却条項とされるのは、<一定の妊娠週数以内で、かつ「本人の意思」がある場合>等の複合規定になっているためです。
日本の中絶法制は、現在の世界の中で平均的なものであり、
決して特殊なものでないことを確認しておく必要があります。
多くの先進国は④の歴史過程にあり、その中の一部が⑤に到達しています。
日本はいち早く③の歴史段階に到達したにもかかわらず、そして先進国であるにもかかわらず、④の歴史段階に進めないでいます。

3.意見書の要旨


意見書の構成は、以下の通りです。

第1 意見の趣旨
第2 意見の理由
1 はじめに
2 現行法制定の経緯~両性の平等の視点の欠落~
3 人工妊娠中絶について
 (1) 堕胎罪(刑法第212条から第214条まで)の廃止について
  ① 女性差別撤廃委員会の勧告・国連諸機関の見解
  ② 世界保健機関(WHO)の見解
  ③ 「胎児の生命」の保護・尊重との関係
  ④ 堕胎罪適用の現状
  ⑤ 刑罰処罰に代わる施策
  ⑥ 当連合会の意見
 (2) 母体保護法第14条の人工妊娠中絶における配偶者の同意ついて

罰則規定のある堕胎罪は男女平等に反するものであり、国連等の国際機関により廃止が求められているところであるとし、堕胎罪の規定を削除するように求める内容です。
上記2で見たように、日本の現行中絶法制は世界の平均的な法制です。
その日本に対して、是正勧告が行われることは奇妙な事です。
また、中絶/堕胎の強制に対しては、どの国も罰則規定を残しています。
意見書は中絶/堕胎を行う者に対する罰則規定も廃止するよう求めています。
これも奇妙な事です。
どうしてこのような奇妙な提案がなされるのか、以下で検討することとします。


4.意見書の著作権問題


意見書は日弁連両性の平等に関する委員会の議を経て、日弁連の公式文書として提起されているものと理解します。
しかし、意見書は両性平等委員会の調査に基づいてまとめられたものではありません。
意見書は、すぺーすアライズ翻訳『安全な中絶 医療保険システムのための技術及び政策の手引き』第2版、2013(以下、『安全な中絶』とする)の「あとがき」と同一論旨であり、意見書文章の約8割は『安全な中絶』からの「引用」となっています。

両者は注記の内容まで一致しています。
しかし、意見書には『安全な中絶』からの引用である旨の明記は見られません。
著作権法上の疑義があると言わざるを得ません。
その点はさておき、すぺーすアライズは、国連・女性差別撤廃委員会による日本の政府報告書審査にかかわった団体です。
『安全な中絶』あとがきには、「この審査においては、本書を翻訳したすぺーすアライズからも審査が実施されたニューヨークにNGO として参加し、NGO レポートの提出や、ランチブリーフィングでの発言の機会を与えられ、中絶の非犯罪化を求めてアピールをした。」と書かれています。
つまり、国連・女性差別撤廃委員会の報告書はすぺーすアライズの見解を反映したものであり、すぺーすアライズは採用された見解を基に『安全な中絶』あとがきを書いているのです。
その『安全な中絶』あとがきをほぼ丸写ししたものが、日弁連意見書です。
一NPOの見解に、国連と日弁連が、二重に権威づけを行っていることになります。

5.根拠とされる国際的合意


意見書は以下のように指摘しています。

女性差別撤廃委員会は日本政府に対し,「人工妊娠中絶を選択する女性が刑法に基づく処罰の対象となり得ることを懸念する」(女性差別撤廃委員会第6回報告書審査総括所見第49段落),「委員会は,女性と健康に関する委員会の一般勧告第24号や『北京宣言及び行動綱領』5に沿って,人工妊娠中絶を受ける女性に罰則を科す規定を削除するため,できる限り人工妊娠中絶を犯罪とする法令を改正するよう締約国に勧告する」(同第50段落)としている。

ここで示されている文書は3件です。
『北京宣言及び行動綱領』は、1995年に取り決められた大綱的文書です。
「女性と健康に関する委員会の一般勧告第24号」は、『北京宣言及び行動綱領』の内容を受け、具体・詳細に記した1999年の文書です(以下では、「一般勧告第24号」」とする)。
上記2文書を受け、各国政府になされた勧告が2009年の「女性差別撤廃委員会対日本政府勧告」です。

意見書は、上記3文書のほか、拷問等禁止条約(日本は1999年加入、同年発効)、「自由権規約」(「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(日本は1979年批准・発効)および世界保健機関から出版された『Safe abortion: technical and policy guidance for health systems』第2版(2012年)の3文書をあげ、堕胎罪が廃止されるべき根拠としています。

意見書は計6件の国際条約等を上げて、堕胎罪廃止の理由としています。
意見書は、日本の堕胎罪が廃止されるべきは国際社会の合意であることを以下のように強調しています。

人工妊娠中絶の処罰が女性のみを処罰するものであって,その不当性,不平等性は堕胎罪が存在する限り消滅しないことは,国際人権分野では確立した見解となっている。国連人権理事会が選任した「全ての人にとっての達成可能な最高水準の健康の享受についての特別報告者」は,その報告書において,中絶の犯罪化は,女性差別であり,即時の撤廃義務があると明確な見解を示している(A/66/254)。
 
しかし、1995年の北京会議以来中絶をめぐっては諸国間に極めて深刻な対立があり、中絶の合法化についてさえも十分な合意がなされていないことは周知の事実です。
日本は国連加盟国の中で標準的な中絶法制を持つ国であり、日本の中絶法制が国際的合意から逸脱しているとは、にわかに信じがたいものがあります。
意見書が根拠とする6件の国際条約等は、日本に堕胎罪の廃止を迫るものなのでしょうか。
以下で、6件のそれぞれについて検証してみることにします。

6.第4回世界女性会議(北京会議)行動綱領について


意見書の注記には、「1995年第4回世界女性会議(北京会議)行動綱領の106(k)には『違法な妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰措置を含んでいる法律の再検討を考慮すること。』と明記されている」との指摘がなされています。

行動綱領の当該部分は以下の通りです。

(k)「国際人口・開発会議」の「行動計画」のパラグラフ8.25は,以下のように述べている。
「いかなる場合も,妊娠中絶を家族計画の手段として奨励すべきでない。全ての政府,関連政府間組織及びNGOは,女性の健康への取り組みを強化し,安全でない妊娠中絶(注16)が健康に及ぼす影響を公衆衛生上の主要な問題として取り上げ,家族計画サービスの拡大と改善を通じ,妊娠中絶への依存を軽減するよう強く求められる。
望まない妊娠の防止は常に最優先課題とし,妊娠中絶の必要性をなくすためにあらゆる努力がなされなければならない。
望まない妊娠をした女性には,信頼できる情報と思いやりのあるカウンセリングが何時でも利用できるようにすべきである。
健康に関する制度の中で,妊娠中絶に関わる施策の決定またはその変更は,国の法的手順に従い,国または地方レベルでのみ行うことができる。
妊娠中絶が法律に反しない場合,その妊娠中絶は安全でなければならない。女性が妊娠中絶による合併症に対しては,いかなる場合も女性が質の高いサービスを利用できるようにしなければならない。また,妊娠中絶後にはカウンセリング,教育及び家族計画サービスが即座に提供される必要があるが,それらの活動は妊娠中絶が繰り返されることを防ぐことにも役立つ。」
違法な妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰措置を含んでいる法律の再検討を考慮すること。

上述したように、日本を含む多くの国では妊娠中絶が合法化されています。妊娠中絶が合法化されている国について述べているのが、「妊娠中絶が法律に反しない場合」以下の部分です。
一方、堕胎が非合法(阻却条項がない)で、全ての堕胎が違法である国も存在します。
妊娠中絶が法律に反する場合、中絶を合法化するよう記載すべきだと主張する欧州連合(EU)などと、中絶の合法化を断固として拒否するローマ・カトリック法王庁やイスラム諸国が激しく対立しました。
妥協が模索された結果、付け加えられたのが「違法な妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰措置を含んでいる法律の再検討を考慮すること」でした。
以上の経過から明らかなように、この一文は妊娠中絶が非合法の国について述べたものです。
しかも、妊娠中絶が非合法の国に対して、中絶を合法化することさえ求めておらず、せめて当事者女性に対する罰則の再検討を求めているだけです。
(それでもなお、ローマ・カトリック法王庁は、女性と健康の節について全体的留保を表明しています)。
以上をまとめると、日本を含む妊娠中絶が合法化されている国に対して、「懲罰措置」の再検討を求めているわけではありません。
したがって、北京会議行動綱領の審議経過や文脈を無視し、中絶非合法国に対する一文を以て堕胎罪廃止の根拠とする事はできません。

7.女子差別撤廃委員会による一般勧告第 24 号について


「第4回世界女性会議(北京会議)行動綱領」の内容を具体的に記したものが、女子差別撤廃委員会による一般勧告第 24 号(第 20 回会期、1999 年)です。

一般勧告第 24 号で中絶に関係する記述は以下の2カ所です。

(14パラグラフ)
(前略)女性が適当な保健サービスを享受する機会を阻む他の障害には、女性だけに必要とされる医療処置を刑事罰の対象とする法律や、それらの処置を受けた女性を罰する法律などが含まれる。
(31パラグラフ(c))
(前略)可能な場合は、妊娠中絶を刑事罰の対象としている法律を修正し、妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰規定を廃止すること。

上記文脈で「女性だけに必要とされる医療処置」は中絶を意味します。
医療処置としての中絶を受けた女性が刑事罰の対象となるのは、
中絶が合法化されていない国です。
中絶が合法化されている国、たとえば日本では、病院で中絶処置を受けることは刑事罰の対象ではありません。
中絶を合法化し病院で中絶処置を受けることを刑事罰の対象から除外した国では、病院で中絶処置を受ける機会は妨げられません。

一方、中絶が非合法で病院で中絶処置を受けることを刑事罰の対象とする国では、病院で中絶を受ける機会は閉ざされています。
そのことを「女性が適当な保健サービスを享受する機会を阻む他の障害」として指摘しているのです。
第4回世界女性会議(北京会議)では、中絶の合法化を求める国々は、闇堕胎による女性の健康権利の侵害をなくすために中絶の合法化を盛り込むべきだと主張しました。
一般勧告第 24 号は、中絶という直接的な表現を避け「女性だけに必要とされる医療処置」との婉曲な表現を用いながら、中絶の合法化を求める国々の主張を取り入れたのです。

問題となっているのは、中絶非合法の国の中絶問題です。
一般勧告第 24 号は、「第4回世界女性会議(北京会議)行動綱領」を踏襲して、中絶非合法の国であっても、せめて女性に対する罰則規定だけでも廃止するよう求めています。
一般勧告第 24 号は「第4回世界女性会議(北京会議)行動綱領」の内容を具体化したものですから、その趣旨に沿って解釈するのが妥当です。
そうであるならば、各パラグラフの意味は以下のようになります。

(14パラグラフ)の意味
女性だけに必要とされる医療処置すなわち中絶を刑事罰の対象とする法律や、それらの処置を受けた女性を罰する法律がある場合、処罰を恐れる女性は闇中絶を余儀なくされるが、それは女性が適当な保健サービスを享受する機会を阻む他の障害である。
(31パラグラフ(c))の意味
中絶が非合法である場合には女性は闇中絶を余儀なくされるのであり、女性のセクシュアル・ヘルス及びリプロダクティブ・ヘルスの阻害要因となるのであるから、可能な場合は、妊娠中絶を刑事罰の対象としている法律を修正し、妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰規定を廃止すること。

繰り返しますが、中絶を受けた女性に対する処罰規定は、女性が適当な保健サービスを享受する機会を阻む障害となるとの指摘を「一般勧告第 24 号」は行っています。
日本を含む中絶合法化の法体系を持つ国では、適当な保健サービスすなわち病院での中絶が忌避されることはありません。
一方、中絶が非合法の国では、適当な保健サービスすなわち病院での中絶を忌避し闇中絶することになります。
「一般勧告第 24 号」は、中絶非合法国の法の改善を求めているものであり、日本など中絶合法国について言っているものではありません。

8.女性差別撤廃委員会の日本政府に対する勧告


意見書は以下のように指摘しています。

女性差別撤廃委員会は日本政府に対し,「人工妊娠中絶を選択する女性が刑法に基づく処罰の対象となり得ることを懸念する」(女性差別撤廃委員会第6回報告書審査総括所見第49段落),「委員会は,女性と健康に関する委員会の一般勧告第24号や『北京宣言及び行動綱領』5に沿って,人工妊娠中絶を受ける女性に罰則を科す規定を削除するため,できる限り人工妊娠中絶を犯罪とする法令を改正するよう締約国に勧告する」(同第50段落)としている。

勧告の内容を検討する前に、勧告の作成経緯について述べておきます。
勧告は委員会が独自の調査を行ってまとめたものではありません。
各国NGO等への聞き取り調査の結果をまとめたものです。
したがって、積極的なロビー活動を行ったNGO等の見解を反映したものになっています。
たとえば、二次表現規制について国内の合意はなされていませんが、
勧告には二次表現規制を主張するNGOの見解が反映されています。
中絶問題についてロビー活動を行ったのは、すぺーすアライズです。同団体訳の『安全な中絶』あとがきには、「国連・女性差別撤廃委員会による、日本の政府報告書審査に対する総括所見(2009 年)は、人工妊娠中絶を刑事罰の対象とする法律の改廃を求めている。ちなみにこの審査においては、本書を翻訳したすぺーすアライズからも審査が実施されたニューヨークにNGOとして参加し、NGOレポートの提出や、ランチブリーフィングでの発言の機会を与えられ、中絶の非犯罪化を求めてアピールをした。」と記されています。
すぺーすアライズは、国連・女性差別撤廃委員会に対して、どのような説明を行ったのでしょうか。

対日本政府女性差別撤廃委員会勧告その英文の該当部分は以下の通りです。

(49パラグラフ)
(前略)委員会はまた、十代の女児や若い女性の人工妊娠中絶率が高いこと、また、人工妊娠中絶を選択する女性が刑法に基づく処罰の対象となり得ることを懸念する。
It is also concerned at the high ratio of abortion amoung teenage girls and young women and at the fact that who elect to undergo abortion can be subjectived to punishment under the Penal Code.
(50パラグラフ)
(前略)委員会は、女性と健康に関する委員会の一般勧告第24号や「北京宣言及び行動綱領」に沿って、人工妊娠中絶を受ける女性に罰則を科す規定を削除するため、可能であれば人工妊娠中絶を犯罪とする法令を改正するよう締約国に勧告する。
The Committee recommends that the State party amend, when possible, its legisiation criminalizing abortion in order to remove punitive provisions imposed on women who undergo abortion, in line with the Comimttee general recommendation No.24 on women and health and the Beijing Declation and Platform for Action.

形式的男女平等を重んじ、堕胎罪の廃止を早くから主張していたすぺーすアライズは、中絶を合法化する母体保護法の存在に触れることなく、堕胎罪についてだけ説明した可能性があります。
堕胎罪についてだけ説明されれば、委員会は日本が中絶が非合法の国であると誤認するでしょう。
上述したように、「北京宣言及び行動綱領」や一般勧告第24号は、中絶非合法の国に対してのみ、せめて女性への罰則条項を削除するよう求めました。
50パラグラフは、まさに日本は中絶非合法国との認識を委員会が持っていたことを如実に示しています。
また、英語原文のundergo abortionは、(病院などで)中絶手術を受けるとのニュアンスです。
日本は他の多くの国と同様に、病院で受ける一定の阻却条件に適する中絶は合法ですし、病院での中絶は処罰対象ではありません。
病院で受ける中絶について処罰しないように求める勧告は、委員会が日本は中絶非合法国と誤認したからなされたものです。
このような誤認を招いたすぺーすアライズのロビー活動は、国辱的とも表しうるものです。
かかる事情を何ら検証せずに、すぺーすアライズの主張を丸呑みして意見書とした日弁連の責任は重大です。

9.中絶合法国に対して中絶の無罰化が求められない理由


「北京宣言及び行動綱領」や一般勧告第24号は、中絶非合法国に対して、中絶を受ける女性への処罰規定削除を求めています。
一方、中絶合法国に対しては、中絶を受ける女性への処罰規定削除を求めていません。
北京会議以来、中絶合法国における中絶を受ける女性への処罰規定削除を求めたのは、日本のフェミニストだけです。
中絶合法国にあっても、阻却条件を満たさない中絶に対しては処罰条項が設けられています。
それは日本だけでなく、ほとんどの中絶合法国について言えることです。
中絶合法国の阻却条件を満たさない中絶に対する処罰条項削除が求められないのには、理由があります。
中絶合法国では、中絶を原則違法とした上で(堕胎罪を存置)、一定の阻却条項を設ける法制度を取っています。
原則違法の罰則規定を削除すれば、阻却の意味が失われます。
たとえば、原則違法の処罰規定をなくし、経済的理由による「阻却」を認めると、阻却の意味が実質的に失われ、闇中絶の横行を招いてしまいます。
詳しくは、堕胎罪廃止を唱えるフェミニズムの質--ガラパゴス化したフェミニズムを参照のこと。

10.拷問等禁止条約


意見書は、「かかる中絶への制限的法律は,国連・自由権規約や拷問等禁止条約での拷問等にも該当する」と指摘しています。
日本は1999年に拷問等禁止条約加入し、同年に発効しています。
拷問とは権力による個人に対する暴力的行為そのものであり、拷問の概念が法律にまで拡大されているとは、にわかには信じられません。

意見書の記述は以下のようななっています。


「国連拷問等禁止委員会の一般的意見22では,「女性が拷問の危険にさらされている状況には,特に性と生殖に関する決定権を奪われること及び共同体や家庭における私人による暴力が含まれる。」と記載している。国際社会は,妊娠した女性本人が望まない妊娠について,本人以外が妊娠の継続を強いるという人権侵害を国家が放置することを拷問と位置付けている。」


この見解について検討してみましょう。
まず、「国連拷問等禁止委員会の一般的意見22」と書かれていますが、そのような文書は存在しません。
これは「国連拷問等禁止委員会」の「一般的意見2」の22パラグラフの間違いでしょう。(参照 英語原文)。
当該パラグラフは、以下の通りです(意見書は下線部を抄訳しています)。


State reports frequently lack specific and sufficient information on the implementation of the Convention with respect to women.  The Committee emphasizes that gender is a key factor, which intersects with other identifying characteristics or status of the person such as race, nationality, religion, sexual orientation, age, immigrant status etc. to determine the ways that women are subject to or at risk of torture or ill-treatment and the consequences thereof.  The contexts in which women are at risk include deprivation of liberty, medical treatment, particularly involving reproductive decisions, and violence by private actors in communities and homes.  Men are also subject to certain gendered violations of the Convention such as rape or sexual violence and abuse.  Both men and women and boys and girls may be subject to violations of the Convention on the basis of their actual or perceived non-conformity with socially determined gender roles.  States Parties are requested to identify these situations and the measures taken to punish and prevent them in their reports.


下線部を直訳してみました。
女性がリスクに晒される状況には、①自由の剥奪や特に性的意思決定を含む医療措置の剥奪、及び②地域や家における私人による暴力が含まれる。

「性的意思決定権を含む医療措置の剥奪」の意味するところは、強制堕胎や闇堕胎の強制と解すべきでしょう。
この文章から、国際社会は堕胎罪を拷問に該当すると認定しているとするのは、あまりに強引です。


11.自由権規約


「意見書」は、「かかる中絶への制限的法律は,国連・自由権規約や拷問等禁止条約での拷問等にも該当する」と指摘しています。
日本は、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」を1979年に批准し、同年に発効しています。
堕胎罪が自由権規約に違背することを「意見書」は以下のように説明しています。

自由権規約委員会は,女性のリプロダクティブ・ヘルスが,身体的・心理的な尊厳の一部であり,その保護の重要性に焦点を当て,このような権利のいかなる侵害も自由権規約第7条違反を引き起こしうるとして「締約国が女性の生殖機能に関連するプライバシーを尊重することに欠けるかもしれない他の領域は,例えば不妊に関する決定権限が夫にあるところや,一定の子ども数や年齢制限のある一般的な要件が女性の不妊に課せられるところ,又は締約国が中絶をした女性の医師や保健関係の職員に法的義務を課して事例報告をさせるところである。このような場合には,規約上の他の権利,例えば第6条や第7条のような権利が危険に瀕してしまうかもしれない。」と記している7。

7 Committee on Civil and Political Rights, General Comment No. 28 on article 3 ICCPR,
UN Doc.CCPR/C/21/Rev.1/Add.10, para 20
特に,中絶の制限に対して,アイルランド政府に対する自由権規約の総括所見において,同委員会は,「女性が妊娠の継続を強いられることは自由権規約第7条や一般的意見28から導き出される義務に違背するところであるが,このようなことが起きないよう保障するよう要望して」いる(Committee on Civil and Political Rights, Concluding Observations on Ireland,second periodic report)。自由権規約委員会は,「委員会は,子どもに特別な保護を与える規約第24条と同様に第7条に従っているかを評価するために,女性に対する強姦を含む,夫婦間及びその他の形態の暴力に関して国内の法律及び慣行について情報を得る必要がある。委員会は又,締約国が強姦された結果妊娠した女性に安全な中絶をする手段があるかどうかを知る必要がある。締約国は又,委員会に対して強制的な中絶及び不妊を避けるための措置に関して情報を提供すべきである」 として(Committtee on Civil and Political Rights, General Comment No. 28, UN Doc.CCPR/C/21/Rev.1/Add.10,para 11),中絶の強制や,性暴力の結果としての妊娠中絶のアクセスの制限について,自由権規約第7条違反であると述べている。


自由権規約で問題となるのは、堕胎の強制や中絶機会の剥奪です。
日本は他の多くの国連加盟国と同じように、中絶を合法化する法制度を持つ国であり、自由権規約に抵触しません。
日弁連は「意見書」において、日本が一部のカトリック/イスラム教諸国と同様に中絶を合法化していない国である、との驚くべき見解を示しています。
 

12.『Safe abortion: technical and policy guidance for health systems』第2版


「意見書」は、2012年に公表された世界保健機関(WHO)『Safe abortion: technical and policy guidance for health systems』第2版を堕胎罪廃止の根拠としてあげています。


「意見書」は同書について以下のように説明しています。

2012年6月に,世界保健機関(WHO)から出版された『Safe abortion: technical and policy guidance for health systems』第2版においても,中絶に対する処罰規定が女性に必要な医療サービスへのアクセスを阻むものであるとして妊娠中絶の非犯罪化を求めており,また,中絶を法律で制限することによって,中絶の件数が減少するわけでもなく,出生率が著しく上がるわけでもないこと,これとは反対に,安全な中絶サービスへのアクセスを促進する法律や政策は,中絶率や中絶件数を増加させないことを指摘している。また,「中絶が法律により制限されているかどうかにかかわりなく,女性が予期しない妊娠を中絶する確率はほぼ一定です。中絶に対する法的制限のため,多くの女性が他の国でサービスを求めたり,熟練していない施術者に中絶を求めたり,非衛生的な環境での中絶を行い,死亡したり障がいを負う大きな危険にさらされます。」と人工妊娠中絶への規制が中絶の抑制にもならず,むしろ,人工妊娠中絶を切実に必要とする女性たちの生命身体を危険にさらすだけであることを指摘している。

ここで述べられていることは、中絶非合法の国の状況についてです。
日本は他の多くの国連加盟国と同じように、中絶を合法化する法制度を持つ国であり、この記述には該当しません。
日弁連は「意見書」において、日本が一部のカトリック/イスラム教諸国と同様に中絶を合法化していない国である、との驚くべき見解を示していることになります。


13.「意見書」の指摘する根拠についてまとめ


「意見書」は6件の国際条約等を上げて、堕胎罪を廃止すべき根拠としています。
わが国では、中絶法制に関する甚だしい誤認と思い込みに基づき、堕胎罪廃止を求める女性運動が30年間継続しています。
「意見書」はかかる運動の蒙昧な論理を何ら検証することなく受け入れ、牽強付会の言説を弄しています。
世界の国々の中絶法制は、中絶の合法化がなされてといる国となされていない国に大きく二分されます。
日本は中絶が合法化されている国に属します。
この認識を基にして、中絶の合法化がなされている国に対してはカウンセリングの充実や家族計画サービルの提供など、中絶の質的改善を促すことが国際的合意となっています。
中絶の合法化とは、中絶を原則禁止する規定に対して阻却条項を設けることを意味しています。
中絶の合法化がなされている国に対して、中絶を原則禁止する規定の削除を求めるいかなる国際的合意もありません。

一方、中絶の合法化がなされていない国、すなわち阻却条項を持たず、全ての中絶が一律に罪とされる国に対しては、女性に対する処罰規定の削除を求めています。
これが世界の合意です。

堕胎罪廃止を求める日本の女性運動の蒙昧な主張は、国際的合意に反するものであり、到底認められないものです。
堕胎罪廃止を自己目的化した狂信的女性運動は、日本は中絶が非合法の国であるとの妄想を主張します。
拷問等禁止条約、自由権規約、『Safe abortion: technical and policy guidance for health systems』を堕胎罪廃止の根拠としてあげているのは、
日本が中絶非合法の国であるとの妄想に取り憑かれていることを示しています。
日本は中絶非合法の国であるとの妄想に取り憑かれているかのごときNGOが女性差別撤廃委員会に対するロビー活動を行った結果、日本が中絶非合法の国であることを前提とした勧告が出されました。
「意見書」は妄想部分も含めて、NGOの主張を丸写ししています。
不見識とのそしりは免れないでしょう。

14.根拠と結論の齟齬


「意見書」の結論は、「刑法第212条(堕胎),第213条(同意堕胎及び同致死傷)及び第214条(業務上堕胎及び同致死傷)を削除すべきである」となっています。
当該条文は以下の通りです。

第212条(堕胎)妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懸役に処する。
第213条(同意堕胎及び同致死傷)女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させた者は、二年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させた者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
第214 条(業務上堕胎及び同致死傷)医師、助産婦、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させたときは、三月以上五年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させたときは、六月以上七年以下の懲役に処する。

『北京宣言及び行動綱領』、「一般勧告第24号」およびこれを基礎とする諸条約等は、中絶非合法国について中絶を受ける女子についての罰則を削除するよう求めています。
日本の堕胎罪で言えば、第212条について無罰化を求めるものです。
ところが、「意見書」は第213条と第214条についても削除を求めています。
第213条と第214条は中絶を行った者を罰する規定であり、中絶を受けた女子を罰するものではありません。
「意見書」は、何の根拠もなく第213条と第214条の削除を求めていることになります。

15.堕胎罪削除の結果


「意見書」は、刑法第212条、第213条および第214条の削除を求めています。
中絶合法化以前、堕胎罪はあっても闇中絶が横行し、女性は身命のリスクに曝されていました。
中絶の合法化とは、一定条件を満たす場合に中絶を合法化し、闇中絶のリスクから女性を救う目的を持つものでした。
「意見書」の目指す中絶法制が実現すると、日本の中絶法制は世界最悪の中絶法制となります。
刑法第212条の削除は、身命のリスクと引換に自己堕胎を選択せざるを得ない女性を生み出します。
このことについては、堕胎罪廃止を唱えるフェミニズムの質--ガラパゴス化したフェミニズムで具体的に説明しています。
「意見書」は刑法第212条だけでなく、第213条および第214条も削除するよう求めています。
第213条および第214条の削除は、闇中絶の無罰化です。
「意見書」の提案が実現すれば、日本は闇中絶の国になるでしょう。
そして、日本の女性は多大な身命の犠牲を強いられることになります。
日本の中絶法制は間違いなく世界最悪になります。
日弁連「意見書」は、正気の沙汰とは思えません。


16.日本の課題を隠蔽


『北京宣言及び行動綱領』以来、国際社会は中絶合法化諸国と中絶非合法諸国に対して、それぞれ別の対応を取ることで合意しています。
中絶合法化国である日本には、本来中絶合法化国として求められる対応があります。
ところが、日本を中絶非合法国であると国際社会に誤認させ、中絶非合法国としての対応を求めているのが「意見書」です。
日本が中絶非合法国であると国際社会が誤認すれば、中絶合法化国としての課題は隠蔽されてしまいます。
日本の女性の人権を抑圧する役割を日弁連が果たしていることを真摯に反省すべきです。

17.日弁連の取るべき対応


「意見書」に関して日弁連の取るべき対応は明らかです。
上述のように「意見書」は、日本を中絶非合法国とする妄想の上に成り立っています。
かかる妄想に立ち、牽強付会を重ねる「意見書」は、日弁連の文書としてふさわしくありません。
ただちに撤回すべきです。
日弁連は「意見書」を公表するだけでなく、「意見書」を政府機関に提出するなどのロビー活動を行ってきました。
「意見書」を撤回する旨の声明が必要です。
この「意見書」により日弁連が女性の人権に関して無関心で無知であることが露見しました。
組織の再編を含む抜本的な改変が必要です。

18.日弁連に期待すること


日弁連は日本の人権の発展に多大な貢献をしてきたと認識しています。
しかるに、こと女性の健康にかかわる人権問題については、極めてお粗末な認識しか持ち合わせていないことが「意見書」により露顕しました。
女性の健康をテーマとする「一般勧告第24号」に鑑みると、この分野の日本の状況は極めて憂慮される状況です。
諸外国で百数十円のピルについて、日本では約七千円の薬価が付けられています。
緊急避妊のガイドラインには、性感染症検査の結果をパートナーに知らせるとの記述があります。
多くの国連加盟国で市販薬の緊急避妊薬ノルレボは、日本では処方薬で価格も約10倍です。
参照 ノルレボ市販薬化キャンペーン
この国に法と正義はないと思える状況があります。
「一般勧告第24号」に即して、わが国の状況を点検し、改善を提案するのが日弁連のあるべき方向ではないでしょうか。

19.つけたし

本記事は日弁連に通知済です。

------------------------------------
このエントリーは、以下の3エントリーの一部です。
他のエントリーも合わせてご覧下さい。
  堕胎罪廃止を唱えるフェミニズムの質
  日弁連は堕胎罪廃止意見書を撤回すべき(このページ)
  堕胎罪廃止がもたらす日本の女性の不幸



2015年5月26日火曜日

堕胎罪廃止を唱えるフェミニズムの質--ガラパゴス化したフェミニズム

 

堕胎罪廃止論はもっともそうな主張


まず、SOSHIREN女(わたし)のからだからというグループの「― やっぱり生きていた堕胎罪 ―「堕胎罪で書類送検」に抗議する!」を読んでみて下さい。
「産めないと追いつめられ、薬を飲んで出血した女性を、誰が、なぜ、罰することができるのだろうか」と問いかけています。
この問いに対する答えは、当然誰も罰することはできないになります。
したがって、書類送検に抗議するのは正当なことです。
起訴が不当であるとすれば、起訴を可能にしている法律に問題があると考えることができます。
刑法は堕胎罪を設け、212条には自己堕胎の罪を規定しています。
自己堕胎の罪に問われるのは女性だけです。
女性だけが罪に問われるのは、男女平等に反するのではないか。
そのように考えれば、堕胎罪は廃止すべきだとなります。
頭で(観念的に)考えれば、堕胎罪廃止の要求はもっともな主張に見えます。
2010年にはSOSHIRENなどが、堕胎罪撤廃100万人署名の運動を行いました。
その運動のブログには、賛同人の名簿が掲載されています。
そうそうたるメンバーです。
堕胎罪廃止運動は長年にわたって継続されており、
フェミニスト界隈に広く浸透しています。
堕胎罪廃止に異議を唱えた「フェミニスト」を私は知りません。

中絶合法化と何だったか


堕胎罪廃止を唱える「フェミニスト」の皆さんは、
中絶合法化の歴史を当然ご存じだと思います。
日本では1948年に優生保護法が施行されました。
優生保護法は世界に先駆け中絶を事実上公認したものですが、
人口政策(人口抑制・優生学)のための立法で諸外国の中絶合法化とは性質を異にしています。
欧米諸国では1970年代前後に中絶が合法化されます。
中絶の合法化が行われる最大の要因は、
闇堕胎の存在でした。
立法で堕胎が禁止されていても、
堕胎を必要とする女性は必ずいます。
それは日本でも欧米でも同じでした。
闇堕胎にはいくつかの問題点がありました。
1つは、闇堕胎はしばしば安全性に欠けるものでした。
2つは、闇堕胎の中には法外な代金を請求する者がいました。
3つは、当事者女性の心理的負担(罪の意識)が大きいものでした。
中でも安全性の問題は重要で、命をかけなくてはならない理不尽さの問題が、
中絶合法化の最大の要因でした。
中絶合法化後の人口統計で出生数の大きな落ち込みは見られず、
中絶合法化は闇中絶を合法化したものに過ぎないことを示しています。
つまり欧米における中絶合法化の意味は、中絶の安全化でした。
長年にわたる女性の身体・生命の犠牲の上に実現したのが、
欧米の中絶合法化です。

安全な自己堕胎はない


上に述べたような歴史的経緯からすれば、
中絶の権利とは安全な中絶の権利と言い換えてもよいほどのものです。
このように考える私からすると、「フェミニスト」の皆さんが主張する堕胎罪の廃止は理解できません。
冒頭に示した「やっぱり生きていた堕胎罪」の文章をもう一度読んでみましょう。
起訴された女性は経口中絶薬を使用しています。
現在、自身で使用するための経口中絶薬の入手が禁止されているのは、
堕胎罪があるためです。
堕胎罪が廃止されれば、経口中絶薬を個人輸入し自己堕胎することが可能になります。
堕胎罪の廃止は、経口中絶薬による自己堕胎の容認と同義です。
経口中絶薬による中絶は、中絶が合法化された当時の闇堕胎よりはるかに安全です。
しかし、先進国の基準で考えれば、経口中絶薬による自己堕胎が安全とはとても言えません。
多くの国で経口中絶薬が薬品として承認されていますが、
市販薬とされている先進国は1カ国もありません。
経口中絶薬は医療の管理下で使用しないと、安全性が確保できないからです。
堕胎罪廃止論は女性のための主張のようで、
その実は日本の女性の安全な中絶を受ける権利を台なしにしてしまうものです。
中絶合法化の歴史を逆回転させ合法化以前の状態に戻してしまうものです。

権利の保障とは何か


本題から外れます。
権利は法律の文面の中にあるのでしょうか。
違います。
権利は実質化されてはじめて意味を持ちます。
教育を受ける権利を例に説明してみましょう。
憲法26条は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定しています。
この規定により、親が子に教育を受けさせる義務を負い(義務教育)、
子どもは中学校までの教育を受ける権利を持っています。
義務教育とは言いますがそれは親の義務で、
子どもから見ると権利です。
もし、仮に小中学校に高い授業料が必要だったとします。
いくら費用がかかろうと子どもを学校にやることのできる高所得家庭もありますが、
子どもを学校にやれない家庭も出てきます。
親の所得により教育を受けれたり受けれなかったりするのでは、
権利が保障されているとはいえません。
そこで国は親に代わって教育を受けれない子どもを支援することになります。
小中学校の設置があり学校に通える子どもがいるというだけでは、
教育を受ける権利があるとは言えないのです。
たとえ貧しくとも誰もが等しく学校に行けて始めて、権利と言えます。
権利は保障されてはじめて実質化されるものです。

中絶の権利とは何か


教育を受ける権利を例に権利の実質化について書きました。
中絶の権利は憲法で保障された権利ではないので、
国に保障する義務はないかもしれませんが、
中絶も権利であるならば保障されなくては意味がないものです。
だれでも享受できてはじめて権利と言えます。
中絶の費用は10万円前後です。
月数が進むと数十万円の費用がかかります。
この金額を負担に感じない人もいるでしょう。
しかし、決して誰でも負担できる金額ではありません。
各国の中絶費用について調べたことがありますが、
日本の中絶費用は先進国の数倍です。
治療として保険適用のある中絶がありますが、
日本の健康保険が中絶費用として認定している金額と比べても数倍です。
中絶が保障されるべき権利であるならば、
まずこの費用の高さが問題にされなくてはなりません。
日本は中絶の権利が保障されている国とは言えません。

フランスにおける中絶の権利


フランスは中絶に反対のカトリック信者が7割を占める国です。
フランスで中絶がようやく合法化されたのは、1975年です。
日本よりも20年以上遅れて合法化されました。
そのフランスでは、中絶や避妊を女性の権利とするたゆまぬ努力が継続されました。
2014年1月、議会は「妊娠を続行するか否かを選ぶのは女性の権利である」とする条項を可決しました(参照中絶を容易にする条項を可決、反対運動も/パリの日本語新聞オヴニー)。
この条項が可決された背景には、40年間にわたり中絶を女性の権利として実質化する運動の積み重ねがありました。
1975年の中絶合法化は運動の終わりではなく、運動の始まりでした。
フランスの運動を年表にまとめてみました。

1920年 中絶禁止、避妊情報提供禁止(7月31日法)
1955年 中絶部分解禁(母胎生命危険条件)
1956年 グループ「幸せな母性」結成
1958年 家族計画のためのフランス運動(MFPF)スタート
1967年 ピル解禁(ニューヴィルト法)
1960年代 MFPF、34支部・会員数11万人・数百カ所の避妊相談所
1969年 女性解放運動(MLF)結成
1971年 市民団体「Choisir選択」結成
1971年 343人宣言(Manifeste des 343)
1973年 妊娠中絶と避妊の自由化運動(MLAC)スタート
1974年 避妊ピルに保険適用、18歳未満のピル無償化へ(12月4日法)
---------------
1975年 中絶合法化(ヴェイユ法)
1982年 中絶に保険適用(約360ユーロ保険負担、約90ユーロ自己負担)
1988年 経口中絶薬(RU486)承認(230ユーロ程度)
1988年 人工妊娠中絶妨害罪新設
1994年 刑法堕胎罪改正(堕胎罪→非合法中絶罪)、公衆衛生法典制定
2001年 未成年者についての両親承諾条件廃止(中絶と避妊にかんする法律)
2011年 第2次343人宣言(参照 薔薇の言葉)
2012年 中絶費用無償化(18歳未満の無料中絶を全年齢に拡大)
2012年 15-18歳女性の避妊を完全無料化

以下では、フランスにおける中絶の権利保障の実現を詳しく見ていくことにしましょう。

中絶の権利と避妊の権利は表裏一体


家族計画のためのフランス運動(MFPF)は、フランス家族計画協会と訳されることがあります。
日本の家族計画協会に相当する組織ですが、
性格は非常に異なっています。
日本の家族計画協会は、国策を推進する半官半民の組織としてスタートしました。
一方、家族計画のためのフランス運動(MFPF)は、避妊情報の提供も中絶も禁じられていた時代に作られました。
同時期の性の権利を求める団体は、互いに関係があったり、連携したりしながら、運動を進めました。
避妊を求める団体は中絶の自由も求めましたし、中絶の自由を求める団体は避妊の自由化も求めました。
運動の成果には、ある種の法則が見られます。
ピルの解禁が先行し、遅れて中絶の合法化が実現します。
ピルに保険適用が先行し、遅れて中絶の保険適用が実現します。
18歳未満の避妊無償化が先行し、遅れて18歳未満の中絶費用無償化が実現します。
18歳未満の中絶無償化が先行し、遅れて全年齢の中絶費用無償化が実現します。
運動が、中絶の権利と避妊の権利を表裏一体と捉えていたからです。

大衆運動と知識人


家族計画のためのフランス運動(MFPF)がスタートするのは、1958年です。
厳密に言えば、非合法活動でした。
この運動は10年の間に大きな大衆運動に発展しました。
フランス全土に34支部が設けられ、会員数は11万人に上りました。
町々には避妊相談所が設けられました。
専門職や知識人は、ボランティアでこの大衆運動をリードしました。
また、側面から強力にバックアップしました。
1971年に著名な女性343人の宣言が雑誌に掲載されます。
彼女たちは、自分も闇中絶をしたことがあると告白し、
逮捕するなら自分を逮捕しろと訴えました。
この勇気ある行動は3年後の中絶合法化を導く大きな力となりました。
343人の宣言からちょうど40年後の2011年、第2次343人宣言が出されました。
翌年には、中絶費用の全面無償化と15-18歳女性の避妊の完全無料化が実現しました。 

弱者への眼差し


1971年宣言の女性343人と2011年宣言の女性343人は、
どちらも社会的地位のある女性でした。
お金のある女性は中絶にも避妊にも困りません。
フランスが中絶を禁止していた頃、イギリスはすでに中絶を合法化していました。
お金のある女性はイギリスに堕胎旅行に出かけました。
海外での中絶が罪に問われることはありませんでした。
中絶を禁止し避妊へのアクセスを困難にすれば、
困るのはいつも弱者です。
フランスのフェミニストは弱者への眼差しを持ち続けているように見えます。

弱者に犠牲を強いる堕胎罪廃止


話を日本に戻します。
経口堕胎薬を服用して起訴されたのは、
22歳の無職の女性でした。
彼女はなぜ病院で中絶手術を受けなかったのでしょうか。
その事情はわかりません。
想像ですが、無職の彼女には、
病院で手術を受ける10万円のお金がなかったのかもしれません。
10万円のお金が用意できない女性は少なくありません。
10万円のお金が用意できない女性が、
自身の身体を危険にさらしながら、
逮捕起訴されるかもしれないリスクを取って、
敢えて選択しているのが自己堕胎です。
わが国の「フェミニスト」は堕胎罪の廃止を主張します。
では、堕胎罪が廃止されたらどうなるのでしょう。
お金のある女性は病院で中絶手術を受け、
お金のない女性は自己堕胎することになるでしょう。
それが「フェミニスト」のいう中絶の権利でしょうか。
違います。
フランスでお金のある女性は外国に堕胎旅行に出かけれたけれども、
お金のない女性は闇堕胎を強いられていました。
その理不尽を終わらせようとしたのが、
中絶合法化の運動でした。
堕胎罪廃止を主張する「フェミニスト」は、
中絶合法化以前の状態に引き戻そうとしているように思えます。

中絶弱者としての未成年女性


日本でも妊娠に気づかず手遅れになる少女の事例が話題になることがあります。
あるいは、トイレで出産してしまった少女の事例が話題になることがあります。
そして、それらのケースについて、しばしば教育の不備が指摘されます。
教育の不備の指摘は間違いではありません。
教育を充実する必要があります。
しかし、未成年者の妊娠は、教育だけでは解決できない問題を含んでいます。
フランスでは中絶のできるのは、10週(現在は12週)まででした。
親に知られたくなかったり、
病院の敷居が高かったり、
心理的葛藤があったり、
少女達には決断を鈍らせる要素がいくつもあります。
もちろん、お金の問題もあります。
結果として、中絶できる期限を越えてしまう少女がいます。
中絶が権利であっても、未成年の女性は権利の埒外に置かれているのではないか。
フランスの年表をもう一度見て下さい。
18歳未満ヘの避妊の無料化、中絶の無料化がいち早く実現しています。
弱者が権利の埒外に置かれないようにすることに配慮がなされてきたからです。

堕胎罪廃止の条件


堕胎罪は男女平等に反するといって堕胎罪を廃止しても、
女性が孕む性であることが変わるわけではありません。
ただ堕胎罪を廃止するだけでは、女性は危険な堕胎を甘受しなくてはならなくなります。
現在の日本で堕胎罪廃止を主張するなど、
私から見れば正気の沙汰とは思えないのです。
諸外国のフェミニストは堕胎罪の廃止を目標にしたでしょうか。
いいえ、決してそうではありません。
諸外国のフェミニストは闇堕胎(自己堕胎)に追い込まれる女性をなくそうとしてきました。
望まない妊娠がなければ、中絶はありません。
中絶へのアクセスが容易であれば、わざわざ自己堕胎する女性はいません。
諸外国のフェミニストは避妊へのアクセス改善に努力し、
中絶へのアクセス改善に努力してきました。
そして、それは大きな成果を上げています。
病院での中絶が無料の時、わざわざ自己堕胎する女性はいません。
わざわざ自己堕胎する女性がいないのであれば、
堕胎罪があろうとなかろうと大きな問題ではなくなります。
中絶の権利の実質的な保障は、堕胎罪廃止の条件です。
先進国の中で日本ほど避妊へのアクセスが困難で、
中絶へのアクセスが困難な国はありません。
「フェミニスト」にはこの現実が見えてないのではないでしょうか。

中ピ連粛清で失ったもの


1972年、榎美沙子氏は中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合(以下、中ピ連)を結成しました。
中ピ連には指摘されているような未熟さがあったことは事実です。
しかし、①女性の身体問題への着目、②弱者への視点、③行動主義の3点において、欧米リブと共通点を持っていました。
中ピ連は短期間のうちに、その未熟さの故に自壊します。
自壊した中ピ連について距離を置く、あるいは異端視するフェミニズムが日本に成立しました。
それはきつい言葉で言えば、中ピ連的なるものの粛清でした。
フランスでは、①女性の身体問題への着目、②弱者への視点、③行動主義の3点は、50年間綿々と引き継がれてきました。
一方、それを切り捨てた日本のフェミニズムは、ガラパゴス化したのではないかと考えます。

ガラパゴス島に橋を架けよう


2年ほど前のツイートです。
50年間、世界中のフェミニストが胸に刻んできた言葉です。
私たちの国には、意図しない妊娠に苦しんでいる女性がいます。
しかし、イギリスで百数十円のピルは、日本では7000円の薬価です。
緊急避妊すれば防げる妊娠があります。
諸外国ではドラッグストアで買えランチ代ほどの値段です。
日本では、病院を受診し約1万5千円ほどの費用が必要です。
どんなに完全に避妊しても、望まない妊娠は生じます。
諸外国では中絶費用は保険の適用があったり、
負担にならない額に抑えられています。
日本では中絶するのに10万円はかかります。
私達の国は、避妊や中絶の権利がないに等しい状態です。
その中で、苦しむ女性がいます。
その女性達の側に寄り添う人がフェミニストです。
日本にはフェミニストはいたのでしょうか。

日本の女性の性が置かれている状況は、
とてつもなく酷い状態です。
数年前、日本のピルについてガラパゴス島に橋を架けたいと書きました。
日本のピルがガラパゴス化している原因の一つは、
フェミニズムのガラパゴス化です。
ノルレボの市販薬化は、ガラパゴスに架かる最初の橋になるでしょう。
日本の女性の力で橋を作りましょう。

(携帯)すぐに必要な時がある。緊急避妊薬ノルレボを市販薬に!
(web)すぐに必要な時がある。緊急避妊薬ノルレボを市販薬に!

--------------------------------------------------------------
このエントリーは、以下の3エントリーの一部です。
他のエントリーも合わせてご覧下さい。
  堕胎罪廃止を唱えるフェミニズムの質(このページ)
  日弁連は堕胎罪廃止意見書を撤回すべき
  堕胎罪廃止がもたらす日本の女性の不幸

2013年6月11日火曜日

薬剤人工妊娠中絶について







※上記文献中の図表。国別の中絶平均個人負担額。なお、現在レートで12.8万円が100€(ユーロ)。クリックすると拡大。












緊急避妊薬ノルレボの価格が法外な値段になっていることについては、
もう一つのノルレボ物語(1)(12)参照

以上2013.6.10ツイートより

以下は2013.6.11のツイート







2013年2月23日土曜日

やはり、堕胎罪廃止に異議あり

以前、ツイートを「フェミニスト総賛成の堕胎罪廃止に異議あり、な理由」にまとめました。
詳しくは上記のまとめを見ていただきたいのですが、
自己堕胎罪の廃止は堕胎幇助罪の新設とセットでなくてはならないと論じました。
堕胎罪の廃止が自己目的化しているのではないか、
堕胎罪の問題は女性の性の権利をいかに前進させるかという観点で考えるべきではないか、
と私は考えました。
ただ単に堕胎罪を廃止して堕胎を自由化しても、
安全な堕胎の権利が失われては意味がありません。
上記のまとめをご覧になっているはずのある研究者の方が、
最近ブログに以下のような記事を書いていました。

この一文がある限り、中絶薬を自前で(海外サイトなどから個人輸入などして)入手するなどして
自分の妊娠を中絶する行為は「(非合法の)堕胎」として刑罰の対象になるわけです。
もちろん、正しい知識もないままに自分勝手に中絶薬を使ってはなりませんが、
妊娠を確認し、ちゃんとした薬を適切な方法で服用する「自己中絶」については許可していくべきではないでしょうか。


中絶薬を個人輸入して自己中絶することが許されるようにすべきだという主張です。
堕胎罪の廃止が自己目的化しているから、
このような主張になるのではないかと思います。
中絶薬は多くの国で認可されていますが、
「自己中絶」に利用されている国は基本的にありません。
医師等の管理下で使用されているから、
重大な事故が防げています。
「自己中絶」に利用されれば、
適応期限外の使用が頻発し重大事故が発生する恐れがあります。
この不利益を考えれば中絶薬の自己使用は制限されて当然です。
我が国で中絶薬が認可されていない現状は、変えていく必要があります。
中絶薬の個人輸入を自由化すれば、
中絶薬の認可を促進することになるでしょう。
しかし、個人輸入は犠牲をともなうものであってはなりません。
自己中絶罪の廃止が中絶薬の個人輸入の自由化に直結することは、
紹介したブログが示すところです。
個人輸入はサンガー以来、性の権利の前進のために使用される武器でした。
ピル反対派によるマーベロン規制策動を吹き飛ばしたのも、
個人輸入という武器でした。
緊急避妊の「遠ざけ」政策を個人輸入で吹き飛ばすこともできるでしょう。
しかし、重要なことは日本の性の権利の環境を改善することです。
あくまで個人輸入はそのための武器です。
緊急避妊の「遠ざけ」政策を改善していくのに個人輸入の武器を発動すべきか、
中絶薬の認可に個人輸入の武器を発動すべきか、
よくよく考える必要のある問題だと思います。
中絶薬の個人輸入については、いかなる状況においても私は反対です。
緊急避妊薬については、現状において私は慎重です。