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2016年3月22日火曜日

緊急避妊薬の市販薬化が性感染症制圧の第一歩


論旨

①欧米先進国では1994年よりHIV感染者は減少に転じ、日本は増加傾向が続いている。
この傾向が継続すれば、日本のHIV感染者は欧米を凌ぐ日が来る。


②欧米でも日本でも、HIV感染者に対する多剤併用療法が導入された。欧米でHIV感染者が減少しているのは、多剤併用療法の効果である。日本には未発見の、それゆえ多剤併用療法を受けていないHIV感染者が多いために、HIV感染者の減少は生じていない。


③日本のHIV感染者を減少させるには、欧米並みの検査率を実現し、HIV感染者に多剤併用療法を行う事が必要である。


④現状、日本のHIV感染者増加に寄与しているのは、男性同性愛者のHIV感染増加である。男性HIV感染者の増加には、検査の普及が関係している。


⑤エイズ発症者では男性同性愛者よりも異性愛者の方が多く、異性愛者の検査は同性愛者に較べて立ち後れている。


⑥比較的検査率の低い異性愛者はもちろん、同性愛者でも、HIV感染者を減少させるだけの検査は行われておらず、多剤併用療法の効果が限定的となっている。


⑦感染力が強く、潜伏期間が短く、治療が容易なクラミジアは、HIVと対称的な性感染症である。欧米を凌ぐ日本のクラミジアの感染率は、検査と治療の立ち遅れを示している。また、将来日本のHIV感染が欧米を凌ぐ事を示唆している。


⑧半自動的になされる性感染症検査を除くと、日本の性感染症検査は極端に少ない。保健所では無料の検査サービスを提供しているが、1保健所1日当たりの検査件数は、1件である。


⑨HIV感染者を欧米のように減少に転じさせるには、少なくとも200万件、望ましくは800万件の検査が必要である。検査を飛躍的に増加させる方策には、啓発・産婦人科での推奨・ノルレボ市販薬化の3つが考えられる。


⑩性感染症検査受診行動は、何らかのきっかけが必要である。きっかけなしに性感染症検査に出向く事はほぼあり得ない。


⑪古い性感染症観が支配的である中では、啓発により短期間に飛躍的に検査率を上昇させる事は困難である。


⑫第1の方策、啓発が受診行動に結びつかないのは、きっかけのなさと関係している。啓発を受診行動に結びつけるには、クーポンの配布などきっかけをとなる工夫が必要である。


⑬避妊失敗件数は400万件生じており、性感染症検査の必要な男女800万人が存在している。この800万人は、性感染症検査へのきっかけを持つ800万人である。


⑭第2の方策である産婦人科での推奨は、800万人に対してどれほどの有効性を持つか検討すると、極めて限定的な効果しか持ち得ない。


⑮第3の方策は、緊急避妊が必要な400万人が緊急避妊を受けれる体制を作り、彼女とそのパートナー800万人に性感染症検査を勧める方策である。


⑯800万人に性感染症検査の必要を説明する時、たとえ3/4が無視しても、母数が大きいので1/4の人が検査を受ければ200万人。現在の検査状況を一気に変えることができる。


⑰性感染症はカップルの片方が感染者であっても他方がすでに感染しているとは限らない。したがって、カップルが同時に検査を受ける事が重要である。

⑱カップルが同時に検査を受ける文化がなければ、欧米並みの検査率に到達できない。この観点からも、緊急避妊を契機とする性感染症検査の普及が重要である。


⑲3つの方策は同時に進めることができる。日本は先進国の中で唯一緊急避妊薬の市販化がなされていない国であり、推定潜在需要400万に対して10万強の処方にとどまっている。この点の改善が、性感染症検査普及の第一歩となる。
 


性感染症予防に関する錯覚


日本はHIV(エイズ)感染率が低い国です。コンドームはHIVの感染予防に非常に有効です。ここまでは事実です。
そこで、コンドームの使用を徹底すればHIVや他の感染症を封じ込める事ができると錯覚する人が出てきます。
さらには、感染症の拡大防止のためには、コンドームの使用率を下げるおそれのある避妊法の普及を阻止する必要があると考える人がいます。
つまり、ピルや緊急避妊薬の普及は性感染症の拡大を招くと考えるのです。
そして、このように考える人の多くは、日本の性感染症感染率は他の国と較べて低く、コンドーム使用を徹底すれば低い感染率を維持できると考えています。
しかし、日本が性感染症大国に向かって突き進んでいる事を知らないおめでたい人たちです。

性感染症大国に向かって突き進む日本


20年ほど前の事です。国内にはHIV(エイズ)の拡大を危惧する意見が強く、ピルの認可が延び延びになっていました。
実はピルの認可は、性感染症戦略転換の絶好のチャンスでした。
下のグラフを見て下さい。


(画像修正2016.3.28。各国のピーク数値を示した。)

1994年を境に先進国のエイズ患者数が急激に減少に転じています。
世紀末までにピーク時から半減する減少ぶりでした。
例外は日本で、逆に2倍に増加しました。
(以下、HIVに関する図表は、「高リスク層のHIV感染監視と予防啓発及び内外のHIV関連疫学動向のモニタリングに関する研究」(主任研究者 木原正博)を基に作成。)
1994年の転機をもたらしたのは、多剤併用療法の導入です。
多剤併用療法には、3つの意義があります。
1つは、HIV感染者がエイズを発症するのを抑止します。
2つは、HIV感染者の体液中のウイルス数が減少し、感染の拡大を防止します。
3つは、HIV検査を普及させ、上記1・2の効果を強化します。
1994年はHIV制圧への第一歩を踏み出した記念すべき年でした。
多剤併用療法は日本でも導入されています。
しかし、日本ではHIV/エイズの減少につながっていません。
日本では感染者も患者も増加し続けています。


なぜ日本では他の先進国で見られた様な効果が見られないのでしょうか。
答えは明白です。
多剤併用療法は、HIV/エイズの感染者・患者に対して行われます。
HIV検査が一般化していない日本では、HIV感染者が発見されずに放置され、多剤併用療法も十分に行われないからです。
治療を受けていないHIV感染者が、さらに感染を広げる状態になっているのです。
検査と治療を重視しない限り、いつか日本は欧米よりも性感染症大国になるだろう。
これはサイトを開設した1999年に考えていた事です。
まだ逆転は起きていませんが、今もその考えは変わりません。
今のままでは日本は欧米を凌ぐ性感染症大国になるでしょう。
すでに感染力の強いクラミジアでは日本は世界有数の感染率になっています。

男性同性愛者におけるHIV/エイズの急増


HIV/エイズ感染拡大の初期段階では、男性同性愛者の感染が目立ちます。
現在の日本でも、HIV/エイズ感染拡大に男性同性愛者の感染が大きく寄与しています。




 男性同性愛者のHIV感染率が高くなるのは、肛門性交ではコンドームの破損事故が生じやすく、またウイルスの侵入を容易にする傷ができやすいためです。
しかし、これは日本で同性愛者のHIV感染が急増している事の説明にはなりません。
同性愛者の間では、今世紀に入るとHIV検査の重要性が認識されるようになりました。
検査を受ける同性愛者が増えるにつれ、見えなかったHIV感染者が露見したに過ぎないのかもしれません。
下のグラフを見て下さい。
左はHIV感染者です。同性愛者が55%を占めダントツの一位です。
右のグラフのエイズ発症者では、一位は異性間の性的接触で、同性愛者は二位となってています。
異性愛者と較べ、同性愛者では検査を受ける割合が高く、エイズ発症前に治療を受けている事を示唆しています。


統計上、同性愛者のHIV/エイズ感染が拡大しているのは、異性愛者と較べ同性愛者のHIV検査受診率が高いことが関係している可能性があります。
それでも、諸外国で見られたような多剤併用療法によるエイズ発症率の低下は見られません。
未検査・未治療のHIV感染者が多数いる事は明らかでしょう。
そして、それは同性愛者だけの問題ではありません。
HIV検査受診率が同性愛者より低い異性愛者には、おそらく同性愛者以上の隠れたHIV感染者がいると考えられます。

HIV検査の充実が課題


HIV/エイズに対して多剤併用療法が導入されている現在、早期発見・早期治療は感染者本人のためにも、感染の拡大を防止するためにも重要です。
しかし、検査あっての多剤併用療法なのです。
検査の受診率が極端に低いために、多剤併用療法導入にもかかわらずHIV/エイズ拡大を阻止できてないのが日本です。

献血は思わぬHIV感染を知るルートの一つでした。
しかし、献血者にはリピーターが多く、献血によりHIV感染が発見されるケースは減少していきます。
保健所等では無料の性感染症検査を提供しています。
下のグラフはHIV検査件数を示したものです。


無料のサービスであるにもかかわらず、十万件台で推移しています。
しかも、最近はむしろ減少傾向を示しています。
近年、HIV感染者数は高止まり横ばいの傾向を示していますが(上のHIV感染者及びAIDS患者の年次推移のグラフを参照)、
性感染症への関心が薄れるにつれ検査件数が減少傾向となっている事と関係しているかもしれません。

引き継がれる古い性感染症観


NHK高校講座の保健体育「性感染症・エイズとその予防」のページです。ウェブ・ラジオが視聴できます。
性感染症は治療できる事を押さえ、検査や治療の重要性に言及しています。
素晴らしい内容です。
もし一般の高校でもこのような授業が行われているのなら、
性感染症検査が普及しても不思議ではありません。
しかし、現実は性感染症検査を受ける人は少数に留まっています。
なぜなのでしょうか。
古い性感染症感が継承され、補強され続けていることが関係しているように思えます。

抗生物質のない時代、性病は恐い病気、忌むべき病気でした。
その記憶が薄れかけたところに現れたのが、エイズでした。
当初、エイズには治療薬がなく死に至る恐い病気でした。
そのエイズにも治療薬が開発されていますが、
性感染症は恐い病気、忌むべき病気という印象が強く残っているように感じられます。
死んでしまいたくなるほど恐い病気であれば、
検査への足は重くなるでしょう。

性病はかつて花柳病と言われた事があります。
清く正しい生活をしていれば性感染症にはかからないとの考えがありました。
それは形を変えて、不特定多数との性交渉が性感染症を引き起こすとの意識を形作りました。
不特定多数との性交渉は性感染症のリスクを高める事は事実です。
しかし、そうでなくても性感染症にかかる事はあります。
性感染症が道徳と結びついたために、
性感染症にかかる事は不道徳と考えられるようになりました。
これも検査への足を重くしている要因でしょう。

かつて、コンドームは性感染症から自衛する唯一の手段でした。
そこへ降って湧いたのがエイズ恐慌でした。
流行地から遠く離れた極東の島国である事が、
日本にエイズ患者の少なかった主な理由です。
しかし、コンドームの使用とエイズの少なさが関連づけて考えられ、
コンドームの万能感が補強されました。
ちなみに、HPVワクチンに関連して、
コンドームで予防できるとの言説が多く見られました。
HPVやクラミジアの感染力は非常に強く、
コンドームで完璧に予防する事は事実上できません。

古い性病観では、性感染症は一般の病気とは性質を異にする、
悪い男/女の病気なのです。
この意識が根強い中では、検査や受診の啓発は効果をあらわさないでしょう。

 性感染症検査はパートナーと同時に受けるべきな理由


後で述べるように、コンドームの避妊ではかなりの頻度で事故が生じています。
コンドーム事故があれば、妊娠のリスクが生じます。
しかし、コンドーム事故があっても、必ず妊娠するわけではありません。
同様に、コンドーム事故があれば、性感染症の感染のリスクが生じます。
しかし、コンドーム事故があっても、必ず性感染症に感染するわけではありません。
HIVの感染力は非常に弱く、たとえパートナーが感染者であっても、
感染するリスクはそれほど高くありません。
逆にHPVやクラミジアの感染力は非常に強いのですが、それでも必ず感染するわけではありません。
パートナーの一方が性感染症を持っていても、パートナーの他方に必ず感染しているわけではないのです。
一方のパートナーが性感染症にかかっていないことを、他方の検査で判断する事はできません。
したがって、性感染症検査はパートナー同士がそろって受ける事が望ましいのです。
欧米のリプロセンターなどでは、パートナーが連れ立って性感染症検査を受ける光景はありふれています。
日本ではパートナー同士が同時に検査を受ける事はまれでしょう。
パートナー同士が同時に検査を受ける事はまれ。
ここに日本で性感染症検査の受診率が低く、性感染症拡大を食い止めれない理由があるように感じられます。
日本では、パートナーに「性感染症検査を受けに行こう」と提案できないのです。
この提案に予想される反応は、「何かやましい事でもしたの?」ではないでしょうか。
性感染症を悪い男/女の病気と考える古い性病観が支配的である時、「性感染症検査を受けに行こう」という提案はなされないのです。

性感染症検査と"きっかけ"


上で指摘したように、日本は先進国の中でHIV感染拡大阻止に失敗している例外的な国です。
そして、クラミジア感染が世界最高水準に広がっている国です。
その原因は明らかです。
性感染症の早期発見と早期治療がなされていないからです。
木原正博の研究も、「主要先進国としては例外的なAIDS患者報告数の増加は、検査体制の遅れを示唆しています」と指摘しています。
性感染症検査が一般化すれば、日本も他の先進国と同様に性感染症の拡大に歯止めをかけれます。
しかし、古い性病観が支配的である中では、啓発は効果を発揮しないでしょう。
性感染症検査の普及は、識者が頭の中で考えているよりもずっと困難な事なのです。
その日本で性感染症検査が広く行われている場面があります。
妊娠・出産です。
妊娠・出産に際して性感染症検査がなされる事は一般的です。
この検査でクラミジア感染が発覚するケースも少なくありません。
24歳以下では女性のクラミジア感染は男性の2倍以上ですが、
30歳を過ぎると男性よりも低い感染率になります。
(参照 「ピルは性感染症を予防できない欠陥避妊法」のウソ、ホント)


女性のクラミジア感染率の低下はおそらく妊娠に伴う性感染症検査が関係しているでしょう。
妊娠・出産も検査を受ける一つのきっかけです。
何かのきっかけがないと性感染症検査に出向かない。
これはどこの国でも同じです。
パートナーが変わる事もきっかけです。
性感染症検査はパートナーが変わる毎に行うのが理想的ですが、
コンドーム破損など避妊失敗は強力な動機づけとなります。

保健所の性感染症検査は有料化すべし


保健所では無料で性感染症検査のサービスを提供しています。
無料であるにもかかわらず、検査件数は10万件台です。
検査件数が伸びないさまざまな要因があるでしょう。
サービスが知られていない事もあるかもしれません。
しかし、そのサービスを知っていても何かのきっかけがないと出向かない。
それが性感染症検査の特性なのです。
そうであれば、現在無料のサービスを2000円にするとよいのです。
2000円ににしても検査件数が減少する事はないと思われます。
有料化すると同時に、クーポンを配布します。
1人で検査を受ける場合は1000円引き、2人で検査を受ける場合は4000円引きのクーポンです。
クーポンは保健所で提供しているサービスの広報の役割を果たしますし、なによりも検査に出向かせるきっかけになります。

性感染症検査の"きっかけ"としてのコンドーム事故


保健所が配るクーポンよりも格段に強力な動機づけとなるのが、コンドーム事故です。
日本の避妊は圧倒的にコンドームが主流です。
このコンドームには一定比率で破損などの事故が生じます。
コンドーム事故がどれほどの件数生じているのか、
推計してみましょう。
生殖年齢女性は約4000万人ですが、
パートナーのいない女性もいますし妊娠を希望している女性もいます。
あるいは年に数度しか性交渉のない女性もいるでしょう。
そのような事情を考慮して、1000万人の女性がコンドームを使用しとていると考えます。
コンドームの年間生産量が約6億5千万個なので、一人当たり65個を消費している計算になります。
コンドームのパールインデックスは、一般的使用で18、理想的な使用で2です。
1000万人がコンドームを理想的に使用しても、20万人が妊娠します。
コンドームの避妊失敗で妊娠する20万人の中には、中絶を選択する人もいれば出産を選択する人もいます。
コンドームの避妊失敗があっても、必ず妊娠するわけではありません。
妊娠するのは約5%です。
つまり妊娠件数の20倍の避妊失敗が生じています。
コンドームの避妊失敗で妊娠する人が20万人であれば、
400万件の避妊失敗事故が発生している事になります。
避妊失敗事故400万件に関係する男女は、800万人になります。
800万人が性感染症検査を受ければ、
日本の性感染症問題は一瞬のうちに欧米並みになり、
拡大に歯止めを打つ事ができるのです。
このきっかけを生かすかどうかの問題です。

ノルレボの婦産人科処方は性感染症問題の課題に背を向けるもの


コンドームによる避妊失敗は、性感染症検査の強い動機付けになります。
これを性感染症検査に結びつけるにはどのようにすればよいのでしょう。
日本は先進諸国をはじめとする各国とは異なる独自の方策を採用しています。
そして、日本の方策が失敗していることは明らかです。
日本では緊急避妊薬は市販化されず、病院で処方を受ける必要があります。
病院で処方の際に、性感染症検査を勧めれば性感染症検査も徹底するように思うかもしれません。
しかし、実際は病院処方では性感染症検査はほとんど普及しないのです。
なぜでしょうか。
現状を見てみましょう。
現状でノルレボの処方数は10万強です。
高い価格と病院受診の二重の障壁を設ければ、ノルレボの処方数は増えません。
発売時のメーカー予想では最大で20万件です。
仮に処方が20万件になり、全件で性感染症検査が行われたとしても20万件なのです。
20万件の性感染症検査では、性感染症拡大阻止の効果はほとんど期待できません
最低でも200万件の性感染症検査が行われなければ、
先進国に見られるような感染数の目立った低下は現れないでしょう。

病院処方では処方件数が少なくなるだけではありません。
処方病院で検査を行おうとすると、検査率も上がらないのです。
緊急避妊に伴う性感染症検査は処方時には行われません。
潜伏期間を考慮すると3週間後の検査になります。
妊娠回避の判定ができるのも3週間後です。
そこで病院では3週間後の来院を促すことになります。
服用後3週間後の時点で、98%の女性は妊娠回避を自己判断できています。
妊娠を回避できた98%の女性について、性感染症検査は3週間後のワンポイントである必要はないのですが、
病院ではワンポイントを指定することになります。
何月何日にと指定されてもその日に待ち時間を含めて数時間の時間をやりくりできる女性ばかりではありません。
特に妊娠を回避できたことがわかっている98%の女性は、検査のための受診をパスしてしまうのです。

産婦人科でも男性の性感染症検査はできます。
しかし、パートナー男性の性感染症検査が産婦人科で勧められることはほとんどありません

日本の性感染症対策の課題は、早期発見と早期治療がなされていないことです。
性感染症検査の強力な動機付けとなる緊急避妊の普及を妨げる政策は、
日本の課題に背を向けるものだと思います。
 

ノルレボ市販薬化による性感染症の征圧


感染症は新規感染者の前年比減少が続けば、制圧に向かいます。
性感染症も例外ではありません。
日本は先進国の中で新例外的に規感染者の増加が続いており、制圧にはほど遠い状態です。
先進国では性感染症検査を一般化し、早期発見・早期治療により新規感染者の減少に成功しています。
日本で性感染症検査を一般化するには、緊急避妊薬の市販化が現実的な方策です。

緊急避妊薬を諸外国並みの価格で市販化すれば、
年間販売数は400万件以上になるでしょう。
販売に際して、妊娠の判定は3週間後に行える旨の情報を提供します。
また精液が膣内に放出された状態では性感染症リスクが生じていることを説明し、
服用の3週間後から2か月までの間にパートナーと共に性感染症検査を受けるように勧めます。
この情報提供は文書で行う必要があります。
医師や薬剤師の行う口頭での説明だけでは、十分に理解されていないことが多いからです。
また、情報をパートナー同士が共有するためにも、文書が有効です。
性感染症検査の受診を3週間後に限定せず、期間に幅を持たせることも重要です。
病院の処方では妊娠判定と合わせるために3週間後の受診が指定されますが、
市販薬の場合には妊娠判定と性感染検査を別にして考えることができます。
ノルレボを市販薬化し400万件の利用となった場合、800万人に性感染症検査が勧められることになります。
性感染症検査への強い動機付けを持った800万人です。
仮に800万人の1/4が検査を受けたとしても、200万人です。
保健所等での性感染症検査が10万件台なので、200万人の検査がいかに大きい数字であるかわかると思います。
上に、保健所の性感染症検査を有料化しクーポンを発行すべしと書きました。
市販薬化されたノルレボにクーポンを付ければ、さらに検査を受ける人は増加するでしょう。
緊急避妊薬を市販薬化してと性感染症の感染が拡大した国はないのです。
逆に市販薬化した国は、性感染症の制圧に向かっています。
日本も政策の転換を急ぐべきだと考えます。
 

性感染症検査がマナーとなる


かつて性感染症検査は、やましさを持つ人がこっそり受けるもの
でした。
現在の日本では、まだそれは過去のものになっていません。
ここが日本と欧米の最大の違いではないかと感じます。




上の図に見るように、日本のHIV感染者の多くは30歳台以下です。
若い年齢層の感染を防止することが急務です。
緊急避妊の使用はこの年齢層で多くなることが予想されます。
緊急避妊の市販薬化は、この年齢層の意識を変えていくことになるでしょう。
もし、毎年数百万人のカップルが緊急避妊をきっかけに性感染症検査を受けるようになれば、
性感染症検査のとらえ方は全く別のものになっていきます。
性感染症検査を受けた同士のカップルにとって、未検査カップルのセックスはこの上もなく危なっかしく見えてきます。
もし彼らが別のパートナーと性関係を持つにしても、コンドームなしでセックスするなど怖ろしく出できません。
お互いに性感染症検査を受けようと提案するようになるかもしれません。
性感染症検査がマナーとなっていくのです。
性感染症検査がマナーとなれば、多少ともリスクがあればコンドームをきっちり使うようになります。
緊急避妊薬が普及するとコンドームの使用がルーズになるのではないかと心配する向きがあります。
実際は真逆です。
緊急避妊薬が普及し、カップルでの性感染症検査が一般化すればするほど、
コンドームきっちり使用されるようになるのです。
この文化を若い世代から定着させていくことになるのが、緊急避妊薬の市販化です。


2014年11月13日木曜日

「実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談」は実話?それとも創作?

ウェブマガジンMenjoyには、以下の記事があります。

実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談【前編】 (保存ページ)

実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談【後編】 (保存ページ)


リアルな表現で書かれていますので、
緊急避妊を経験したことのない人はこの記事を通して緊急避妊のイメージを持つことも多いようです。
この記事は経験談として書かれています。
しかし、はたしてノンフィクションであるのか、疑問に思う事があります。
疑問点を書いてみることにします。

実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談【前編】 、について

>病院でアフターピルを処方されるのにあたり、まずはひと通りの問診や内診を受けました。
緊急避妊薬の投与には、特別の事情がなければ内診はしません。

>男性医師から「どんな方法で避妊をしたのですか?」と聞かれたので「ウレタン製のコンドームを使って脱落してしまいました」と答えると「……あまり大きな声じゃ言えないんだけどね、今月あなたで2例目なんだよね」と。
医師がいうには、製品自体には問題はないのだけど、ウレタン製コンドームのゴワつき感から根元までさげずに使う人が多く、結果脱落してしまうことになるとのこと。
コンドームは、正しく使ってこそ効果を発揮すると改めて実感させられました。
避妊の方法を聞かれて、「ウレタン製コンドーム」と答える人がいるでしょうか?
まずいません。ふつうは「コンドームが・・・」と答えるでしょう。
その病院に緊急避妊を求める患者が月に100人いたとして、
ウレタン製コンドームの事故で来院する人がどれほどいるか、
しかも「ウレタン製コンドーム」とご丁寧に答える女性が月に2人もいるでしょうか?

>アフターピルを処方してもらい、ご好意でその場で飲ませて頂きました。
2011年のノルレボ認可後は、そのような対応を取る病院もあります。
しかし、ヤッペ法は2回服用なので、院内薬局で処方するにしても、
2回分を袋に入れて渡すのが普通でした。
1回目分をその場で服用させ2回目分を後で渡す対応は、
まずありえません。

>さらに、1回目の服用後、12時間後に飲むことになるのですが、それが午前1時になってしまうことが判明。
2回目の服用が午前1時なら1回目の服用が午後1時だったことになります。
記事では前日予約したことになっています。
午前の診療終了間際の時間帯に予約を入れることは不自然です。

>なんとか吐かずに帰宅し、その日は何もできずに過ごしました。
>身体はとてもだるかったのですが、眠ってはダメだと自分に言い聞かせながら夜を過ごしていました。
軽い散歩をしたり、ヘッドホンで音楽聞いたりして眠気をごまかし、何とか2回目の服用を終えて眠りにつきました。
データがあるわけではありませんが、激しい吐き気の副作用が出る場合、
眠気の副作用が同時に出ることは稀です。
散歩できるほどであれば、副作用としては軽かったようにも見えます。
記憶力がよほどよいにしても、8年前の行動を「ヘッドホンで」まで詳細に覚えているものでしょうか。

>大量に出血、そして妊娠を回避
>その3日後、消退出血と呼ばれるものを確認することができました。
>この出血が1週間程続いて不安になってしまいました。
服用3日後の出血は最も早いケースですがあり得ます。
ただ、このような早い時期の出血はほぼ排卵前の服用で生じ、
粘度の低い鮮血となります。
粘度が低いので大量出血と感じることもありますが、
短期間で出血は収まるのが普通です。
大量出血が1週間続けば不安になるかもしれませんが、
そのような出血パターンはまずないでしょう。

>あと、強いめまいを感じて、外出できないくらいに。これが結構辛かった。
一時的にめまいを感じることがあるにしても、
強いめまいが持続することはまずありません。


ヤッペ法後の副作用の出方は人によりさまざまです。
この体験談はヤッペ法で生じうる副作用を全て経験したことになっていますが、
さまざまな人の副作用を寄せ集めたように感じられます。
この記事はノルレボ発売直後の時期に書かれています。
ノルレボは副作用の少ないことがウリです。
ノルレボの副作用の少なさをアピールするために、
ヤッペ法の副作用をことさら誇大に書いているように感じられます。

実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談【後編】 、について

>その欠点を改良したのが今年7月より発売された『ノルレボ錠』です。これは、性行為があったときから72時間以内に1回服用するもので、ヤツペ法に比べて飲み忘れのリスクが低く、吐き気もほとんどありません。
前編にはヤッペ法とノルレボの比較が書かれていて、
2度目の服用はノルレボだったと誤解してしまいそうですが、
ノルレボ発売前の2008年のことですから2度目もやはりヤッペ法です。

>当時、さまざまな事情があり、不本意な妊娠はどうしても避けたかったのです。
その時々でさまざまな事情があるこことはあります。
どうしても妊娠を避けたい事情があったのかもしれません。
しかし、娘の「『ママ、赤ちゃんできたの? 嬉しい!』と喜びの言葉を。この一言で、私は産むことを決意」しています。
上の子と下の子の年齢差も4歳近くです。
1度目の緊急避妊でひどい副作用が出た女性が、
敢えて2度目の緊急避妊を受けようと思うほど切実な理由があったのでしょうか。

>そして、このクリニックでもその場で飲ませていただけるということで、看護師に処置室に案内してもらったのですが、
2011年のノルレボ導入以前、中用量ピルをその場で服用させる病院は極めて稀でした。
2つの病院ともそのような対応を取ったことは偶然すぎます。

>深夜、当時2才9ヶ月の娘が夜泣きしながらおっぱいを求めてきたので、眠い目をこすりながら授乳をさせていました。この時、授乳回数は日に4回程度。
2才9ヶ月まで授乳することが絶対ないとは言えませんが、
極めて稀なケースです。
授乳回数4回だと生理はまず始まっていたはずです。

>「あなた授乳中ですよね、だったら生理も排卵もないんじゃないんですか?」と衝撃的な一言が。
ヤッペ法に用いられる中用量ピルは、授乳中の女性に対して相対禁忌です。
医師がチェックを忘れることがないとは言えませんが、
妊娠中・授乳中のチェックをしないことは考えにくいことです。
なお、ノルレボは授乳中でも服用できますので、
授乳のチェックは必ずしも必要でありません。
また、産後2年9か月の女性が授乳中であっても、
生理が回復してないだろうと思う看護師はまずいません。
看護師の発言も不自然です。

>しかし、身体になんの変化も現れることがなかったのです。
あの辛かった吐き気、めまい、大量の出血がなく約2週間が経ちました。
ヤッペ法の副作用は約半数の女性では全く感じません。
1度目と2度目で副作用の出方が異なることもあります。
しかし、1度目で過敏症並みの副作用が出たにもかかわらず、
2度目は皆無と言うことはほぼあり得ません。

>状況を察した娘が「ママ、赤ちゃんできたの? 嬉しい!」と喜びの言葉を。この一言で、私は産むことを決意しました。
 2才9ヶ月の子どもに「赤ちゃんできたかもしれない」と言う女性は珍しいでしょうが、
そう告げても2才9ヶ月の子どもでは事態を理解するのは無理です。
「嬉しい!」などと反応することはありえないでしょう。

ライターの意図

記事は「体験談」として書かれています。
しかし、実体験にしては不自然な点が多すぎます。
いや、ほとんどすべて不自然と言えるほど不自然です。
一度でも緊急避妊をした経験があれば、
これほど不自然な「体験談」にならないのではないでしょうか。
仮に一部は事実で尾ひれ背びれを付け加えているものだとしても、
全体を「体験談」としてみることはできないものになっています。
それはある意味当然です。
ライターの書く物は個人のブログとは異なります。
単に個人的な体験を書くのではなく、情報提供を目的としています。
情報提供のために、「体験談」の体裁が取られることもあるのでしょう。
そのようなものとして、「実はこんなにリスキーだった!アフターピル体験談」は書かれています。
それでは、この記事はどのような情報提供を意図しているのでしょう?
記事のタイトルにあるように、緊急避妊のリスキーさを伝えることがこの記事から読み取れる情報提供の意図です。

①副作用が強い

前編では副作用の「体験」が書かれています。
それは明らかにヤッペ法についてのものですが、
読者はヤッペ法とノルレボを区別して読むことはむつかしいでしょう。
緊急避妊は副作用が強いとの情報を提供するものになっています。

②避妊失敗は自己責任

避妊失敗は不可抗力的に生じるものです。
前編では、「ウレタン製コンドーム」がことさらに取り上げられ、「コンドームは正しく使ってこそ効果を発揮すると改めて実感させられました」と述べられます。
後編では、「夫はどうしても来年中に2番目が欲しいという、その1点で暴走してしまった」という話になっています。
どんなに気をつけても、コンドームの失敗は一定比率で生じます。
しかし、この記事では「もう二度と、こんな薬に頼らないようきちんと避妊しようと思った」と述べられます。
緊急避妊は「きちんと避妊」しないからだとの「啓発」がなされています。

③ノルレボのメリット

2度の緊急避妊は時期的に見てどちらもヤッペ法ですが、
記事ではノルレボのメリットについて詳しく説明されています。
2度目の緊急避妊で全く副作用がなかったり、産後2年9ヶ月後の授乳中だったりの設定は、ノルレボのメリットを念頭に置いた記述でしょう。

④緊急避妊は不完全

この記事の最も伝えたかった情報は後編最後の部分でしょう。
私は、産める環境にあったからこそ、アフターピルの失敗から出産を選択したのですが、そうでない人にとっては、アフターピルの失敗による妊娠は、本当に悲劇でしかありません。
アフターピルがあるから大丈夫、なんてことはないのです。
そもそも、アフターピルは気軽に飲めるものではありません。費用の面もそうですが、身体の負担が大きいものです。
男性が、面倒だからという理由で避妊せずに「アフターピルがあるからいいじゃん」というような、軽い気持ちでいられたら女性はたまったものじゃありません。
どうか、カップルの方はパートナーと避妊について話し合って、シングルの方は自分の身体を守るにはどうすればいいか、考えてみて欲しいと切に願っています。

ここに書かれている内容はその通りです。
普段からの避妊が重要なことは言うまでもありません。
しかし、いくら普段からの避妊に気をつけても、
緊急避妊が必要になることがあります。
この記事では、不可抗力的に緊急避妊が必要になる事態のあることには全く触れられていません。
緊急避妊が必要になるのは心掛けが悪いからと言わんばかりです。
このような考えに立てば、緊急避妊アクセスの高いバリアは正当化されます。
ノルレボ「乱用防止」キャンペーンに迎合した内容となっています。
この記事がどのような世論形成を狙ったものかは、以下のツイートからうかがわれるでしょう。



心掛けのよくない女には罰が必要。50年間日本の社会は変わっていません。


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上記記事の公表後、作者の宇野未悠さんと会話がありました。
宇野未悠さんの私に宛てたツイートを収録します。






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会話前の99.9%の確信が、最初のツイートで120%の確信になりました。

2014年10月18日土曜日

私たちにノルレボを! ドラッグストアで買える緊急避妊薬を実現させよう




緊急避妊の市販薬化の記事は、専用ブログに移転しました。
新ブログトップ すぐに必要な時がある。緊急避妊薬ノルレボを市販薬に!
この記事の移転先 キャンペーンの趣旨






避妊は女性の最も基本的な権利の一つです


予期しない妊娠は、女性の人生に大きな影響を及ぼすことがあります。
学業や仕事の中断を余儀なくされる女性がいます。
中絶により心身にダメージを受ける女性がいます。
産む性である女性だけが不利益を被る社会は不公正です。
誰でもいつでも避妊にアクセスできることは、
女性の権利(リプロダクティブ ライツ)です。

予期しない妊娠を1/4に減らせます


緊急避妊薬はコンドームの破損など避妊失敗の72時間以内に服用する薬です。
緊急避妊薬の服用で妊娠確率は2%まで低下します。
緊急避妊薬は産婦人科などの病院で処方されます。
緊急避妊薬は服用時間が避妊失敗から早ければ早いほど避妊効果が高く、
120時間後には効果がなくなります。

避妊失敗は誰もが経験します


コンドームの避妊では一定確率で破損などの事故が生じます。
ピルによる避妊では飲み忘れることがあります。
レイプ被害に遭わないとは言えません。
誰もが机の上にお茶をこぼした経験があるのと同じです。
日本で1年間に緊急避妊を必要とするケースは、
少なくとも400万件起きています。


緊急避妊薬の服用は時間が決め手!


緊急避妊薬の服用は時間が決め手です。
3連休前の金曜日にも避妊失敗は起こります。
お盆や正月などの長期休暇にも避妊失敗は起こります。
病院が開くまで待てません。
だから、ほとんどの国で緊急避妊薬は、ドラッグストアで買える薬です。



ノルレボ砂漠をなくす


産婦人科病院は都市に集中しています。
ノルレボを処方してもらうのに1日がかりになるところもあります。
島嶼部では、ノルレボを処方する病院さえありません。
ドラッグストアで買える薬なら、事前購入しておくこともできます。

貧乏女性は諦めろ?


ノルレボの価格は、ほとんどの先進国で1500円程度です。
学生や生徒、低所得の女性には無償で提供される国も少なくありません。
開発途上国では数百円です。
日本の価格は約1万5千円程度です。
1万5千円を持ち合わせていない女性は、躊躇するでしょう。
金銭的負担で緊急避妊を躊躇する女性がいる日本は、
リプロダクティブライツのない国です。
市販薬化して他国並みの価格にすべきです。



高価格政策が女性の健康を害している


多くの病院では高価格のノルレボに手が出ない女性のために、
ノルレボの代替として中用量ピルを処方しています。
中用量ピルを通常の4倍量服用すれば、
当然に強い副作用が現れることがあります。
ノルレボの高価格政策が女性の健康を害しています。

緊急避妊を知らない女性をゼロに


緊急避妊薬を選択するかしないかの選択は自由です。
しかし、緊急避妊薬の存在自体を知らなければ、
選択することもできません。
全ての女性に緊急避妊薬の存在を知らせていく必要があります。
緊急避妊薬が、コンドームや妊娠検査薬と並んで販売されれば、
緊急避妊薬は身近な存在になります。



ノルレボは安全性の高い薬です


ノルレボは黄体ホルモンだけの薬です。
中用量ピルを用いる緊急避妊のような激しい副作用はありません。
血栓症リスクを高めることもありません。
妊娠阻止に失敗して妊娠した場合、胎児に影響はありません。

ノルレボが乱用されることはありません


ノルレボ服用後の妊娠率は2%です。
単純に年率換算すると、26%です。
通常の避妊の代わりに緊急避妊が多用されることはありません。
実際に、ほとんどの国で緊急避妊薬は廉価な市販薬品ですが、
緊急避妊を通常の避妊に使用する女性はいません。


性感染症が蔓延することはありません


コンドームの破損など緊急避妊薬を必要とする事態は、
すでに性感染症感染リスクの生じた状況です。
緊急避妊薬が普及するとそのために、
性感染症の感染が広がるわけではありません。
緊急避妊薬を必要とする事態は性感染症リスクの高い状況と知らせ、
性感染症の検査を奨める方が性感染症の拡大阻止効果は高いと思われます。

日本もドラッグストアで買える国に


避妊へのアクセスはリプロダクティブライツの核心です。
わが国は避妊ピルの認可がなされない特種な国でした。
今また、緊急避妊へのアクセス障壁を高くする政策が取られています。
日本は依然として女性のリプロダクティブライツ状況が最悪の国です。
日本の女性のリプロダクティブライツの前進のために、
ノルレボが他国と同様な価格でドラックストアで買えるように、
いっしょに声を上げていきましょう。      2014.10.18

拡散用ツイートです。RTをよろしくお願いします。
https://twitter.com/ruriko_pillton/status/523453473455890433

呼びかけ人
 ピルとのつきあい方(公式)ruriko pillton

yuko     (@yukonyu)

Cook     (‏@CookDrake)

呼びかけ人になって下さる方を募集しています。上記メールアドレスにお願い致します。

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【私たちにノルレボを! ドラッグストアで買える緊急避妊薬を実現させよう】キャンペーンに賛同して頂けると幸いです。


こちらをクリックして返信することもできます。

2014年7月30日水曜日

意図しない妊娠を半減する仕組み--中絶保険

避妊の失敗は誰にでもあります。
そして、中絶せざるを得ない事情の女性もいます。
中絶には10万円から数十万円の費用がかかります。
その費用は自己負担です。
中絶費用をカバーする保険ができないかと、
考えてみました。

年額3000円の保険料


女子人口1000人当たりの中絶数は7.5件程度です。
ただ母数の1000人にはパートナーのいない女性も含まれていますし、妊娠中の女性も含まれています。
パートナーはいるが妊娠を望んでいない女性(以下、「対象女性」とします)1000人当たりの中絶数は、2倍の15件と想定します。
妊娠中絶1件当たりの費用は10万円程度が多いのですが、ケースによれば数倍になることもあります。
そこで、1件当たりの費用を15万円と見積もります。
以上を基に対象女性1000人についての年間費用は、
15万円×15人=225万円と見込まれます。
これを対象女性数1000人で割ると、
2250円となります。
事務経費を加算し、年額3000円の保険料で中絶費用をカバーする保険は成り立つ計算です。

保険加入者への緊急避妊薬事前配布


保険加入者には緊急避妊薬を無償で提供します。
海外から1000人に緊急避妊薬を手配するのにかかる費用は、100万円です。
緊急避妊薬の配布により妊娠中絶件数は50%減少すると見込まれます。
15件の妊娠中絶が7.5件となる事で、
15万円×7.5=112万円
の保険金支払額が削減できます。

中絶保険という形の避妊啓発


「ふざけるな!
中絶保険などできたら避妊しない女性が増え、
中絶が増える」
と考える人が必ず出てきます。
でも、それは違います。
自動車保険が普及すると無謀運転が増えますか?
増えません。
自動車保険は安全運転意識を高め、
むしろ事故を減少させます。
女性にとって中絶は身体も心も傷つくものです。
中絶保険があるから避妊しなくなるなど絶対にありません。
自動車保険会社は交通事故減少のための啓発活動を行います。
それは経済的に合理性のある活動です。
中絶保険でも同じようなことが行われるでしょう。

中絶を減少させる効果


望まない妊娠を減少させる最も効果的な方法は、
緊急避妊の普及です。
緊急避妊薬は意図しない妊娠を理論的には75%削減することができます。
そのため、海外諸国では緊急避妊薬へのアクセス障壁の除去に多大のエネルギーが使われてきました。
しかし、残念なことに日本では意図的に緊急避妊薬へのアクセス障壁が設けられています。
中絶保険と緊急避妊薬の事前配布をセットにすることで、
望まない妊娠を大幅に減少させることができます。

アイデアとリスク


中絶保険を会社とするにせよ共済とするにせよ、
事業の立ち上げにはエネルギーも資金も必要です。
リスクもあります。
誹謗中傷も覚悟しておかねばなりません。
それでもこのアイデアを形あるものにしたい方がいれば、
協力したいと考えています。

2013年3月30日土曜日

ドイツの緊急避妊

ドイツ政府の健康教育センター(BZgA)が作成した緊急避妊のパンフレット(PDFファイル)です。




ノルレボタイプの緊急避妊薬なら、16-18ユーロなので日本円で2000円ほど。
20歳以下では保険から払い戻しがあります。
日本では、効果情報を曖昧にし72時間以内なら効果があるなどと伝えられていますが、
ドイツでは早いほうが効果が高い事をきっちり伝えています。
24時間以内なら5%、24-48時間なら15%、48-72時間なら42%が失敗で妊娠します。
一日遅れれば、失敗率は3倍高くなるわけです。
ドイツでは365日、緊急避妊にアクセスできる体制が作られています。
日本のノルレボ遠ざけ政策の真逆です。

2013年3月2日土曜日

緊急避妊薬適正使用を妨げる偽「適正使用」


緊急避妊の「適正使用」って別に悪くないんじゃない?
きちんと避妊せずに「後で緊急避妊すればいい」
なんて勘違いする馬鹿女ってきっといる。
そんな馬鹿女が出ないようにすることって、とっても大事。
緊急避妊が安易に使えたら馬鹿女のためにだってならないわけだし。
それに、緊急避妊が安易に使えたら、
性感染症だってきっと広がると思う。
緊急避妊はレイプとかコンドーム破損とかやむを得ないときに限定すべきで、
乱用防止のために「適正使用」を徹底するのが、
どうしていけないのかわからない。

「適正使用」推進の論理を平たく言うとこのようになるでしょう。
今、このブログを読んでいる読者の皆さんは、
どのようにお考えになるでしょうか?
多分、多くの方は「賛成」だったり「理解できる」というお考えではないかと思います。
というのは、この「適正使用」推進論に漠然とした違和感を感じる人はいても、
真っ向から反対している人を見たことがありません。
私は「適正使用」推進論に真っ向から反対です。
100万人の人に白眼視されようとも反対ですし、
100年経っても反対の気持ちは変わらないでしょう。
なぜ、私が反対なのか、耳を傾けて下さい。


ピル解禁前の反対論にピルを解禁すると、
馬鹿女どもの異性関係が乱れて性感染症が広がると考える人がいました。
実際にそのようなことは起きません。
そのようなことが起きると考えるのは、
おじさんの妄想なのです。
「適正使用」推進論も同じ妄想を繰り返しています。
仮に緊急避妊に頼ってリスキーな性交渉を持つ女性がいたとします。
彼女はどのように緊急避妊薬を服用すると思いますか?
毎週緊急避妊薬を飲むのですか?
緊急避妊薬を無償で配っても、
そのような飲み方をする女性はいません。
つまり、「乱用」という心配自体が妄想の産物に過ぎないのです。
実際、多くの国で緊急避妊薬は安価で、
しかも手軽に買える薬としてドラッグストアで販売されています。
そのどの国でもそのような意味での「乱用」が生じなかったことは、
エビデンスとして上がっています。
ピル解禁に反対したおじさんの妄想は、
今まだ日本では健在です。
「乱用」妄想はピルを40年にわたって封印してきた国ならではの考えです。


諸外国では緊急避妊の敷居をこれでもか、
これでもかと低くしてきました。
そのわけは「乱用」どころか、
緊急避妊を必要としている女性が緊急避妊にアクセスしないからです。
どこの国にも性に関する知識のなさから、
望まない妊娠をしあるいは中絶をする女性がいます。
この女性達の少なくない割合は、
月経が来なくて始めて妊娠の心配をし始めています。
緊急避妊は性交渉から3日以内にアクセスする必要があります。
この彼女たちに3日以内に緊急避妊にアクセスしてもらうのは、
とてもむつかしいことなのです。
女性が性についての一定の知識を持つことを前提に、
緊急避妊は成り立ちます。
学歴が高いほど緊急避妊の利用率が高くなるのはそのためです(参照アメリカの緊急避妊)。


私からみると、緊急避妊の「適正使用」イコール「乱用防止」とする考えは間違いです。
緊急避妊を必要とする事態となった人が緊急避妊を利用するのは、適正使用です。
緊急避妊の不必要な人が緊急避妊を利用しないようにするのも、適正使用です。
適正使用とは、本来それを必要とする人が使用できるようにすることです。
この意味の適性使用を実現するのは、教育しかありません。
このように考える私は、
ノルレボの価格を高くすれば「適正使用」が実現するという考えが全く理解できません。


昨夜できなかった掲示板のチェックを今朝しました。
そこで見かけた2つの事例を紹介します。
1つはヤーズユーザーで3錠目を12時間飲み遅れ、
病院でノルレボを処方されていました。
いくらヤーズの避妊効能が認められていないからと言っても、
これは「乱用」に当たると思います。
もう一つの例は、トリキュラーの新シート移行の際に2錠の飲み忘れがあり、
性交渉のあったケースです。
緊急避妊を考慮してよいケースですが、
相談した薬剤師は「生理が終わって直ぐだから排卵はないと思う」と答えています。
必要ないのに緊急避妊薬が処方され、
必要であっても必要ないとアドバイスされる現状こそ、
適正使用に反する状況です。
「適正使用」イコール「乱用防止」と考えられていますから、
緊急避妊の必要な状態についての予備知識を
ピルユーザーのほとんど全員が指導されていないでしょう。
服用者向け情報提供資料には何らの記述もありません。
「いつでも不安」か「いつでも平気」。
これは2種類の女性ではありません。
1つの裏表です。
「いつでも不安」な女性がやがて「いつでも平気」な女性に変わります。
「いつでも平気」な女性は心の片隅に「いつでも不安」な気持ちを持ち続けています。
最初は不安でもたまたま事なきを得る状態が続くと、
少しくらい大丈夫という気持ちになってしまうのです。
そして望まない妊娠をしてしまうケースが山ほどあります。
だから、「いつでも不安」な女性のうちに、
きちんと働きかけることが重要なのです。
各国では十代女性の避妊の敷居を低くする努力を重ねています。
「いつでも不安」な性の初心者の女性は、
性の教育をもっとも求めている人達です。
欧米では敷居の思い切り低い若者向けの性の相談施設が発達しています。
コンドームだけでなく、緊急避妊薬やピルが無償で提供されることも少なくありません。
私はそれを理想的だと考えています。
その私からみると偽「適正使用」推進は理想の逆です。
偽「適正使用」推進は若者を緊急避妊から遠ざけ、
教育の絶好の機会を放棄することになるからです。

もう一度繰り返します。
私は偽「適正使用」推進論に真っ向から反対です。
100万人の人に白眼視されようとも反対ですし、
100年経っても反対の気持ちは変わらないでしょう。

2013年3月1日金曜日

今まで嘘言ってごめんね~って・・・

緊急避妊薬でなぜ妊娠率を下げることができるのでしょう。
この問題については、30年の間、種々の議論が繰り返されてきましたが、
未だに定説と言えるものはありません。
2001年に日本家族計画協会は「あなたに知っていて欲しい緊急避妊のこと」で、
以下のように説明しました。

どうして、緊急避妊ができるのですか? 
  あなたの月経周期のどの時期に、緊急避妊ピルが服用されたかによって作用の仕方が異なりますが、例えば排卵を抑制する、受精を妨げる、子宮への受精卵の着床を阻止するなどが考えられます。妊娠の成立とは、受精卵が子宮内膜に着床することを言うのですから、いったん着床してしまったら、すなわち妊娠が成立した場合には、緊急避妊ピルが有効でないことはいうまでもありません。

この2001年の記述は、北村邦夫氏の論文、さらにはノルレボの添付文書に踏襲されます。
ノルレボの添付文書には以下のように説明されています。

本剤の子宮内膜に及ぼす作用,脱落膜腫形成に及ぼす作用,受精卵着床に及ぼす作用,子宮頸機能に及ぼす作用及び排卵・受精に及ぼす作用に関する各種非臨床試験を行った結果,本剤は主として排卵抑制作用により避妊効果を示すことが示唆され,その他に受精阻害作用及び受精卵着床阻害作用も関与する可能性が考えられた.6)7)
6)Van der Vies, J. et al.: Arzneimittelforschung, 33 : 231, 1983
7)Oettel,M.et al. : Contraception, 21 : 537, 1980

古い参考文献が上げられていますが、
「主として」とある部分はやや最近の研究動向を反映しています。
当サイトが「いざというときの緊急避妊法」を書いた1999年時点でも諸説が入り乱れていましたし、
今でも諸説が入り乱れています。
たとえば、家族計画協会がこだわる受精卵着床阻害作用だけとっても諸説あります。
1980年代までは受精卵着床阻害作用は有力でした。

Yuzpe AA, Thurlow HJ, Ramzy I, Leyshon JI. Post coital contraception—a pilot study. J Reprod Med. 1974; 13:53-8.
Ling WY, Robichaud A, Zayid I, Wrixon W, MacLeod SC. Mode of action of dl-norgestrel and ethinylestradiol combination in postcoital contraception. Fertil Steril. 1979;32:297-302.
Ling WY, Wrixon W, Zayid I, Acorn T, Popat R, Wilson E. Mode of action of dl-norgestrel and ethinylestradiol combination in postcoital contraception. II. Effect of postovulatory administration on ovarian function and endometrium. Fertil Steril. 1983;39:292-7.
Kubba AA, White JO, Guillebaud J, Elder MG. The biochemistry of human endometrium after two regimens of postcoital contraception: a dl-norgestrel/ethinylestradiol combination or danazol. Fertil Steril. 1986:45:512-6.

ところが、1990年代には疑問視する論文が提出されていました。

Taskin O, Brown RW, Young DC, Poindexter AN, Wiehle RD. High doses of oral contraceptives do not alter endometrial α1 and ανβ3integrins in the late implantation window. Fertil Steril. 1994;61:850-5.
Swahn ML, Westlund P, Johannisson E, Bygdeman M. Effect of post-coital contraceptive methods on the endometrium and the menstrual cycle. Acta Obstet Gynecol Scand. 1996;75:738-44.
Raymond EG, Lovely LP, Chen-Mok M, Seppälä M, Kurman RJ, Lessey BA. Effect of the Yuzpe regimen of emergency contraception on markers of endometrial receptivity. Hum Reprod. 2000;15:2351-5.

 
このように緊急避妊の作用機序は議論が複雑なので、
旧版には作用機序についてなにも書きませんでした。
ところが、家族計画協会は当時ほぼ否定されていた受精卵着床阻害作用などを持ち出してきます。
現在では過去の遺物となったような理論が、ノルレボ添付文書には堂々と書かれています。
ただ、緊急避妊薬の作用機序は諸説入り乱れた状態が続いていますので、
どのような見解であっても見解として尊重されてよいのかなとも思います。
----------------------------------------------------------------
私が心配なことは一つだけです。
日本で緊急避妊は科学の問題ではなく政治の問題となっています。
そのため、科学的知見の内の「適正使用」に都合のよい部分だけが
意図的に抜き出されていることを指摘しました。
もう一つのノルレボ物語(1)-(12)参照
その最たる例が服用時間が早いほうが効果が高いことを秘密にしていることです。
都合の悪い事実は隠されてしまうのです。
そして親衛隊がそれを絶対視するよう強制しています。
いわば、科学の教義化が生じています。
2001年以来、家族計画協会→ノルレボ添付文書に踏襲されている作用機序は、
1980年代の古い学説ですがそれが教義化されているように思えます。
さらに、家族計画協会の女性向けサイトの説明変更を見ると、
不安が膨らみます。
下の画像の上が2008年11月頃の記述内容です。
「排卵を抑制・遅延させる」が上げられています。
下は現在の記述です。
「子宮内膜の状態を変え、精子を着床しないようにするもの」と書かれ、
以前の「排卵を抑制・遅延させる」が消え落ちています。


わざわざ、排卵抑制作用が削除されています。
緊急避妊に早くアクセスした方が効果的との認識が広がるのを防ぐために削除したのでしょうか。
それとも、ただ「精子の着床」とか珍説を思いついただけなのでしょうか。

ほぼ否定されている1980年代の学説でも代理人の言うことであれば正しいと信じ、
「異端者」攻撃の材料に使ってきた親衛隊グループがあります。



政治に迎合し、教義化を図り、親衛隊の暴虐がまかり通る日本のピルの、
日本の緊急避妊の現状を悲しく思います。
「今まで嘘言ってごめんね~ってあやまらないのか」など、
意味不明な言辞を弄しながら、
当サイトに対して長年にわたり中傷キャンペーン続け
wikipediaを書き換えなど姑息な行為を繰り返してきた親衛隊がまず行うべき事は、
家族計画協会サイトの「精子の着床」など噴飯言説の訂正を進言することでしょう。
「今まで嘘言ってごめんね~ってあやまらないのか」は自らと家族計画協会に対して言うべき言葉だろうと思います。


参照 James Trussell, Elizabeth G. Raymond, Emergency Contraception: A Last Chance to Prevent Unintended Pregnancy 2013年2月版。なお、毎年更新されたものがアップされている。大幅変更のない部分は変更されないので、文中の「最近」が最近でないことも多い。

2013年2月28日木曜日

20-24歳女性の1/4が使用経験/アメリカの緊急避妊に関する調査

アメリカの緊急避妊についての調査(Use of Emergency Contraception Among Women Aged 15–44: United States, 2006–2010 ウェッブ魚拓が開きます)を紹介します。
調査結果は4つのグラフになっていますので、
それぞれの表の要点を書いてみます。

Figure 1.
2006-2010年に行われた調査によると、15-44歳で性経験のある女性のうち緊急避妊の使用経験者は11%(580万人)でした。2002年の調査では、4%でした。
緊急避妊経験者の59%は1度だけ、24%は2度、17%は3度以上の使用経験がありました。
Figure 2.
年齢別に見ると、20-24歳の女性では23%の女性が使用経験を持っていました。
一方、30歳以上では5%でした。
学歴が高くなるほど使用率が高くなり、大学卒以上の女性では12%でした。
Figure 3.Figure 4.
①使用避妊法で避妊できていない心配②避妊していなかった③その他の選択肢から緊急避妊の使用理由をたずねると、①と②がほぼ同数になりました。
15-19歳では①が少なく②が多い傾向が見られました(34%対47%)。
学歴が高いほど①の比率が高く、学歴が低いほど②の比率が高い傾向が見られます。

経験者の累積カウントである点に注意が必要。
また、質問内容が各回調査で異なっていて、
カウントされていない緊急避妊もあります。
利用には注意が必要な調査ですが、
20-24歳の女性では約1/4が使用経験を持っている点に注目したいと思います。

2013年2月27日水曜日

もう一つのノルレボ物語(12)「適正使用」の代償

1.供給量

緊急避妊薬が店頭販売されているスイスでは、人口76人あたり1パックの販売量となっています。
緊急避妊薬が処方薬である韓国では、人口83人あたり1パックの販売量となっています。
その数値を日本の人口に当てはめると、それぞれ157万パック、144万パックとなります。
コンドーム避妊が主流の日本の必要需要は、400万パック程度と推測しています(参照)。
この数字を頭に置いて、あすか製薬の会見記事を読み直してみましょう。


あすか製薬の売上げ目標は20億円ですから、20万パック程度です。
日本と同じ処方箋販売の韓国と較べても、目標値が1/7に過ぎません。
「適正使用」という名の普及抑制政策で、
人口5000万人の韓国に遥かに及ばない1/7程度にしか普及しない、
とみているのです。
20万パックの売上げが目標ですが、
初年度の売上は5万パックに過ぎませんでした。
実に韓国の1/28の普及率です。
それでは、目標の20万パックが達成されたとき、
どれほどの妊娠中絶減少が見込めるのでしょうか。
服用者の妊娠(緊急避妊失敗)率を2%とすると、
20万パックで1万2千人の望まない妊娠を防ぐことができます。
20万パックでは、年間22万件の妊娠中絶を10%削減することもできないのです。
ノルレボへのアクセスを容易にすれば、
最大75%の削減が可能なのに、
「適正使用」を優先する政策がそれを不可能にしています。

2.効果
2つ目の問題は、避妊効果の問題です。
ノルレボの作用機序には不明な点があるにしても、
排卵抑制が重要な作用機序であることに異論はありません。
そうであるならば、より早い服用がより高い効果をもたらすことは論を待ちません。


ところが、現状のノルレボは週初めに処方が集中する傾向が見られます。
週末に避妊失敗があり週初に来院するケースが多いからです。
72時間以内であっても、より低い避妊効果しか得られないケースが多い実情があります。
ノルレボの価格は世界一高く、
その実際の避妊効果は世界一低いのが日本かもしれません。
こんな人を馬鹿にしたような話はありません。

3.ノルレボ弱者
ノルレボはアクセスしにくいようにわざと高い価格設定になっています。
高い価格設定にすると、誰でもアクセスしにくくなるわけではありません。
アクセスできなくなるのは誰でしょうか。
お金のない女性です。
10代の女性は概してお金のない女性です。
ノルレボの「適正使用」推進とは、
お金のない女性を緊急避妊の恩恵から排除することを意味します。
かつて、日本の家族計画運動はもっぱら既婚女性の避妊に関心を集中させ、
新たに生じていた未婚女性の避妊需要に目をつぶりました。
日本でピルが解禁されなかったのは、
弱者に目を配れなかった家族計画連盟による反対のためでした。
また、弱者切り捨ての歴史を繰り返すのでしょうか。

4.ノルレボ砂漠
ノルレボの「適正使用」推進では、実質上、産婦人科病院を指定する国家管理が行われています。
全ての産婦人科病院でノルレボが処方できるようになったとしても、
産婦人科病院の都市集中の問題があります。
人口過疎地域から産婦人科病院が消える傾向は現在も続いています。
郡部では産婦人科病院へのアクセス難が生じているのに、
産婦人科病院でしか処方できないとなれば緊急避妊の選択が困難になる女性が生じます。
さらに郡部の産婦人科医は、概して高齢化が進んでいます。
その中には、ノルレボ処方病院となるのに消極的な医師もいます。
ノルレボ処方病院は都市に集中する傾向が生じているように感じられます。
ノルレボの「適正使用」推進が、ノルレボ砂漠を生んでいることも大きな問題です。


「ピルとのつきあい方」は避妊を女性の権利と考えています。
権利は誰でも等しく享受できてはじめて権利と言えるものです。
この観点から見ると、ノルレボの「適正使用」推進は、
あるべき姿の逆方向を向いています。
人口300人の離島に住む女性でも緊急避妊にアクセスできる方策を考えるのが、
行政や家族計画協会の役割だと思います。
ノルレボの販売量が現在の100倍(500万パック)になれば、
妊娠中絶は劇的に減少するでしょう。

ノルレボの「適正使用」は女性の、とりわけ弱い立場の女性の犠牲を代償として成り立っています。

「適正使用」推進を唱えながら、「望まない妊娠をなくしたい」と言っても、
私はその言葉を信じません。

もう一つのノルレボ物語(1)に戻ります。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償

2013年2月26日火曜日

もう一つのノルレボ物語(11)隠された情報

緊急避妊を日本の女性から取り上げ、
国家管理の下で限定的に利用させる「適正使用」政策にとって、
どうしても隠しておかなければならない不都合な事実が2つあります。
1つ目は、緊急避妊は早ければ早いほど効果的という事実です。
たとえば、アメリカ家庭医協会のサイト(英語)です。
無防備な性交渉から緊急避妊薬服用までの時間と妊娠率の関係が図示されています。
下の図も同様です。


一般に時間と妊娠率はサンプル数が多ければ多いほど、きれいな比例関係を示します。
大雑把に言えば、服用が24時間遅れると妊娠率は約2倍高くなります。
これは緊急避妊を必要とする女性にとって重要な事実です。

海外の緊急避妊薬の添付文書には、必ずと言ってよいほど、
「十分な避妊措置を講じない性交後、可及的速やかに、望ましくは12時間以内に遅くとも72 時間以内に本剤を2錠服用する」
などと書かれています(このことは発売前のノルレボ「添付文書案」にも出てきます)。
ところが、日本のノルレボの添付文書はあっさりしたものです。
【用法・用量】
性交後72時間以内にレボノルゲストレルとして1.5mgを1 回経口投与する.
<用法・用量に関連する使用上の注意>
本剤を投与する際には,できる限り速やかに服用するよう指導すること


ノルレボの添付文書は、「性交渉後」ではなく、
「処方後できるだけ早く服用するように指導する」と書いているように読めます。
無防備な性交渉から服用までの時間が早いほうがよいとは、
読めないように細工しているのです。
服用までの時間を問題にすると、ノルレボの処方施設を限定する政策の障害となります。
緊急避妊薬は「より早く」が意味を持つ薬です。
だから、各国では女性がより早くアクセスしやすいように、
店頭販売に変わっていったのです。
より手の届きにくいものにしようとしている日本で、
早く服用すればするほど効果が高いと言うことを秘密にしておく必要がありました。
しかし、そのことをいくら秘密にしても、
「72時間以内」と聞けば、72時間以内なら効果は同じなどと誰も思わないでしょう。
常識的に考えても、72時間以内なら効果は同じで、
72時間を過ぎるとぱったり効果がなくなるなどとは考えません。
ヤフー知恵袋に、
「アフターピルは72時間以内なら
いつ飲んでも効果は同じなんですか?」
との質問がなされています(ウェブ魚拓が開きます)。
この質問に自信満々に答えているのが親衛隊の幹部です。
72時間以内というくくりで臨床の結果を出しています。
性行為から何時間後なら何%などという論文も見たことがありませんよ。
>unya_unya_papaさん
どの医学雑誌でしょうか。
近年出された緊急避妊についての雑誌・文献は比較的チェック済みですが、
見落としているようであれば、ぜひ雑誌名を教えていただけますか?
著者だけでも結構です。
まさかどこかのHPの情報ですなんてことはないと思いますので、
文献名をいただければ購入したいと思います。
質問に答えるのではなく、
質問自体がナンセンスだと一蹴しています。
早く服用すればするほど効果が高いとの言説を必死で否定しているのです。

そのツイッターアカウントも、早いほうがよいとの認識が広がらないよう必死で防御線を張っています。
二つ目は、薬の譲渡の問題です。
自分の風邪をうつしてしまった旦那に自分が病院でもらった薬をあげると、
それは法律違反になるかという問題です。
この問題の答えは、「好ましいことではないが、法律違反にはならない」です。
意外に思われる方が多いかもしれません。
医薬品の個人的授与に関係する薬事法の条文は第24条です。
この条文には「業として」の限定があり、個人的な授与を対象としていません。
なお、同法第50条の規定は基準を満たさない医薬品の流通を禁じたもので、
個人的授与とは関係ない条文です。
これは法曹資格を持つ3人の友人の一致した意見なので間違いないと思います。
法的規制がないので、危険性を喚起して注意を呼びかけることが行われています。
参照世におもねる専門家はいらない / 行列のできる法律相談所 
ただ、ここにノルレボ「遠ざけ」政策の穴があります。
先に、家族計画協会は緊急避妊転用可能薬品から低用量ピルをこっそり除外した、
と書きました。
それは「遠ざけ」政策を強めれば強めるほど、
この「穴」が意味を持ってくる可能性があったからです。
「ピルとのつきあい方」の開設当時、
緊急避妊を知らない産婦人科医が多数でした。
当サイトをプリントアウトして病院に持参し、
やっと処方してもらえたケースもあります。
そのような事情を見て当サイトに以下の一文を付け加えました。

■いざというときにはお友達に
 ユーゴの内戦では、レイプ事件が多発しました。このユーゴでは、緊急避妊薬が相当の効果を上げたとも言われています。緊急避妊薬がこのような使われ方をするのは、涙が出るほど悲しくなります。日本では内戦はないと思います。しかし、低用量ピル・中用量ピルは高価なものではありませんから、いつも手元に置いておけば安心です。 
 緊急避妊法について知らないお友達に緊急事態が起きたときには、緊急避妊法のことを知らせて上げて下さい。緊急避妊法は24時間以内だと効果が高まります。病院で緊急避妊法のためにピルが処方してもらえないときには、ご自分で服用しているピルを分けて上げて下さい。他人にお薬をあげることは決して好ましいことではありません。しかし、たとえ法的に問題があっても、自己責任を前提にして道徳的には許されることだと思います。女性同士、悲しい思いをする方を少しでも少なくしていきましょう。

上に書いた3人のチェックは、この文章を付け加える際にお願いしたものです。
この文章では、病院に行くななど決して書いていません。
病院に行っても処方してもらえない場合には、自分のピルを上げると書いています。
このケースで責められるのは、緊急避妊の処方をしない病院ではないでしょうか?
病院が責められずに、
かえって譲渡した女性が責められる筋合いはないのではないか、
と思います。
ノルレボの「遠ざけ」政策が浸透すれば、
ノルレボにアクセスできない女性が生み出されます。
その時、緊急避妊を必要としている女性に自分のピルを渡す女性が責められるべきでしょうか、
それともノルレボへのアクセスを狭めた政策が責められるべきでしょうか。
ノルレボにアクセスできない女性を生み出す政策こそ責められるべきだと考えます。

私はこのように考えるのですが、
親衛隊の考えは全く異なります。
彼女たちによると、
ノルレボ「遠ざけ」政策の邪魔をする「ピルとのつきあい方」が悪者となります。
こちらが親衛隊のネット工作です (ウェッブ魚拓が開きます)。
なお、質問投稿時間と各回答の投稿時間は以下の通りです。
質問日時:2011/12/31 09:14:59
回答日時:2011/12/31 09:20:30
回答日時:2011/12/31 09:20:36
回答日時:2011/12/31 09:21:28
質問を探し、読み、書いて、投稿するのに5分。
3つの回答の投稿時間は60秒以内。
偶然なのでしょう。

農民が刀を持つのは違法だとして、農民から刀を取り上げるのが刀狩り政策でした。
刀狩り政策が農民の反抗を封じ込める政策であったことは言うまでもありません。

もう一つのノルレボ物語(12)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償

もう一つのノルレボ物語(10)親鸞は弟子一人ももたず

親鸞は弟子一人ももたずそうろう

浄土真宗を開いた親鸞は「自分は弟子を一人も持たない」と語ります(『歎異抄』)。
その正確な意味については解説ページがありますので、
詳しく書きません。
マホメットにも、カルビンにも同様な思想が見られます。
神(仏)の力が偉大であれば、
人間同士の関係がフラットになるのは理解できるところです。

ん?なんでそれが緊急避妊やノルレボの話しと関係あるんだ?

と疑問に思われるだろう、
簡単に理解してもらえないだろうと、
私も思います。
ツイッターでは、しばしば福澤諭吉についてつぶやいています。
諭吉もピルとは関係なさそうですが、
私の中では親鸞・諭吉・ピルは繋がります。
このことについては、おいおい書いていきたいと思いますが、
ひと言で言えばピルの受容と精神的風土は密接に関係しているとの見方です。
プロテスタンティズムの精神とピル。
それが私のピル発見の原点でもあるのです。
私から見ると、
日本のピルは神なき国のピル
にみえるのです。

話を少しずつ本題に戻します。
ノルレボは、日本の中絶を1/4に減少させる可能性を持っています。
1/4削減ではなく1/4にすることができるのです。
大げさな言い方をすると、女性にとって神様のような薬です。
その恩恵を全ての女性が受けれるようにしたい。
私は緊急避妊をこのように語ります。
このように語る私は一人の「凡夫」であり、
「同朋」に語っているのです。
語る人ではなく、偉大なのはノルレボだからです。

一方、神の代理人がいることがあります。
カソリックで教会は神の代理人であり、
代理人は権威を持ちます。
日本は神なき国なので、代理人の権威はもっと大きくなります。
ノルレボについて言えば、代理人は厚労省だったり家族計画協会だったりします。
緊急避妊の代理人には、代理人の事情があるのでしょう。
代理人が代理人の事情で緊急避妊について語っていることは、
次回のエントリーで書くことにします。

神には親衛隊がつきません。
「凡夫」には一人の弟子もいません。
ところが、神の代理人には親衛隊がつきます。
これもお決まりです。
家族計画協会は「OC for me」キャンペーン以来、
親衛隊作りに取り組んできました。
その流れの中で低用量ピル普及推進委員会が作られました。
いわば官製ユーザー組織であり、親衛隊です。
親衛隊の身上は忠誠です。
ピル処方時の検査に5万円かかろうと、
どのような問題があろうと、
問題点については何も語らず、ひたすらバラ色のピル生活を語ります。
もちろん、ノルレボの持つ問題について発言することもありません。
緊急避妊薬の「遠ざけ」政策に協力しながら、
ピルユーザーの反発を封殺する役割を果たします。
このようにして、代理人を中心とした行政・メーカー・学会・病院
そしてユーザーまでまきこんだ共同体が出来上がります。
これは緊急避妊薬に限ったことではなく、
日本の保守主義の源泉であるように思われます。

親鸞は弟子一人ももたずそうろう

白衣の神父を見るにつけ想い出す言葉です。
ノルレボの代理人である白衣の神父は、
神(ノルレボ)の何を語り何を語らなかったのでしょうか。

もう一つのノルレボ物語(11)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償

2013年2月25日月曜日

もう一つのノルレボ物語(9)良心的医師の悲鳴

医師の書いているブログを2つ紹介しましょう。

一つ目。
避妊の教育はしない、緊急の事態が起こっても、病院に行って緊急の避妊薬をもらおうにも、とても高くてお金がない、そんな若者をどう救えばいいのでしょう。
 イギリスでは、基本は「教育」。それを補完するものとして、ピルの提供や緊急避妊の薬も手に入りやすくする。日本は全く逆なのです。教育はしてはいけない、緊急の事態が起こっても、手に入りにくくする。
http://miyoko-diary.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-fd90.html


二つ目。
緊急避妊薬をOTCとしていいかどうかは議論のあるところだろうが、それにしても驚くのはその価格。なんと1回分(2錠)で1万円という価格設定がなされている。これは医療機関への納入価格だから、実際に患者が病院で支払う金額は1万3千~1万5千円程度になるだろう。これは諸外国と比べて破格の高値である。
************
病院に行かなければ手に入れることが出来ない、しかも高価格。かなり敷居の高い薬にされてしまっている。これらは全て厚労省が決めることなので、我々には如何ともし難いが、もう少し何とかならなかったのだろうか?
******************
この極めて高い価格は、薬事行政側が敢えて敷居を高くする目的で設定したものと考えざるを得ない。その背後には、「こんな薬を気軽に入手できるようになったら、性のモラルが乱れるのじゃないか」といった思惑があるのだろう。しかしこれは余計なお世話であって、ある意味女性を蔑視した考えとすら思える。

緊急避妊薬の最大のメリットは人工妊娠中絶を減らせられるところにある。中絶が女性の体に与えるリスクに比べれば、薬のリスクなどほとんど無いに等しい。何よりも、生命を握りつぶす中絶行為が回避できることは女性にとっても我々にとっても救いである。
http://plaza.rakuten.co.jp/bbcozy/diary/201106060000/?scid=we_blg_tw01


上には2つのブログを紹介しました。
この2つ以外にもノルレボ政策の理不尽を指摘する医師がいます。
しかし、「適正化」路線推進側にとって、それは想定内のことでしょう。
不満があっても従わざるを得ない、
と見くびられています。
2番目のブログでは「女性を蔑視した考えとすら思える」と指摘されています。
もっともな指摘なのですが、日本の高尚なフェミニズムはこのような問題に多分関心がありません。
日本はお上が好き勝手できる国なのです。
ただ、以前と少しだけ変わった点があります。
ごく少数ですが、日本にはピルユーザーが生まれています。
ピルユーザーから反発の声が上がる可能性がありました。
しかし、・・・

もう一つのノルレボ物語(10)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償

もう一つのノルレボ物語(8)乱用幻想のプロパガンダ

緊急避妊の「適正使用」の本質は、緊急避妊の抑制であり、
緊急避妊の普及阻止にほかなりません。
そのために、低用量ピルの緊急避妊への転用を秘密にし、
中用量ピルの転用を排除し、
ノルレボの価格を異常に高くし、
処方病院を限定する政策(実質登録制)が取られたのです。
世界では望まない妊娠をなくしたいと願う医師と女性が、
緊急避妊薬へのアクセスを容易にするように取り組み、
薬局での処方箋なし販売が多くの国で実現しています。
こともあろうに日本では、
世界の動きに逆行する政策が取られています。
この緊急避妊抑制策に良心的医師が疑問を感じるのは、
当然のことです。
良心的医師に対して「緊急避妊の抑制」を説得することは、
至難といわねばなりません。
どのように「説得」が行われているのでしょうか。

「すこしでも人工妊娠中絶術をおこさなくてもいいように、
望まない妊娠がせいりつしないように、と願い、
ノルレボをより積極的に導入することとしました。」
という良心的医師のブログ(ウェブ魚拓が開きます)を見てみましょう。
「ノルレボを中心とした、緊急避妊法についての講習会」に出席し、
「ノルレボをより積極的に導入」することにした経緯が書かれています。

韓国での話も衝撃的でした。
韓国では、緊急避妊薬を、一般薬として薬局で購入できるようにした結果、
ピルに比べ、緊急避妊薬が広く普及し、
結果としてピルによる避妊ではなくては、緊急避妊薬による避妊という概念が広まってしまった、と。
その結果として予想されるのは、中絶の件数が増えるという皮肉な結果となります。
http://megalodon.jp/2013-0225-1055-11/blog.m3.com/GREEN-HILL/20120801/1

良心的医師に対して緊急避妊抑制の必要を説得するには、
緊急避妊が普及するとかえって望まない妊娠が増える、
と宣伝するのがもっとも効果的です。
そこで韓国の事例が紹介されます。
韓国の事例を聞いて、この良心的医師は衝撃を受けているのです。
しかし、この韓国の話は架空の作り話に過ぎません。
まず、韓国で緊急避妊薬が薬局で購入できるという事実はありません。
韓国で緊急避妊薬は病院だけで処方される処方薬です。
2012年6月7日、韓国当局は処方薬である緊急避妊薬をOTCスイッチとする案(韓国語)を公表しました。
それに対して産婦人科医の団体が反対し、緊急避妊薬の薬店販売は実現していません。
講習会の話は、事実関係を全く逆にした作り話なのです。
韓国では緊急避妊薬の薬店販売はまだ実現していませんが、
韓国当局は薬店販売に転換させようとしています。
韓国だけでなく各国当局が緊急避妊薬の店頭販売転換の方針をとっているのはなぜでしょう。
講習会の話の通りだとすると、
各国政府は中絶件数を増やすために緊急避妊を普及させようとしていることになります。
講習会の話は、いくら何でもあり得ないトンデモ話なのです。

緊急避妊が普及すると望まない妊娠が増えるなど、
全くのインチキ話であることはスイスを見ればわかります。
スイスは緊急避妊薬をいち早く店頭販売とした国です。
そのスイスの事情について「中絶率が低いスイス その理由を探る」(ウェブ魚拓が開きます)という記事を紹介しましょう。

2011年には、妊娠可能年齢の女性(15~44歳)1000人に対し6.8人が中絶した。
これは、イギリスの2011年度の17.5人、フランスの2009年度の15人、アメリカの2008年度の16人などに比べ、極端に少ない。
***********************************
モーニングアフターピル
性行為の後で妊娠を回避するために飲むピル「モーニングアフターピル(緊急避妊薬)」は、前述の2002年の改正法以降、医師の処方箋がなくても入手できるようになった。
このピルの自由化は、避妊においてかなり重要な役割を果たすようになった。
スイスでは年間、10万パックが販売されていると医薬品産業界は発表している。

緊急避妊が普及すると中絶が増えるなどの戯言を言っているのは、
韓国の一部の産婦人科医と日本の産婦人科医だけです。
以下は緊急避妊に関する研究の最新レビュー(英文)です。

Published evidence would seem to demonstrate convincingly that making ECPs more widely available does not increase risk-taking or adversely affect regular contraceptive use.
124,125,126,127,128,129,130,131,132,133,134,135,136,137,138,139,140
公表されているエビデンスは、緊急避妊の利用環境の改善によって危険な性交渉が増加することはないし、通常の避妊法の使用に悪影響をもたらすことはないことを明確に示しているように見える。

上記の124から140は文献番号です。
世界的な権威者と数多くのエビデンスを向こうに回して
独自の見解を広めているのが我が日本の産婦人科医です。
しかし、何のエビデンスもない妄想なので、
韓国の作り話を持ち出しているのです。

もう一つのノルレボ物語(9)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償


2013年2月24日日曜日

もう一つのノルレボ物語(7)奇妙な親切

「ピルとのつきあい方」が緊急避妊法を紹介し、
緊急避妊ブームとも言える現象が生じたと書きました。
当時、緊急避妊法の具体的な方法を知っている医師は、
100人に1人いるかいないかだったでしょう。
緊急避妊を必要としている女性が病院に駆けつけると、
「緊急避妊?そんなものはやってない」
と追い返されるケースが続出しました。
何とか対応してくれる病院探しが大変だったのです。
このようなニーズに応えて、
緊急避妊可能な病院リストがさまざまなサイトで作られました。
このような動きを知ってか知らずにか、
家族計画協会が緊急避妊のできる病院を紹介するサービスを始めました。
このサービスは女性の緊急避妊へのアクセスをサポートする有意義なサービスでした。
このサービスについて、高く評価したいと思います。
当サイトでも、そのサービスを紹介していた時期があります。
しかし、途中で家族計画協会のサービスを紹介するのはやめました。
個々の病院がサイトを開設し、緊急避妊への対応を料金付きで明示するようになったのが大きな理由です。
もう一つ理由があるとすれば、
家族計画協会紹介の病院の料金は決まって高い、
と掲示板でささやかれていたからです。
現在は、充実した病院検索サイトがいくつかあります。
病院検索サイトには地域ごとに診療科ごとに病院が網羅的に掲載されています。
多くの産婦人科で緊急避妊に対応するようになっていますから、
近くの産婦人科に電話で問い合わせればすむようになりました。
このような状況になっているのに、
なぜか家族計画協会は親切な病院紹介サービスに力を入れています。
日本家族計画協会クリニックは、同協会付属の病院です。
同病院サイトの目玉に、
Dr.北村が推奨する緊急避妊薬を処方している施設検索
http://www.jfpa-clinic.org/search/ec-search.php
があります。
この施設検索は必ずしも網羅的ではありません。
たとえば、帯広市の女性が検索すると直近の病院まで110キロ以上あります。
まだ、充実途上なのだとも考えられます。
しかし、ある疑念を抱かざるを得ないのです。
というのは、家族計画協会は今は一般社団法人ですが、
公益性のある団体と多くの人が思っています。
そのような団体のサイトが「Dr.北村が推奨する」とうたうのはいかがなものでしょうか。
緊急避妊薬を処方している病院の内から、
選別して推奨するとうたっているわけですから。
市町村のサイトには当番医が網羅的に示されています。
その市町村のサイトに「推奨当番医」として一部の病院だけ掲載することはあり得るでしょうか。
だから、奇妙なサービスに見えるのです。

もちろん、奇妙なサービスでもないよりあった方がましなサービスもあります。
しかし、おそらくそのような理由で緊急避妊薬を処方している施設検索サービスを提供しているのではないでしょう。
以下はあすか製薬の会見内容を報じる記事です。



「納入施設の限定はしないものの、関係学会と話しあいながら、
むやみな処方がされないようにしたい考え。
処方医療機関の情報提供については今後学会と詰めるという」

と書かれています。
つまり、「適正使用」に協力する病院にだけしかノルレボは納入しない、
ノルレボ取扱病院については何らかの方法で情報提供すると書かれているのです。
これを受けて、「Dr.北村が推奨する緊急避妊薬を処方している施設検索」が
作動しているのです。
医薬品は必要な人に分け隔てなく供給されるべきものです。
国の方針に従わない病院には供給しない、
などが許されてよいわけがありません。
緊急避妊からの「遠ざけ」政策は、
緊急避妊を必要とする女性から緊急避妊薬を取り上げる
非人道的な政策といわねばなりません。

もう一つのノルレボ物語(8)に続きます。


2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償


2013年2月23日土曜日

もう一つのノルレボ物語(6)ノルレボ高価格の舞台裏

通常ピルの緊急避妊薬転用叩きは、
ノルレボの価格の異常に高い価格設定に原因があると書きました。
その価格設定がどれほど異常なのか見てみましょう。
下はノルレボタイプの緊急避妊薬の価格を示したものです。


表は2012年1月に調べたもので為替レートも当時のレートで計算しています。
ノルレボの処方価格には大きな差がありますが、
多くは15000円前後に集中しています。
先進国の緊急避妊薬相場はおよそ3000円程度です。
それぞれの国の低用量ピル1シートの価格と同じかやや高めという値段です。
15000円という価格がいかに異常価格かわかると思います。

26ポンドを今日のレートで円換算してみると、3,682円でした。
ノルレボの価格が異常なのがわかるでしょう。
では、ノルレボの価格はどうしてこのように異常なのでしょうか。
その理由は病院納入価格が高いからです。
ノルレボの病院納入価格は1万円弱です。
病院納入価格が他の先進国の小売価格の3倍なのですから、
お話になりません。
以下は、この価格設定についてのあすか製薬の説明です。


高い価格設定にしたのは、医師の意見があったからだと述べています。
あすか製薬に対して価格設定の意見を言える医師は、ごく少数です。
なお、この記事で「希望小売価格」となっているのは、納入価格の誤りでしょう。
記者が小売価格と勘違いしてしまうほど、1万円の納入価格などあり得ない値段です。

納入価格が高いだけではありません。
以下はある病院のサイトです。
ノルレボの価格設定について、「さまざまな通達も鑑み」決めたと書かれています。


 
病院での価格まで統制されているのがわかります。
ノルレボの価格は女性の手に届きにくいものにするために、
わざわざ高く設定しその高い価格を統制している人がいるのです。

以下、2014.1.13追記
(参考)ヨーロッパ諸国におけるノルレボタイプ緊急避妊薬の費用
(単位ユーロ:2014年1月現在1ユーロ=約141.5円)
3000円(21.2ユーロ)を越えるのはクロアチア、ノルウェー、スイスの3カ国、イギリスやフランスは1000円(7.06ユーロ)以下。
アルバニア    4-6
オーストリア  12.65
ベルギー     9.85
ブルガリア   14.00
クロアチア   26.00
キプロス    10.74
デンマーク   11.67
エストニア   15.79
フィンランド  18.87
フランス     6.75
ドイツ     17.00
ハンガリー   17.93
アイルランド  40.47(払い戻し後6.01ユーロ)、
イタリア    13.10 
ラトビア    14.59 
オランダ    15.00 
ノルウェイ   26.5 
ポーランド   11.58 
ポルトガル   11.91-12.85 
ルーマニア   20.00 
スロベニア   14.00 
スペイン    19.00 
スウェーデン  17.00
スイス     32.34
トルコ      6.64
イギリス     6.97
(出所 European Consortium for Emergency Contraception (ECEC) 2014.1.13)


もう一つのノルレボ物語(7)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償