2014年1月6日月曜日

「ピルの値段が高ければ高いほど血栓症発現率が高くなる」ってホント?



 年齢以外の要因について考えてみることにしましょう。
まず、問題です。

欧米ではピルは半年または1年分まとめて処方されるのが普通です。
日本在住の外国人は日本のピル事情について、以下のように記しています。

This also means that you have to go back to the doctor's office to renew your prescription each time, typically one month as mentioned above, but maybe two months for some. (Others have mentioned being able to get more than three months at a time.) Yes, it is a pain, but in my experience at least, I have to go back frequently to get most prescriptions refilled - this includes simple allergy medicine.
(http://www.survivingnjapan.com/2010/12/guide-to-birth-control-pills-in-japan.html)

彼らにとって、日本の細切れ処方は奇異に感じられるようです。
2か月分のピルをもらうのに待ち時間や往復時間で半日仕事になるケースもあります。
スムーズにもらえるケースでも、どうしても時間の都合がつかないこともあります。
ピルが切れたのを契機に脱ピルするケースは少なくないでしょう。
短期ユーザーや短期反復ユーザーが多くなるのは仕方ありません。

 (正)わんさといるのが日本  (誤)わさんさといるのが日本


それがどうして高い血栓症発現率に繋がるのでしょう?
下の図を見て下さい。
ルナベルについて服用期間と副作用発現までの期間を調べたものです。


血栓症や脳閉塞の過半は服用4か月以内に生じています。
1人が13か月服用しても、13人が1か月服用しても、どちらも1婦人年です。
後者で副作用発現率が格段と高くなる事を理解していただけると思います。
極端に言えば、日本の女性はリスクの高い期間だけピルを服用することになっているのです。

細切れ処方が行われるのには、それらしく聞こえる言い分もあります。
建前の議論は措いておいて、現実問題としてピルを1年分処方しますと言われたら、
ユーザーも困るかもしれません。
イギリスなら1年分が3千円でおつりが来ます。
日本だと桁が違います。
日本のピルの値段が高いから細切れ処方になり、
細切れ処方だから短期離脱ユーザーが続出し、
結果として血栓症発現率が高くなる構造があります。
  (正)ピルの値段を  (誤)ピルの値段が


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日本産科婦人科学会見解(平成25年12月27日)について所感

公益社団法人日本産科婦人科学会は、平成25年12月27日「低用量ピルの副作用について心配しておられる女性へ」と題する見解を発表しました(以下、「見解」とする)。
「見解」は、「事態の緊急性に鑑み」発表するとされていますが、
従来のライフデザインドラッグ路線の踏襲を表明するものに過ぎません。
ライフデザインドラッグ路線により多数の血栓症発症者が出ていることに対する危機感の欠如に失望しました。
欧米では、1970年代と1990年代の2度の「ピル恐慌」を経験しています。
その際、各国の産婦人科学会は現にピルを服用している女性に焦点を絞った呼びかけを行うとともに、ピルの安全性については慎重な対応を取りました。
前者に関しては、慌ててピルの服用を中止して望まない妊娠をすることのないよう強調しました。
各国の産婦人科学会が最も強調した点が、「見解」には完全に欠落しています。
後者に関しては、現に生じている副作用に対して真摯な対応が取られました。
1970年代には、ピルの副作用が周知されていなかったことを率直に謝罪し、改善に努めていきました。
「見解」はピルの安全性を繰り返すばかりで、
問題意識が完全に欠如しています。
欧米では産婦人科学会の一貫して女性を守るとの姿勢が、「ピル恐慌」の克服に繋がりました。
残念ながら、ピルの有益性を強調するばかりの「見解」にはその姿勢を見いだせません。
「見解」の6項目に対する所感を記しておきます。

「1.低用量ピルは避妊のみならず月経調整、月経痛や月経過多の改善、月経前症候群の症状改善などの目的で多数の女性に使用されており、その有益性は大きいです。一方、有害事象として頻度は低いですが静脈血栓症などもあります。」
ピルにはメリットがあります。そのメリットの度合いは、個々の女性で異なります。
またピルにはデメリットがあります。そのデメリットの度合いは、個々の女性で異なります。
メリットとデメリットは個々の女性で異なり、一般論で処することができません。
ライフデザインドラッグ路線下の日本ではこのことが顧慮されなかったために、年齢の高い女性にピルが処方され、ピル史上最悪の副作用被害が生じています。
年齢の高い女性に関して静脈血栓症の頻度が低いなどとは言えません。
「見解」は、現に生じている静脈血栓症の頻発を放置すると宣言しているようなものです。

「2.海外の疫学調査によると、低用量ピルを服用していない女性の静脈血栓症発症のリスクは年間10,000人あたり1-5人であるのに対し、低用量ピル服用女性では3-9人と報告されています。一方、妊娠中および分娩後12週間の静脈血栓症の発症頻度は、それぞれ年間10,000 人あたり5-20 人および40-65人と報告されており、妊娠中や分娩後に比較すると低用量ピルの頻度はかなり低いことがわかっています。」

日本と海外ではピルの使われ方が異なっています。
海外ではピルは避妊薬であり、ピル使用のピークは20歳代前半です。
そのデータを日本の現状に当てはめることはできません。

「3.カナダ産婦人科学会によると、静脈血栓症発症により、致死的な結果となるのは100人あたり1人で、低用量ピル使用中の死亡率は10万人あたり1人以下と報告されています。」

静脈血栓症発症は早期発見と早期治療で重篤化を防ぐことができます。
欧米では、血栓症の初期症状を徹底的に伝えることにより、肺血栓閉塞症の発生を防いでいます。
日本ではこれまで、ピルユーザーに血栓症の初期症状が十分伝えられてきませんでした。
当ブログのアンケートは、その実態を示しています。
理想的な対応が取られた場合の死亡率を示すことにどのような意味があるのか、理解できません。
なお、日本循環器学会等の「肺血栓閉塞症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)」によると、肺血栓閉塞症について未治療での死亡率は30%であるが、十分な治療で2-8%に低下すると記されています(p.7)。

「4.低用量ピルの1周期(4週間)あるいはそれ以上の休薬期間をおき、再度内服を開始すると、使用開始後数ヶ月間の静脈血栓症の高い発症リスクを再びもたらすので、中断しないほうがよいといわれています。」

ピルの服用を中止し自然の月経を待って再開した場合の副作用リスクについて指摘されています。
通常、このような不自然な服用がなされることはありません。
しかし、このような不自然で、血栓症リスクを高める服用法をガイドラインに記し、それに基づく添付文書を放置してきたのは、
ほかならぬ日本産科婦人科学会です。
2日の飲み忘れがあれば服用を中止し月経を待って再開するような服用法は、飲み忘れによる妊娠リスクを下げる効果が皆無であるだけでなく、血栓症リスクも高めます。
そのような服用法を15年間放置してきたことの責任はどうなるのでしょうか。(参照 産婦人科医の犯罪的怠慢)

「5.喫煙、高年齢、肥満は低用量ピルによる静脈血栓症の発症リスクが高いといわれており、注意が必要です。」

血栓症の最大のリスク要因は加齢です。
特に、35歳を過ぎると血栓症リスクは加速度的に上昇します。
ライフデザインドラッグ路線下の日本ではこのことが無視されて、高齢の女性にピルが処方されてきました。
日本のピルユーザーの過半は30歳以上です。
高齢の女性に対するピル処方を奨励するものが、ライフデザインドラッグ路線でした。
女性に対する文書である「見解」で、「注意が必要です」など書くのではなく、それは産婦人科医に対して書くべき事でしょう。

「6.欧米では、静脈血栓症の発症は以下の症状(ACHES)と関連することが報告されていますので、低用量ピル内服中に症状を認める場合には医療機関を受診して下さい。
A:abdominal pain (激しい腹痛)
C:chest pain(激しい胸痛、息苦しい、押しつぶされるような痛み)
H:headache(激しい頭痛)
E:eye / speech problems(見えにくい所がある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、けいれん、意識障害)
S:severe leg pain(ふくらはぎの痛み・むくみ、握ると痛い、赤くなっている)」

当然の内容です。
当然のことが何故これまで行われてこなかったのか、
副作用に対する警戒の弱さとライフデザインドラッグ路線は関係なかったか、
真摯に反省してほしいことです。

最後に、書いておきます。
「見解」は、ピルユーザーの血栓症副作用を想定内の発症と捉えているようです。
しかし、現実には想定をはるかに超える規模で、血栓症副作用が発生していると考えられます。
「見解」はライフデザインドラッグ路線の踏襲を宣言するものであり、
この「見解」は血栓症副作用頻発の現状を継続させるだけの意味しか持ちません。
「見解」は、「低用量ピルおよびその類似薬剤の有益性は大きく、女性のQOL向上に極めて効果的であります」と述べます。
それは、血栓症の発症率が想定内に収まる場合に言えることであって、
想定をはるかに超える血栓症が発現しているならばそのように言うことはできません。

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2014年1月5日日曜日

600人に1人が血栓症に--40歳以上のピル服用について試算

この10年間の日本では、産婦人科医もユーザーもライフデザインドラッグ路線どっぷりになっています。
ライフデザインドラッグ路線の危険性など言えば、白眼視されてしまいそうです。
ピルは本来、安全性の高い薬です。
しかし、ピルが安全性の高い薬なのは、ピルが本来の利用のされ方をされた時にだけ言えることです。
ライフデザインドラッグ路線下のピルは、本来の利用のされ方を逸脱し、
万能サプリのような取り上げ方をされてきました。
それがいかに危険なことか、説明しましょう。

ピルの最大の副作用は血栓症です。
血栓症は欧米のピルユーザーで10万人につき、15-25人に発現します。
日本で欧米と同じ使われ方をすれば、発現率は欧米より低くなるでしょう。
ピルが本来の使われ方をすれば、血栓症は非常に稀と言うことができるでしょう。
ライフデザインドラッグ路線下の日本では、
本来の使われ方がなされていないのに非常に稀という側面だけが強調されてきました。
ピルは一歩本来の使われ方を逸脱すると、
とてつもない頻度で血栓症を引き起こすことは医学常識です。
この医学常識を無視して暴走したのがライフデザインドラッグ路線のピルです。

ヤーズについてバイエル薬品は、142636婦人年に使われた発表してます。
13シート使われると1婦人年と数えます。
ヤーズユーザーの年齢分布は実はよくわかりません。
当ブログのアンケートは回答数が600以上です。
その回答者の年齢属性を見ると、ヤーズユーザーの18.18%が40歳代です。
この年齢比率を用いると、ヤーズは40歳代の女性に対して25931婦人年使われたことになります(142636婦人年x18.18%)。
医薬品医療機器総合機構データベースで、
血栓症の発症が報告されている40歳代のヤーズユーザーの数を数えると、
42件になっています。
25931婦人年に42件の血栓症が発現していることになります。
10万婦人年あたりに換算すると、161.9人になります。
つまり、40歳代の女性10万人が1年間ヤーズを使用すると、
161.9人に血栓症が発症するという計算です。
40歳代の女性10万人に161.9人ということは、
618人に1人が血栓症を発症することを意味します。
実際は報告漏れがあると考えられますから、
300人に1人の発現率になるかもしれません。
これは40歳代のヤーズユーザーについてのデータです。
40歳代の女性でざっと、600人に1人くらいが血栓症を発症するわけです。
50歳代だったらもっとリスクは高くなるでしょう。
この発現率は稀にしかないと言えるレベルではありません。

40歳代の女性がヤーズを服用すれば、600人に1人くらい血栓症を発症します。
ライフデザインドラッグ路線下の日本では、このリスクが無視されてきました。
ヤーズも日本以外では避妊薬です。
若者の切実な避妊要求に応える薬です。
ところが、日本では逆にヤーズを避妊目的に使用してはいけないことになっています。
ヤーズは日本では避妊薬ではなく、月経困難症の治療薬です。
月経困難症の女性は、年齢に関係なくいます。
40歳代の女性も50代歳代の女性もいます。
年齢の高い女性にも無差別的に処方されてきたのが日本の実態です。

避妊薬ピルとしての安全性を引き合いに出しながら、
非避妊薬としてピルを利用するのは詐欺のようなものです。
どうしても、治療薬として年齢の高い女性にピルを使うのならば、
「600人に1人程度の血栓症リスクがある」ときちんと伝えるべきです。
現在、ピルを処方されている年齢の高い女性達は、
年齢によるリスクの高さを伝えられていません。
もし、リスクをきちんと伝えれば、どれほどの女性がピルを選択するでしょうか。
ほとんどいないかもしれません。
ライフデザインドラッグ路線はリスク隠しによって成り立っていると見ることができるように思います。

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2014年1月3日金曜日

ピルによる血栓症発現率の現状を推測する

朝日新聞の報道内容と反応


2013年12月17日、朝日新聞デジタルは「ピルの副作用、血栓に注意を 5年で11人死亡例」と報道しました。
記事には、「医薬品の安全を管理する独立行政法人の集計などによると、2008年~13年上半期に、低用量ピル11品目で、血の固まりが血管をふさぐ血栓の重症例が延べ361件、副作用として報告されていた。死亡は11件・・・」と書かれています。
そして、「日本家族計画協会専務理事の北村邦夫医師によると、・・・利用者は推定100万人に上る」と記事は続きます。
この記述をつなぎ合わせると、母数は5.5百万婦人年で、361件の血栓症発症と読めます。
そうであれば、10万人あたりの年発症率は6.56人となります。
6.56人であれば、ほぼ想定内の発症率です。
2013年12月31日現在の人気コメントベスト10は以下の通りです。

****************以下引用******************

        

  • doroyamadadoroyamada 因果関係不明のものまで数えて1,000,000の105というのをどう見るか。 2013/12/17Add Starmiroooooongrandaoujukimiwa84kathewhatekun_bboruemonaliliputskgctomjmzyukimi1977rgfxrgfxhima-aritailtame
  • sunamandalasunamandala 「ピルを使わなくても10万人あたり年5人の頻度で起きる」 2013/12/17Add Starujukihatekun_bvanillayetimesotaromesotaroririankouririankouririankouskgctomjmzfesterfesteryukimi1977rgfxnaruo38hima-ari
  • VaduzVaduz 煽り過ぎで不愉快になる記事 2013/12/17Add Starujukimiwa84miwa84miwa84aLamesotaromesotaromesotaroaliliputjmzautomaton37564hidamari1993myjiku
  • dankogaidankogai ヴァイアグラで死んだ人はもっと多いはずなのだが、あまりニュースにならないのはなぜだろう? 2013/12/17Add Starskgctomfesterfesternextworkerrgfxnagaimichikomiwa84coolworldmorimori_68
  • festerfesterfesterfester ついこないだは子宮頸がんワクチン、今度はピルか……。とにかく誠実な情報に接したい。 2013/12/17Add StarYou-mey-kawazrgfxautomaton37564miwa84humirokukisiritoorutailtame
  • plutanplutan まあリスクのない薬はないからなあ。 2013/12/17Add Starkoichi99kathewZeppelinNTaliliputguropanhumirokumorimori_68tailtame
  • ricenoodlesricenoodles ホルモン剤は使う前に医師からことこまかに説明を受けると思うんだけどなあ 2013/12/17Add Starnamelesscultmesotaromesotarolongrooflongroofujukimiwa84kathewaliliputskgctom
  • wonodaswonodas 酒のんで死ぬ人よりは少ないだろ またネガティブキャンペーンか 2013/12/17Add Starnao0990y-kawazmiwa84myjikutailtame
  • nao0990nao0990 100万人が利用してるのに「何となく関係ありそう」レベルまで含めて死亡例たった11とは驚くほど無害 2013/12/17Add Starkosiganpacha_09myjikutailtame
  • HarnoncourtHarnoncourt 死亡例だけをセンセーショナルに取り上げすぎ。「血栓の重症例が延べ361件」に着目すべき。その後どうなったかとか、併用薬とか/高リスク者にはアスピリン少量併用で対応できそうな予感もする。 2013/12/17Add Starujukimiwa84miwa84hima-ari



*************引用終わり*********************


記事に対する批判的コメントのオンパレードです。
ベスト10以外からもいくつかピックアップしてみましょう。



***********以下引用***********************
nextworkernextworker これ読んで、むしろ安全だと感じるくらいのリテラシーを持って使ってほしいかな。 2013/12/17Add Starhima-ariy-kawaz


y0m0y0m0 ピルを排除したいキリスト保守団体の陰謀だとおもった 2013/12/17Add Stary-kawazautomaton37564
kisiritoorukisiritooru だからピルは危険なのです!!!ってすぐ扇動される人が今時いるかな。 2013/12/17Add Starhatekun_b


************引用終わり**********************

コメントの中にこれ読んで、むしろ安全だと感じるくらいのリテラシーを持って使ってほしいかな。」があります。
元の朝日の記事を読むと、このコメントが出てくるのも当然です。
そこで問題は、朝日記事の示唆している「10万人あたりの発症率は6.56人」が、
信頼できる数値かどうかです。
この記事に先立ち、バイエル薬品はヤーズについて、
 「推定142,636婦人年に使用され、血栓閉塞症発現例が87例
との発表を行いました。
この数字は10万人あたりの血栓症発現率が60.99人であったことを示しています。
朝日記事の示唆する6.56人とは、実に10倍近い差があります。
製薬メーカーが自社製品の副作用について、わざわざ10倍も誇大な数値を公表するなど考えにくいことです。
朝日記事ではピルユーザー数が100万人と書かれています。
もしそうであるならばピル普及率は約5%程度になりますが、
最も大規模なアンケート調査である「男女の生活と意識に関する調査」(分担研究者 北村邦夫日本家族計画協会家族計画研究センター所長)によれば、
2012年(第6回)のピル普及率は1.9%でした。
また、記事では2008年から5年半の集計とされていますが、
2008年は医薬品医療機器総合機構データベース稼働初年でデータ量は翌年以後の半分程度です。
なお、朝日の報道を後追い報道した読売やNHKでは、
2004年からの血栓症発症数と報じました。
2008年以前の副作用データをどのように調べたのか興味深いところですが(皮肉)、
もしそれが事実ならばピルユーザーの血栓症発症率は10万人中3人程度になり、
まったく問題にならないレベルとなります。
朝日、読売、NHKはピルユーザーの血栓症問題を報道しながら、
100万人が利用してるのに「何となく関係ありそう」レベルまで含めて死亡例たった11とは驚くほど無害」、
と読者・視聴者が思うように誘導しているのかもしれません。

現実はマスコミ報道とかけ離れている可能性


そこで、実態はどうなのか調べてみることにしました。
ヤーズについては、利用者数・副作用数がメーカーから公表されているので、
その数値をそのまま利用しました。
他のピルについては、シェアから利用者数を推測し、医薬品医療機器総合機構データベースの症例数を数えて、それぞれのピル毎の10万人あたり血栓症発症者数を計算しました。
下の図は、その結果の一部を示したものです。
図ではヤーズ以外に、ルナベルとオーソMを取り上げました。
ルナベルを取り上げたのはヤーズと同じ治療専用ピルだからで、
オーソMを取り上げたのはルナベルと同成分同用量のピルだからです。


数値の算出は以下の手順で行いました。
     
集計期間
(年)
シェア
(%)
期間内
出荷数
期間内
婦人年
延べ数
期間内
症例数
10万人あたり
年間発現数
ヤーズ313.91,854,268142,6368760.99
ルナベル57.01,556,340119,7185545.94
オーソM53.0667,00351,308611.69

集計期間(年)
医薬品医療機器総合機構の副作用データは、2008-2013第2四半期までの5.5年分。
ただし、稼働初年度の2008年分はデータ量が翌年以後の約半分であることを勘案し、
実質5年分の副作用データと見なした。
ヤーズについては、2010年11月発売以来3年のデータと見なした。


シェア(%):
当ブログアンケート「今、飲んでるピルの種類は何ですか」の回答657件(2013.2.12-2013.12.31時点)より推計した。
なお、回答数100時点の中間集計と大きな変化は見られなかった。

期間内出荷数:
ヤーズについては、バイエル薬品公表の婦人年延べ数に13か月を乗じた。
ルナベルについては、(ヤーズの期間内出荷数)×(ルナベルのシェア/ヤーズのシェア)×(ルナベルの集計期間/ヤーズの集計期間)で算出した。
オーソMについては、ルナベルと同様。

婦人年延べ数:
ヤーズについてはバイエル薬品の公表数値。
ルナベル・オーソMについては、期間内出荷数/13(月)。

期間内症例数:
ヤーズについてはバイエル薬品の公表数値。
ルナベル・オーソMについては、医薬品医療機器総合機構の副作用データベースの症例数(参照 ルナベル血栓症関係データ オーソM血栓関係副作用データ)。
脳梗塞、心筋梗塞、網膜閉塞が疑われる視力低下などは除外しています。

10万人あたり年間発現数:
(期間内症例数)×(100000/期間内婦人年延べ数)。
なお、期間内婦人年について期間内の年平均値と期間内症例数の年平均値を求め、
10万人あたりの換算値を求めても結果は同じとなる。
たとえば、ヤーズの年平均症例数は29、年平均婦人年は47545であり、
10万人あたりに換算すると60.99となる。


欧米人のピルユーザーで血栓症発現率は10万人中15人から25人程度です。
日本人では血栓症素因の遺伝的保有者がほぼないため、
日本のピルユーザーの血栓症発現率は数人程度と想定されていました。
グラフの日本人想定値①は三宅婦人科内科医院によるもので、
日本人想定値②は「ピルとのつきあい方」によるものです。
図からわかるように、ヤーズ・ルナベルの血栓症発現率は想定をはるかに超え、
欧米人のピルユーザーよりさらに高くなっています。
オーソMについては、ほぼ欧米人並みの発症率となっています。
ここで注目したいのは、オーソMとルナベルの間に4倍もの差があることです。
オーソMとルナベルは同成分同用量のピルです。
血栓症副作用発現率に差が出ることは考えられません。
両剤ユーザーの年齢構成について調べましたが、
大きな差はなくほとんど同じでした。
両剤の差についての私見は以下の通りです。
大学病院や公立病院の中には、自由診療の避妊ピル(オーソM)を扱わず、
保険診療のピル(ルナベル・ヤーズ)だけを扱っている病院があります。
大学病院や公立病院では副作用報告をこまめに行う傾向があり、
そのためにルナベルの副作用発現率がオーソMより高くなっているかもしれません。
これは推測ですが、何らかの事情でオーソMの副作用報告率がルナベルより低いために、
オーソM副作用発現率がルナベルより低くなっていると考えられます。
ここで指摘しておきたいことは、医薬品医療機器総合機構データベースの症例は、
あくまで報告された症例であって発生した副作用の一部に過ぎないことです。
実際の副作用発生件数は、報告された件数より多いことはあっても少ないことはありません。
このように考えると、オーソMの副作用発生件数は、
少なくともルナベル並みであると想像できます。
そのルナベルやヤーズも全ての副作用が報告されているわけではありませんから、
グラフの数値よりもさらに高い副作用が発生している可能性があります。
ルナベルやオーソMは血栓症を起こしやすいピルでも起こしにくいピルでもなく、
平均的なピルです。
日本のピル全体についてみても、ルナベルなみの血栓症副作用が発生している可能性があるでしょう。
仮にルナベルの副作用報告率が50パーセントなら、実際には10万人あたり90人もの血栓症副作用が発生していることになります。
読売、NHKは10年間の血栓症発症と報じましたが、
実際には1年間で361件以上の血栓症が発症している恐れがあります。

マスコミ報道の虚々実々


朝日新聞報道の前に、バイエル薬品はヤーズでの血栓症発症状況を2度にわたって公表しました。
この発表は製薬会社として当然と言えば当然のことですが、
高く評価できる公表でした。
私の知る限りでは、一般紙はこのバイエル薬品の発表を一切取り上げることなく、完全無視し続けました。
バイエル薬品の発表には母数も明示されていましたから、
上でみたはてなブックマークのような反応が出る余地はありませんでした。
当ブログはヤーズの血栓症発症率が尋常でないことを指摘し、
その原因が「ライフデザインドラッグとしてのピル」路線による年齢の高い女性に対するピルの無差別的処方にあると論じました。
その後、朝日新聞の報道がなされました。
朝日新聞の記事は記者が医薬品医療機器総合機構のデータベースを丹念に調べれば、書けなくもありません。
しかし、データベースを丹念に調べるにはそれなりの知識が必要ですし、
もしそれだけの知識がある記者であればあのような平板な記事は書かないでしょう。
朝日新聞の記事は、医薬品医療機器総合機構ないしその周辺からの情報提供を受け売りして書かれた記事と思われます。
情報提供者には、どのような意図があったのでしょうか。
血栓症発症率が尋常でないレベルになっていることを知らせるのではなく、
逆にそのことを隠蔽する意図があったのかもしれません。
少なくとも、はてなブックマークの反応を見れば、
「ピルで血栓症副作用が出ているけれども全く問題ないレベル」とのメッセージをこの記事が伝えたことがわかります。
朝日の記事を読売、NHKが後追いします。
朝日記事で「2008年から」とあったのに、
なぜか後追い記事では2004年からとか10年間とか、
データ期間が長くなり、「ピルで血栓症副作用が出ているけれども全く問題ないレベル」とのメッセージをより強く伝えています。
朝日、読売、NHKへの情報提供者は同一人物でしょう。
その人物は、「全く問題ないレベル」とのメッセージを伝える明確な意図があり、
それを強調する方向で提供情報の内容を変えていったのでしょう。
朝日の報道は不安を煽っているとの見方が多数を占めています。
しかし、私の見方は全く違います。
朝日の報道は不安を煽るどころか、事実を隠蔽し不安をかき消す内容になっているように思えます。
朝日のミスリードにまんまと乗せられた人達が、
ミスリードの輪を大きくしている滑稽な光景があるように見えるのです。

ライフデザインドラッグの10年が作り出した危険な状況


バイエル薬品はヤーズの副作用の発症状況について公表しました。
しかも、2度にわたってです。
かなり、異例なことと言えるでしょう。
それはヤーズユーザーに対する注意喚起の呼びかけでしたが、
日本の全ピルユーザーへの呼びかけととらえるべきでした。
少なくとも私はそのように受け止め、
日本のピルの異常な状況について書いてきました。
しかし、2004年以来の「ライフデザインドラッグとしてのピル」路線の中で、
バイエル薬品の発表の意味が理解されない状況が作られていたのではないかと思います。
異常とも言える高い血栓症発現率は、ライフデザインドラッグとして位置づけられた日本のピルが、年齢の高い女性に安易に処方されたからだと論じました(参照 ルナベルでも死者 重篤副作用は40歳代に集中、人為薬害の様相)
ピルを非避妊薬として処方すればおびただしい副作用被害が生じることは自明の理であり、
世界の各国政府が頑として受け入れなかったことです(参照 「ピルは血栓症予防薬」という意外な観点)
まともな産婦人科医ならライフデザインドラッグ路線による副作用の頻発は予見できたはずで、
地域で地道な医療活動を続けている産婦人科医の中には慎重な対応を取った医師も少数ながらいました。
しかし、大勢はライフデザインドラッグ路線にのめり込んでいきました。
その一つの要因は薬価政策です。
ルナベルの本来の価格は缶ジュースほどの価格ですが、
ライフデザインドラッグ路線に誘導するために7000円弱という法外な薬価が設定されました。
ルナベルは40年も前に開発された薬で、既存のオーソMと同一成分同一用量の薬です。
とても新薬などと言えない代物ですが、それを無理矢理新薬扱いにし破格の薬価を付けました。
ルナベル・ヤーズの累計売上げ(薬価ベース)は、1500億円にも達します。
適正薬価なら数十億円の薬が1500億円の売上げになっているのです。
その差額はメーカーだけでなく医療機関や広告業界まで潤しています(参照 「ルナベル・ヤーズの錬金術」)
ステマ風味な言説が氾濫し、ライフデザインドラッグ路線を疑問視する「ピルとのつきあい方」の粛正活動を行う団体まで出てくる背景です。
ともあれ、ライフデザインドラッグ路線が業界に莫大な利益をもたらしてきたことは紛れもない事実です。
現在の日本で生じているピルの血栓症副作用頻発問題は、ライフデザインドラッグ路線が引き起こしていることは明らかです。
しかし、メーカーも医療機関(医師)も問題の本質について言及することはありません。
それどころか、露骨に問題の隠蔽を画策する団体まであります。
喫煙や妊娠どころでない異常な頻度で血栓症が生じていることが問題です。
ピルによる血栓症副作用が異常な頻度で生じていることが問題であるのに、
喫煙や妊娠より低いなどという一般論に話をすり替えています。
そして、その異常な副作用頻度は彼らが宣伝してきたライフデザインドラッグ路線によって起きたものであるし、
まさに「きちんと医療機関で受診し、定期的な検診、医師との面談を継続していく」中で起きたものです。
医療機関の安易な処方が問題であるのに、「個人輸入などの安易な服用」で問題が生じているかのように話をすり替えています。
これほど露骨でなくても、ライフデザインドラッグ路線の人々からは同工異曲の言説が流されています。

事実は一つ


事実は一つです。
日本のピルで高い血栓症副作用が生じているのか、それとも血栓症発生の頻度は想定内で許容できるレベルなのか。
マスコミが誘導するように、日本のピルで血栓症の副作用はあるが、
それは問題になるほどの頻度ではない。
問題になるような頻度で血栓症が発症しているわけではない。
もしそうであれば、当ブログがしばしば指摘してきたことは杞憂であり、
いたずらにピルユーザーに不安を抱かせる何やら陰謀論めいた言説となります。
ピルユーザー数、血栓症発症数のデータが不完全なので、
日本のピルユーザーの血栓症発症率が想定範囲内である可能性も皆無ではありません。
しかし、利用できるデータを丹念に見ていくと、
日本のピルでとてつもなく高い頻度で血栓症副作用が生じていると見る方が合理的だと思います。下の図を見て下さい。

日本のピルユーザーの過半は30歳以上の女性で、副作用は30歳40歳50歳代の女性に集中しています(詳しくはルナベルでも死者 重篤副作用は40歳代に集中、人為薬害の様相参照)。
日本にはピルユーザーに高い頻度で血栓症が発症する条件があり、
データは実際に高い頻度で血栓症が発症していることを強く示唆しています。
少なくとも、血栓症の頻発を疑う合理的根拠があります。
日本のピルユーザーにとてつもなく高い頻度で血栓症の副作用が発生しているのではないかと疑っているのは、現在私一人かもしれません。
超少数意見です。
どちらの見方が正しいのか、明らかになる日が必ず来ます。
その日まで、黙して見守るのが大人なのかもしれません。
しかし、私は大人であろうと思わない人です。
血栓症の副作用で辛い思いをするピルユーサーが続出するかもしれないのに、
黙することはピルユーザーを裏切ることになる、
と私は考えます。

お願いしたいこと

朝日新聞の記事に対して「100万人が利用してるのに「何となく関係ありそう」レベルまで含めて死亡例たった11とは驚くほど無害」とコメントしている人がいます。
朝日新聞の記事はこのような感想を誘導する内容になっていますし、
読売やNHKの報道はさらにより強くそのような感想を誘導する内容になっています。
また、ある研究者はピルが50歳代の女性に処方されることはないとの思い込みから、
50歳代の死亡者2人はピルによるものではないと断定しています。
はてなブックマークのコメントやブログの断定記述はとても危険です。
想い出してほしいことがあります。
チッソの工場から排出されていた水銀そのものには毒性はありません。
その工場廃液は安全との思い込みが水俣病の被害を拡大させました。
薬害事件を引き起こした薬はどれも安全と思われていた薬です。
安全との思い込みが現実に生じていた副作用被害を見る目を曇らせました
その結果、対応が後手後手になることを繰り返してきました。
ピルは本来安全性の高い薬です。
そのため、安全との思い込みが生じやすい事情があります。
しかし、ライフデザインドラッグなどと言って日本のようなピルの使われ方がなされている国はどこにもありません。
ライフデザインドラッグ路線下でピルが安全な薬であり続けることができるとは思えなかったので、
「ピルとのつきあい方」を続けることを躊躇しました。
10年前のことです。
ピルは本来安全性の高い薬と思っていますが、
副作用に対する注意の呼びかけには誰よりも力を入れてきました。
ところが、私から見れば危ないライフデザインドラッグ路線下では、
かえってピルの安全性だけが強調される傾向が生じました(参照 血栓症初期症状を説明している医師は21%)。
安全神話が蔓延していると言ってもよい状況です。
安全神話を信じるか信じないかは、それぞれの判断です。
安全神話を信じる人に信じるなとは言いません。
ただ切にお願いしたいことがあります。
安全神話の色眼鏡を通して日本で起きている現実を見るのは止してほしい。
そして色眼鏡で見た事実を現実であるかのような言説を振りまくのは止してほしい。
もし、現在の日本で深刻な副作用問題が生じているとすると、
その言説は知らず知らずに副作用隠しに荷担することになっています。
副作用隠しに荷担することが以下のような結果に繋がることをよく考えてほしいのです。
①副作用被害を拡大させる
副作用発生が想定内であるとすれば、ライフデザインドラッグ路線は踏襲されます。
30歳以上の女性にも無差別的にピルが処方され続け、
副作用で辛い思いをする女性が大量に生み出されます。
②副作用女性のアラ探し
公害事件でも薬害事件でも、それが認知されるまでの間、被害者の個人的責任があげつらわれました。
はてなブックマークの反応にも、
発症例の喫煙率はどんなもんなんだろか。
ピル飲んで血栓になるのはタバコ吸ってるからじゃなくて?
などがあります。
安全神話はその裏返しとして、被害者の個人的責任を問題とする傾向があります。
被害者は二重に辛い思いをすることになります。
③責任の不明確化
水俣病やサリドマイドは通常現れない身体的症状ですが、
ピルにはそのような副作用はありません。
タバコは肺がんの罹患率を高めますが、タバコを吸わない人も肺がんになります。
肺がんになった喫煙者の個人個人について、タバコと肺がんの因果関係は証明できません。
この種の副作用が裁判で争われると、
被告は因果関係の証明がないと決まって主張します。
ピルと血栓の関係はタバコと肺がんの関係に似ています。
ピルを服用しなくても血栓ができることがあります。
異常な頻度でピルユーザーに血栓症が発生しても、
個々の女性について因果関係を証明することはできません。
原告側は副作用症状の発生頻度を問題とします。
ところが、はてなブックマークの反応には、
「因果関係不明のものまで数えて・・・」
「ピルを使わなくても10万人あたり年5人の頻度で起きる」
「まあリスクのない薬はないからなあ。」
などが見られます。
裁判になれば被告側が言いそうな主張です。
知らず知らずに免責発言になっていないか、考えるべきだと思います。
最後に心ある方々にお願いしたいことがあります。
私は現在の日本でとてつもない頻度でピルユーザーの血栓症副作用が生じていると見ています。
定期的な検診や医師との面談で血栓症の発症率をいくぶんか下げることができるでしょう。
しかし、それは問題の根本的解決にはなりません。
ライフデザインドラッグ路線がある限り、年齢の高い女性にもピルは処方され続けます。
年齢の高い女性にピルが無差別的に処方される限り、
血栓症の副作用に苦しむ女性が生み出され続けます。
ピルのリスクの度合いは、それぞれの女性によって異なります。
自分のリスクをよく知り、そのリスクは受け入れることのできるものかどうか、
自身で判断してほしいのです。
欧米ではピルのボストン茶会事件を契機に、
ピルは女性が選択する薬に大きく変わっていきました。
メリットとデメリットは個々の女性によって異なるし、
選択の判断には価値観が介在するからです。
ライフデザインドラッグ路線では、判断し選択するのは女性ではなく医師になっています。
50歳代の「月経困難症」の女性にピルが処方され、服用開始後時を経ず血栓症を発症した例もあります(参照 ルナベルでも死者 重篤副作用は40歳代に集中、人為薬害の様相)。
医師からすれば、月経困難を訴える女性がいて月経困難症に対する効能で認可されたビルを処方することに何の問題もない、ことになります。
ピルが諸外国と同様に「選ぶ薬」であったなら、
50歳代の女性がピルを選んだとは思えません。
ピルは女性が主体的に選択する薬です。
ピルが最良の選択であるか、納得できる選択であるか、
考える女性になってほしいのです。
ピルが日本の女性に受け入れられるために、ピルが安全な薬を取り戻すために、
そしてライフデザインドラッグ路線を克服するために必要なのは、
自立的女性です。
このことが少しでも理解されることを願っています。

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