朝日新聞の報道内容と反応
************引用終わり**********************
コメントの中に「
そこで問題は、朝日記事の示唆している「10万人あたりの発症率は6.56人」が、
信頼できる数値かどうかです。
この記事に先立ち、バイエル薬品はヤーズについて、
「推定142,636婦人年に使用され、血栓閉塞症発現例が87例」
との発表を行いました。
この数字は10万人あたりの血栓症発現率が60.99人であったことを示しています。
朝日記事の示唆する6.56人とは、実に10倍近い差があります。
製薬メーカーが自社製品の副作用について、わざわざ10倍も誇大な数値を公表するなど考えにくいことです。
朝日記事ではピルユーザー数が100万人と書かれています。
もしそうであるならばピル普及率は約5%程度になりますが、
また、記事では2008年から5年半の集計とされていますが、
2008年は医薬品医療機器総合機構データベース稼働初年でデータ量は翌年以後の半分程度です。
なお、朝日の報道を後追い報道した
読売やNHKでは、
2004年からの血栓症発症数と報じました。
2008年以前の副作用データをどのように調べたのか興味深いところですが(皮肉)、
もしそれが事実ならばピルユーザーの血栓症発症率は10万人中3人程度になり、
まったく問題にならないレベルとなります。
朝日、読売、NHKはピルユーザーの血栓症問題を報道しながら、
「
と読者・視聴者が思うように誘導しているのかもしれません。
現実はマスコミ報道とかけ離れている可能性
そこで、実態はどうなのか調べてみることにしました。
ヤーズについては、利用者数・副作用数がメーカーから公表されているので、
その数値をそのまま利用しました。
他のピルについては、シェアから利用者数を推測し、医薬品医療機器総合機構データベースの症例数を数えて、それぞれのピル毎の10万人あたり血栓症発症者数を計算しました。
下の図は、その結果の一部を示したものです。
図ではヤーズ以外に、ルナベルとオーソMを取り上げました。
ルナベルを取り上げたのはヤーズと同じ治療専用ピルだからで、
オーソMを取り上げたのはルナベルと同成分同用量のピルだからです。
数値の算出は以下の手順で行いました。
| 集計期間
(年) | シェア
(%) | 期間内
出荷数 | 期間内
婦人年
延べ数 | 期間内
症例数 | 10万人あたり
年間発現数 |
ヤーズ | 3 | 13.9 | 1,854,268 | 142,636 | 87 | 60.99 |
ルナベル | 5 | 7.0 | 1,556,340 | 119,718 | 55 | 45.94 |
オーソM | 5 | 3.0 | 667,003 | 51,308 | 6 | 11.69 |
集計期間(年):
医薬品医療機器総合機構の副作用データは、2008-2013第2四半期までの5.5年分。
ただし、稼働初年度の2008年分はデータ量が翌年以後の約半分であることを勘案し、
実質5年分の副作用データと見なした。
ヤーズについては、2010年11月発売以来3年のデータと見なした。
シェア(%):
当ブログアンケート「今、飲んでるピルの種類は何ですか」の回答657件(2013.2.12-2013.12.31時点)より推計した。
なお、回答数100時点の中間集計と大きな変化は見られなかった。
期間内出荷数:
ヤーズについては、バイエル薬品公表の婦人年延べ数に13か月を乗じた。
ルナベルについては、(ヤーズの期間内出荷数)×(ルナベルのシェア/ヤーズのシェア)×(ルナベルの集計期間/ヤーズの集計期間)で算出した。
オーソMについては、ルナベルと同様。
婦人年延べ数:
ヤーズについてはバイエル薬品の公表数値。
ルナベル・オーソMについては、期間内出荷数/13(月)。
期間内症例数:
ヤーズについてはバイエル薬品の公表数値。
ルナベル・オーソMについては、医薬品医療機器総合機構の副作用データベースの症例数(参照 ルナベル血栓症関係データ オーソM血栓関係副作用データ)。
脳梗塞、心筋梗塞、網膜閉塞が疑われる視力低下などは除外しています。
10万人あたり年間発現数:
(期間内症例数)×(100000/期間内婦人年延べ数)。
なお、期間内婦人年について期間内の年平均値と期間内症例数の年平均値を求め、
10万人あたりの換算値を求めても結果は同じとなる。
たとえば、ヤーズの年平均症例数は29、年平均婦人年は47545であり、
10万人あたりに換算すると60.99となる。
|
欧米人のピルユーザーで血栓症発現率は10万人中15人から25人程度です。
日本人では血栓症素因の遺伝的保有者がほぼないため、
日本のピルユーザーの血栓症発現率は数人程度と想定されていました。
図からわかるように、ヤーズ・ルナベルの血栓症発現率は想定をはるかに超え、
欧米人のピルユーザーよりさらに高くなっています。
オーソMについては、ほぼ欧米人並みの発症率となっています。
ここで注目したいのは、オーソMとルナベルの間に4倍もの差があることです。
オーソMとルナベルは同成分同用量のピルです。
血栓症副作用発現率に差が出ることは考えられません。
両剤ユーザーの年齢構成について調べましたが、
大きな差はなくほとんど同じでした。
両剤の差についての私見は以下の通りです。
これは推測ですが、何らかの事情でオーソMの副作用報告率がルナベルより低いために、
オーソM副作用発現率がルナベルより低くなっていると考えられます。
ここで指摘しておきたいことは、医薬品医療機器総合機構データベースの症例は、
あくまで報告された症例であって発生した副作用の一部に過ぎないことです。
実際の副作用発生件数は、報告された件数より多いことはあっても少ないことはありません。
このように考えると、オーソMの副作用発生件数は、
少なくともルナベル並みであると想像できます。
そのルナベルやヤーズも全ての副作用が報告されているわけではありませんから、
グラフの数値よりもさらに高い副作用が発生している可能性があります。
ルナベルやオーソMは血栓症を起こしやすいピルでも起こしにくいピルでもなく、
平均的なピルです。
日本のピル全体についてみても、ルナベルなみの血栓症副作用が発生している可能性があるでしょう。
仮にルナベルの副作用報告率が50パーセントなら、実際には10万人あたり90人もの血栓症副作用が発生していることになります。
読売、NHKは10年間の血栓症発症と報じましたが、
実際には1年間で361件以上の血栓症が発症している恐れがあります。
マスコミ報道の虚々実々
朝日新聞報道の前に、バイエル薬品はヤーズでの血栓症発症状況を2度にわたって公表しました。
この発表は製薬会社として当然と言えば当然のことですが、
高く評価できる公表でした。
私の知る限りでは、一般紙はこのバイエル薬品の発表を一切取り上げることなく、完全無視し続けました。
バイエル薬品の発表には母数も明示されていましたから、
上でみたはてなブックマークのような反応が出る余地はありませんでした。
当ブログはヤーズの血栓症発症率が尋常でないことを指摘し、
その原因が「ライフデザインドラッグとしてのピル」路線による年齢の高い女性に対するピルの無差別的処方にあると論じました。
その後、朝日新聞の報道がなされました。
朝日新聞の記事は記者が医薬品医療機器総合機構のデータベースを丹念に調べれば、書けなくもありません。
しかし、データベースを丹念に調べるにはそれなりの知識が必要ですし、
もしそれだけの知識がある記者であればあのような平板な記事は書かないでしょう。
朝日新聞の記事は、医薬品医療機器総合機構ないしその周辺からの情報提供を受け売りして書かれた記事と思われます。
情報提供者には、どのような意図があったのでしょうか。
血栓症発症率が尋常でないレベルになっていることを知らせるのではなく、
逆にそのことを隠蔽する意図があったのかもしれません。
少なくとも、はてなブックマークの反応を見れば、
「ピルで血栓症副作用が出ているけれども全く問題ないレベル」とのメッセージをこの記事が伝えたことがわかります。
朝日の記事を読売、NHKが後追いします。
朝日記事で「2008年から」とあったのに、
なぜか後追い記事では2004年からとか10年間とか、
データ期間が長くなり、「ピルで血栓症副作用が出ているけれども全く問題ないレベル」とのメッセージをより強く伝えています。
朝日、読売、NHKへの情報提供者は同一人物でしょう。
その人物は、「全く問題ないレベル」とのメッセージを伝える明確な意図があり、
それを強調する方向で提供情報の内容を変えていったのでしょう。
ライフデザインドラッグの10年が作り出した危険な状況
バイエル薬品はヤーズの副作用の発症状況について公表しました。
しかも、2度にわたってです。
かなり、異例なことと言えるでしょう。
それはヤーズユーザーに対する注意喚起の呼びかけでしたが、
日本の全ピルユーザーへの呼びかけととらえるべきでした。
少なくとも私はそのように受け止め、
日本のピルの異常な状況について書いてきました。
しかし、2004年以来の「ライフデザインドラッグとしてのピル」路線の中で、
バイエル薬品の発表の意味が理解されない状況が作られていたのではないかと思います。
ピルを非避妊薬として処方すればおびただしい副作用被害が生じることは自明の理であり、
まともな産婦人科医ならライフデザインドラッグ路線による副作用の頻発は予見できたはずで、
地域で地道な医療活動を続けている産婦人科医の中には慎重な対応を取った医師も少数ながらいました。
しかし、大勢はライフデザインドラッグ路線にのめり込んでいきました。
その一つの要因は薬価政策です。
ルナベルの本来の価格は缶ジュースほどの価格ですが、
ライフデザインドラッグ路線に誘導するために7000円弱という法外な薬価が設定されました。
ルナベルは40年も前に開発された薬で、既存のオーソMと同一成分同一用量の薬です。
とても新薬などと言えない代物ですが、それを無理矢理新薬扱いにし破格の薬価を付けました。
ルナベル・ヤーズの累計売上げ(薬価ベース)は、1500億円にも達します。
適正薬価なら数十億円の薬が1500億円の売上げになっているのです。
ステマ風味な言説が氾濫し、ライフデザインドラッグ路線を疑問視する「ピルとのつきあい方」の粛正活動を行う団体まで出てくる背景です。
ともあれ、ライフデザインドラッグ路線が業界に莫大な利益をもたらしてきたことは紛れもない事実です。
現在の日本で生じているピルの血栓症副作用頻発問題は、ライフデザインドラッグ路線が引き起こしていることは明らかです。
しかし、メーカーも医療機関(医師)も問題の本質について言及することはありません。
それどころか、露骨に問題の隠蔽を画策する団体まであります。
喫煙や妊娠どころでない異常な頻度で血栓症が生じていることが問題です。
ピルによる血栓症副作用が異常な頻度で生じていることが問題であるのに、
喫煙や妊娠より低いなどという一般論に話をすり替えています。
そして、その異常な副作用頻度は彼らが宣伝してきたライフデザインドラッグ路線によって起きたものであるし、
まさに「きちんと医療機関で受診し、定期的な検診、医師との面談を継続していく」中で起きたものです。
医療機関の安易な処方が問題であるのに、「個人輸入などの安易な服用」で問題が生じているかのように話をすり替えています。
これほど露骨でなくても、ライフデザインドラッグ路線の人々からは同工異曲の言説が流されています。
事実は一つ
事実は一つです。
日本のピルで高い血栓症副作用が生じているのか、それとも血栓症発生の頻度は想定内で許容できるレベルなのか。
マスコミが誘導するように、日本のピルで血栓症の副作用はあるが、
それは問題になるほどの頻度ではない。
問題になるような頻度で血栓症が発症しているわけではない。
もしそうであれば、当ブログがしばしば指摘してきたことは杞憂であり、
いたずらにピルユーザーに不安を抱かせる何やら陰謀論めいた言説となります。
ピルユーザー数、血栓症発症数のデータが不完全なので、
日本のピルユーザーの血栓症発症率が想定範囲内である可能性も皆無ではありません。
しかし、利用できるデータを丹念に見ていくと、
日本のピルでとてつもなく高い頻度で血栓症副作用が生じていると見る方が合理的だと思います。下の図を見て下さい。
日本にはピルユーザーに高い頻度で血栓症が発症する条件があり、
データは実際に高い頻度で血栓症が発症していることを強く示唆しています。
少なくとも、血栓症の頻発を疑う合理的根拠があります。
日本のピルユーザーにとてつもなく高い頻度で血栓症の副作用が発生しているのではないかと疑っているのは、現在私一人かもしれません。
超少数意見です。
どちらの見方が正しいのか、明らかになる日が必ず来ます。
その日まで、黙して見守るのが大人なのかもしれません。
しかし、私は大人であろうと思わない人です。
血栓症の副作用で辛い思いをするピルユーサーが続出するかもしれないのに、
黙することはピルユーザーを裏切ることになる、
と私は考えます。
お願いしたいこと
朝日新聞の記事に対して「100万人が利用してるのに「何となく関係ありそう」レベルまで含めて死亡例たった11とは驚くほど無害」とコメントしている人がいます。
朝日新聞の記事はこのような感想を誘導する内容になっていますし、
読売やNHKの報道はさらにより強くそのような感想を誘導する内容になっています。
また、ある研究者はピルが50歳代の女性に処方されることはないとの思い込みから、
50歳代の死亡者2人はピルによるものではないと断定しています。
はてなブックマークのコメントやブログの断定記述はとても危険です。
想い出してほしいことがあります。
チッソの工場から排出されていた水銀そのものには毒性はありません。
その工場廃液は安全との思い込みが水俣病の被害を拡大させました。
薬害事件を引き起こした薬はどれも安全と思われていた薬です。
安全との思い込みが現実に生じていた副作用被害を見る目を曇らせました。
その結果、対応が後手後手になることを繰り返してきました。
ピルは本来安全性の高い薬です。
そのため、安全との思い込みが生じやすい事情があります。
しかし、ライフデザインドラッグなどと言って日本のようなピルの使われ方がなされている国はどこにもありません。
ライフデザインドラッグ路線下でピルが安全な薬であり続けることができるとは思えなかったので、
「ピルとのつきあい方」を続けることを躊躇しました。
10年前のことです。
ピルは本来安全性の高い薬と思っていますが、
副作用に対する注意の呼びかけには誰よりも力を入れてきました。
ところが、私から見れば危ないライフデザインドラッグ路線下では、
安全神話が蔓延していると言ってもよい状況です。
安全神話を信じるか信じないかは、それぞれの判断です。
安全神話を信じる人に信じるなとは言いません。
ただ切にお願いしたいことがあります。
安全神話の色眼鏡を通して日本で起きている現実を見るのは止してほしい。
そして色眼鏡で見た事実を現実であるかのような言説を振りまくのは止してほしい。
もし、現在の日本で深刻な副作用問題が生じているとすると、
その言説は知らず知らずに副作用隠しに荷担することになっています。
副作用隠しに荷担することが以下のような結果に繋がることをよく考えてほしいのです。
①副作用被害を拡大させる
副作用発生が想定内であるとすれば、ライフデザインドラッグ路線は踏襲されます。
30歳以上の女性にも無差別的にピルが処方され続け、
副作用で辛い思いをする女性が大量に生み出されます。
②副作用女性のアラ探し
公害事件でも薬害事件でも、それが認知されるまでの間、被害者の個人的責任があげつらわれました。
はてなブックマークの反応にも、
「発症例の喫煙率はどんなもんなんだろか。」
「ピル飲んで血栓になるのはタバコ吸ってるからじゃなくて?」
などがあります。
安全神話はその裏返しとして、被害者の個人的責任を問題とする傾向があります。
被害者は二重に辛い思いをすることになります。
③責任の不明確化
水俣病やサリドマイドは通常現れない身体的症状ですが、
ピルにはそのような副作用はありません。
タバコは肺がんの罹患率を高めますが、タバコを吸わない人も肺がんになります。
肺がんになった喫煙者の個人個人について、タバコと肺がんの因果関係は証明できません。
この種の副作用が裁判で争われると、
被告は因果関係の証明がないと決まって主張します。
ピルと血栓の関係はタバコと肺がんの関係に似ています。
ピルを服用しなくても血栓ができることがあります。
異常な頻度でピルユーザーに血栓症が発生しても、
個々の女性について因果関係を証明することはできません。
原告側は副作用症状の発生頻度を問題とします。
ところが、はてなブックマークの反応には、
「因果関係不明のものまで数えて・・・」
「ピルを使わなくても10万人あたり年5人の頻度で起きる」
「まあリスクのない薬はないからなあ。」
などが見られます。
裁判になれば被告側が言いそうな主張です。
知らず知らずに免責発言になっていないか、考えるべきだと思います。
最後に心ある方々にお願いしたいことがあります。
私は現在の日本でとてつもない頻度でピルユーザーの血栓症副作用が生じていると見ています。
定期的な検診や医師との面談で血栓症の発症率をいくぶんか下げることができるでしょう。
しかし、それは問題の根本的解決にはなりません。
ライフデザインドラッグ路線がある限り、年齢の高い女性にもピルは処方され続けます。
年齢の高い女性にピルが無差別的に処方される限り、
血栓症の副作用に苦しむ女性が生み出され続けます。
ピルのリスクの度合いは、それぞれの女性によって異なります。
自分のリスクをよく知り、そのリスクは受け入れることのできるものかどうか、
自身で判断してほしいのです。
欧米ではピルのボストン茶会事件を契機に、
ピルは女性が選択する薬に大きく変わっていきました。
メリットとデメリットは個々の女性によって異なるし、
選択の判断には価値観が介在するからです。
ライフデザインドラッグ路線では、判断し選択するのは女性ではなく医師になっています。
50歳代の「月経困難症」の女性にピルが処方され、服用開始後時を経ず血栓症を発症した例もあります(参照
ルナベルでも死者 重篤副作用は40歳代に集中、人為薬害の様相)。
医師からすれば、月経困難を訴える女性がいて月経困難症に対する効能で認可されたビルを処方することに何の問題もない、ことになります。
ピルが諸外国と同様に「選ぶ薬」であったなら、
50歳代の女性がピルを選んだとは思えません。
ピルは女性が主体的に選択する薬です。
ピルが最良の選択であるか、納得できる選択であるか、
考える女性になってほしいのです。
ピルが日本の女性に受け入れられるために、ピルが安全な薬を取り戻すために、
そしてライフデザインドラッグ路線を克服するために必要なのは、
自立的女性です。
このことが少しでも理解されることを願っています。
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