2013年8月25日日曜日

ヤーズの血栓症死亡例について思う事

亡くなられた女性には、心から哀悼の意を捧げたいと思います。

この件については残念に思うことがあります。
同時に、心配なこともあります。
この際、思うところを書き留めておくことにします。

8月7日、ヤーズ配合錠の発売元であるバイエル薬品は、
死亡例を公表するとともに注意喚起を呼びかけました(PDF 新しいウィンドウで開く)。
まず、この文書内容から見ていくことにします。
同文書では、「推定142,636婦人年に使用され、血栓閉塞症発現例が87例」と記されています。
この数値を単純に割り算すると、10万人に60人の発症となります。
私は、「(日本の)ピルユーザーの血栓症発症は10万人につき1.5人から2.5人程度」になるのではないかと推測しました(血栓症の頻度)。
10万人に60人の発症だと、私の推定値の約10倍という驚くべき数字です。
日本の妊娠期の発症が10万人につき20人程度なので、
その約3倍という数値も驚きです。
ピルの服用による血栓症リスクは妊娠による血栓症リスクより低い、
という常識を覆す数値になっているのです。
ヤーズが最大4倍程度血栓症を引き起こしやすいピルだとしても、
やはり高すぎる数値ではないかと感じます。
ヤーズユーザーのほとんどがピルを始めて服用するユーザーである点がバイアスとなっている可能性は排除できませんが、
ピルの処方実態が関係しているのではないかと疑っています。

私が気になっているピルの処方実態は、2点です。
第1点は、年齢です。
ピルユーザーの年齢分布についての調査を知らないので、
当ブログのアンケートで年齢分布を推測しています。
日本のピルユーザーは30歳代が最も多く、
30歳以上のユーザーが過半数を占めていると思われます。
欧米でピルユーザーのピークは20歳前後です。
欧米でピルを卒業する年齢の女性が、日本ではピルを始めているのです。
日本のピルユーザーが高年齢女性に偏るのにはいくつも理由があります。
日本では金銭的にも時間的にもゆとりのある女性でないと、
ピルを使用しにくい環境があります。
ピルは避妊薬としてではなく治療薬として宣伝されています。
ヤーズは治療薬そのもので避妊効能を持ちません。
ピルが治療薬として位置づけられると、
年齢が進んでもリスクより治療メリットの方が大きいと判断されるでしょう。
さらに、日本には避妊薬として認可されているミニピルがありません。
欧米で35歳を過ぎてピルを続けたい女性は、
ミニピルへの切り換えを検討します。
さらに日本では「ライフ・デザイン・ドラッグ」などの触れ込みで、
高年齢女性にピルが奨められたりしています。
更年期症状の改善にピルが処方される例さえあります。

第2点は、処方手順です。
1999年のガイドラインはあり得ない厳重な処方前検査を推奨しました。
2006年のガイドラインは一転して体重と血圧測定でよいとしました。
現在、体重と血圧測定でピルを処方されるケースが多くなっています。
その結果、
「血栓性静脈炎、肺血栓症、脳血管障害、冠動脈疾患にかかったことがありますか。」
というような基本的問診事項さえパスされているケースが増えています。
血栓症の既往などめったにないことではあるにしても、
そのチェックは決定的に重要なことです。
高年齢ユーザーの多い実態に合わせたスクリーニングのあり方が検討されてよいでしょう。

バイエルの文書では2つの症例が示されています。
死亡事例の脳静脈洞血栓症は、100万人に1人程度の珍しい症例なので、
診断に手間取ったのはやむを得なかったと考えます。
気になる点はただ1点です。
死亡した事例では、頭痛が起きて受診までに4日かかっています。
激しい頭痛であったと想像されますが、
頭痛が起きて5日間はヤーズの服用を続けています。
経過を見るとヤーズの服用中止は医師の指示ではなく、
自己判断であったと考えられます。
もう一つの肺閉塞症の事例では、
右下肢の異変から受診までに9日かかっています。
2つの事例は、症状が現れてから受診までに時間がかかりすぎている点で共通しています。

バイエル薬品の文書には「処方時にご留意いただきたい点」として、
「下記のような症状が認められた場合には、ただちに本剤の服用を中止し、すぐに医師に相談するよう、あらかじめ患者の皆様へご指導いただくことをお願いします」
と書かれています。
これは当然のことです。
しかし、この当然のことがこれまで徹底してきませんでした。
これからは徹底するのでしょうか?
是非とも徹底してほしいのですが、
徹底しないのではないかとの不安もあります。
体重測定と血圧検査でチェックすれば血栓症リスクなんて防げるし目じゃない、
と言ってきた医師は少なくありません。

ピルが普及しないほんとうの原因から目をそらし、
副作用をおそれる女性の偏見が普及の阻害要因と考えるからです。
ピルには血栓症リスクを高めるという副作用があります。
それは隠すべき事ではなく、
むしろ徹底的に知らせるべき事なのだと思います。
徹底的に知らせ、ピルユーザーが機敏な対応を取れるようにすること。
「ピルとのつきあい方」は一貫して、ピルユーザーが望んでいるのはそのようなことだと考えてきました。
これまでのツイートの中から、関係するツイートを拾ってみました。







なお、静脈血栓症はどう考えても(循環器)内科の領域です。
血栓症の初期症状が現れたら、
一刻も早く(循環器)内科を受診するように「ピルとのつきあい方」は書いてきました。
ところが、なぜかピルユーザーには産婦人科受診が勧められています。
バイエル薬品の文書どおりに産婦人科医が指導すれば、
ピルユーザーは産婦人科を受診するでしょう。
血栓症リスクの高い妊産婦でも1万人に1人とか2万人に1人の頻度です。
産婦人科医が静脈血栓症を経験することは非常に稀なのです。
その産婦人科医にわざわざ誘導する意味がわかりません。
静脈血栓症では、時間を争うケースがあることをしっかり認識する必要があるのではないでしょうか。

この記事の続編「ピルは血栓症予防薬」という意外な観点

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2013年8月18日日曜日

オロナインと女の60年

オロナインが発売されたのは1953年のことです。
まる60年たった2012年、「お母さんの手も育つ」篇のCMが放送されました。
お母さんの手はきれいです。



このCMのタイトルは、「お母さんの手も育つ」です。
とても感動的なタイトルだと思いました。
子どもの成長とともに育つ。
それはこの60年の日本で実現したことでした。

オロナインが発売された1953年ころの日本を振り返ってみましょう。
1953年は電気洗濯機の普及が始まる年でもあります。
その間の事情は以下のように記されています。
1950年当時の洗濯は「洗濯板とタライでゴシゴシこすって汚れを落とす」のが一般的で、これは主婦にとっては大変な重労働でした。
  当社の創業者・井植歳男は、「日本の奥さん方は、3年で象一頭分の重さの洗濯物をゴシゴシ洗っている。この重労働を機械がするようになれば、きっと歓迎されるだろう」と、洗濯機事業の社会的意義を語り、1953年(昭和28年)、日本最初の「噴流式洗濯機」を発売。値段は28,500円と、それまでの丸型攪拌式洗濯機の半値近く。しかも汚れ落ちが良くて省電力、角型でムダな設置スペースを取らないなどメリットが多く、爆発的な売上を記録しました。「早い、簡単、便利な洗濯」をもたらしたSW-53は、家事労働を大幅に軽減。発売の翌年7月には月産1万台を突破し、一躍トップシェアに躍り出ました。これによって「洗濯機のサンヨー」という名が全国に広まったのです。

(三洋電機「洗濯機事業50年の歩み」)

上の引用中に洗濯板が出てきます。
洗濯板については青森県立郷土館のサイトに写真入りの説明がありました。
今では洗濯板を知らない人も多いでしょう。
紙おむつとなった現在でも、赤ちゃんが生まれると水道の使用量が跳ね上がります。
紙おむつのなかった当時、毎日毎日おむつの洗濯は欠かせませんでした。
子どもが産まれることは、洗濯に負われる毎日になることでした。
お母さんの手はきれいな手でいられません。
「お母さんの手も育つ」篇のCMの54秒付近に、
「ひび、あかぎれ、きず、しもやけに」とのタイトルが入ります。
一瞬、60周年記念のCMなのかと思いました。

考えてみると、女の生涯は育児と家事労働に追われる人生でした。
お母さんの手はひび、あかぎれ、きず、しもやけの手だったのです。
初期のオロナインの宣伝に起用されたのは浪花千栄子さんです(画像をクリックすると拡大)。
(画像はれとろ看板写真館>大塚系れとろ看板、より)
 
手をまじまじと見てしまいました。
「お母さんの手も育つ」など、夢のまた夢の世界でした。
女の生活はずっとそうだったので、
それに誰も疑問を持たなかったでしょう。
この女の人生が変わり始めるのが60年前頃でした。
洗濯機もオロナインも女の人生を変えたアイテムの一つでしたが、
子ども2人を産み育てる人生モデルは、
根本から女の人生を、
そして家族の形を変えていきます。

女性が担った家事労働は現在とは較べようがありません。
洗濯について書きましたが、そもそも洗濯に使う水は水道水でないことの方が多かったのです。
台所で使う水も、風呂で使う水も、井戸水です。
まず井戸から水をくみ運ぶ仕事がありました。
炊飯器も温水器もありません。
かまどでご飯を炊き、マキで風呂を沸かしていたのです。
衣食住の全てに膨大な家事労働が必要でした。
子どもの数が多ければ多いだけ、家事労働が重くなりました。

産み育てる子どもの数が少なければ、
それだけで家事労働の負担は格段に軽くなります。
子どもの数が少なければ、です。
現代人は子どもの数が少なければと軽く言ってしまいます。
しかし、それは生やさしいことではありませんでした。
子どもの数を少なくするには避妊が必要です。
しかし、当時まだ避妊は悪と思われていました。
また、子どもを多く産んでいたのには理由がありました。
乳幼児の死亡率が高かったので、
「家」の継承のためには多くの子どもが必要だったのです。
そんな生やさしくないことが、
日本では短期間に実現してしまいます。

戦後の日本は外地からの引き上げで内地人口が急増し、
深刻な食糧難が生じていました。
この問題を解決するために取られたのが人口抑制策です。
国家が人口抑制策をとるのは歴史上はじめてのことだったでしょう。
避妊や中絶が認められたのは、人口抑制策の一環でした。
ただ、上にも述べたように多産にはそれなりの背景があったので、
避妊や中絶を認めるだけでは多産を抑制することはできません。
そこで取られたのが、家族計画という国策運動です。
家族計画は現在では単に避妊を意味する言葉です。
しかし、当時の家族計画は「幸せ家族計画」の響きを持っていました。
過重な家事労働を強いられていた女性達は、
家族計画の中に「幸せ家族計画」を感じ取ったのでしょう。

当時の女性達が感じ取った「幸せ家族計画」は漠然としたものだったかもしれません。
しかし、現実に実現した幸せ家族は、
彼女たちが想像したよりももっと幸せ家族だったでしょう。
「お母さんの手も育つ」のCMが描いているのは、
子育てを楽しむお母さんの姿です。
子どもがたくさんいて家事労働に負われていたお母さんは、
子育てを楽しむ余裕などなかったのです。

家族計画運動は母子保健の充実に力を注ぎます。
少子化を推進するためには、高い乳幼児の死亡率からくる不安を取り除く必要がありました。
家族計画連盟(現在、日本家族計画協会)の機関誌は「家族と健康」です。
家族計画は単に避妊ではなく、少なく産み大切に育てる社会を作りました。
この点でも、彼女たちが想像したよりももっと「幸せ家族計画」だったでしょう。
少し余談になりますが、開発途上国には擦り傷を持つ子どもがたくさんいて、
親は擦り傷など意に介しません。
おそらく日本もそうだったのではないかと想像します。
子どもの擦り傷にオロナインを塗る時代がやってきますが、
オロナインがあったからではなく少子化で親の目が子どもに届くようになったからでしょう。

少子化と同時に核家族化が進行します。
「お母さんの手も育つ」のCMには、お母さんの顔は一瞬一瞬しか映りません。
しかし、画面に見えないお母さんの表情は生き生きしています。
核家族の子育ては不安もあり、苦労もあります。
大家族の子育てと核家族の子育ては一概に善し悪しは言えませんが、
大家族の中のお母さんに生き生きした顔があっただろうかと考えます。

1960年には、性のハウツー本である謝国権『性生活の知恵』が出版されます。
同書は1年間で152万部売れ、堂々のベストセラーになりました。
性のハウツー本がベストセラーになることなど、現代では考えられません。
と同時に、家族計画運動以前にも考えられないことでした。

家族計画は一種のユートピア思想でした。
人類の歴史には有名無名のユートピア思想が現れます。
そして、そのことごとくが実現しなかったと言ってもよいでしょう。
ところが、家族計画のユートピア思想は実現してしまったユートピア思想です。
「お母さんの手も育つ」のCMは、実現したユートピアの映像のように見えます。


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家族計画運動は、明らかにユートピアを実現しました。
したがって、家族計画の関係者がその歴史を肯定的に語るのは、
当然のこととも言えます。
当事者以外では、荻野美穂『「家族計画」への道』があります。
同書の帯には、
「ヤミ堕胎や子捨てから、避妊と合法的な中絶へ――。
「産む産まないは女が決める」と日本の女たちが言えるようになるまでの長い道のり、
そしてその後の問題を、多くの証言を丹念にたどりながら浮彫にする。」
と書かれています。(※書中には「産む産まないは女が決める」ようになったとの記述はない。読み落としがなければ。)
家族計画のユートピア性、すなわち光の側面は評価していく必要があります。
しかし、その陰の側面もあわせて評価する必要があると思います。
夫婦が2人の子供を持ち、その子どもを大切に育てようという運動です。
2人の子どもを産んだお母さんに対する運動と言ってもよいでしょう。
家族計画の本質は人口政策です。
未婚の女性は家族計画運動の視野の外にありました。
それを「"産む産まないは女が決める"と日本の女たちが言えるようになるまでの長い道のり」、
と評価することがはたして妥当なのでしょうか。
日本でピルの認可が遅れた最大の「戦犯」は、ピルの認可に反対した家族計画連盟であることは紛れのない事実です。
現代の私たちは、家族計画的価値観をまだ引きずっているように思えます。



仮説的筋書きメモを連載予定。

2013年8月12日月曜日

クイックスタートの流行に思う

クイックスタートとは?


ピルは生理初日に飲み始めるか、遅くとも7日目までに飲み始めます。
これが伝統的ルールです。
ところが、この伝統的ルールにこだわらなくてよいとの考えが示されるようになりました。
脱伝統的ルールの服用法をImmediate start法とかQuick start法といいます。
日本ではクイックスタートと呼ばれることが多いでしょう。

クイックスタートの背景


クイックスタートが提唱されるようになったのには、2つの背景があります。
日本でクイックスタートはAnyday startのように理解されていると感じられるのですが、
Anyday startではなくクイックスタートです。
クイックスタートという名称がこの服用法の背景を示しています。
というのは、欧米ではすでに非経口ホルモン避妊法が相当普及しています。
非経口ホルモン避妊法の内、皮下埋め込み法(インプラント)や注射法は病院での処置が必要です。
ピルなら病院でもらい生理が始まるのを待つことができますが、
皮下埋め込み法(インプラント)や注射法ではそういうわけにはいきません。
タイミングが悪いともう一度病院に来てもらうことになるのですが、
「今すぐ処置してしまいましょう」というのがクイックスタートでした。
Anyday startではなく今すぐスタートが、クイックスタートの意味です。
もう一つの背景は、性交頻度です。
避妊失敗率を示すパールインデックスの数値を見て、
「コンドームの失敗率はこんなに高いの?」とか思われた方も多いでしょう。
それは日本人の性交頻度が特異的に低いことと関係しています。
月に1度の頻度なら生理が来るのを待って始めてもよいかもしれませんが、
3日に1回の頻度なら生理が来るまでに妊娠してしまうかもしれません。
生理が来るのを待つ間に妊娠するリスクがあるなら、
今すぐホルモン避妊を始めた方がよいとの考えです。
クイックスタートが考案された背景には、高いセックス頻度があります。
さらに、アメリカでは処方箋を出しても、
約25%が薬局にピルを受け取りに行かないなどの問題もあります。

クイックスタートは妊娠しにくい?


後述するようにクイックスタートの評価はまだ十分になされていません。
しかし、これまでのデータを見る限り、妊娠リスクは高くありません。
ただ、それにはあるカラクリがあります。
標準的な性周期28日を7日ごとに区切ってみます。

1日目-7日目 伝統的スタート
8日目-14日目 クイックスタートA群
15日目-21日目 クイックスタートB群
22日目-28日目 クイックスタートC群

生理1日目から7日目までのスタートは、伝統的スタートです。
生理8日目から28日目までのスタートがクイックスタートということになります。
クイックスタートのB群・C群は排卵後のスタートなので、
妊娠しようがないグループです。
A群は排卵前のスタートになりますが、
クイックスタートでは7日間バリア法を併用しますから、
A群で排卵があってもその多くはバリアで防ぐことができます。
したがって、A群B群C群をトータルすると、低い妊娠率になるというわけです。
クイックスタートのこのカラクリを知れば、
クイックスタートで妊娠率が低くなるのはホルモンの作用のためではなく、
主としてバリア法と「オギノ式」の効果なのがわかるでしょう。
ピルの代わりにプラセボでクイックスタートしても妊娠率は低くなるかもしれません。

さらなる研究が必要


上で見たようにクイックスタートでは約2/3の妊娠しようがない人が含まれます。
クイックスタートでの妊娠率が低くなるのは当然と言えます。
しかし、これは統計としてみた場合の話です。
クイックスタートで始める女性は、実際は自分の状態が排卵前か、排卵後かわかっていません。
もし、排卵後とわかっているなら、クイックスタートを始める必要もないでしょう。
クイックスタートで最も問題になるのは、排卵前にクイックスタートしたケースです。
個々のケースに即して、クイックスタートがどれほど有効かは今後の研究課題です。
Lopez LMらは、「クイックスタートと通常スタートを比較するためには、さらなる研究が必要」と指摘しています(Immediate start of hormonal birth control.,2008.04)。
卵胞が一定成長してから後のクイックスタートが、
排卵にどのような影響を及ぼすのかまだ未解明の段階です。


クイックスタートのメリットには個人差がある


クイックスタートが行われるようになる背景には、冒頭に述べたような事情が関係しています。
日本にはピル以外のホルモン避妊法がほとんどないといってよい状態です。
また、一般に日本の性交渉頻度は少ない現状があります。
このような日本の状況の中で、はたしてクイックスタートの必要性がどれほどあるかは考慮されねばならない問題でしょう。
さらに、生理予定日間近でのクイックスタート例なども見受けられますが、
クイックスタートの乱用ではないかとさえ思えます。
クイックスタートにメリットがあるかどうかは、
個々の女性の条件で異なっています。
クイックスタートを選ぶかどうかは女性の選択に委ねられるべき問題と考えます。

クイックスタートの避妊効果


ピルをクイックスタートした場合、妊娠率は高くなりません。
これは事実です。
繰り返しになりますが、それはクイックスタートしたピルの効果ではなく、
主として最初の一週間のコンドームとオギノ式の効果なのです。
生理開始7日以内にピルの服用を開始しても、
服用7日目に必ず卵胞が消滅するとは言えません。
まして卵胞がある程度成長した段階でピルの服用を始めると、
ある場合には卵胞が消滅することもあるでしょうが、
ある場合には排卵が遅延されることもあるでしょう。
クイックスタートのピルが成長しつつある卵胞にどのような影響を与えるのか、
十分解明されていません。
クイックスタートの最初の7日間コンドームを使用すれば妊娠リスクは低いと言うことと、
8日目にはピルによる避妊効果があると言うことは別問題です。

妊娠していないという条件


クイックスタートを始める際の条件は、妊娠のおそれがないことです。
それは胎児がピルのホルモンに曝されるのを避けるためです。
もっとも、ピルのホルモンに胎児が曝されても、
胎児に影響はありません。
影響はないのですが、必ずといってよいほど皆心配してしまいます。
そういう事態を避けるために、妊娠のおそれがないことがクイックスタートの条件です。
ところが、クイックスタートする時点で妊娠検査薬はまだ反応しない時期のこともあります。
生理以後セックスしていないとか、妊娠してないと完全に思えることも、
クイックスタートでは大切なことだと思います。

あなたにクイックスタートは必要ですか?


以上、流行のクイックスタートについて説明してみました。
日本ではピルでクイックスタートが流行っています。
女性がそれを選択した結果、
クイックスタートが流行っているのなら問題ありません。
しかし、生理が28日前後で安定している女性が、
生理20日目からクイックスタートしたなどのケースを見ると、
疑問に思えます。
1週間待てばよいのにクイックスタートを選ぶ理由が思いつきません。
ピルの代金が無駄になるだけのように思えます。※
女性が選択するのではなく、医師が指導する結果、
クイックスタートが流行っているのではないかとも心配しています。
※ピルの費用負担の大小は選択に当たって考慮される条件の一つです。

クイックスタート選択の参考

排卵前のクイックスタート(たとえば排卵3日前の服用開始)
排卵は抑止できない→7日間のコンドーム使用で避妊。※
次の月経に対する影響→通常の排卵があるので軽減効果はない。
8日目からの避妊効果→ピルの効果でなく、排卵後なので避妊が不必要になるだけ。
副作用→生体由来のホルモンにピルのホルモンが付加される。
ピルを服用している安心感が得られる(1シート分の代金が余分にかかる)。
※7日ルールの適用外。

排卵後のクイックスタート
避妊効果→ピルの効果でなく、排卵後なので避妊が不必要になるだけ。※
次の月経に対する影響→通常の排卵があるので軽減効果はない。
副作用→生体由来のホルモンにピルのホルモンが付加される。
次回生理日が遅れる(生理日を遅らせる服用法に準じた服用法)。
ピルを服用している安心感が得られる(1シート分の代金が余分にかかる)。
※7日ルールとは無関係。

月経不順のクイックスタート(排卵の予測不能)
※基礎体温やホルモン濃度の測定で状態の把握が前提となる。
排卵性稀発月経→上記の排卵前のクイックスタートと排卵後のクイックスタートに準じる。
無排卵性稀発月経→クイックスタートは有効。ただし、漫然とピルの服用を続けることは疑問。
無排卵性頻発月経→クイックスタートとする必然性が乏しい。
排卵性頻発月経→クイックスタートとする必然性が乏しい。

緊急避妊後のクイックスタート
※緊急避妊の翌日から通常ピルの服用を開始する。
緊急避妊の成功率を高める可能性がある。
子宮外妊娠の既往がある場合には、クイックスタートは慎重に。

「早く避妊効果が得られる、早く生理痛が改善する、早く治療が開始できる」と、
クイックスタートを推奨しているグループのサイト
彼らはそのうちに生姜湯避妊法を奨め始めるかもしれない。

生姜湯のすごい避妊効果!?

女性 「先生が新しい避妊法を発見したと聞きました。」

ドクター 「うんうん、副作用もないし、避妊効果も実証済みじゃ。」

女性 「ぜひ、教えて下さい。」

ドクター 「生理5日目から、毎日これを飲みなさい。」
 

女性 「それ、何ですか?」

ドクター 「特製生姜湯じゃ。」

女性 「そんなもので避妊できるんですか?」

ドクター 「できる!ただし、効果が出るまで2週間かかる。2週間はコンドームを使うのじゃ。」
 

女性 「はい、わかりました。」

ドクター 「あ、生理が始まったら飲まなくていいよ。」

女性 「じゃあ、ずっと避妊効果があるんですか?」

ドクター 「いや、生理が始まると避妊効果は消えるのじゃ。また、生理5日目から同じ事を繰り返すのじゃ。」

女性 「なんだか、面倒くさいですね。」

ドクター 「月経周期が38日を越えたことがない女性ならまず確実だし、
生姜湯を飲むだけでいいんだよ。」

女性 「そうですね。それ、試してみます!」