2013年8月12日月曜日

クイックスタートの流行に思う

クイックスタートとは?


ピルは生理初日に飲み始めるか、遅くとも7日目までに飲み始めます。
これが伝統的ルールです。
ところが、この伝統的ルールにこだわらなくてよいとの考えが示されるようになりました。
脱伝統的ルールの服用法をImmediate start法とかQuick start法といいます。
日本ではクイックスタートと呼ばれることが多いでしょう。

クイックスタートの背景


クイックスタートが提唱されるようになったのには、2つの背景があります。
日本でクイックスタートはAnyday startのように理解されていると感じられるのですが、
Anyday startではなくクイックスタートです。
クイックスタートという名称がこの服用法の背景を示しています。
というのは、欧米ではすでに非経口ホルモン避妊法が相当普及しています。
非経口ホルモン避妊法の内、皮下埋め込み法(インプラント)や注射法は病院での処置が必要です。
ピルなら病院でもらい生理が始まるのを待つことができますが、
皮下埋め込み法(インプラント)や注射法ではそういうわけにはいきません。
タイミングが悪いともう一度病院に来てもらうことになるのですが、
「今すぐ処置してしまいましょう」というのがクイックスタートでした。
Anyday startではなく今すぐスタートが、クイックスタートの意味です。
もう一つの背景は、性交頻度です。
避妊失敗率を示すパールインデックスの数値を見て、
「コンドームの失敗率はこんなに高いの?」とか思われた方も多いでしょう。
それは日本人の性交頻度が特異的に低いことと関係しています。
月に1度の頻度なら生理が来るのを待って始めてもよいかもしれませんが、
3日に1回の頻度なら生理が来るまでに妊娠してしまうかもしれません。
生理が来るのを待つ間に妊娠するリスクがあるなら、
今すぐホルモン避妊を始めた方がよいとの考えです。
クイックスタートが考案された背景には、高いセックス頻度があります。
さらに、アメリカでは処方箋を出しても、
約25%が薬局にピルを受け取りに行かないなどの問題もあります。

クイックスタートは妊娠しにくい?


後述するようにクイックスタートの評価はまだ十分になされていません。
しかし、これまでのデータを見る限り、妊娠リスクは高くありません。
ただ、それにはあるカラクリがあります。
標準的な性周期28日を7日ごとに区切ってみます。

1日目-7日目 伝統的スタート
8日目-14日目 クイックスタートA群
15日目-21日目 クイックスタートB群
22日目-28日目 クイックスタートC群

生理1日目から7日目までのスタートは、伝統的スタートです。
生理8日目から28日目までのスタートがクイックスタートということになります。
クイックスタートのB群・C群は排卵後のスタートなので、
妊娠しようがないグループです。
A群は排卵前のスタートになりますが、
クイックスタートでは7日間バリア法を併用しますから、
A群で排卵があってもその多くはバリアで防ぐことができます。
したがって、A群B群C群をトータルすると、低い妊娠率になるというわけです。
クイックスタートのこのカラクリを知れば、
クイックスタートで妊娠率が低くなるのはホルモンの作用のためではなく、
主としてバリア法と「オギノ式」の効果なのがわかるでしょう。
ピルの代わりにプラセボでクイックスタートしても妊娠率は低くなるかもしれません。

さらなる研究が必要


上で見たようにクイックスタートでは約2/3の妊娠しようがない人が含まれます。
クイックスタートでの妊娠率が低くなるのは当然と言えます。
しかし、これは統計としてみた場合の話です。
クイックスタートで始める女性は、実際は自分の状態が排卵前か、排卵後かわかっていません。
もし、排卵後とわかっているなら、クイックスタートを始める必要もないでしょう。
クイックスタートで最も問題になるのは、排卵前にクイックスタートしたケースです。
個々のケースに即して、クイックスタートがどれほど有効かは今後の研究課題です。
Lopez LMらは、「クイックスタートと通常スタートを比較するためには、さらなる研究が必要」と指摘しています(Immediate start of hormonal birth control.,2008.04)。
卵胞が一定成長してから後のクイックスタートが、
排卵にどのような影響を及ぼすのかまだ未解明の段階です。


クイックスタートのメリットには個人差がある


クイックスタートが行われるようになる背景には、冒頭に述べたような事情が関係しています。
日本にはピル以外のホルモン避妊法がほとんどないといってよい状態です。
また、一般に日本の性交渉頻度は少ない現状があります。
このような日本の状況の中で、はたしてクイックスタートの必要性がどれほどあるかは考慮されねばならない問題でしょう。
さらに、生理予定日間近でのクイックスタート例なども見受けられますが、
クイックスタートの乱用ではないかとさえ思えます。
クイックスタートにメリットがあるかどうかは、
個々の女性の条件で異なっています。
クイックスタートを選ぶかどうかは女性の選択に委ねられるべき問題と考えます。

クイックスタートの避妊効果


ピルをクイックスタートした場合、妊娠率は高くなりません。
これは事実です。
繰り返しになりますが、それはクイックスタートしたピルの効果ではなく、
主として最初の一週間のコンドームとオギノ式の効果なのです。
生理開始7日以内にピルの服用を開始しても、
服用7日目に必ず卵胞が消滅するとは言えません。
まして卵胞がある程度成長した段階でピルの服用を始めると、
ある場合には卵胞が消滅することもあるでしょうが、
ある場合には排卵が遅延されることもあるでしょう。
クイックスタートのピルが成長しつつある卵胞にどのような影響を与えるのか、
十分解明されていません。
クイックスタートの最初の7日間コンドームを使用すれば妊娠リスクは低いと言うことと、
8日目にはピルによる避妊効果があると言うことは別問題です。

妊娠していないという条件


クイックスタートを始める際の条件は、妊娠のおそれがないことです。
それは胎児がピルのホルモンに曝されるのを避けるためです。
もっとも、ピルのホルモンに胎児が曝されても、
胎児に影響はありません。
影響はないのですが、必ずといってよいほど皆心配してしまいます。
そういう事態を避けるために、妊娠のおそれがないことがクイックスタートの条件です。
ところが、クイックスタートする時点で妊娠検査薬はまだ反応しない時期のこともあります。
生理以後セックスしていないとか、妊娠してないと完全に思えることも、
クイックスタートでは大切なことだと思います。

あなたにクイックスタートは必要ですか?


以上、流行のクイックスタートについて説明してみました。
日本ではピルでクイックスタートが流行っています。
女性がそれを選択した結果、
クイックスタートが流行っているのなら問題ありません。
しかし、生理が28日前後で安定している女性が、
生理20日目からクイックスタートしたなどのケースを見ると、
疑問に思えます。
1週間待てばよいのにクイックスタートを選ぶ理由が思いつきません。
ピルの代金が無駄になるだけのように思えます。※
女性が選択するのではなく、医師が指導する結果、
クイックスタートが流行っているのではないかとも心配しています。
※ピルの費用負担の大小は選択に当たって考慮される条件の一つです。

クイックスタート選択の参考

排卵前のクイックスタート(たとえば排卵3日前の服用開始)
排卵は抑止できない→7日間のコンドーム使用で避妊。※
次の月経に対する影響→通常の排卵があるので軽減効果はない。
8日目からの避妊効果→ピルの効果でなく、排卵後なので避妊が不必要になるだけ。
副作用→生体由来のホルモンにピルのホルモンが付加される。
ピルを服用している安心感が得られる(1シート分の代金が余分にかかる)。
※7日ルールの適用外。

排卵後のクイックスタート
避妊効果→ピルの効果でなく、排卵後なので避妊が不必要になるだけ。※
次の月経に対する影響→通常の排卵があるので軽減効果はない。
副作用→生体由来のホルモンにピルのホルモンが付加される。
次回生理日が遅れる(生理日を遅らせる服用法に準じた服用法)。
ピルを服用している安心感が得られる(1シート分の代金が余分にかかる)。
※7日ルールとは無関係。

月経不順のクイックスタート(排卵の予測不能)
※基礎体温やホルモン濃度の測定で状態の把握が前提となる。
排卵性稀発月経→上記の排卵前のクイックスタートと排卵後のクイックスタートに準じる。
無排卵性稀発月経→クイックスタートは有効。ただし、漫然とピルの服用を続けることは疑問。
無排卵性頻発月経→クイックスタートとする必然性が乏しい。
排卵性頻発月経→クイックスタートとする必然性が乏しい。

緊急避妊後のクイックスタート
※緊急避妊の翌日から通常ピルの服用を開始する。
緊急避妊の成功率を高める可能性がある。
子宮外妊娠の既往がある場合には、クイックスタートは慎重に。

「早く避妊効果が得られる、早く生理痛が改善する、早く治療が開始できる」と、
クイックスタートを推奨しているグループのサイト
彼らはそのうちに生姜湯避妊法を奨め始めるかもしれない。

生姜湯のすごい避妊効果!?

女性 「先生が新しい避妊法を発見したと聞きました。」

ドクター 「うんうん、副作用もないし、避妊効果も実証済みじゃ。」

女性 「ぜひ、教えて下さい。」

ドクター 「生理5日目から、毎日これを飲みなさい。」
 

女性 「それ、何ですか?」

ドクター 「特製生姜湯じゃ。」

女性 「そんなもので避妊できるんですか?」

ドクター 「できる!ただし、効果が出るまで2週間かかる。2週間はコンドームを使うのじゃ。」
 

女性 「はい、わかりました。」

ドクター 「あ、生理が始まったら飲まなくていいよ。」

女性 「じゃあ、ずっと避妊効果があるんですか?」

ドクター 「いや、生理が始まると避妊効果は消えるのじゃ。また、生理5日目から同じ事を繰り返すのじゃ。」

女性 「なんだか、面倒くさいですね。」

ドクター 「月経周期が38日を越えたことがない女性ならまず確実だし、
生姜湯を飲むだけでいいんだよ。」

女性 「そうですね。それ、試してみます!」
 



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