2013年9月25日水曜日

(アンケート)ピルユーザーに血栓症の初期症状情報は知らせされているか?

ヤーズユーザーが血栓症の副作用で死亡しました。
血栓症の初期症状が現れると、ピルの服用を即時中止しすぐに受診する必要があります。
ところが、バイエル薬品の発表した事例では、
ユーザーは初期症状が出てもすぐに服用を中止していません。
日本でもピルの処方時には、血栓症の初期症状を伝えることになっていますが、
徹底していないのではないかとの疑念があります。
A-C-H-E-Sは以下の通りです。
A:abdominal pain(severe) 激しい腹痛。
C:chest pain(severe)息を吸う時により痛い鋭い胸の痛み。息切れ。吐血。
H:headache(severe)普段より激しい頭痛・片頭痛。失神・卒倒。
E: eye problems/speech problems 突然の舌のもつれや視力障害(特に片目のかすみ)。
S: severe leg pain 足や手の脱力・無感覚または針で刺すような痛み。
(緊急に受診が必要な症状一覧参照)

項目の取り上げ方には異同がありますが、ピルユーザーにとって血栓症の初期症状を知っていることは必須ですし、
すぐに受診治療すれば大事に至ることを避けることもできます。
日本の実態については、調査がなされていないのでアンケートで調べてみることにしました。
ご協力をお願いします。
なお、関連記事
ヤーズの血栓症死亡例について思う事
「ピルは血栓症予防薬」という意外な観点
もご覧いただければ幸いです。



回答数100時点での集計とコメントはこちらです。

2013年9月22日日曜日

海外での治療目的ピル利用

バイエル薬品が公表した文書によるとヤーズの血栓症発症率は10万人あたり60人で、
これは日本の妊産婦の発症率をはるかに超える異常な数字となっています。
欧米のヤーズユーザーの発症率と較べても突出した数値です。
死者まで出ているのですから、日本のヤーズで異常に高い発症率となっている理由を早急に解明する必要があると書きました。
ヤーズの異常に高い血栓症発症率は、治療薬として処方されていることと関係するのではないか、と私は考えています。
もしそうであれば、ヤーズだけでなく、程度の差はあれルナベルでも同じ問題が生じているでしょう。
避妊目的がないのに治療目的などでピルが使われることは、
海外でもあります。
何がどう違うのか、見てみることにしましょう。

海外でのピルの治療目的利用について見る前に、
海外では全てのピルが避妊薬であることを確認しておく必要があります。
Yaz/Beyaz(日本のヤーズ)の添付文書をもう一度紹介しておきましょう。

● Prevent pregnancy.

● Treat symptoms of premenstrual dysphoric disorder (PMDD) for women
who choose to use an oral contraceptive for contraception.

● Treat moderate acne for women at least 14 years old only if the patient
desires an oral contraceptive for birth control.

● Raise folate levels in women who choose to use an oral contraceptive for
contraception.


*************************************************** 
(翻訳)

妊娠防止

避妊に経口避妊薬の使用を選択する女性に対して、月経前不快気分障害(PMDD)症状の治療。

バースコントロールのために経口避妊薬を望む場合、14歳以上の女性の軽度のニキビ治療。

避妊に経口避妊薬の使用を選択している女性の、葉酸レベルの回復。
 

ヤーズの効能として認可されているのは避妊効能です。
避妊目的がない女性にヤーズを処方できない書き方になっています。
これは他のピルについても同様です。
では、誰のどのような判断で、避妊目的を持たない女性にピルが処方されているのでしょう?
典型的な診察室のやり取りを再現してみましょう。



A .医療者が非避妊目的利用を勧めない原則


女性: 生理痛がひどいのでピルをもらえませんか?

プロバイダー(医師など): ピルは避妊薬ですよ。
避妊にピルを使うつもりですか?
女性: いいえ、今はその必要がないんです。


プロバイダー: 生理痛のためだけにピルを飲めば、
血栓症など副作用リスクの方がメリットより大きくなるのよ。
だから、ピルは止めておきましょう。



B .現避妊ユーザープラス


女性: 以前は避妊にピルを使っていたことがあるし、
これからも避妊の必要があればピルを利用すると思うの。
たまたま現在、避妊の必要がないと言うだけなんですけど。


プロバイダー: わかったわ。
あなたは、「避妊にピルを選択する女性」と見なせるわね。

女性: だったら、ピルを処方してもらえますね。

 
プロバイダー: 処方しますよ。
でもね、副効果期待は原則として現在ピルで避妊している女性が対象なの。
だから、避妊目的使用よりもリスクを詳しく検査しましょう。


女性: そうですよね。そうすれば安心できます。
それに、生理痛で血栓症になったら、シャレになりませんものね。


C .選択肢の提示
 
プロバイダー: 検査で問題がなければピルを出しますが、
血栓症リスクの低いミニピルにしましょう。


女性: いえ、一度ミニピルは試したことがあるんですけど、苦手なんです。
普通のピルにして下さい。


プロバイダー: わかったわ。
では血栓症リスクの低い第2世代のピルにしましょう。
女性: できたら超低用量のピルを希望なんですけど。


プロバイダー: 避妊目的でピルを飲む時も、最初は低用量の1相性ピルなのよ。(※イギリスのガイドラインなど)


女性: あ、そうなんですか。



 D.服用上の注意

 
プロバイダー: 必ず、生理初日から服用を始めて下さいね。

女性: え、どうして?

プロバイダー: 卵巣からのエストロゲン分泌を最小限にするためよ。

女性: ピルが超低用量でも、卵巣からエストロゲンがたくさん出ていたら意味ないですものね。

プロバイダー: 知っていると思うけど、これが血栓症の初期症状なの。
該当する症状があれば、必ずすぐに受診するようにね。



E .副作用に対する配慮が信頼の源泉
 
女性: 以前、ピルを服用していたことがあるから知ってますよ。
でも、血栓症なんてめったにないですよね。

プロバイダー: そう。頻度は低いの。
でも、血栓症を発症してしまった人にとって確率が低いってことは、意味がないことなのよ。
むしろ、誰にでも可能性があると考えることの方が大切よ。


女性: なるほどね。確率が低いなどと強調しないのは、そのためだったんですか。


プロバイダー: 患者さんを守るのが使命ですからね。

女性: ますます信頼できるようになりました。

以上の会話は架空の会話です。
しかし、ピルの認可条件が避妊ですから、大筋では上の様になります。
上の会話内容を少し解説しておきます。

A .医療者が非避妊目的利用を勧めない原則について

ピルを非避妊目的に使用すれば、リスクがメリットを上回ることは医学常識です。
医療関係者が避妊目的のない女性にピルを奨めることはあり得ません。
医師等はこの事実を患者にしっかり伝えています。

一方、日本ではどうでしょうか。
これはツイッター上におびただしく流布しているツイートです。
製薬会社の広告部が考えたコピーでしょうか(ということにしておきます)。
責任のない個人が自身の感想・意見として述べるのであれば許されるかもしれません。
しかし、私の感覚、そして欧米の感覚では、医療者がこれを口にすることは無責任です。
エビデンス的に確固とした裏付けのある内容とは言い難いし、
何よりも重篤な副作用の出る女性に対して責任が負えないからです。
生理痛があればピルを飲めと言う内容ですが、
血栓症が生じあるいは命を落とすことがあっても、
なお生理痛が軽くなるならピルを飲むメリットの方が大きいとは考えられないからです。
日本の医療関係者の倫理観は、世界からかけ離れています。

B .現避妊ユーザープラス

Yazの効能の訳でchooseを「選択する」と訳しました。
chooseは、「選択する」とも「選択している」とも訳せます。
私が「選択する」と訳したのは、一つには英語のニュアンスです。
chooseが使われなかったら、つまり、
・・・who use an oral contraceptive for contraception.
だと現在避妊目的でピルを服用している女性とのニュアンスが強くなります。
わざわざ、
・・・who choose to use an oral contraceptive for contraception.
としているのは、「現在」というニュアンスを弱めるためです。
2つめの理由は、避妊目的でピルを服用し血栓症の副作用が現れなかった女性は、
避妊目的がなくなってから後に服用を続けても、
血栓症のリスクはそれほど大きくないからです。(発症は服用初期に偏る)
3つ目に、以上のような理由を受けて、実際の医療現場では、
避妊目的ユーザーの意味はやや広く解釈されている現実があります。
以上を踏まえ、「選択する」と訳し、
プロバイダーが女性を避妊目的ユーザー認定する設定にしました。

C .選択肢の提示

実際に、現在避妊の必要がない女性に対しても、
避妊にピルを使用していた経過や意向があればピルは処方されています。
ただ、現在避妊の必要がない女性に対しては、
より慎重な対応を取るのが普通です。
幅広い副効果がありリスクの低いミニピルが提案されることは珍しくありません。
プロバイダーは女性の希望も取り入れながら、
よりリスクの少ないピルを提案します。
ルナベル・ヤーズという治療専門ピルを作ってしまった日本では、
治療目的で服用するにしても選択の余地が極端にない状態です。


D.服用上の注意

日本には、避妊目的と治療目的ではピルの服用法が異なると言い張る人がいます。
その内容についてはまたの機会に検討することにします。
日本以外の国の全てのピルは、避妊薬です。
避妊目的と治療目的ではピルの服用法が異なるという主張が、
日本のローカルルールであることは明らかでしょう。
私の知る限り、治療目的だけのピルユーザーには、
むしろオーソドックスな服用法が奨められます。
血栓症の兆候についても、より丁寧な確認がなされています。
治療目的の服用法ではリスクがメリットを上回るという認識があるからでしょう。
しかし、日本の医療者にその認識があるとは思えません。
ヤーズのとてつもない血栓症発症率と関係しているのではないかとおそれています。

E .副作用に対する配慮が信頼の源泉

「ピルの副作用なんて、めったにないのよ。平気、平気。」
日本でピルの普及に熱心な産婦人科医の中には、
このように言いたげな発言が散見されます。
ピルの副作用リスクを受け入れるかどうかは価値観の問題であり、
医療者が押しつけてはならない問題です。
特に避妊目的を持たないピルユーザーについては、
医学的にはデメリットがメリットを上回ります。
避妊目的を持たないピルユーザーに、
「ピルの副作用なんて、めったにないのよ。平気、平気。」
と伝えることは許されません。
避妊目的を持たないピルユーザーに対しては、
よりしっかりとリスクを伝える必要があります。
日本でピルが普及しないのは、
医療者がメリットとリスクをきっちり伝える勇気を持たないからだ、
と私は考えています。
ピルの治療薬化は、メリットとリスクをきっちり伝えにくい条件を作り出しています。


「ピルとのつきあい方」のスタンス

非避妊目的でのピル使用では、メリットよりデメリットの方が大きくなる。
これは医学常識なので、どの国でもピルの服用は原則として避妊目的に限定しています。
日本の産婦人科医もよほど不勉強な医師でない限り知っていることでしょう。
しかし、日本では「ルナベル・ヤーズの錬金術」がまかり通り、非避妊目的使用ではメリットよりデメリットの方が大きいことを言わないことになっているようです。
はては、さも何かのサプリのように、「生理痛にはピル」と言うのがトレンディらしいのです。
トレンディ路線のNPOに言わせると、「1999年から頭の更新ができていないピルとのつきあい方」となります。
事は命や健康にかかわることです。
「ピルとのつきあい方」は、ピルが普及しピルの売上げが伸びることには全く関心がありません。
普及推進と較べられないほど大切なことは、
一人のピルユーザーの命と健康を守ることです。

とても、重要な指摘だと思いました。
「自分の問題として考えること」なしにピルは定着するものではありません。
「自立的ピルユーザー」を提唱する所以です。
欧米ではピルが避妊薬であるために「自立的ピルユーザー」が育ち、
治療目的ピルユーザーもまた「自立的ピルユーザー」となっています。
日本はまさにその逆ではないかと感じられます。

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(アンケート)ピルユーザーに血栓症の初期症状情報は知らせされているか?
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2013年9月10日火曜日

「ピルは血栓症予防薬」という意外な観点

本記事は「ヤーズの血栓症死亡例について思う事」の続編です。



血栓症の死者続出でも利用され続けるピル


「意外な観点」とタイトルをつけましたが、
実は全然意外な観点ではありません。
もし「ピルは血栓症予防薬」を意外と感じるのであれば(注1)、
ピル反対派的な思考に汚染されているからかもしれません。
世界では毎年100名を下らないピルユーザーが血栓症で死亡しています。
それでも、ピルを禁止すべきだという声はほとんどありません。
多くの女性がピルを利用し続けています。
不思議だと思いませんか?
多くのピルユーザーが血栓症で死亡しても、
すでに「ピルは血栓症予防薬」との考えの方がしっかりと定着しているからです。
しかしピル反対派的な思考から抜け出せないでいる日本では、
「ピルは血栓症予防薬」という考えが浸透していません(注2)。
この点が、日本と世界の違いなのではないかと思います。

血栓症のリスクと天秤にかけるメリット


白人や黒人は黄色人種と較べて血栓症になりやすい遺伝子を持っています。
欧米で血栓症は国民病と言ってもよいほど、多い病気です(参照「第4世代ピル(ヤスミン、ヤーズなど)の血栓塞栓症について英国医薬品庁(MHRA)が出した情報」)。
ピルの服用は血栓症のリスクを高めます。
ピルユーザーは血栓症にかかりやすいし、
命を落とすピルユーザーは少なくありません。
ピルを服用すると血栓症になるリスク、死ぬリスクが高まるのです。
このような事実は秘密にされているわけではありません。
ピルユーザーも医療関係者も周知の事実です。
それにもかかわらず、ピルはずっとメジャーな避妊法でした。
何故でしょう?
ピルはリスクよりもメリットの方が大きいからです。
日本では、「リスクよりもメリットの方が大きい」の意味が、
よく理解されていないかもしれません。
生理痛が軽くなるとか、卵巣癌が少なくなるとか、避妊に安心感があるとか、
これらももちろんメリットなのですが、
血栓症のリスクと天秤にかけるメリットではありません。
ピルは避妊薬です。
妊娠出産に伴う血栓症リスクと較べてリスクが高いか低いか、
それが「リスクよりもメリットの方が大きい」の本来の意味です。
妊産婦の血栓症リスクはピルユーザーと較べて約4倍高くなります。
もし、妊娠よりもピルの方が血栓症リスクが高いならば、
ピルは「リスクよりもメリットの方が大きい」とは決して言われないでしょう。
ピルの安全性の尺度は、妊娠と較べて血栓症リスクが高いか低いかなのです。
高用量ピルの時代にも、ピルの血栓症リスクは妊娠より低かったのです。
ピルにより血栓症のリスクは妊産婦の1/4になる。
この事実がなければ、認可されることもなければ利用されることもなかったでしょう。
ピルは妊娠を避けることにより、血栓症リスクを低くする血栓症予防薬とも言えるのです。

月経困難症治療薬のメリットは血栓症リスクに勝るか?


ピルは月経困難症に効果があります。
しかし、ピルが月経困難症の治療薬として認可されているのは、
日本だけです。
海外でもピルは月経困難症の治療薬として認可されているとの言説が、
まことしやかに語られています。
あるいは、ニキビの治療薬として認可されているとか、
PMDDなどの治療薬として認可されているとか、
同類の言説は枚挙にいとまがありません。
これらの言説のルーツは一般人ではありません。
名もあり学識もある方々の言説です。
しかし、それは事実を正確に伝えていません。
世論をミスリードするための、ためにする言説です。
アメリカFDAはヤーズのPMDDなどの治療効果を認めていますが、
PMDDなどの治療薬としては認可しているわけではありません。
Yaz/Beyaz(日本のヤーズ)の添付文書は、以下のようになっています。

● Prevent pregnancy.

● Treat symptoms of premenstrual dysphoric disorder (PMDD) for women
who choose to use an oral contraceptive for contraception.

● Treat moderate acne for women at least 14 years old only if the patient
desires an oral contraceptive for birth control.

● Raise folate levels in women who choose to use an oral contraceptive for
contraception.


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(翻訳)

妊娠防止

避妊に経口避妊薬の使用を選択する女性に対して、月経前不快気分障害(PMDD)症状の治療。

バースコントロールのために経口避妊薬を望む場合、14歳以上の女性の軽度のニキビ治療。

避妊に経口避妊薬の使用を選択している女性の、葉酸レベルの回復。
 

ヤーズの効能として認可しているのは避妊効能であり、
避妊ユーザーがヤーズを使用するとPMDDなどの治療効果が期待できるとしているのです。
ヤーズがPMDDなどの治療薬として認可されているなどという言説は、
事実を歪曲するものです。
ピルはPMDDや月経困難症に効果があるのに、
なぜPMDD治療薬や月経困難症治療薬として認可しないのでしょう。
それにはいくつか理由がありますが、
その中でも副作用との関係は大きな理由です。
ピルは避妊薬である限り「血栓症予防薬」としての性格を持ちます。
ピルを避妊の目的で使用するユーザーには、
メリットがデメリットを上回ります。
しかし、避妊目的なしに単に治療目的で使用すると、
デメリットがメリットよりも大きくなります。
FDAをはじめとする各国の当局が、
治療目的利用を厳しく避妊ユーザーに限定しているのは当然のことなのです。

世界の逆を行く日本の薬事行政

ピルの服用で血栓症リスクは高くなります。
そして、血栓症では死亡することもあります。
このリスクを上回るメリットがあるのは、
ピルが「血栓症予防薬」としての効果を持つ避妊ユーザーの場合だけです。
だから、世界の薬事行政当局はピルの治療効能を避妊ユーザー限定で認める姿勢を貫いています。
しかし、日本の薬事行政は世界の逆を向いています。
ルナベル・ヤーズについて月経困難症の効能だけを認め、
ご丁寧に避妊目的で使用してはならないと指示しています。
世界のピル行政の真逆を行っているのです。
そこで問題になるのが「血栓症予防薬」としての側面を捨象して、
治療専用薬としたルナベル・ヤーズのメリットがデメリットを上回るかどうかです。
月経困難症で死亡する女性はいません。
血栓症では死亡するケースがあります。
ピルを治療専用薬にするとデメリットがメリットより大きくなる、
と考えるのが世界の薬事行政です。
独自の判断をしている日本の薬事当局には説明責任があるでしょう。
行政と製薬会社の暴走をチェックするのは、専門家です。
女性の命が世界のどの国より軽く扱われている現状に、
専門家は異議や疑問の声を上げたでしょうか?
ルナベルの認可審議段階の2004年、
ピルを治療薬化するのには問題があると私は訴えました。
しかし、その後10年近く経過して誰も問題を指摘しません。
それどころか、保険が使えるピルができたなど大歓迎ムードです。
たしかに、血栓症の副作用の出る女性はごく稀です。
数が少なければ、確率が低ければ、問題ないのでしょうか?
避妊目的を持たない女性へのルナベル・ヤーズ処方に、
デメリットを上回るメリットがあるか、
それを考えるのが専門家でなくてはなりません。
日本の専門家は、「ルナベル・ヤーズの錬金術」に絡め取られてしまったのでしょうか?

ピル推進派とピル反対派に共通する思考

「命と健康のために!」
これは誰もが唱え、自らの立場を正当化するのに使われます。
かつて日本医師会や日本家族計画連盟は、
女性の健康のためにとピルの認可に反対しました。
女性の「命と健康のために!」です。
しかし、ピルが認可されない間に望まない妊娠の累々たる山が気づかれ、
その妊娠の中には血栓症を発症する女性もいたでしょう。
「命と健康のために!」の美名と現実の間には大きな落差がありました。
ピル認可直前の時期にもピル反対派の医師や市民団体が、
認可に反対する運動を行いました。
彼らは血栓症などピルの副作用をあげて、
女性の「命と健康のために!」ピルを認可すべきでないと主張しました。
彼らはピルが避妊目的で使用される時、
「ピルは血栓症予防薬」であるという側面には全く言及しませんでした。
興味深い点は、ピル反対派が反対したのはピルの避妊目的使用であり、
治療目的にピルが使用されることには反対しませんでした。
彼らの思考では、ピルの避妊目的使用では「ピルは血栓症予防薬」という側面が無視されていました。
そして今、かつての日本医師会、日本家族計画連盟、ピル反対市民団体の後継者を「ピル推進派」が演じています。
それらに共通するのは「ピルは血栓症予防薬」という観点の欠落です。
ピルは避妊目的で使用される限り「ピルは血栓症予防薬」という性格を持ち、
ピルを飲まない場合の血栓症リスクを相殺します。
ピルが避妊目的を外して使用されると、
「ピルは血栓症予防薬」の側面が捨象され、
リスクだけが残ってしまいます。
「命と健康のために!」どころではないのです。
かつてのピル反対派も、現在のピル推進派も、
「ピルは血栓症予防薬」という側面の欠落した思考で共通しています。

処方実態の検証が必要

バイエル薬品が2013年8月7日に公表した資料によると、
ヤーズ配合錠による血栓症発症率は10万人に60人となっています。(参照「ヤーズの血栓症死亡例について思う事」)
この数字について次のようにツイートしました。
ある病院サイトとは、三宅婦人科内科医院のサイトです。
同サイトには、
「日本人がピルを服用すると血栓症(深部静脈血栓症のことを指します)の頻度は、10万人あたり3~4人で、欧米人に比べて少ないです」(三宅婦人科内科医院のサイト)
と書かれています。
同サイトの数字は「NAVER まとめ」などにも引用されています。
「ピルとのつきあい方」では日本の血栓症発症率を欧米の1/3と推定し、「10万人につき1.5人から2.5人程度」になるだろうと予測しました(「血栓症の頻度」)。
三宅婦人科内科医院と「ピルとのつきあい方」の予測は、ほぼ一致しています。
両サイトの予測に対してバイエル薬品の公表した数字(60人)は数十倍というケタ違いの数字です。
欧米のピルユーザーよりも、そして欧米の妊婦よりも、
血栓症リスクが高いという驚くべき数字なのです。
数字だけ見れば即刻発売禁止になってよいほどの数字です。
ただちに、血栓症の発症実態についての分析が行われるべきだと考えます。
私はヤーズの高い血栓症発症率には、ある事情が関係しているのではないかと考えます。
日本でヤーズの血栓症発症率が高くなるのは、
ひとつに「脱ピル」の多さでしょう(参照「脱ピルと卒ピル」)。
日本のヤーズは避妊効能が認められていない世界で唯一のピルです。
避妊ユーザーには、避妊という明確な動機があります。
避妊の必要性がある限り1年でも3年でも10年でも服用を継続します。
ところが、「月経困難症」の治療薬であるヤーズユーザーが服用を継続することは、
かなり困難です。
ヤーズは生理痛が起きてから飲む鎮痛剤とはわけが違います。
服用の動機付けが難しいのです。
生理痛で病院を受診しヤーズを処方され服用を始めて3か月たち、
生理痛もなくなったとします。
喉もと過ぎれば何とやらではありませんが、
それでも毎日服用を続けることは至難です。
その結果、数ヶ月で服用を止める「脱ピル」女性が、数多く生み出されている可能性があります。
一人の女性が1年間服用すると1婦人年と数えますが、
4人の女性が3か月ずつ服用しても1婦人年です。
ピルの服用初期には血栓症発症リスクが高くなりますので、
日本では多くの女性が血栓症発症リスクの高い期間だけ服用している可能性があるのです。
2つ目の事情は年齢です。
年齢が高くなると血栓症発症リスクは高くなります。
海外ではピルは主として出産前の避妊法であり、
ユーザーの多くは20歳代です。
ところが日本のヤーズは「月経困難症」の治療薬なので、
タバコを15本以上吸わなければ年齢の高い女性にも処方されています。
さらに月々3千円ほどの負担は若年層には厳しいものがあります。
その結果、ヤーズユーザーの年令分布が高齢層に偏っている可能性があります。
本来慎重に処方されるべき年齢層にヤーズが集中的に処方されている可能性があるのです。
3つ目の事情はクイックスタートの流行です。
クイックスタートの問題については「クイックスタートの流行に思う」をご覧下さい。
クイックスタートでは内因性エストロゲンが分泌されている状態で、
ピルのエストロゲンが付加されます。
これが血栓症の発症を高めることがないのか心配です。
これらは仮説に過ぎませんが、日本のヤーズで何故血栓症リスクが異常に高いのか、
究明していく必要があるでしょう。

女性の命と健康が重んじられる日本に

ヤーズやルナベルのような治療専用のピルが作られ推奨され、
その結果が驚くべき血栓症発症率となっているのなら、
日本のピルの現状は根本的に見直す必要があると考えます。
ピルを治療薬としては認めるが避妊薬としては認めない。
これは1999年の避妊薬解禁までの日本でした。
その延長線上にあるのが、ルナベル・ヤーズです。
女性の命と健康が重んじられる国では、
ルナベル・ヤーズのような避妊薬でないピルなど認可されません。
歪んだピルにするための国策が「ルナベル・ヤーズの錬金術」を生み出しています。
ピルは避妊薬です。
避妊薬としてのピルは女性の命と健康を守るのに役立ちます。
ピルが諸外国同様に若い世代の避妊法として利用できるように、
費用を含めた環境を改善していく必要があるでしょう。
ミニピルの認可も必要です。
ノアルテン錠は海外ではミニピルとして認可されているピルですが、
日本ではこれも避妊薬として認可されていません。
ミニピルは血栓症リスクが格段に低いピルです。
薬価もルナベル・ヤーズの1/7程度です。
ノアルテン錠の活用を含めて治療目的ユーザーの代替薬を用意していくことが必要です。

(注1)

年齢など属性条件と服用条件が同じならば、
治療目的ユーザーと避妊目的ユーザーで血栓症リスクは同じになります。
避妊目的ユーザーだけに「血栓症予防」効果があるわけではありません。
避妊目的ユーザーの「血栓症予防」効果は、妊娠による血栓症リスク上昇を防ぐ仮想的「血栓症予防」効果です。
日本以外の国のピルは、この仮想的「血栓症予防」効果の考えに立脚しています。
だから、副効果の効能認可が避妊目的のユーザーに限定されているのです。

(注2)

「ピルは健康な人が飲む薬だから厳しい基準が必要」
ピル反対派が考え出した理屈です。
一応もっともな主張のようですが、間違いです。
ピルを含めて全ての薬は、メリットがデメリットを上回る必要があります。
どの薬にも厳しい基準が必要なのです。
ピルは妊娠を防ぎ、そのことにより血栓症リスクを低下させるとのメリットを無視すれば、
デメリットだけの薬だとの論が成り立ちます。
「病気でないのに薬を飲むなんて不必要なのでは?」と考えれば、
いかなる有害事象も許容できないとなります。
乳癌リスクから血栓症リスクからありとあらゆる副作用が取り上げられました。
性感染症感染が広がるというのも反対理由でした。
はては、環境に対する悪影響まで引っ張り出したのです。
このピル反対派の主張と現在のピル推進派の主張は正反対のようで、
実は同じパラダイムに立つように思えます。
ピルは避妊薬であり、妊娠を防ぎそのことにより血栓症リスクを低下させるメリットを持ちます。
ところが、ピルを治療薬と位置づけると、このメリットを持ち出せません。
そこで卵巣がんリスクを低下させるなど、
他のメリットを持ち出してきます。
卵巣がんリスクを低下させるためにピルを服用する女性がいるとは思えませんが。
「ピルのうれしい効果」がさんざん宣伝されるのは、
ピルを治療薬と位置づけるために血栓症予防のメリットを前面に出せないからのようにも思えます。
血栓症リスクを低下させるピルのメリットを無視する点で、
ピル反対派も現在のピル推進派も共通点を持っているように思えます。
薬品としてのピルのメリット・デメリットを計るメルクマールは、
妊娠によるリスクと較べてリスクは大きいか小さいです。
このメルクマールに対して異議を唱えたのが日本のピル反対派であり、
このメルクマールを無視しているのが日本のピル推進派です。
立場は逆のようで実は双子の姉妹のように似ています。

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