2013年10月20日日曜日

黒を白と言う産婦人科界隈による「啓発」

グーグルでHRTを検索すると検索結果トップに出てくるのは、
エンジョイ エイジング【更年期障害の情報サイト】」です。
HRTはホルモン補充療法(hormone replacement therapy)のことです。
久光製薬の提供サイトですがサイトには同社のロゴが表示されるだけで、
ほぼどのページにも監修者の日本女性医学学会理事長名が最上部に表示されます。
日本女性医学学会理事長の監修した信頼できるサイトのようです。
「HRTの気になる副作用」のページを見てみました(保存ページが別窓で開きます)。
HRTと乳癌の関係をめぐっては延々と議論が繰り返されていますが、
HRTによって乳癌リスクはやや高くなるとするのが一般的見解で、
一部に変わらないとする見解があります。
ところが、「エンジョイ エイジング」では以下のように説明されています(クリックで拡大)。


同ページでは、
HRT経験者に乳がんが増えるわけではなく、むしろHRT未経験者に比べて乳がんになる危険性は半分以下だったのです。」
とわざわざ赤字で書かれています。
目を疑ってしまいました。
説明を読んでみると、トンデモなトリックが使われていることがわかります。
乳癌罹患と年齢の関係は、40歳代までの罹患が45%、50歳代までの罹患が77%です。
乳癌に罹患するとHRTの絶対禁忌に該当しますので、
HRTは行われません。
乳癌罹患者にHRT経験者が少なくなるのは当然のことです。
乳癌罹患者のHRT経験率が低いからといって、
乳癌罹患者はHRTをしなかったから乳癌リスクが上がったのではありません。
逆にHRTを経験すると乳癌リスクが低くなるなども言えません。
HRTの乳癌リスクはHRT経験者とHRT非経験者で比較しなければ意味がありませんし、
そのような比較データなど山ほどあります。
わざわざ意味のないデータを持ち出して、
HRT経験者の乳癌リスクは半減するなどトンデモにもほどがあります。

女性医療における情報提供の重要性


ピルもそうですしHRTもそうなのですが、
女性医療には殊の外に選択に委ねられる事柄が多くあります。
HRTにはメリットもリスクもあります。
更年期の症状を抱える女性にとってHRTは選択肢の一つです。
乳癌リスクが多少上がっても現在の症状がなくなるなら選択する女性もいるでしょうし、
乳癌リスクが多少とも上がるのなら他の選択をするという女性もいるでしょう。
この選択決定において重要なのは、
リスクについての正確な情報です。
正確な情報がなければ選択の決定ができません。
医療の役割は正確な情報提供を行い、女性の選択をサポートすることです。
その情報提供が、HRTで乳癌リスクが半減するかのようなトンデモではお話になりません。
これはたんにHRTの乳癌リスク問題ではなく、
非常に根の深い問題です。
他のエントリーで1970年米国上院のピルについての公聴会は、
女性医療ひいては医療全般の転換点になったと書きました。
以来、医療の役割は決定する人から情報提供する人に変わっていきます。
日本ではこの転換がなかったので、いまだに医療が決定する人を演じています。
医療が決定する人であれば、決定を合理化(正当化)する言説になるのもやむを得ないでしょう。
HRTで乳癌リスクが半減するかのようなトンデモは、そのような背景から生まれます。

ピルやHRTが普及しない理由


1970年米国上院のピルについての公聴会は歴史的な事件でした。
製薬メーカーの提供するバラ色の情報に対抗する客観的な情報を
どのように提供するかが課題となりました。
1970年公聴会事件の背景には女性運動の高まりがあり、
女性団体は客観的な情報の提供に力を入れていくことになります。
欧米のフェミニズムは当初より身体への関心を強く持っていましたが、
日本のフェミニズムはその側面を切り捨ててきました。
そのため日本では「選択する人」の側からの情報提供がなされませんでした。
また、欧米では政府など公的機関による情報提供も充実していきました。
公的機関による情報提供も「選択する人」のための情報提供です。
製薬メーカーと医師が一体となってビルやホルモン補充療法の【推進派】が形成される日本の状況は、
異常な光景なのです。
この異常な光景の中でビルやホルモン補充療法が普及することは、
絶対にあり得ません。
ビルやホルモン補充療法を選択するかどうかは、
個人個人で皆異なる事情があります。
遠距離恋愛で年に数回婚約者と会う女性と、
結婚後だが数年は仕事に力を入れたい女性と、
ボーイフレンドができたばかりの女性では、
避妊法の選択が異なっても不思議ではありません。
一律にピルという選択がよい、とは他者には言えないことです。
ビルやホルモン補充療法の【推進派】などというものが存在すること自体、
奇妙なことなのです。
選択と言うことに着眼しなければ、
【推進派】がいくら旗を振ってもピルやホルモン補充療法は普及するものではありません。
「ピルとのつきあい方」は選択のための情報提供を目指した日本では異端の、
世界では当たり前のサイトでした。
手前味噌ですが、おそらく「ピルとのつきあい方」ほど日本でのピル受容に貢献したサイトはありません。
ビルやホルモン補充療法は個々人の選択に委ねられるべきもの、との本質に立脚しているからこそと考えています。


【推進派】の生み出す不毛な光景


旅行には移動手段が必要です。
飛行機、新幹線、列車、バス、自家用車、タクシー、船、・・・。
それぞれはそれぞれにメリットがあるので使い分けます。
飛行機は新幹線より運賃は多少高いし事故のリスクもないわけではないが、
早さを考えればそれは問題ないと考える人もいるでしょう。
費用が一番の問題と考え夜行バスを選ぶ人もいるでしょう。
人によっても、場合場合によっても、選択は異なります。
それぞれのメリットとデメリットがわかっていれば、
選択はだいたい落ち着くところに落ち着くものです。
ビルやホルモン補充療法は飛行機のようなものかな、
と私は思っています。
メリットもあればデメリットもあります。
情報化時代にデメリットを隠しても意味はありません。
飛行機はとても低い確率ですが事故はあります。
航空会社は事故がないとは言わないでしょう。
飛行機に乗ると、世界中どこの航空会社も緊急時の対応をうんざりするほど繰り返します。
事故があるかもしれないとの前提で対応しているのです。
緊急時の対応をアナウンスすれば事故を心配して利用者が減る、
などと考える航空会社はありません。
もしそんな航空会社があれば、
私は利用したいとは思いません。
ところが、日本の【推進派】は副作用(事故)の情報を知らせると、
利用者が減ると考えているようです。
NPOは「日本国内では(ピルは)「怖い薬」が先行しているため、利点をツイートする」と述べました。(血栓症初期症状を説明している医師は21% 参照)
副作用隠しです。
上で見た「HRT経験者に乳がんが増えるわけではなく、むしろHRT未経験者に比べて乳がんになる危険性は半分以下だったのです。」
などは、もっと悪質な副作用隠しです。
このように副作用隠しを行っても、副作用の情報は広がります。
いや、副作用隠しを行うから、尾ひれの付いた副作用情報が広まってしまうのです。
その中には確かに偏見もあるでしょうが、
根本の問題は【推進派】の副作用隠しです。
一般の人々に選択するための情報提供が行われないから偏見的副作用情報が広まるのです。
そこで【推進派】は副作用の偏見を取り除くためと称してバラ色情報を振りまきます。
完全に悪循環になってしまいます。
この悪循環から脱するためには、
「ピルとのつきあい方」のような情報提供のあり方が有効なのです。
ところが実際は「ピルとのつきあい方」は、【推進派】から毛嫌いされているようです。
私は、HRTで乳癌が半減するなどと言うのはトンデモだとはっきり言います。
トンデモをトンデモと言われると【推進派】は逆ギレするようです。
※ピルの普及推進を唱えるグループは2005年以来、「ピルとのつきあい方」を中傷する活動を行ってきました。捨てアカの使用はこのグループの常套手段です。なお、このツイートは@ruriko_pilltonがツイッターを始める(2012年08月28日)前のもの。

2005年から延々と繰り返された【推進派】による当サイト中傷を6年間無視してきましたが、
2年ほど前からはきっちり反論するようにしました。
結果的に【推進派】のトンデモぶりが露呈されることになりました。
【推進派】的な啓発が逆効果しか生まないことは証明されています。
荒療法が必要なのです。

抜きがたい権威主義


「どこの誰が書いたのかわからないようなサイトを信用するな」
ピル【推進派】が唱え続けている呪文です。
そして、信頼できるのは監修つきの製薬メーカー情報だと主張します。



ため息が出そうです。
ピルの歴史は1970年の米国上院公聴会から大きく変わりました。
製薬メーカーが流すバラ色のピル情報が糾弾され、
女性はピルを与えられる人から選択する人に変わりました。
情報の質も大きく変わりました。
この歴史を知っていれば、
彼らのやっていることは歴史の針の40年逆戻しのように思えます。
歴史の針を40年逆戻ししてピルが普及するわけがありません。
ピルやHRTは医師が与える薬ではなく、女性が選択する薬です。
選択する女性にとって必要な情報は、
隠すところのない客観的な情報です。
「エンジョイ エイジング」は日本女性医学学会理事長の監修であることを強調しています。
そのこと自体が既に権威主義的です。
現在の日本には権威主義が通用する状況があることは事実です。
もし当サイトが「HRTのうれしい副効果、HRTで乳癌が半減すると判明」などと書いたら、
すぐにトンデモ扱いされるでしょう。
しかし、日本女性医学学会理事長監修だとだれもトンデモをトンデモ扱いしません。
ニセ科学クラスターの方々はさまざまなトンデモをあげつらうのが趣味ですが、
権威者のトンデモに異議を唱えたのを見たことがありません。
彼らもまた権威主義の枠内の人のように見えます。
メーカーはこのような状況を利用しようとしているのですが、
それは選択する薬であるピルやHRTには通用しません。
自分の飲む薬については納得できるまでよく考えるからです。
よく考えるとトンデモクラスターに引きつけられる人も出てきます。
「ピルとのつきあい方」にはトンデモな内容は含まれていないと考えていますが、
当サイトをトンデモ扱いすれば真性トンデモの肥料となるでしょう。
ここでも悪循環が生じます。


ピルは自由の薬です。
ピルは女性の自立と密接に関係した薬です。
このことが理解されるのには100年かかるかもしれません。
しかし、いつかきっと理解される日が来ると信じています。

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