ピルユーザーの重篤な副作用は血栓症です。
血栓症の前兆について理解を深めて頂くために、
簡単な解説をしておきます。
ピルユーザーが緊急に受信すべき症状A-C-H-E-Sは以下の通りです。
A:abdominal pain(severe) 激しい腹痛。
C:chest pain(severe)息を吸う時により痛い鋭い胸の痛み。息切れ。吐血。
H:headache(severe)普段より激しい頭痛・片頭痛。失神・卒倒。
E: eye problems/speech problems 突然の舌のもつれや視力障害(特に片目のかすみ)。
S: severe leg pain 足や手の脱力・無感覚または針で刺すような痛み。
(
緊急に受診が必要な症状一覧参照)
1.静脈血栓と動脈血栓
血栓症とは血液中の血塊が血管を塞ぐ症状です。
血栓症は血栓の発生する場所によって、静脈血栓と動脈血栓に分けられます。
静脈血栓と動脈血栓の違いは血栓ができる場所の違いで、
閉塞が生じる血管の違いではありません。
2.静脈血栓と肺閉塞
静脈血栓は静脈にできる血栓は赤い色をしています。
静脈血栓ができ易い場所は主として2カ所です。
1か所は足の中心を通っている太い静脈です。
深いところにあるので深部静脈血栓症と言います。
足の静脈は血液が逆流しないように弁を持つ構造になっています。
そのため血液が滞留し血栓が生じやすいと考えられています。
静脈で出来た血液の塊がはがれ落ちると血流によって心臓に運ばれ、
心臓から肺に送られます。
肺の動脈はツリー状に枝分かれしています。
小さな血塊は肺動脈末端に近い動脈を塞ぎ、
大きな血栓は心臓に近い太い動脈を塞ぎます。
肺閉塞が生じたときの症状が以下です。
C:chest pain(severe)息を吸う時により痛い鋭い胸の痛み。息切れ。吐血。
見落としやすい症状は息切れです。
しばしば痛みなどの症状に先行して息切れの症状が現れます。
ところが、息切れの症状が肺閉塞の症状だと知らなければ見逃されてしまいがちです。
この点には特に注意するようにします。
3.深部静脈血栓と静脈炎
足の深部にある静脈で血栓ができると弁の働きが悪くなり、
血液が静脈に滞留します。
そのため腫れや浮腫が生じることがあります。
また、しばしば静脈炎を併発します。
そのために生じる症状が以下です。
S: severe leg pain 足や手の脱力・無感覚または針で刺すような痛み。
足に異変を感じたら必ず受診するようにします。
特に次のような症状の出方に注意します。
深部静脈血栓が両足同時に生じることは稀です(ないわけではないので誤解のないように)。
まず片足、特に左足に症状が現れることが多い傾向です。
これが筋肉痛などと違う点なので、症状が先に片足だけに現れた場合は特に注意するようにします。
鼓動にあわせて痛みが生じるのも、深部静脈血栓の特徴です(圧痛だけとか持続的痛みの場合もあるので誤解のないように)。
4.深部静脈血栓の予防
静脈血栓は血液の凝固能が高まることで生じます。
特種な素因を持っている場合を除き予め予測することは出来ませんし、
血塊は短い時間でも形成されます。
ロングフライト(エコノミークラス)症候群は静脈血栓ですが、
飛行機に乗っている短時間の間に血栓が形成されます。
静脈血栓に関して禁煙は予防効果がほとんどありません。
足の静脈の血流が滞らないようにすることは予防になります。
適度な運動や弾性ストッキングは静脈の血流が滞るのを防ぐ効果があります。
5.脳静脈洞血栓症
もう一つの静脈血栓は脳内にできます。
脳内の細い静脈から送られてきた静脈血が集まる場所が脳静脈洞です。
脳静脈洞血栓症は頻度の低い血栓症ですが、
ピルユーザーの血栓には比較的多いので注意が必要です。
脳静脈洞に血栓ができると多くの場合頭痛の症状が現れます。
自覚症状から脳静脈洞血栓症を疑うことは難しいので、
動脈血栓とあわせて頭痛の症状に気をつけるようにします。
H:headache(severe)普段より激しい頭痛・片頭痛。失神・卒倒。
なお、脳静脈洞血栓症の頭痛は昨日より今日と短期間に痛みがよりひどくなるのが特徴です。
6.網膜静脈閉塞症
目の網膜には細い動脈・静脈が絡み合って走っています。
その静脈が詰まるのが網膜静脈閉塞症です。
静脈が詰まれば血栓ができることもありますが、
網膜静脈閉塞症は運ばれてきた血塊が詰まるわけではないので、
血栓症とは言えません。
ここでは便宜上血栓症の一種として説明します。
網膜静脈閉塞症で網膜が閉塞する原因は動脈にあります。
交差する動脈が硬化し、その影響で静脈が塞がれてしまうのが網膜静脈閉塞症です。
高血圧や糖尿病があると、網膜静脈閉塞症のリスクは高くなります。
ピルユーザーには以下のように呼びかけられています。
E: eye problems/speech problems 突然の舌のもつれや視力障害(特に片目のかすみ)。
舌のもつれと視力障害を並べて書いていますが、
網膜静脈閉塞症に関して前者は関係ありません。
A-C-H-E-Sの頭文字に納めようとしたために同一項目になっているだけです。
網膜静脈閉塞症は偶然両目同時に起きることがないとは言えませんが、
普通は片目の症状として現れます。
網膜静脈閉塞症は血栓の病気ではありませんので受診するのは眼科になります。
7.動脈血栓とは
全身から心臓に戻ってきた血液は肺に送られます。
心臓に戻ってきた静脈血に血塊が含まれていると肺で梗塞を引き起こしますので、
肺から心臓に戻ってきた血液に血塊が含まれることはありません。
肺から心臓に戻ってきた血液は全身に送られます。
動脈血栓の多くは心臓に近い太い動脈で作られます。
動脈壁から剥離した血塊が細い動脈を塞ぐのが動脈血栓です。
動脈血栓は白い色をしています。
動脈血栓のリスクは、血管の状態と強く関係しています。
喫煙・肥満・高血圧・加齢は血管状態の不良と関係します。
動脈血栓についてはリスクの程度をあらかじめある程度評価できます。
動脈血栓閉塞は肺以外のあらゆる臓器で生じ得ます。
8.脳梗塞・(脳出血)
日本人では、動脈血塊が最も多く閉塞を起こすのは脳の血管です。
脳の血管が詰まると酸素が供給されませんからその部位の脳の活動に障害が生じ、
あるいは脳の血管から出血します(脳出血については下記13参照)。
脳梗塞には前兆がないのが普通です。
ただ、時に一過性の脳梗塞の症状が起きることがあります。
その一つが、舌のもつれや視力障害です。
E: eye problems/speech problems 突然の舌のもつれや視力障害(特に片目のかすみ)。
言葉が話しにくい状態になっても一時的で元に戻ることも少なくありません。
同様にも軽い半身のしびれや動作の違和感(麻痺)が一時的に現れることがあります。
血栓による視力障害の場合は突然片目が全く見えなくなります。
この症状は眼科の領域ではありませんので循環器科を受診するようにします。
これらの症状の多くは1日とかの比較的短時間で消失します。
しかし、上記の症状が元に戻ったからと言って、放置してはいけません。
脳梗塞の前触れであることがあるからです。
※上記の症状を一過性脳虚血発作(TIA)と言います。
実際に梗塞が起きてしまった場合、半身が麻痺したりしびれたり、
あるいは意識を失ったりします。
その場合でも、血栓溶解療法で後遺症を避けることが出来ます。
血栓溶解療法が可能かどうかは時間が決め手です。
2時間以内に病院に運ばれることが大事との情報を家族と共有しておきましょう。
9.心筋梗塞
心臓は働き者の筋肉でできた臓器です。
常に新鮮な血液を送り続けるために動き続けなくてはなりません。
心臓の筋肉に血液を供給している動脈が詰まるのが心筋梗塞です。
心筋梗塞の前兆はありません。
しかし、多くの場合、突然に重篤な梗塞になるのではなく軽い梗塞から始まります。
心臓近辺の締め付けられるような痛みは要注意です。
息苦しさを感じることもあります。
これも要注意です。
軽い梗塞の症状を見逃さないようにしましょう。
H:headache(severe)普段より激しい頭痛・片頭痛。失神・卒倒
頭痛は心筋梗塞の症状ではありませんが、重篤な心筋梗塞では失神・卒倒が見られます。
10.内臓臓器の動脈閉塞症
胃・肝臓・腸・腎臓などへ血液を供給する動脈が閉塞すると、その臓器の機能が低下します。
それぞれの臓器によって症状の出方は異なりますが、
激しい痛みに気をつけるようにします。
A:abdominal pain(severe) 激しい腹痛。
胃や腸の動脈が血栓で塞がれた場合、周期的に痛みが緩んだりひどくなったりを繰り返しながら、日ごとに痛みが強くなるのが特徴です。
ただ痛みだけで自己判断するのは無理なので、激しい腹痛のある場合には必ず受診するようにします。
12.下肢動脈血栓症
足の動脈が血栓で塞がれると、それより下の部位に血液が供給されません。
静脈血栓症と較べると、足の痛み・蒼白化・運動麻痺・知覚の消失などが突然現れるのが特徴です。
S: severe leg pain 足や手の脱力・無感覚または針で刺すような痛み。
両足同時に症状が現れることはまずありません。
下肢動脈血栓症も緊急に対応する必要があります。
13.脳出血
血栓による閉塞に伴い脳の血管が破れて出血することもありますが、
血栓や閉塞なしに脳の血管から出血することもあります。
出血には小さな出血もあれば大きな出血もあります。
出血の程度や部位で、頭痛やめまい、半身の麻痺、意識障害などが生じます。
H:headache(severe)普段より激しい頭痛・片頭痛。失神・卒倒
脳出血は緊急の治療を必要としますから、早期の受診が重要です。
なお、
普段から片頭痛がある場合、脳出血のリスクは高くなります。
特に前兆を伴う片頭痛ではリスクが高いのでピルの服用は出来ません(絶対禁忌)。
付けたし①:35歳以上で前兆を伴わない片頭痛を持つ場合、日本では相対禁忌となっています。しかし、35歳以上で前兆を伴わない片頭痛の女性を絶対禁忌とするのが世界の医学常識です。
付けたし②:局在性神経徴候を伴う頭痛のある女性は髄膜腫のリスクが高いので、年齢に関わらず絶対禁忌とするのが世界の医学常識です。この点について、日本の添付文書は何ら触れていません。
参照
頭痛とピル
14..動脈血栓の前ぶれ
静脈血栓と較べ、動脈血栓は閉塞の前ぶれを事前に察知するのが困難です。
しかし、動脈血栓の多くは静脈血栓と異なり、短時間で形成される物ではなく、
長年の血管状態の悪化が血栓の形成と深い関係を持っています。
高血圧、肥満、喫煙は血管状態を悪くし動脈血栓が生じやすくします。
15.自分の身体は自分で守るということ
ピルを服用すると【血栓病】という病気に罹るわけではありません。
血栓が生じやすい状態になるだけのことです。
ピルの服用を中止すれば、血栓が生じやすい状態は基本的に解消します。
基本的にと書いたのは、血栓ができた状態を放置すると慢性型に移行することがあるからです。
閉塞が生じた場合でも、早期に対応すれば後遺症が残るリスクは小さくなります。
血栓症については早期対応が決定的に重要なのです。
血栓症に対する早期対応の重要性が医師とユーザーで共有されるためにはどうすればよいのでしょうか。
まず、血栓症の初期症状をユーザーに徹底的に伝えていく必要があります。
「ピルとのつきあい方」は15年前の開設当初から、
血栓症の初期症状をしっかり伝えてきました。
現在、血栓症の初期症状をユーザーに伝える基本中の基本がやっと徹底し始めた段階です。
しかし、ユーザーに血栓症の初期症状を伝えるだけでは、
まだ対応は全然不十分なのです。
血栓症の初期症状を知識として知っていることと、
受診行動が取れることはイコールではありません。
初期症状を知っていても受診行動を取らないと考えた方がよいのです。
なぜ受診行動が取られないのでしょうか?
さまざまな暗示が受診行動を鈍らせるのです。
受診行動を鈍らせるいかなる暗示も行ってはならないというのが、
欧米の医療者の常識です。
日本の医療では常識外の暗示が横行しています。
例を挙げましょう。
①「血栓症なんてめったにない」
めったにないと言われると「まさか自分には」という心理が働くものです。
そうすると、気のせいかもしれない、筋肉痛かもしれない、と都合よく思ってしまいます。
「1万人に1人しかいない」と強調してはいけないのです。
「1万人に1人は可能性がある」と客観的に伝えるのが誠実な医療者です。
②特定のリスクを強調する
タバコや肥満や高血圧は動脈血栓のリスクを高めます。
だから、喫煙ユーザーにタバコのリスクを話すことは必要です。
しかし、喫煙は静脈血栓のリスクとほぼ無関係ですし、
非喫煙でもピルユーザーの静脈血栓リスク・動脈血栓リスクは高まります。
タバコや肥満や高血圧など特定のリスクが強調されると、
タバコや肥満や高血圧がなければ血栓症にはなりにくいというメッセージを発してしまいます。
ピル普及をうたうNPOのネットテレビで出演女医が、
血栓症で死亡したユーザーは「タバコを吸っていたんじゃないかな」と妄想を語っていました。
最悪です。
怒りがこみ上げてきました。
まさにそれは非喫煙ユーザーに初期症状が出ても受診行動を鈍らせる暗示になるからです。
③定期的な血液検査のオマジナイ
血栓症を防ぐために定期的に血液検査が重要と強調する医師がいます。
おそらくDダイマー検査でしょう。
Dダイマー検査は検査時点で血栓があるかないかの検査に過ぎません。
飛行機に乗る前にDダイマー検査をしても飛行中のエコノミー症候群発症を防げるわけではありません。
全く無意味とは言いませんが、それほど意味があるとも思えません。
むしろ、安心のオマジナイになってしまう害の方が大きいでしょう。
検査翌日に症状が出ることもあります。
前日のDダイマー検査が陰性なら、受診行動をためらわせることになるでしょう。
以上3つの例を挙げましたが、いずれも安心理論の暗示です。
その暗示はピルユーザーを守るのに全く役に立たないだけでなく、
大いに害になる物です。
受診行動をためらわせる暗示をかけないのは当然として、
それだけではまだ不十分です。
血栓症の初期症状を教え、気になる症状があれば必ず受診するようにと徹底すれば、
受診するようになるかもしれません。
しかし、受診するのは大体切羽詰まってからです。
血栓症への対応では早期の受診が決定的に重要です。
早期の受診が出来るかどうかは、服用者とピルの関わり方に関係します。
ピルについて学びピルを自ら選択したユーザーでは、
早期の受診が出来ます。
彼女たちは自分の身体を守るためにピルを選択しています。
だから自分の身体を守る早期の受診が出来るのです。
ピルを安全な薬にするのはピルユーザー自身
ピルは本来、危険な薬でも怖い薬でもありません。
リスクの高い女性への処方をチェックし、
万一血栓症を発症しても重篤化を防げば、
安全性の高い薬です。
そのためには、医療者とユーザーに求められる条件があるのです。
医療者の役割はまず、リスクの高い女性をチェックすることです。
加齢は血栓症の最大のリスク要因です。
ライフデザインドラッグ路線の下で、
年齢の高い女性にピルが安易に処方されている現実があります。
日本のピルユーザーの過半は30歳以上の女性という異常な現実があります。
日本の医療はチェック機能を喪失していると言われても仕方ないでしょう。
血栓症の副作用が重篤化するのを防ぐのも医療の役割です。
しかし、血栓症の初期症状を知らせる基本の基本さえおろそかにされてきた現実があります。
まして早期受診は決定的に重要なことですが、
日本の医療者が心配りしているとはとても思えません。
医療者が薬屋の回し者のような役回りを演じることが問題なのです。
ピルによって引き起こされる重大な副作用は血栓症です。
ただ早期に対応すれば重篤化のリスクを格段に低減することが出来ます。
ピルが安全性の高い薬であるためには、
早期の対応を取ることが出来るユーザーの存在が条件となります。
欧米でピルは女性が選択する薬です。
ピルについての知識があるから選択することができます。
ピルはお医者様任せの薬ではないのです。
「ピルとのつきあい方」は自立的ピルユーザーとなることを提唱してきました。
ピルという薬にとってそれは当たり前のことなのです。
「ピルとのつきあい方」が提唱してきた自立的ピルユーザーに
違和感を感じる医療関係者がいます。
ピルは医療が管理しようとすればうまくいかない薬です。
ピルはユーザーが自己管理できてより安全な薬になります。
医療は自己管理するユーザーをサポートする役目です。
医療関係者がこのことを理解できるのに10年くらいかかるかもしれません。
医療関係者が変わるのを待っていては、
現在のユーザーは救われないと私は考えています。
ピルを安全な薬にするのは、ピルユーザー自身です。
ピルユーザーが緊急に受信すべき症状A-C-H-E-Sは以下の通りです。
A:abdominal pain(severe) 激しい腹痛。
C:chest pain(severe)息を吸う時により痛い鋭い胸の痛み。息切れ。吐血。
H:headache(severe)普段より激しい頭痛・片頭痛。失神・卒倒。
E: eye problems/speech problems 突然の舌のもつれや視力障害(特に片目のかすみ)。
S: severe leg pain 足や手の脱力・無感覚または針で刺すような痛み。
(
緊急に受診が必要な症状一覧参照)
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