2014年2月27日木曜日

「性と健康を考える女性専門家の会」の理念を賞賛する

ピル認可前の1997年に性と健康を考える女性専門家の会が結成されます。
16年余が経過しました。
日本のピルの現状を見るとき、少しく考えることがあります。
長くなりますがこの会の理念を引用してみます(太字強調は引用者)。
http://square.umin.ac.jp/pwcsh/about/ayumi.html 2014/02/27

◆以下引用◆
ひとりひとりの女性が満足できる女性医療とはなにか・・・・・ 医療・保健システムに女性の視点を生かし、男女ともに生き生きと幸福に暮らせる社会をつくりたい ― わたしたちの会は、同じ願いをもつ医療者・学者・教師・ジャーナリストなどにより、1997年に設立されました。
 そのきっかけは低用量ピル(以下ピル)の認可問題でした。
 1997年3月、ピル認可について検討するための公衆衛生審議会を傍聴した堀口雅子医師(虎の門病院産婦人科元医長)は、会の設立呼びかけのレターに、ピルが審議会で「認可されれば女性の性行動が活発になりエイズなどの性感染症の蔓延が危惧される。したがって認可すべきではない。」という論調で話し合われることに、「何度“違う!”と声にならない声をあげ、こぶしを握りしめたことでしょう」と書いています。そもそも、何十人といる審議会のメンバーのうち、女性の委員はひとりもいなかったのでした。
 堀口医師からの「もしかして妊娠してしまったかもしれない、という不安を抱えて指折り待つ女性たちの不安、月経がはじまりほっと安堵する気持ちを彼らは知っているのでしょうか。わたしたちは女性の代弁者として、かつ専門家として、きちんと意見を言うべきではないでしょうか。」という熱いメッセージは、ジャーナリスト芦田みどりさんの仲介を得て、数十人の女性たちに届けられ、初夏のある日、堀口医師の自宅にメンバーがあつまりました。
 これは、興奮する出来事でした。お互いに名前は聞いたことはあるがはじめて会ったプロフェッションルたちが、はじめて、個人として感じていた女性医療の実態への疑問や不信について語り合ったのです。そして「私たち自身がきちんと情報を得、女性の目からみた、冷静で科学的な発言を、医療や行政に対してしていこう!」と意見が一致し、「性と健康を考える女性専門家の会」が立ち上がったのでした。
(会の名前が決まる前、当会は1107の会(いいオンナの会)と呼ばれ、11月7日に設立集会が予定されていました。現在もメーリングリストのアドレスにその番号が残されています。実際の立ち上げは、11月8日に行われました。)
 そして、1999年7月にピルが日本ではじめて経口避妊薬として認可され、9月に発売されるまで、当会の活動はたいへん活発で、実に多彩なセミナー、シンポジウム、勉強会、アドボカシー活動を行ってきました。
 思い出に残るのは、設立集会となったコロンビア大学のキャロリン・ウェストホフ助教授による「ピルの認可を求めて」、500名以上の参加者を集めて行われた、スウェーデンのカロリンスカ大学のハーゲンフェルト教授ら世界の名だたる講師陣によるシンポジウム「21世紀の女性医療」です。会員の熱気と会の若いエネルギーの感じられる催しでした。
 また、主な女性議員たちに働きかけたり、旧厚生省、日本産婦人科学会、日本母性保護医協会、テレビや新聞の関係者など、私たちが会ってアドボカシーを行った人々は多岐にわたりました。その間、「ピルと女性の健康」検討資料集、避妊ガイドブックなどメンバーの手によって出版、製作された本や資料のいくつもが、ピル認可後の使用指針になっています。
 認可が決定した1999年の5月には、事務局である朝日エルの会議室に堀口会長以下主だったメンバーが集まり、祝杯をあげました。この2年間の間に、一部専門家や官僚、政治家のあいだで、ピルは、「エイズを蔓延させるもの」から「女性が主体的に利用できる科学的な避妊法のひとつ」として認識が変わってきました。
 しかし、認可されても、国民の多くのあいだでは、あいかわらずピルといえば、「副作用がある、ホルモンはこわい、自然でないものはやめたほうがいい」という偏見や誤解が強いという現状は変っていませんでした。一般の女性たちの科学的知識が増え、心身と社会的な健康に対する認識が高まり、自己価値感と性の自己決定能力が育たなければ、避妊薬(望まない妊娠に対する予防薬)としてのピルは服用できないということがわかったのです。また、多くの産婦人科や他科の医療者たちの方も、偏見があり管理的・指示的で、女性たちに正しい知識を提供し、女性たちの選択を重んじてピルを処方することが難しい状況が浮かび上がってきました。
 そこで、私たちは、どのようにすれば、日本女性たちが予防と生涯健康の視点を育て、証拠に基づいた科学的な情報を得、個々のライフスタイルに合わせて情報の選択と利用を行っていけるのかを次の課題として活動するようになってきました。
 2000年に作成した会の紹介パンフレットには、以下のように書かれています。
 この50年間に女性のライフスタイルはすっかり変わっています。身体の成長と性行動の開始が早くなり、産む子どもの数は少なくなりました。一方で高学歴化し、職業をもって社会参加するのがあたりまえになりました。寿命も飛躍的に延び、閉経後の人生は30年以上に及んでいます。それにともない、長い人生をどうやって健康の質(QOL)を保ちながら豊かに生きるかが新しい課題となっています。
WHOは、身体のみならず精神も社会的な状態も、すべて良い状態(Wellbeing)であってこそ、真の健康と言っています。私たちは、女性の健康の専門家を目指して、証拠にもとづいた正しい情報を提供し、わが国に包括的な女性医療・保健システムを実現するために活動をしています。
 このころから会は新しいメンバーを次々に迎え、第二期とも言える時代に入りました。ピルの問題を通してはっきりしてきた女性医療・保健の課題に多方面からとりくむプロジェクト活動が中心になりました。健康啓発(ヘルスエデュケーション)、学校や地域での性教育、自己決定能力の育成などを柱として、10を超えるプロジェクトが誕生しました。内科・産業医や精神科医、研究者などを中心とした「働く女性の健康プロジェクト」は、すでに何度も新しい形のセミナー・シンポジウムを展開しておりましたし、薬剤師たちが中心になって「くすりプロジェクト」がCASP(エビデンスに基づいた論文評価法)の勉強会を開催、また医療者として自立し行動していこうとする「助産師エンパワーメンプロジェクト」、避妊ばかりではなく性の健康を社会的に考えようとする「STD予防プロジェクト」「十代の健康プロジェクト」など、職域を超え学際的に活動しようとする多種多彩な会員たちの自由闊達な活動が広がっていきました。
 ふりかえってみますと、これまでの活動は以下のように多岐にわたっています。
1. 政策への提言
低用量経口避妊薬の認可を求めて
新しい女性医療システムを目指して
十代の性教育の充実を求めて
2.シンポジウム・セミナー
「21世紀の女性医療」
「性感染症や中絶から十代を守ろう」
「避妊カウンセリング―日本とアメリカ」
「働く女性の健康」
「働く女性のメンタルヘルス」
「中高年女性の健康―Complete Wellnessとは―」
「女性の健康とクスリ」
「くすりCASP勉強会」
「出産シンポジウム」他
3.リーダーシップ研修
ピル講師養成講座
十代への性教育講師養成講座
4.調査研究
日本女性の性・避妊行動調査
メディアの性感染症の取り上げ方についての研究
5.出版・編集協力、ビデオ、スライド作成
6.広報活動
年4回のニュースレター発行
インターネットホームページの運営
7.ネットワーク形成
日本女医会、米国女医会、ほか国際アドバイザー多数との交流

 また、臓器別ではなくトータルな人間として診る統合医療を臨床で実践しようとする女性総合医療も、当会会員を中心に各地で試みられるようになりました。岡山や福岡での試みはその先駆とも言えます。また、医学的にも性差医療(ジェンダースペシフィックメディスン)が注目され、男性と女性の生物学的、遺伝学的、医学的、社会的差異について検討されようとしています。
 2003年。女性医療・保健は「健康日本21」でリプロダクティブヘルス・ライツの項目として掲げられ、わが国の医療・保健の目標として推進されようとしています。しかし、ひとりひとりの人間によりそい、自己決定を支援しようと私たちが求めてきたトータルな医療・保健の実現には、まだ遠い道のりであるといえます。とはいえ、この数年、当事者主体の医療改革のムーブメントには目をみはるものがあり、これからは、ますます当会が、専門家でありかつ当事者の視点を失わない活動を、真に一般女性の健康と幸福のために展開できるのかどうかが、試されることでしょう。
 最後に、私たちが、生涯にわたる女性の真の健康を実現していくために、今後活動してゆくための5つの柱を掲げたいと思います。
  1. 従来の母子保健制度の枠を超え、女性の健康の視点からリプロダクティブ・ヘルス/ライツの推進をしていきます。妊娠や分娩ばかりでなく、月経、不妊、望まない妊娠や性感染症、更年期、女性ホルモンの積極的利用などについても積極的に考えていきます。
  2. 総合的な女性の健康(Women's Health)を実現させる医療や保健システムの確立にむけて活動していきます。栄養や睡眠、ストレス、がん予防、メンタルケア、思春期や高齢者の健康問題など、女性の健康にも学際的な研究や医療の提供が必要とされています。
  3. 子どもからおとなまで、男女一緒の性と健康に関する教育を実現させていきます。従来の性教育を見直し、個人の人権を尊重した科学的な健康教育が必要です。わたしたちは、「性」と「こころ」の自己決定をサポートしていきたいと考えています。
  4. 科学的な証拠に基づく医療(EBM)の考え方を導入し、わが国の女性の健康に関する学際的研究を行っていきます。
  5. 患者や障害者、高齢者、子どもなど弱者にやさしい医療や社会の構築を提言します。パターナリズム(家父長主義)を廃し、ひとりひとりの人間が尊厳のある個人として大切にされる、心地よい社会環境を実現していきます。

 ◆以上引用◆

すばらしい理念なので、理念を賞賛するとのタイトルを付けました。
理念にそったすばらしい活動も行いました。
たとえば1999年12月に性と健康を考える女性専門家の会は、
ガイドライン等に「2日以上のみ忘れたら止めるように書かれているが、
それでは妊娠リスクを上げてしまう」として厚生省に改善の申し入れを行いました。
この服用法では妊娠回避効果が全くないだけでなく、
血栓症リスクを高めてしまいます。
理念もすばらしいが活動もすばらしい、と賞賛しておくことにします。

もし私が後代の歴史家であったなら、
「性と健康を考える女性専門家の会」とそのメンバーの言説に即して日本におけるピル受容を考察するでしょう。
私は後代の歴史家ではないので、それは控えておきましょう。

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以下は余談です。蛇足です。
18世紀後半、世界各地に啓蒙専制君主が現れます。
明治日本も啓蒙専制君主の国と似ています。
啓蒙専制君主の改革は一定の成果を上げます。
しかし、社会を根底から改革することは出来ませんでした。
啓蒙専制君主の国では、日本の自由民権運動のような運動が起こります。
下からの運動です。
啓蒙専制君主と下からの運動は、共通する理念を持っていました。
しかし、どの啓蒙専制君主の国でも、下からの運動は抑圧されます。
そのような歴史がありました。

なお、余談の余談になりますが、
「ピルとのつきあい方」はずっと飲み忘れの問題を取り上げてきましたし、
ブログでは産婦人科医の犯罪的怠慢の記事を書きました。
 避妊失敗のリスク、血栓症副作用のリスクにピルユーザーが曝されているなら、
ピルユーザーに注意を喚起したいからです。

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