2014年9月4日木曜日

似非科学に立脚する「女性の健康の包括的支援に関する法律」

安倍内閣と似非科学の親和性


科学に政治が介入し災禍をもたらした例として、
スターリン政権によるルイセンコ学説の採用があります。
スターリン政権にとってルイセンコ学説の魅力は、
農業生産を飛躍的に増大させる可能性のある学説だったからでしょう。
アベノミクスを掲げ経済再生を目指す安倍内閣は、
革新的政策を採用していると評価することもできます。
しかし、その一方であやしげな学説を取り込んでしまうリスクも持っています。
安倍首相はイデオロギー性の強い政治家であり、
安倍首相と政治理念を共通にするグループが重用される傾向が見られます。
イデオロギーは思いであり、科学ではありません。
イデオロギー性の強い政治家では、往々にして思いが優先され、
科学の論理が軽んじられる傾向が見られます。
その典型的な例が下村文部科学大臣です。
下村文部科学大臣と似非科学との関連については、
すでにさまざまな指摘がなされていますので繰り返しません。
安倍内閣は再生医療を成長戦略の一つの核として位置づけています。
安倍首相、下村文科相がSTAP論文に注目したのは、
当然のことです。
そこまでは何の問題もありません。
問題は、STAP論文疑惑が表面化してから後の問題です。
STAP論文の処理は、現在も迷走を続けています。
この迷走により日本の科学技術の信用が損なわれ、
甚大な国益毀損が生じています。
STAP論文疑惑の処理が迷走したことについて、
文科省と下村大臣に責任のあることは明らかです。
科学の論理よりも思いが優先したのではないかとの疑念は拭えません。
政治が科学に介入すると、
小さな介入であっても甚大な影響が生じます。
ルイセンコ学説にしてもしかり、
STAP論文処理にしてもしかりです。
似非科学に毅然とした対応を取れない政治のリスクが、
安倍内閣にはあるように思えます。
STAP論文で不幸中の幸いは、
政府がSTAP支援を始める前に疑惑が表面化したことでした。
「女性の健康の包括的支援に関する法律」は、
似非科学の理念に立脚した内容です。
この法律が成立すれば、その影響は計り知れないものがあります。

似非科学としてのホルモン還元論


「女性の健康の包括的支援に関する法律」は、対馬ルリ子医師が主導しているものであり、
別稿で述べたように「対馬法」とも呼ぶべき法律です。
欧米や日本で性差医学の研究が進展しています。
男性と女性では罹りやすい病気が異なっていたり、
薬の効き目が異なっていたりします。
それを明らかにするのは科学研究です。
ところが、対馬医師は男女の違いは性ホルモンの違いであると主張します。
たしかに、男性と女性では性ホルモンは異なっており、
それによる違いがあるのは言うまでもありません。
ただこの言説は、本来の性差医学の概念をやや逸脱するものです。
女性は男性とは異なるホルモンを持っていることが性差であるとし、
女性医療という分野が必要だと主張します。
ここまでは強引な論理であっても、
医学思想として許容できるものです。
対馬氏によると、女性医療は年齢によるホルモン変動に着目することによって成り立ちます。
対馬氏の注目したのは、35歳後のホルモン量の減少でした。
そこで「プレ更年期」を対馬氏は提唱します。
35歳前後をピークにホルモン量が減少することは、
既知の科学的知見です。
35歳を過ぎると心身の不調が生じることについては、
科学的研究はないにしても経験的には知られていることです。
ホルモンの減少と不調の増加の間に相関関係があるかどうかを調べることはできます。
それを調べることは、科学的です。
対馬説の似非科学性は、
両者を因果関係として説明することです。
つまり、ホルモン量の減少によって、心身の不調が生じると説明します。
相関関係を因果関係として説明するのは、
疑似科学によくある特徴です。
もっとも、相関関係が見られる場合には、
因果関係が成立していることも少なくありません。
「プレ更年期説」は仮説としては成り立ちますが、
あくまで1仮説です。
私見では、対馬氏の「プレ更年期説」は有力仮説とは言えない代物です。
女性のホルモン量は加齢とともに減少します。
高齢者ではホルモン量は非常に低いレベルになりますが、
不快症状が頻発するわけではありません。
この点を対馬氏の「プレ更年期説」では説明できません。
1990年代にLeeの唱えたエストロゲン優位仮説の方がよほど有力です(黄体ホルモンレベルの低下がエストロゲンレベルの低下より著しいために生じる現象とする説)。
対馬医師の「プレ更年期説」は、似非科学の論理を取り込んだ独自の仮説に過ぎません。
似非科学の唱道者は、単に自説を開陳するだけと言うことはまずありません。
自説の有用性をアピールします。
いや、むしろ自説の有用性をアピールするために、
無理な理論が作り出されます。
対馬氏の「プレ更年期説」では、35歳から低用量ピルによるホルモン補給が推奨されます。
「プレ更年期説」と35歳からの低用量ピル推奨は、
ほぼ一体の関係にありました。
似非科学の論理でピルを推奨してきたのが、
対馬医師にほかなりません。

似非科学批判と似非科学擁護


「プレ更年期」の女性が抱えている心身の不調に対して、
ピルは効果があるのでしょうか?
答えは、YESです。
全ての女性に対して効果があるわけではありませんし、
いかなる症状に対しても効果があるわけではありません。
しかし、症状の改善する女性がいるのは事実です。
このことが、「プレ更年期」説の似非科学性が批判を免れてきた一つの理由です。

長年にわたり似非科学批判の活動を行ってきた医師にNATROM氏がいます。
NATROM氏は、「プレ更年期」説について、次のような発言を行いました。



宋美玄氏は「インチキ病名」と指摘し、NATROM氏は科学的検証のなされていないことを問題にしています。
NATROM氏の批判に対して、江夏亜希子医師が「プレ更年期」説擁護の立場から発言しています。
こちらを参照http://www.peeep.us/320c044e
縷々述べていますが、経験を正当化する言説となっています。
それに対して、NATROM氏は再度、個人の経験を越える科学的証拠はあるのかと問いかけています。
科学では、「STAP細胞はありま~す」と言うことには、何の意味もありません。
証拠を示せるのが科学であり、示せないのが疑似科学です。

なお、江夏亜希子医師は対馬ルリ子医師の病院に勤務した経験があり、
現在は性と健康を考える女性専門家の会の副会長です。


似非科学のもたらす災禍


対馬医師はピル普及の功労者です。
NPO法人OC普及推進事業団理事長氏も、
対馬氏の病院に勤務していたことがあり、
あやしい仕事をしていました。
対馬医師とその影響を受けた人々のピル普及活動には、
際だった特徴があります。
対馬氏の関心は「プレ更年期」を含む女性医療です。
女性医療の中にピルは位置づけられました。
避妊薬としてのピルではありません。
ピルユーザーの中で避妊ユーザーは減少し続け、
おそらく1999年のピル解禁時よりも少なくなっているでしょう。
「対馬法」である「女性の健康の包括的支援に関する法律」に避妊のヒの字も出てこないのは、
当然すぎるほど当然のことなのです。
海外でピルは切実な避妊要求を持つ若い世代の女性に支持される薬です。
対馬医師はそのピルをライフデザインドラッグとして位置づけ、
「プレ更年期」世代の女性などに普及させました。
その結果、ピルユーザーの過半は30代以上の女性という、
恐るべき状況となってしまいました。
なぜ恐るべき状態なのでしょうか?
35歳を過ぎると副作用による血栓症リスクは高くなります。
40歳を越える女性に対しては相対禁忌となっています。
対馬氏による女性医療では、このリスクの高い女性にピルが処方されることになります。
私は日本の40歳以上の女性について血栓症発症率を試算してみました。
私の試算では、600人に1人が血栓症を発症しています。
参照 600人に1人が血栓症に--40歳以上のピル服用について試算
600人に1人です。
副作用の報告漏れがあることを考えれば、
実際はこれよりももっと高い頻度でしょう。
600人に1人は1年間当たりの数値です。
2年、3年と継続した場合はもっと高い確率になります。
とてもではありませんが、安全な薬とは言えません。
ピルは本来非常に安全性の高い薬です。
ところが、女性医療の中に位置づけられると、
たちまち危険な薬に変わってしまいます。
ピルを危険な薬にする活動を続けてきたのが、
対馬氏とその支持者です。
その結果、ピルの普及率は2008年頃をピークに下降に転じています。
現時点では、1999年のピル解禁時に近い水準まで落ち込んでいると思われます。
対馬氏の「プレ更年期」説や女性医療は、
現実的にはすでに破綻しています。
破綻した対馬説を国家公認の説にして挽回を図ろうとするのが、
「女性の健康の包括的支援に関する法律」に過ぎません。
もし、この法律が成立すると、
累々たる被害者の山を築いた対馬説が国家規模で展開されることになります。
国家と結びついた似非科学の危険性を日本の女性が身を以て体験させられる、
そんな事態は絶対回避しなくてはなりません。
だから、私は「女性の健康の包括的支援に関する法律」に断固反対なのです。

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